「外傷後ストレス障害」の版間の差分

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==   症状と診断  ==
==   症状と診断  ==
<pre>==症状と診断==</pre>  
<pre>==症状と診断==</pre>  
  診断基準はDSM‐Ⅳ‐TRとICD‐10共に収載されているが、前者の診断基準が用いられることが多い。
  診断基準はDSM‐Ⅳ‐TR(表1)とICD‐10共に収載されているが、前者の診断基準が用いられることが多い。


&nbsp; 尚、PTSDは他の精神障害とは異なり、診断基準にトラウマ体験への暴露が含まれている。症状、持続期間、機能障害が診断基準を満たしても、トラウマ体験がA基準を満たさなければ、適応障害と診断するべきである。その一方で、トラウマ体験がA基準を満たしていても、トラウマ体験後に出現した症状が他の精神障害の診断基準を満たしたときはその診断を下す、もしくはPTSDと併記しなければならない。  
&nbsp; 尚、PTSDは他の精神障害とは異なり、診断基準にトラウマ体験への暴露が含まれている。症状、持続期間、機能障害が診断基準を満たしても、トラウマ体験がA基準を満たさなければ、適応障害と診断するべきである。その一方で、トラウマ体験がA基準を満たしていても、トラウマ体験後に出現した症状が他の精神障害の診断基準を満たしたときはその診断を下す、もしくはPTSDと併記しなければならない。  
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== &nbsp;疫学&nbsp;&nbsp; [[Image:Tsutsui file 2.jpg|right|406x261px|原因による有病率の違い]]  ==
== &nbsp;疫学&nbsp;&nbsp; [[Image:Tsutsui file 2.jpg|right|406x261px|原因による有病率の違い]]  ==
<pre>==疫学==</pre>  
<pre>==疫学==</pre>  
&nbsp; 1995年にKesslerらが行った全米疫学調査<ref><pubmed>7492257</ref>ではPTSDの生涯有病率は男性5.0%、女性10.4%、現在有病率は男性1.5%、女性3.0%だった。また、性暴力などの犯罪被害者のPTSD発症率が自然災害被災者よりも高いことが示された。
&nbsp; 1995年にKesslerらが行った全米疫学調査<ref><pubmed>7492257</ref>ではPTSDの生涯有病率は男性5.0%、女性10.4%、現在有病率は男性1.5%、女性3.0%だった。また、性暴力などの犯罪被害者のPTSD発症率が自然災害被災者よりも高いことが示された(図1)。


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=== &nbsp;&nbsp;神経心理的知見  ===
=== &nbsp;&nbsp;神経心理的知見  ===
<pre>===神経心理的知見===</pre>  
<pre>===神経心理的知見===</pre>  
[[Image:Tutsui file 3.jpg|right|579x347px|fear circuit]] PTSDの再体験、過覚醒症状は トラウマ体験に対する[[恐怖条件づけ]]とみなすと理解しやすく、暴露療法が有効であることも恐怖条件づけの消去現象と考えると理解しやすい。[[恐怖条件づけ]]を司る[[扁桃体]]と内側前頭前野との連絡についての解剖学的知見や内側前頭前野の破壊が恐怖の消去を阻害することを示した動物実験からの知見などが集積され、現在は[[扁桃体]]、内側前頭前野、[[海馬]]などを含んだ神経回路モデルが想定されている。神経回路モデルに関して形態学的な研究も行われている。扁桃体と[[海馬]]の体積が減少を認めたという報告がある一方で、認めなかったとする報告もある。内側前頭前野の一部である前帯状皮質の体積減少が複数報告されている。<br>    
[[Image:Tutsui file 3.jpg|right|579x347px|fear circuit]] PTSDの再体験、過覚醒症状は トラウマ体験に対する[[恐怖条件づけ]]とみなすと理解しやすく、暴露療法が有効であることも恐怖条件づけの消去現象と考えると理解しやすい。[[恐怖条件づけ]]を司る[[扁桃体]]と内側前頭前野との連絡についての解剖学的知見や内側前頭前野の破壊が恐怖の消去を阻害することを示した動物実験からの知見などが集積され、現在は[[扁桃体]]、内側前頭前野、[[海馬]]などを含んだ神経回路モデルが想定されている(図2)。神経回路モデルに関して形態学的な研究も行われている。扁桃体と[[海馬]]の体積が減少を認めたという報告がある一方で、認めなかったとする報告もある。内側前頭前野の一部である前帯状皮質の体積減少が複数報告されている。<br>    


  その他、PTSDがストレス反応であるとの視点からストレス系ホルモンについての研究がなされている。24時間血漿コルチゾール値で夜間と早朝のベースラインレベルがうつ病患者や健常対照群と比較して有意に低く、視床下部-下垂体-副腎皮質系機能(hypothalamic-pituitary-adrenal:HPA系)の調節異常が示唆されている。また、デキサメタゾン試験によるコルチゾール分泌の過剰抑制、リンパ球グルココルチコイド受容体の数の増加と感受性亢進と視床下部におけるコルチコトロピン放出因子の分泌亢進が示唆されている。  
  その他、PTSDがストレス反応であるとの視点からストレス系ホルモンについての研究がなされている。24時間血漿コルチゾール値で夜間と早朝のベースラインレベルがうつ病患者や健常対照群と比較して有意に低く、視床下部-下垂体-副腎皮質系機能(hypothalamic-pituitary-adrenal:HPA系)の調節異常が示唆されている。また、デキサメタゾン試験によるコルチゾール分泌の過剰抑制、リンパ球グルココルチコイド受容体の数の増加と感受性亢進と視床下部におけるコルチコトロピン放出因子の分泌亢進が示唆されている。  
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