「多系統萎縮症」の版間の差分

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== 診断 ==
== 診断 ==
 診断には、1999年に発表されたGilmanらによるconsensus statementが広く用いられてきた。これによると、多系統萎縮症は診断の確かさによりdefinite、probable、possibleの3群に分類され、さらにオリーブ橋小脳萎縮症も線条体黒質変性症もいずれは自律神経症状を合併することからShy-Drager症候群を除外して、小脳症状と自律神経障害を呈して従来のオリーブ橋小脳萎縮症に相当する多系統萎縮症をMSA-C、[[パーキンソン症]]状と自律神経障害を呈して従来の線条体黒質変性症に相当する多系統萎縮症をMSA-Pとして、多系統萎縮症を臨床的に2分した。2008年には、改訂版が発表され、probableとpossibleの主な分岐点は、自律神経症状の程度により規定された。排尿障害では[[尿失禁]]、男性では[[勃起障害]]が重視され、起立性低血圧では、起立後3分以内に収縮期血圧が30 mmHg以上,あるいは拡張期血圧が15 mmHg以上低下する場合をprobableとする基準値が定められた(表1)。
 診断には、1999年に発表されたGilmanらによるconsensus statementが広く用いられてきた<ref name=Gilman />。これによると、多系統萎縮症は診断の確かさによりdefinite、probable、possibleの3群に分類され、さらにオリーブ橋小脳萎縮症も線条体黒質変性症もいずれは自律神経症状を合併することからShy-Drager症候群を除外して、小脳症状と自律神経障害を呈して従来のオリーブ橋小脳萎縮症に相当する多系統萎縮症をMSA-C、[[パーキンソン症]]状と自律神経障害を呈して従来の線条体黒質変性症に相当する多系統萎縮症をMSA-Pとして、多系統萎縮症を臨床的に2分した。2008年には、改訂版が発表され、probableとpossibleの主な分岐点は、自律神経症状の程度により規定された。排尿障害では[[尿失禁]]、男性では[[勃起障害]]が重視され、起立性低血圧では、起立後3分以内に収縮期血圧が30 mmHg以上,あるいは拡張期血圧が15 mmHg以上低下する場合をprobableとする基準値が定められた(表1)。


 これに対してわが国では、[[MSA-A]]としてShy-Drager症候群を残そうとする立場もある。新潟大学脳研究所で、病理学的に診断が確定された多系統萎縮症の臨床像を検討すると、MCA-C、MSA-Pのいずれも22%は、初発症状が自律神経障害であった。Shy-Drager症候群とされてきた症例は、早期から著明な自律神経障害で発症し、次第に小脳性運動失調やパーキンソン症状を伴うが、Shy-Drager症候群に特異的な自律神経障害は指摘できない。また「premotor MSA」(発症早期に自律神経障害が前景に立ち、他の系統変性による症候がまだ目立たない段階で、たまたま病理学的[[検索]]が行われた症例)では、オリーブ橋小脳系と線条体黒質系の変性は軽微であるのに対し、脳幹の自律神経諸核には既にglial cytoplasmic inclusionを認めている。また、Shy-Drager症候群と[[進行性自律神経機能不全症]](progressive autonomic failure:PAF)との鑑別も、初期には困難である。こうした知見を総合すると、Shy-Drager症候群を独立した疾患とすることは現時点では難しいと考えられる。
 これに対してわが国では、[[MSA-A]]としてShy-Drager症候群を残そうとする立場もある。新潟大学脳研究所で、病理学的に診断が確定された多系統萎縮症の臨床像を検討すると、MCA-C、MSA-Pのいずれも22%は、初発症状が自律神経障害であった。Shy-Drager症候群とされてきた症例は、早期から著明な自律神経障害で発症し、次第に小脳性運動失調やパーキンソン症状を伴うが、Shy-Drager症候群に特異的な自律神経障害は指摘できない。また「premotor MSA」(発症早期に自律神経障害が前景に立ち、他の系統変性による症候がまだ目立たない段階で、たまたま病理学的[[検索]]が行われた症例)では、オリーブ橋小脳系と線条体黒質系の変性は軽微であるのに対し、脳幹の自律神経諸核には既にglial cytoplasmic inclusionを認めている。また、Shy-Drager症候群と[[進行性自律神経機能不全症]](progressive autonomic failure:PAF)との鑑別も、初期には困難である。こうした知見を総合すると、Shy-Drager症候群を独立した疾患とすることは現時点では難しいと考えられる。


 MSA-CとMSA-Pの頻度には、著明な人種差がある。わが国ではMSA-Cが全体の7、8割、MSA-Pが2、3割を占めるが、欧米ではこの頻度が逆転している。MSA-CとMSA-Pは臨床診断であるが、病理学的に診断が確定されたdefinite 多系統萎縮症についても、Wenningらが検討した欧州ではMSA-Pが8割を占め、一方、新潟大学の多系統萎縮症連続剖検例では、MSA-Cが3分の2を占めた。
 MSA-CとMSA-Pの頻度には、著明な人種差がある。わが国ではMSA-Cが全体の7、8割、MSA-Pが2、3割を占めるが、欧米ではこの頻度が逆転している。MSA-CとMSA-Pは臨床診断であるが、病理学的に診断が確定されたdefinite 多系統萎縮症についても、Wenningらが検討した欧州ではMSA-Pが8割を占め<ref name=Wenning><pubmed> 12773886 </pubmed></ref>、一方、新潟大学の多系統萎縮症連続剖検例では、MSA-Cが3分の2を占めた。


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|+ 表1.多系統萎縮症診断基準改訂版<ref><pubmed>18725592</pubmed></ref>
|+ 表1.多系統萎縮症診断基準改訂版<ref name=Gilman><pubmed>18725592</pubmed></ref>
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|'''従来通り、definite, probable, possibleに分類し、さらにMSA-PとMSA-Cに分類する。'''
|'''従来通り、definite, probable, possibleに分類し、さらにMSA-PとMSA-Cに分類する。'''