「嗅皮質」の版間の差分

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<font size="+1">眞部 寛之、家城 直、[http://researchmap.jp/kensakumori 森 憲作]</font><br>
<font size="+1">[https://researchmap.jp/hmanabe/?lang=japanese 眞部 寛之]</font><br>
''同志社大学脳科学研究科''<br>
<font size="+1">家城 直、[http://researchmap.jp/kensakumori 森 憲作]</font><br>
''東京大学 大学院医学系研究科''<br>
''東京大学 大学院医学系研究科''<br>
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年3月15日 原稿完成日:2013年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年3月15日 原稿完成日:2019年5月16日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/ichirofujita 藤田 一郎](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/keijitanaka 田中 啓治](独立行政法人理化学研究所 脳神経科学研究センター)<br>
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{{box|text=
{{box|text=
 嗅皮質は、[[嗅球]]の投射[[ニューロン]]である[[僧帽細胞]](mitral cell)、[[房飾細胞]](tufted cell)から直接入力がある[[大脳皮質]]領域である<ref name=nevelle>'''Nevelle K. R. & Haberly L. B.'''<br>The Synaptic Organization of the Brain (ed. Shepherd G. M.)<br>''Oxford University Press'':2004</ref>。 (解剖、機能についての抄録をお願い致します)。
 嗅皮質は、[[嗅球]]の投射[[ニューロン]]である[[僧帽細胞]](mitral cell)、[[房飾細胞]](tufted cell)から直接入力がある[[大脳皮質]]領域である。大部分は三層構造からなり「古皮質」に分類される。嗅皮質のニューロンは特定の組み合わせの受容体からの情報を統合する機能を持つと考えられるとともに、より高次中枢からのトップダウン入力を受けるため、末梢からの嗅覚情報と高次情報を連合する役割を持つと考えられている。
}}
}}


==嗅皮質とは==
==嗅皮質とは==


[[Image:嗅皮質.jpg|thumb|250px|'''図.嗅皮質とその亜領域'''<br>
[[Image:嗅皮質.jpg|thumb|250px|'''図.マウスの脳の腹面図嗅皮質とその亜領域'''<br>マウスの脳の腹面図。左側: 僧帽細胞の投射領域、右側: 嗅皮質の亜領域<br>
左側: 僧帽細胞の投射領域、右側: 嗅皮質の亜領域<br>
ACo: [[前部扁桃皮質核]]((anterior cortical amygdaloid nucleus)<br>
ACo: [[前部扁桃皮質核]]((anterior cortical amygdaloid nucleus)<br>
AON: [[前嗅核]](anterior olfactory nucleus)<br>
AON: [[前嗅核]](anterior olfactory nucleus)<br>
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]]  


 [[嗅覚]]系の情報は、[[鼻腔]]の中に匂い分子が取り込まれると、[[嗅上皮]]に存在する[[匂い分子受容体]]をもつ[[嗅細胞]]に受け取られ、さらに一次中継部位である[[嗅球]]、嗅球から[[軸索]]投射を受ける嗅皮質へと伝達されていく。嗅皮質は、嗅球の投射ニューロンである僧帽細胞、房飾細胞から直接入力がある領域として定義されている<ref name=nevelle />。
 [[嗅覚]]系の情報は、[[鼻腔]]の中に匂い分子が取り込まれると、[[嗅上皮]]に存在する[[匂い分子受容体]]を持つ[[嗅細胞]]に受け取られ、さらに一次中継部位である[[嗅球]]、嗅球から[[軸索]]投射を受ける嗅皮質へと伝達されていく。嗅皮質は、嗅球の投射ニューロンである僧帽細胞、房飾細胞から直接入力がある領域として定義される<ref name=nevelle>'''Nevelle K. R. & Haberly L. B.'''<br>The Synaptic Organization of the Brain (ed. Shepherd G. M.)<br>''Oxford University Press'':2004</ref>。


== 構造 ==
== 構造 ==
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=== 亜領域 ===
=== 亜領域 ===


 解剖学的違い、投射様式の違いなどから嗅皮質はいくつかの亜領域に分かれる(図)。最も広大な範囲を占めるのが[[梨状皮質]](piriform cortex、PC)で、[[前後軸]]に沿って[[前梨状皮質]](anterior piriform cortex, APC)と[[後梨状皮質]](posterior piriform cortex, PPC)に分類されている([[外側嗅索]](Lateral olfactory tract: LOT)の終止部より尾側部がPPC)。その他、[[前嗅核]](anterior olfactory nucleus、AON)、[[蓋紐]](tenia tecta、TT)、腹側[[線条体]]の一部である[[嗅結節]](olfactory tubercle、OT)、[[外側嗅索核]](nucleus of lateral olfactory tract、nLOT)、[[前部扁桃皮質核]](anterior cortical amygdaloid nucleus、ACO)、[[後外側部扁桃皮質核]](posterolateral cortical amygdaloid nucleus、PLCO)、[[外側内嗅野]](lateral entorhinal cortex、LEC)などがある。  
 解剖学的違い、投射様式の違いなどから嗅皮質は複数の亜領域に分かれる('''図''')。最も広大な範囲を占めるのが[[梨状皮質]](piriform cortex、PC)で、[[前後軸]]に沿って[[前梨状皮質]](anterior piriform cortex, APC)と[[後梨状皮質]](posterior piriform cortex, PPC)に分類される。[[外側嗅索]](Lateral olfactory tract: LOT)の終止部より尾側がPPCである。その他、[[前嗅核]](anterior olfactory nucleus、AON)、[[蓋紐]](tenia tecta、TT)、腹側[[線条体]]の一部である[[嗅結節]](olfactory tubercle、OT)、[[外側嗅索核]](nucleus of lateral olfactory tract、nLOT)、[[前部扁桃皮質核]](anterior cortical amygdaloid nucleus、ACO)、[[後外側部扁桃皮質核]](posterolateral cortical amygdaloid nucleus、PLCO)、[[外側内嗅野]](lateral entorhinal cortex、LEC)などがある。  


=== 層構造 ===
=== 層構造 ===
(編集コメント:ここも図があればと思います)
 梨状皮質をはじめ嗅皮質の大部分は海馬などと同様に三層構造からなり、六層構造をもつ大脳の「[[新皮質]]」とは異なり「[[古皮質]]」に分類される。
 梨状皮質をはじめ嗅皮質の大部分は海馬などと同様に三層構造からなることから、六層構造をもつ大脳の「[[新皮質]]」とは異なり「[[古皮質]]」に分類されている。


*Ⅰ層:最も表層側にある層で、[[樹状突起]]や求心性繊維、少数の介在ニューロンなどを含む。嗅球からの軸索末端が終止するⅠa層と、嗅皮質内のニューロンや他の領域からの[[連合線維]]の入力を受けるⅠb層に分かれている。  
*Ⅰ層:最も表層側にある層で、[[樹状突起]]や求心性繊維、少数の介在ニューロンなどを含む。嗅球からの軸索末端が終止するⅠa層と、嗅皮質内のニューロンや他の領域からの[[連合線維]]の入力を受けるⅠb層に分かれている。  
*Ⅱ層:多くのニューロンの[[細胞体]]が存在する。表層側(IIa層)にはsemilunar cell(日本語訳がございましたらご教示下さい)、深層側(IIb層)には浅部[[錐体細胞]]の細胞体が並ぶ。  
*Ⅱ層:多くのニューロンの[[細胞体]]が存在する。表層側(IIa層)には半月状細胞 (semilunar cell)、深層側(IIb層)には浅部[[錐体細胞]]の細胞体が並ぶ。  
*Ⅲ層:表層側には深部錐体細胞が存在し、より深層側になるにつれて多極細胞など非錐体細胞の割合が多くなる。  
*Ⅲ層:表層側には深部錐体細胞が存在し、より深層側になるにつれて多極細胞など非錐体細胞の割合が多くなる。  
*Endopiriform nucleus(日本語訳がございましたらご教示下さい):Ⅲ層よりも深層側にあり、時に嗅皮質のⅣ層とも称される。Spiny multipolar neuron(日本語訳がございましたらご教示下さい)などが主な細胞種である。
*Endopiriform nucleus:Ⅲ層よりも深層側にあり、時に嗅皮質のⅣ層とも称される。有棘多極細胞 (spiny multipolar neuron)などが主な細胞種である。


=== 細胞種  ===
=== 細胞種  ===
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==== 介在ニューロン ====
==== 介在ニューロン ====


 嗅皮質の介在ニューロン(非錐体細胞)の多くは[[GABA]]ergicであり、抑制性である。I層~Ⅲにかけて存在し、水平細胞、多極細胞などがある。
 嗅皮質の介在ニューロン(非錐体細胞)の多くは[[GABA]]作動性でありであり、抑制性である。I〜III層にかけて存在し、水平細胞、多極細胞などがある。


=== 入力  ===
=== 入力  ===
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 僧帽細胞は、嗅皮質のほぼ全領域(AON、TT、OT、APC/PPC、nLOT、ACO、PLCO、LEC)に軸索投射するが、房飾細胞は嗅皮質のなかでも前部(AON、OT、TT、APCの一部 )のみに軸索投射する。   
 僧帽細胞は、嗅皮質のほぼ全領域(AON、TT、OT、APC/PPC、nLOT、ACO、PLCO、LEC)に軸索投射するが、房飾細胞は嗅皮質のなかでも前部(AON、OT、TT、APCの一部 )のみに軸索投射する。   


 これまでに、嗅球内の各領域(ドメイン)から前嗅核のpars externaへの軸索投射には大まかなトポグラフィーがあることは知られている<ref><pubmed> 6470206 </pubmed></ref>が、単一の僧帽細胞は、嗅皮質の各領域へ広範囲な軸索を送り、トポグラフィックな関係は見出されていない。
 これまでに、嗅球内の各領域(ドメイン)から前嗅核のpars externaへの軸索投射には大まかなトポグラフィーがあることは知られている<ref><pubmed> 6470206 </pubmed></ref>が、単一の僧帽細胞は、嗅皮質の各領域へ広範囲な軸索を送り、嗅球における細胞体位置と軸索投射先の位置の間の規則的な関係は見いだされていない。


==== 神経調節性入力 ====
==== 神経調節性入力 ====
98行目: 98行目:
=== 左右の鼻からの入力差の感知  ===
=== 左右の鼻からの入力差の感知  ===


 前嗅核のpars externa(日本語訳はありますでしょうか)のニューロンは同側の鼻からの匂い入力には興奮性に応答するが、対側の鼻からの同じ匂い入力には抑制的に応答する<ref><pubmed> 20616091 </pubmed></ref>。このことは、pars externaのニューロンが左右の鼻からの入力の強さの差を検知する能力を有していることを示しており、匂い源の方向検知に働いていると考えられる。  
 前嗅核の外節 (pars externa)のニューロンは同側の鼻からの匂い入力には興奮性に応答するが、対側の鼻からの同じ匂い入力には抑制的に応答する<ref><pubmed> 20616091 </pubmed></ref>。このことは、pars externaのニューロンが左右の鼻からの入力の強さの差を検知する能力を有していることを示しており、匂い源の方向検知に働いていると考えられる。  


=== 感覚入力ゲーティング  ===
=== 感覚入力ゲーティング  ===
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=== 徐波睡眠中の嗅皮質の活動  ===
=== 徐波睡眠中の嗅皮質の活動  ===


 徐波睡眠中、梨状皮質では海馬と類似した鋭波が発生する<ref><pubmed> 21632934 </pubmed></ref>。梨状皮質の錐体細胞は豊富な興奮性[[反回側枝]]が存在し、お互いが密にシナプス接続されている。徐波睡眠時、この反回側枝の同期的な活動により鋭波が発生する。この鋭波は梨状皮質以外の多くの嗅皮質領域でも同期している。海馬[[鋭波]]は睡眠直前の経験によって発火したニューロン群がその時間的な関係を保ったまま再活性することが知られている。この再活性化によって、海馬での[[短期記憶]]が[[長期記憶]]へと固定化されると考えられている。嗅皮質は嗅覚連合学習(olfactory association learning)の場であることも知られているので、嗅皮質鋭波は、睡眠直前の匂い経験によって発火したニューロン群の再活性化の場であり、再活性されることで嗅覚記憶の[[固定化]]に寄与していると考えられる。また、嗅皮質鋭波は嗅球の顆粒細胞層にトップダウン入力し、嗅球回路の再編に寄与している。  
 徐波睡眠中、梨状皮質では海馬と類似した鋭波が発生する<ref><pubmed> 21632934 </pubmed></ref>。梨状皮質の錐体細胞には豊富な興奮性[[反回側枝]]が存在し、お互いが密にシナプス接続されている。徐波睡眠時、この反回側枝の同期的な活動により鋭波が発生する。この鋭波は梨状皮質以外の多くの嗅皮質領域でも同期している。海馬[[鋭波]]は睡眠直前の経験によって発火したニューロン群がその時間的な関係を保ったまま再活性することが知られている。この再活性化によって、海馬での[[短期記憶]]が[[長期記憶]]へと固定化されると考えられている。嗅皮質は嗅覚連合学習(olfactory association learning)の場であることも知られているので、嗅皮質鋭波は、睡眠直前の匂い経験によって発火したニューロン群の再活性化の場であり、再活性されることで嗅覚記憶の[[固定化]]に寄与していると考えられる。また、嗅皮質鋭波は嗅球の顆粒細胞層にトップダウン入力し、嗅球回路の再編に寄与している。  


==関連項目==
==関連項目==
*[[嗅覚]]
*[[嗅覚経路]]
*[[嗅球]]
*[[嗅球]]
(他にございましたらご指摘下さい)
* [[嗅覚受容体]]


== 参考文献  ==
== 参考文献  ==


<references />
<references />

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