「場所細胞」の版間の差分

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<div align="right"> 
<font size="+1">[http://researchmap.jp/tsusumu 高橋 晋]</font><br>
''同志社大学 大学院脳科学研究科''<br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/yoshiosakurai 櫻井 芳雄]</font><br>
''京都大学 大学院文学研究科心理学研究室 ''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年5月1日 原稿完成日:2012年6月13日 更新日:2014年10月8日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/ichirofujita 藤田 一郎](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br>
</div>
英語名: place cell    
英語名: place cell    


{{box|text=
 場所細胞とは、動物がある特定の場所を通過するときにだけ発火する[[海馬]]の[[錐体細胞]]である。  
 場所細胞とは、動物がある特定の場所を通過するときにだけ発火する[[海馬]]の[[錐体細胞]]である。  
}}


[[Image:Placecells.jpg|thumb|400px|'''図1. ラット海馬CA1野の場所細胞の場所受容野マップ'''<br />ラットは、視覚弁別課題と交代反応課題を八の字迷路上で遂行している。同時記録された28個の場所細胞の発火頻度は、右下にあるカラーバー(最大値(赤)、無発火(青))に示されるグラデーションで表現している。ラットが訪れていない場所は黒で表現している。(データ:高橋晋)]]
[[Image:Placecells.jpg|thumb|400px|'''図1. ラット海馬CA1野の場所細胞の場所受容野マップ'''<br />ラットは、視覚弁別課題と交代反応課題を八の字迷路上で遂行している。同時記録された28個の場所細胞の発火頻度は、右下にあるカラーバー(最大値(赤)、無発火(青))に示されるグラデーションで表現している。ラットが訪れていない場所は黒で表現している。(データ:高橋晋)]]
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== エピソード記憶  ==
== エピソード記憶  ==


 いつ、どこで、何をという一連のエピソードを想起するための[[エピソード記憶]]は、海馬を損傷すると重度の障害を受けることが知られている<ref><pubmed>13406589</pubmed></ref>。しかし、海馬においてエピソードに関連する情報がどのように表現されているかは不明であった。このエピソード記憶の枠組みでは、場所細胞はどこで(where)という情報を表現していると考えられる。Eichenbaumらは、海馬はエピソード記憶の座であると考えられるため、場所細胞の発火パターンは、様々な知覚([[視覚]]、[[嗅覚]]など)やその記憶を連合することによって形成されるとする仮説(relational memory; conjunctive encoding)を提唱している。この仮説を支持する研究は、場所細胞が場所だけではなく、臭い、新規性(マッチ、ノンマッチ)などにも関連して発火する報告<ref><pubmed>10050854</pubmed></ref>をはじめとして、いくつかの研究グループから報告されている。また、Eichenbaumらは、場所細胞がイベント列(エピソード)を表現していると考えている。つまり、個体が移動する場合、外的な刺激(視覚などの知覚刺激)と内的な刺激(自らの動きや記憶に基づく刺激)が時々刻々と変化するが、それらの刺激(イベント)の列に対して、場所細胞それぞれが特定の割合で組み合わさることにより反応し、場所受容野が形成されていくと考えている。場所細胞群により表現されているイベント列は、脳内で表現されている文脈とも考えられるため、Mizumoriらは場所細胞は文脈(エピソード)依存的であるという仮説を提唱している。この文脈依存的な場所細胞の形成仮説によると、同じオープンフィールド環境であっても報酬位置が特定の位置にある場合にだけ場所受容野が方向依存的になる理由は、報酬を得るために文脈が必要になり、その文脈に合わせて場所受容野が切り替わるからだと考えられる<ref><pubmed>16897724</pubmed></ref>。
 いつ、どこで、何をという一連のエピソードを想起するための[[エピソード記憶]]は、海馬を損傷すると重度の障害を受けることが知られている<ref><pubmed>13406589</pubmed></ref>。しかし、海馬においてエピソードに関連する情報がどのように表現されているかは不明であった。このエピソード記憶の枠組みでは、場所細胞はどこで(where)という情報を表現していると考えられる。Eichenbaumらは、海馬はエピソード記憶の座であると考えられるため、場所細胞の発火パターンは、様々な知覚([[視覚]]、[[嗅覚]]など)やその記憶を連合することによって形成されるとする仮説(relational memory; conjunctive encoding)を提唱している。この仮説を支持する研究は、場所細胞が場所だけではなく、臭い、新規性(マッチ、ノンマッチ)などにも関連して発火する報告<ref><pubmed>10050854</pubmed></ref>をはじめとして、いくつかの研究グループから報告されている。また、Eichenbaumらは、場所細胞がイベント列(エピソード)を表現していると考えている。つまり、個体が移動する場合、外的な刺激(視覚などの知覚刺激)と内的な刺激(自らの動きや記憶に基づく刺激)が時々刻々と変化するが、それらの刺激(イベント)の列に対して、場所細胞それぞれが特定の割合で組み合わさることにより反応し、場所受容野が形成されていくと考えている。場所細胞群により表現されているイベント列は、脳内で表現されている文脈とも考えられるため、Mizumoriらは場所細胞は文脈(エピソード)依存的であるという仮説を提唱している。この文脈依存的な場所細胞の形成仮説によると、同じオープンフィールド環境であっても報酬位置が特定の位置にある場合にだけ場所受容野が方向依存的になる理由は、報酬を得るために文脈が必要になり、その文脈に合わせて場所受容野が切り替わるからだと考えられる<ref><pubmed>16897724</pubmed></ref>。これらの一連の研究を踏まえ、高橋は場所細胞が道程の違いと課題の違いに合わせて場所受容野を変化させ、場所細胞の集団的な活動パターンがエピソード記憶を形成していることを発見しました。そして、そのエピソード的な場所細胞集団の発火パターンにおいては、「いつ、どこで」に関する情報が「どのように」に関する情報よりも上位に位置する階層構造を持つことも明らかにしている<ref><pubmed>23390588</pubmed></ref>。


== 再配置  ==
== 再配置  ==
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== 参考文献  ==
== 参考文献  ==


<references />  
<references />
 
 
(執筆者:高橋晋、櫻井芳雄 担当編集委員:藤田一郎)

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