「大脳皮質」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0168034 蔵田 潔]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0168034 蔵田 潔]</font><br>
''弘前大学 大学院医学研究科 統合機能生理学講座''<br>
''弘前大学 大学院医学研究科 統合機能生理学講座''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年12月6日 原稿完成日:2013年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年12月6日 原稿完成日:2015年月日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noritakaichinohe 一戸 紀孝](国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noritakaichinohe 一戸 紀孝](国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)<br>
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 連合野の機能局在は大別して[[感覚]]・[[運動]]・[[記憶]]・[[意思決定]]などさまざまな機能があり、個別にはそれぞれの項を参照されたい。ここでは、大脳皮質の機能局在とそれにもとづく脳の動作原理について概説する。大脳皮質では基本的に同じ構造有しながら、部分ごとに独自の機能があること、すなわち機能局在があることである。しかし、ひとつの脳の中に多数の機能局在があっても、それらがばらばらに働くのではなく、一個体の脳として統率がとれるよう、脳の機能が連関しているものと考えられる。脳が全体として機能するため、ふたつの基本原理があると考えられる。ひとつは、機能局在を有し機能的関連性を有する領域間に[[階層構造]](ヒエラルヒー)があること、もうひとつは[[並列分散処理]]である。
 連合野の機能局在は大別して[[感覚]]・[[運動]]・[[記憶]]・[[意思決定]]などさまざまな機能があり、個別にはそれぞれの項を参照されたい。ここでは、大脳皮質の機能局在とそれにもとづく脳の動作原理について概説する。大脳皮質では基本的に同じ構造有しながら、部分ごとに独自の機能があること、すなわち機能局在があることである。しかし、ひとつの脳の中に多数の機能局在があっても、それらがばらばらに働くのではなく、一個体の脳として統率がとれるよう、脳の機能が連関しているものと考えられる。脳が全体として機能するため、ふたつの基本原理があると考えられる。ひとつは、機能局在を有し機能的関連性を有する領域間に[[階層構造]](ヒエラルヒー)があること、もうひとつは[[並列分散処理]]である。


 例えば「赤いりんごが落ちる」という情景を目にした時、脳はその機能局在により「赤い」という色認識、「りんご」という物体認知、そして「落ちる」という視覚運動情報処理を、それぞれ脳の異なる機能局在を有するさまざまな領域でほぼ同時に行なっている。大脳皮質一次感覚野では感覚入力の[[特徴抽出]]などすでに相当の情報処理が行われているが、それらの情報は一般には隣接する大脳皮質領域に投射され、その領域ではより広範な入力を統合するなどしてさらなる特徴抽出が行われている。このように、それぞれの感覚には一次感覚野と、そこから順に投射を受け、より高度な情報処理が行われる二次、三次、さらにそれ以降の多数の感覚野が大脳皮質に存在しており、それぞれが機能特異性を有している。またより高次の感覚野では複数の感覚が統合され「連合野」と呼ばれるゆえんである。下位から上位への階層構造は脳内に複数存在しており、それらが同時並列的に機能することにより、複雑な情報を短時間で処理することが可能になっている。このことは、例えば宇宙飛行士が月面で興味深い月の石をサンプルとして拾い上げるといった行動に有効に機能していると考えられる。同じ機能を再現しようとすると巨大なスーパーコンピューターが必要かもしれない。
 例えば「赤いりんごが落ちる」という情景を目にした時、脳はその機能局在により「赤い」という色認識、「りんご」という物体認知、そして「落ちる」という視覚運動情報処理を、それぞれ脳の異なる機能局在を有するさまざまな領域でほぼ同時に行なっている。大脳皮質一次感覚野では感覚入力の[[特徴抽出]]などすでに相当の情報処理が行われているが、それらの情報は一般には隣接する大脳皮質領域に投射され、その領域ではより広範な入力を統合するなどしてさらなる特徴抽出が行われている。このように、それぞれの感覚には一次感覚野と、そこから順に投射を受け、より高度な情報処理が行われる二次、三次、さらにそれ以降の多数の感覚野が大脳皮質に存在しており、それぞれが機能特異性を有している。またより高次の感覚野では複数の感覚が統合され「連合野」と呼ばれる。下位から上位への階層構造は脳内に複数存在しており、それらが同時並列的に機能することにより、複雑な情報を短時間で処理することが可能になっている。このことは、例えば宇宙飛行士が月面で興味深い月の石をサンプルとして拾い上げるといった行動に有効に機能していると考えられる。同じ機能を再現しようとすると巨大なスーパーコンピューターが必要かもしれない。