「多発性硬化症」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0196157 吉良 潤一]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0196157 吉良 潤一]</font><br>
''九州大学 大学院医学研究院 神経内科学''<br>
''九州大学 大学院医学研究院 神経内科学''<br>
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年4月15日 原稿完成日:2014年2月21日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年4月15日 原稿完成日:2014年2月21日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446/ 漆谷 真](京都大学 大学院医学研究科)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446/ 漆谷 真](滋賀医科大学 医学部 神経内科)<br>
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== 検査所見 ==
== 検査所見 ==
===画像診断===
 MS病巣は[[核磁気共鳴画像]] (magnetic resonance imaging, [[MRI]])で最も鋭敏に検出される。頭部MRI画像では、[[側脳室]]周囲から大脳[[白質]]に垂直方向に伸びる卵円形の病巣(ovoid lesion)が比較的本症に特徴的とされる。大脳深部白質、皮質直下の白質、[[脳梁]]、脳幹、[[脊髄]]に病巣がみられることが多い。[[T2強調画像]]や[[FLAIR画像]]で高信号、[[T1強調画像]]で低信号に描出される。新しい病巣は、[[血液脳関門]]の破綻を反映して、[[ガドリニウム]]などの[[造影剤]]で造影される。脊髄病巣は2椎体を超えず白質主体に存在することが多い。
 MS病巣は[[核磁気共鳴画像]] (magnetic resonance imaging, [[MRI]])で最も鋭敏に検出される。頭部MRI画像では、[[側脳室]]周囲から大脳[[白質]]に垂直方向に伸びる卵円形の病巣(ovoid lesion)が比較的本症に特徴的とされる。大脳深部白質、皮質直下の白質、[[脳梁]]、脳幹、[[脊髄]]に病巣がみられることが多い。[[T2強調画像]]や[[FLAIR画像]]で高信号、[[T1強調画像]]で低信号に描出される。新しい病巣は、[[血液脳関門]]の破綻を反映して、[[ガドリニウム]]などの[[造影剤]]で造影される。脊髄病巣は2椎体を超えず白質主体に存在することが多い。


===電気生理学的検査===
 [[誘発電位検査]]は、当該伝導路に存在する潜在性病巣の検出に有用である。[[視覚誘発電位]](visual evoked potential)、[[体性感覚誘発電位]](somatosensory evoked potential)、[[聴性脳幹誘発反応]] (auditory brainstem evoked potential)などがある。[[錐体路]]病巣の検出には、磁気刺激装置を用いた[[運動誘発電位]](motor evoked potential)が用いられる。  
 [[誘発電位検査]]は、当該伝導路に存在する潜在性病巣の検出に有用である。[[視覚誘発電位]](visual evoked potential)、[[体性感覚誘発電位]](somatosensory evoked potential)、[[聴性脳幹誘発反応]] (auditory brainstem evoked potential)などがある。[[錐体路]]病巣の検出には、磁気刺激装置を用いた[[運動誘発電位]](motor evoked potential)が用いられる。  


 血液検査ではMSに特異的な所見は乏しく、主に[[wikipedia:ja:膠原病|膠原病]]などによる中枢神経病巣を鑑別診断するために各種[[wikipedia:ja:自己抗体|自己抗体]]を[[検索]]する。MSは[[wikipedia:ja:抗核抗体|抗核抗体]]が弱陽性になる例があるが、それ以外の特異的な自己抗体は検出されない。視神経と脊髄が選択的に侵される視神経脊髄炎では、[[アストロサイト]]の足突起に存在する[[水チャネル]]である[[aquaporin-4]]に対する自己抗体が約半数で検出される。[[髄液]]細胞数と総タンパク質量は、再発期には軽度の細胞増多([[wikipedia:ja:単核球|単核球]])と総タンパク質量増加がみられることがある。髄鞘の破壊を反映した[[髄鞘塩基性タンパク質]] ([[myelin basic protein]], MBP)の上昇、[[wikipedia:ja:IgG|IgG]] indexの上昇,髄液中の[[wikipedia:ja:オリゴクローナルIgGバンド|オリゴクローナルIgGバンド]]陽性などがみられることもある。オリゴクローナルIgGバンドは、欧米白人のMSの90%、日本人MSの約60%で陽性となり、比較的本症に特徴的といえる<ref name=ref3><pubmed>20494560</pubmed></ref><ref name=ref4><pubmed>21962794</pubmed></ref><ref name=ref6>'''吉良潤一'''<br>
===血液検査===
 MSに特異的な所見は乏しく、主に[[wikipedia:ja:膠原病|膠原病]]などによる中枢神経病巣を鑑別診断するために各種[[wikipedia:ja:自己抗体|自己抗体]]を[[検索]]する。MSは[[wikipedia:ja:抗核抗体|抗核抗体]]が弱陽性になる例があるが、それ以外の特異的な自己抗体は検出されない。視神経と脊髄が選択的に侵される視神経脊髄炎では、[[アストロサイト]]の足突起に存在する[[水チャネル]]である[[aquaporin-4]]に対する自己抗体が約半数で検出される。[[髄液]]細胞数と総タンパク質量は、再発期には軽度の細胞増多([[wikipedia:ja:単核球|単核球]])と総タンパク質量増加がみられることがある。髄鞘の破壊を反映した[[髄鞘塩基性タンパク質]] ([[myelin basic protein]], MBP)の上昇、[[wikipedia:ja:IgG|IgG]] indexの上昇,髄液中の[[wikipedia:ja:オリゴクローナルIgGバンド|オリゴクローナルIgGバンド]]陽性などがみられることもある。オリゴクローナルIgGバンドは、欧米白人のMSの90%、日本人MSの約60%で陽性となり、比較的本症に特徴的といえる<ref name=ref3><pubmed>20494560</pubmed></ref><ref name=ref4><pubmed>21962794</pubmed></ref><ref name=ref6>'''吉良潤一'''<br>
日本における多発性硬化症の臨床像・疾患観念の変遷.アクチュアル脳・神経疾患の臨床.最新アプローチ 多発性硬化症と視神経脊髄炎.<br>
日本における多発性硬化症の臨床像・疾患観念の変遷.アクチュアル脳・神経疾患の臨床.最新アプローチ 多発性硬化症と視神経脊髄炎.<br>
辻省次(総編集).吉良潤一(専門編集).中山書店 pp. 2-8, 2012.</ref><ref name=ref7>'''吉良潤一'''<br>自然経過からみた病型分類と予後.アクチュアル脳・神経疾患の臨床.最新アプローチ 多発性硬化症と視神経脊髄炎.<br>辻省次(総編集).吉良潤一(専門編集).中山書店 pp. 18-28, 2012.</ref>。  
辻省次(総編集).吉良潤一(専門編集).中山書店 pp. 2-8, 2012.</ref><ref name=ref7>'''吉良潤一'''<br>自然経過からみた病型分類と予後.アクチュアル脳・神経疾患の臨床.最新アプローチ 多発性硬化症と視神経脊髄炎.<br>辻省次(総編集).吉良潤一(専門編集).中山書店 pp. 18-28, 2012.</ref>。


== 治療 ==
== 治療 ==
 MSの治療は、急性期の短縮、再発・障害進行防止、対症療法が行われる。急性期の治療として最も一般的なものが副腎皮質ステロイド薬である。短期的な機能改善を促進する作用があるが、長期的な予後には影響がなく再発防止効果もないとされる。[[wikipedia:ja:ステロイドパルス療法|ステロイドパルス療法]]として、[[wikipedia:ja:メチルプレドニゾロン|メチルプレドニゾロン]]1000mg/日を3-5日間点滴静注することが多い。後療法として経口プレドニゾロンを漸減投与することが一般的である。ステロイド不応例や投与困難例については,[[wikipedia:ja:血漿交換|血漿交換]]療法が行われることもある。
 MSの治療は、急性期の短縮、再発・障害進行防止、対症療法が行われる。
 
===急性期===
 急性期の治療として最も一般的なものが副腎皮質ステロイド薬である。短期的な機能改善を促進する作用があるが、長期的な予後には影響がなく再発防止効果もないとされる。[[wikipedia:ja:ステロイドパルス療法|ステロイドパルス療法]]として、[[wikipedia:ja:メチルプレドニゾロン|メチルプレドニゾロン]]1000mg/日を3-5日間点滴静注することが多い。後療法として経口プレドニゾロンを漸減投与することが一般的である。ステロイド不応例や投与困難例については,[[wikipedia:ja:血漿交換|血漿交換]]療法が行われることもある。
===再発・障害進行防止===
 再発・障害進行防止には、病態修飾薬(disease-modifying drug)が用いられる。これには、インターフェロンβ (interferon β, IFNβ)が使用されることが多い。本薬は再発を30%程度減らす効果があり、20年以上使用しても重篤な副作用の出現は稀である。通常、再発寛解型MSまたは二次性進行型MSで再発が重畳している場合やMRIで造影病巣が認められる場合に、IFNβ-1bを800万単位隔日皮下注、 またはIFNβ-1aを30μg週1回筋注する。病初期から慢性進行性の経過をとる一次性進行型MSでは、障害の進行を防止する効果は証明されていない。2011年より我が国でも経口の再発・障害進行防止治療薬としてフィンゴリモドが使用可能となっている。経口内服薬であるため治療コンプライアンスの面ではIFNβより有用であるが、長期使用に関するエビデンスは必ずしも十分に蓄積されてはいない。
 再発・障害進行防止には、病態修飾薬(disease-modifying drug)が用いられる。これには、インターフェロンβ (interferon β, IFNβ)が使用されることが多い。本薬は再発を30%程度減らす効果があり、20年以上使用しても重篤な副作用の出現は稀である。通常、再発寛解型MSまたは二次性進行型MSで再発が重畳している場合やMRIで造影病巣が認められる場合に、IFNβ-1bを800万単位隔日皮下注、 またはIFNβ-1aを30μg週1回筋注する。病初期から慢性進行性の経過をとる一次性進行型MSでは、障害の進行を防止する効果は証明されていない。2011年より我が国でも経口の再発・障害進行防止治療薬としてフィンゴリモドが使用可能となっている。経口内服薬であるため治療コンプライアンスの面ではIFNβより有用であるが、長期使用に関するエビデンスは必ずしも十分に蓄積されてはいない。


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