「味覚受容体」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
25行目: 25行目:
'''酸味受容体''' Transient receptor potential channel(TRP)の1種であるPKD2L1を発現している味細胞が、酸を感知することが知られている。しかしながら、PKD2L1の膜局在に必要なPKD1L3の欠損マウスでも、酸味に対する応答が減少しないことから、PKD2L1が受容体として働いているわけではないようである。現在、Zn<sup>2</sup><sup>+</sup>感受性のH<sup>+</sup>チャンネルが、酸味受容体として働いていることが示されているが、どのチャネルかは未同定である。  
'''酸味受容体''' Transient receptor potential channel(TRP)の1種であるPKD2L1を発現している味細胞が、酸を感知することが知られている。しかしながら、PKD2L1の膜局在に必要なPKD1L3の欠損マウスでも、酸味に対する応答が減少しないことから、PKD2L1が受容体として働いているわけではないようである。現在、Zn<sup>2</sup><sup>+</sup>感受性のH<sup>+</sup>チャンネルが、酸味受容体として働いていることが示されているが、どのチャネルかは未同定である。  


'''塩味受容体''' 低濃度の塩味(Na<sup>+</sup>イオン)に対するマウスの嗜好性は、アミロライドによって抑制されるので、上皮性アミロライド感受性Naチャネル(ENaC)によって、塩味は受容されると考えられている。一方で、高濃度の塩味に対する嫌悪は、アミロライドによって抑制されないことから、高濃度の塩味に対する受容は別の機構によると考えられているが、受容体は同定されていない。<br>  
'''塩味受容体''' 低濃度の塩味(Na<sup>+</sup>イオン)に対するマウスの嗜好性は、アミロライドによって抑制されるので、上皮性アミロライド感受性Na<sup>+</sup>チャネル(ENaC)によって、塩味は受容されると考えられている。一方で、高濃度の塩味に対する嫌悪は、アミロライドによって抑制されないことから、高濃度の塩味に対する受容は別の機構によると考えられているが、受容体は同定されていない。<br>  


== 昆虫の味覚受容体  ==
== 昆虫の味覚受容体  ==
31行目: 31行目:
 進化的には哺乳類とかけはなれた昆虫も、味に対する区分は哺乳類と極めて類似しており、糖や低濃度の塩に対しては嗜好性を示し、高濃度の塩や苦味などは嫌悪する。さらに、甘味受容体の数が、苦味受容体に比べると少ない点も共通である。ただ、昆虫においては、食べ物を味わう目的以外にも味覚受容が用いられており、たとえば、脚にある味覚受容器の味覚受容体が、産卵する宿主植物の持つ化学物質や、求愛相手の性フェロモンの検知に関わっていることが報告されている。  
 進化的には哺乳類とかけはなれた昆虫も、味に対する区分は哺乳類と極めて類似しており、糖や低濃度の塩に対しては嗜好性を示し、高濃度の塩や苦味などは嫌悪する。さらに、甘味受容体の数が、苦味受容体に比べると少ない点も共通である。ただ、昆虫においては、食べ物を味わう目的以外にも味覚受容が用いられており、たとえば、脚にある味覚受容器の味覚受容体が、産卵する宿主植物の持つ化学物質や、求愛相手の性フェロモンの検知に関わっていることが報告されている。  


 昆虫では、味覚受容体を発現する味細胞は、口吻、咽頭、跗節や交尾器などの感覚子(sensillum)に存在する。ショウジョウバエの口吻の1つの感覚子には、糖受容細胞、水受容細胞、塩受容細胞、苦味/高濃度塩受容細胞の4種類の味細胞、もしくは、糖/低塩受容細胞、苦味/高濃度塩受容細胞の2種類の味細胞が含まれている。現在までに、ショウジョウバエから68種類の7回膜貫通型受容体遺伝子が同定されていて、個々の受容細胞が発現する受容体やその一部のリガンドが明らかになってきている。また、7回膜貫通型受容体以外にも、上皮性Naチャネル(ENaC)ファミリーのpickpocket28(PPK28)が、水受容細胞が低浸透圧を検知するために必須であることや、苦味受容体細胞がTrpA1遺伝子を発現することがワサビの味を感知するに必要であることが報告されている。
 昆虫では、味覚受容体を発現する味細胞は、口吻、咽頭、跗節や交尾器などの感覚子(sensillum)に存在する。ショウジョウバエの口吻の1つの感覚子には、糖受容細胞、水受容細胞、塩受容細胞、苦味/高濃度塩受容細胞の4種類の味細胞、もしくは、糖/低塩受容細胞、苦味/高濃度塩受容細胞の2種類の味細胞が含まれている。現在までに、ショウジョウバエから68種類の7回膜貫通型受容体遺伝子が同定されていて、個々の受容細胞が発現する受容体やその一部のリガンドが明らかになってきている。また、7回膜貫通型受容体以外にも、上皮性Na<sup>+</sup>チャネル(ENaC)ファミリーのpickpocket28(PPK28)が、水受容細胞が低浸透圧を検知するために必須であることや、苦味受容体細胞がTrpA1遺伝子を発現することがワサビの味を感知するに必要であることが報告されている。


 昆虫においても、甘味や苦味に対する受容体は、7回膜貫通型で、構造的にはGタンパク質共役型だと考えられている。実際、Gタンパク質を欠損させると、味覚応答が部分的に低下する。しかしながら、近年、リガンド結合型イオンチャネルの特性があることも示され、昆虫の甘味や苦味に対する受容機構は脊椎動物とは異なることが示唆されている。<br>  
 昆虫においても、甘味や苦味に対する受容体は、7回膜貫通型で、構造的にはGタンパク質共役型だと考えられている。実際、Gタンパク質を欠損させると、味覚応答が部分的に低下する。しかしながら、近年、リガンド結合型イオンチャネルの特性があることも示され、昆虫の甘味や苦味に対する受容機構は脊椎動物とは異なることが示唆されている。<br>  
77

回編集