「味覚受容体」の版間の差分

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=== イオンチャネル型受容体  ===
=== イオンチャネル型受容体  ===


 Gタンパク質共役型受容体が味物質と結合してGタンパク質を活性化するのとは対照的に、イオンチャネル型受容体は、細胞外のH<sup>+</sup>(酸味)やNa<sup>+</sup>(塩味)などのイオンを透過させる[[イオンチャネル]]として働くことにより、味物質を検出させると考えられている。
 Gタンパク質共役型受容体が味物質と結合してGタンパク質を活性化するのとは対照的に、イオンチャネル型受容体は、細胞外のH<sup>+</sup>(酸味)やNa<sup>+</sup>(塩味)などのイオンを透過させる[[イオンチャネル]]として働くことにより、味物質を検出させていると考えられている。


==== 酸味受容体  ====
==== 酸味受容体  ====


 [[Transient receptor potential channel]](TRP channel)の1種である[[PKD2L1]]を発現している味細胞を欠くと酸味応答がなくなることが報告されている<ref><pubmed> 16929298 </pubmed></ref>。しかしながら、PKD2L1の膜局在に必要な[[PKD1L3]]を欠損するマウスでも酸味に対する応答が変化しなかったり<ref><pubmed> 20605874 </pubmed></ref>、PKD2L1とPKD1L3を共発現させた[[培養細胞]]が酸刺激をとめた時にしか応答しないことから<ref><pubmed> 18535624 </pubmed></ref>、PKD2L1は酸味の後味に関与していて、PKD以外にも酸受容体があると考えられた。酸味を受容する受容体としては、これまで[[Acid-sensing ion channel]](ASIC)や[[hyperpolarization-activated cyclic nucleotide-gated channel]] (HCN channel) などが候補として挙げられてきたが、個体レベルで酸味の検出に必要だという証明はされていない<ref><pubmed> 12736332 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11675786 </pubmed></ref>。その一方で、H<sup>+</sup>イオンに選択性のあるイオンチャネルを形成する[[Otopetrin1]]が、PKD2L1を発現している味細胞で発現し、酸の受容に関与することが示された<ref><pubmed> 29371428</pubmed></ref><ref><pubmed> 31543264</pubmed></ref>。 
 [[Transient receptor potential channel]](TRP channel)の1種である[[PKD2L1]]を発現している味細胞を欠くと酸味応答がなくなることが報告されている<ref><pubmed> 16929298 </pubmed></ref>。しかしながら、PKD2L1の膜局在に必要な[[PKD1L3]]を欠損するマウスでも酸味に対する応答が変化しなかったり<ref><pubmed> 20605874 </pubmed></ref>、PKD2L1とPKD1L3を共発現させた[[培養細胞]]が酸刺激をとめた時にしか応答しないことから<ref><pubmed> 18535624 </pubmed></ref>、PKD2L1は酸味の後味に関与していて、PKD以外にも酸受容体があると考えられた。酸味を受容する受容体としては、他にも[[Acid-sensing ion channel]](ASIC)や[[hyperpolarization-activated cyclic nucleotide-gated channel]] (HCN channel) などが候補として挙げられてきたが、個体レベルで酸味の検出に必要だという証明はされていない<ref><pubmed> 12736332 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11675786 </pubmed></ref>。その一方で、H<sup>+</sup>イオンに選択性のあるイオンチャネルを形成する[[Otopetrin1]]が、PKD2L1を発現している味細胞で発現し、酸の受容に関与することが示された<ref><pubmed> 29371428</pubmed></ref><ref><pubmed> 31543264</pubmed></ref>。 


==== 塩味受容体  ====
==== 塩味受容体  ====
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== 昆虫の味覚受容体  ==
== 昆虫の味覚受容体  ==


 昆虫の[[味細胞]]は、口吻、咽頭、跗節や交尾器などの[[感覚子]](sensillum)に存在する<ref name="ref4"><pubmed> 8118845 </pubmed></ref>。進化的には哺乳類とかけはなれた昆虫も、味覚の区分は哺乳類と極めて類似しており、糖や低濃度の塩、脂肪酸に対しては嗜好性を示し、高濃度の塩や苦味などを嫌悪する<ref name="ref5" />。また、[[甘味受容体]]の遺伝子数が、[[苦味受容体]]に比べると少ない点も共通している<ref><pubmed> 21262465 </pubmed></ref>。しかし、昆虫には食物を味わう目的以外に、たとえば脚にある味覚受容器の味覚受容体が産卵する宿主植物が持つ化学物質や、求愛相手の[[wikipedia:JA:性フェロモン|性フェロモン]]の検知に関わっていることが報告されている<ref><pubmed> 22086342 </pubmed></ref><ref><pubmed> 22632976 </pubmed></ref>。  
 昆虫の[[味細胞]]は、口吻、咽頭、跗節や交尾器などの[[感覚子]](sensillum)に存在する<ref name="ref4"><pubmed> 8118845 </pubmed></ref>。進化的には哺乳類とかけはなれた昆虫も、味覚の区分は哺乳類と極めて類似しており、糖や低濃度の塩、脂肪酸に対しては嗜好性を示し、高濃度の塩や苦味などを嫌悪する<ref name="ref5" />。また、[[甘味受容体]]の遺伝子数が、[[苦味受容体]]に比べると少ない点も共通している<ref><pubmed> 21262465 </pubmed></ref>。しかし、昆虫には食物を味わう目的以外に、たとえば脚にある味覚受容器の味覚受容体が産卵先の宿主植物が持つ化学物質や、求愛相手の[[wikipedia:JA:性フェロモン|性フェロモン]]の検知に関わっていることが報告されている<ref><pubmed> 22086342 </pubmed></ref><ref><pubmed> 22632976 </pubmed></ref>。  


 ここでは、昆虫で最も味覚受容体の同定が進んでいるショウジョウバエを例に概説する。ショウジョウバエでは68種類の7回膜貫通型の味覚受容体(gustatory receptor, GR)からなる遺伝子ファミリーが同定されており、糖や苦み物質に対する受容体や、その受容体を発現する[[味細胞]]が明らかになっている<ref><pubmed> 19660932 </pubmed></ref>。ただし、GRファミリーには、[[嗅覚受容体]]なども含まれており、すべてが味覚受容体として機能しているわけではない。GRファミリーに含まれる味覚受容体は、7回膜貫通型のタンパク質ではあるが、少なくとも一部の受容体はGタンパク質共役型ではなく、リガンド結合型イオンチャネルとして機能することが報告されている<ref><pubmed> 21709218</pubmed></ref>。また、個々の[[味細胞]]は、異なる組み合わせのGR遺伝子を発現することで、様々な糖を受容していると考えられている<ref><pubmed> 25702577 </pubmed></ref>。しかしながら、受容体として機能する際のGRのサブユニット構成は解明されていない。唯一、GR43aはその発現だけで陽イオンチャネルとして機能することが明らかにされている<ref><pubmed> 21709218</pubmed></ref>。ちなみに、そのGr43aは脳では血リンパ中の果糖の濃度をモニターするのにも役立っている<ref><pubmed> 23178127</pubmed></ref>。
 ここでは、昆虫で最も味覚受容体の同定が進んでいるショウジョウバエを例に概説する。ショウジョウバエでは68種類の7回膜貫通型の味覚受容体(gustatory receptor, GR)からなる遺伝子ファミリーが同定されており、糖や苦み物質に対する受容体や、その受容体を発現する[[味細胞]]が明らかになっている<ref><pubmed> 19660932 </pubmed></ref>。ただし、GRファミリーには、[[嗅覚受容体]]なども含まれており、すべてが味覚受容体として機能しているわけではない。GRファミリーに含まれる味覚受容体は、7回膜貫通型のタンパク質ではあるが、少なくとも一部の受容体はGタンパク質共役型ではなく、リガンド結合型イオンチャネルとして機能することが報告されている<ref><pubmed> 21709218</pubmed></ref>。また、個々の[[味細胞]]は、異なる組み合わせのGR遺伝子を発現することで、様々な糖を受容していると考えられている<ref><pubmed> 25702577 </pubmed></ref>。しかしながら、受容体として機能する際のGRのサブユニット構成は解明されていない。唯一、GR43aはその発現だけで陽イオンチャネルとして機能することが明らかにされている<ref><pubmed> 21709218</pubmed></ref>。ちなみに、そのGr43aは脳では血リンパ中の果糖の濃度をモニターするのにも役立っている<ref><pubmed> 23178127</pubmed></ref>。