「器質性精神障害」の版間の差分

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 従来精神疾患は、心因性、内因性、外因性という三つの要因から成立すると考えられてきた。このうち、外因性に分類されるものの中には、内分泌疾患などの結果として脳機能に影響を与えるものと、脳外傷や脳梗塞などのように、直接脳そのものを障害するものがある。
 従来[[精神疾患]]は、心因性、内因性、外因性という三つの要因から成立すると考えられてきた。このうち、外因性に分類されるものの中には、内[[分泌]]疾患などの結果として脳機能に影響を与えるものと、脳外傷や脳梗塞などのように、直接脳そのものを障害するものがある。




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#内因性鈍化(早発性痴呆 パラフレニー) 
#内因性鈍化(早発性痴呆 パラフレニー) 
#てんかん性精神病 
#てんかん性精神病 
#躁鬱病 
#[[躁鬱病]] 
#心因性疾患 
#心因性疾患 
#ヒステリー 
#ヒステリー 
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を挙げており、これらのうち、1から8までは器質性および症状精神病、中毒性精神病を含む外因性精神病に分類される。
を挙げており、これらのうち、1から8までは器質性および症状精神病、中毒性精神病を含む外因性精神病に分類される。


 一方でWernicke K.の弟子であるBonhoeffer K.は主にアルコール性精神病の症例観察から、原因は同じでも別の病態(振戦せん妄やコルサコフ精神病)が生じる場合ことがあることに注目し、「原因性中間節」という中間段階の代謝性物質を想定し、外因性症候群、特に急性外因反応型についての記載を行った。この分類では、せん妄・もうろう状態・幻覚症・てんかん性運動興奮・アメンチアがこのタイプに含まれるとされた。
 一方でWernicke K.の弟子であるBonhoeffer K.は主にアルコール性精神病の症例観察から、原因は同じでも別の病態(振戦[[せん妄]]やコルサコフ精神病)が生じる場合ことがあることに注目し、「原因性中間節」という中間段階の代謝性物質を想定し、外因性症候群、特に急性外因反応型についての記載を行った。この分類では、せん妄・もうろう状態・幻覚症・てんかん性運動興奮・アメンチアがこのタイプに含まれるとされた。


 さらに、日本では変質精神病あるいは非定型精神病という病名とともに想起されることの多いKleist K.は、これもWernicke K.の影響から、様々な精神機能を大脳皮質に局在させる立場をとり、眼窩脳を自己我あるいは社会我の神経基盤であるとし、この部位の損傷で人格変化が生じることを主張した。また、前頭葉損傷患者でしばしば認められる自発性の低下を、Antriebsmangel(発動性欠乏)とよび、前額脳がその首座であることを主張した。分類としては主に大脳皮質の巣症状として理解されるべき「脳外套症候群」と、巣症状としては理解できず、脳幹にその原因を求めるべき「脳幹症候群」の大きな二分類を行っている。
 さらに、日本では変質精神病あるいは非定型精神病という病名とともに[[想起]]されることの多いKleist K.は、これもWernicke K.の影響から、様々な精神機能を[[大脳皮質]]に局在させる立場をとり、眼窩脳を自己我あるいは社会我の神経基盤であるとし、この部位の損傷で人格変化が生じることを主張した。また、[[前頭葉]]損傷患者でしばしば認められる自発性の低下を、Antriebsmangel(発動性欠乏)とよび、前額脳がその首座であることを主張した。分類としては主に大脳皮質の巣症状として理解されるべき「脳外套症候群」と、巣症状としては理解できず、脳幹にその原因を求めるべき「脳幹症候群」の大きな二分類を行っている。


 また、Wieck H.は1956年にDurchgangssyndrom通過症候群の概念を提出している。急性期から慢性期にかけての通過段階に呈される症状群を指す概念であるが、広義では通過症候群は軽度の意識障害と考えられる。
 また、Wieck H.は1956年にDurchgangssyndrom通過症候群の概念を提出している。急性期から慢性期にかけての通過段階に呈される症状群を指す概念であるが、広義では通過症候群は軽度の[[意識障害]]と考えられる。


 このように見てくると、大別して原因論的器質性精神障害分類、症候学的分類、臨床経過による分類といってよいだろう。原因論としては、元々の疾患が何かによる分類と、基盤となる脳構造による分類があげられるが、損傷部位が種々の神経画像的手法により直接観察できるようになってきた現在、前者の分類は実用的ではないかもしれない。つまり、たとえば脳腫瘍による精神病といった病名をつけても、脳腫瘍の浸潤度合い、存在部位によって大きく症状が異なることが予想され、分類としては有用ではない可能性が高い。また、臨床経過による分類は現在でも使用されることがあり、特に急性に生じる器質性精神障害は、基本的には可逆的であることが多く、原因となる疾患の治療が優先される。
 このように見てくると、大別して原因論的器質性精神障害分類、症候学的分類、臨床経過による分類といってよいだろう。原因論としては、元々の疾患が何かによる分類と、基盤となる脳構造による分類があげられるが、損傷部位が種々の神経画像的手法により直接観察できるようになってきた現在、前者の分類は実用的ではないかもしれない。つまり、たとえば脳腫瘍による精神病といった病名をつけても、脳腫瘍の浸潤度合い、存在部位によって大きく症状が異なることが予想され、分類としては有用ではない可能性が高い。また、臨床経過による分類は現在でも使用されることがあり、特に急性に生じる器質性精神障害は、基本的には可逆的であることが多く、原因となる疾患の治療が優先される。
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== 分類の現状 ==
== 分類の現状 ==


 ICD-10では(症状性を含む)器質性精神障害 Organic, Including Symptomatic, Mental Disorders と総称している。一方でDSMではIIIで使用されていた器質性という用語はIVでは使用されていない。これは、器質性としたもの以外の精神障害が、まるで器質(脳器質)が関係していないかのような誤解を防ぐためのものである。
 [[ICD-10]]では(症状性を含む)器質性精神障害 Organic, Including Symptomatic, Mental Disorders と総称している。一方でDSMではIIIで使用されていた器質性という用語はIVでは使用されていない。これは、器質性としたもの以外の精神障害が、まるで器質(脳器質)が関係していないかのような誤解を防ぐためのものである。


 ICD-10のF0群の中には、F00からF03に分類されている認知症性疾患、F04に含まれる健忘症候群、F05に規定されているせん妄が含まれる。さらにF06, 07に規定されている、器質因により幻覚妄想や気分の変動などのいわば内因性精神疾患に似た症状をきたす一群が含まれている。さらに詳しく見ると、F06の中には、F06.2で分類されている幻覚を含めた統合失調症様の症状を呈する一群、F06.3で気分障害と同じ臨床症状を呈する一群、F06.4で不安障害、F06.5で解離性障害の症状を呈する一群が記載され、F07には基本的には人格と行動の障害を呈する一群が含まれている。器質性精神障害に独特なものとしては、F06.6に規定されている器質性情緒不安定性障害、F07.1に規定されている脳炎後症候群、F07.2の脳震盪後症候群が挙げられる。
 ICD-10のF0群の中には、F00からF03に分類されている認知症性疾患、F04に含まれる[[健忘症候群]]、F05に規定されているせん妄が含まれる。さらにF06, 07に規定されている、器質因により幻覚妄想や気分の変動などのいわば内因性精神疾患に似た症状をきたす一群が含まれている。さらに詳しく見ると、F06の中には、F06.2で分類されている幻覚を含めた統合失調症様の症状を呈する一群、F06.3で気分障害と同じ臨床症状を呈する一群、F06.4で[[不安障害]]、F06.5で解離性障害の症状を呈する一群が記載され、F07には基本的には人格と行動の障害を呈する一群が含まれている。器質性精神障害に独特なものとしては、F06.6に規定されている器質性情緒不安定性障害、F07.1に規定されている脳炎後症候群、F07.2の脳震盪後症候群が挙げられる。


 一方、行政用語としては、「高次脳機能障害」という用語が平成13年から17年度に行われた高次脳機能障害支援モデル事業において策定され、「頭部外傷、脳血管障害などによる脳の損傷の後遺症として、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害が生じ、これに起因して、日常生活・社会生活への適応が困難となる障害である。」と定められている。これは行政用語であるので、病名とは言えないものであるが、概念としては器質性精神障害の一部を含むものとなっている。
 一方、行政用語としては、「高次脳機能障害」という用語が平成13年から17年度に行われた高次脳機能障害支援モデル事業において策定され、「頭部外傷、脳血管障害などによる脳の損傷の後遺症として、記憶障害、注意障害、[[遂行機能]]障害、社会的行動障害などの認知障害が生じ、これに起因して、日常生活・社会生活への適応が困難となる障害である。」と定められている。これは行政用語であるので、病名とは言えないものであるが、概念としては器質性精神障害の一部を含むものとなっている。


== 現在の疾病分類の問題点 ==
== 現在の疾病分類の問題点 ==