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DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年10月4日 原稿完成日:2016年月日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](滋賀医科大学 医学部 内科学講座 神経内科)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](滋賀医科大学 医学部 内科学講座 神経内科)<br>
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 機能画像研究として[[PET]]、fMRIが研究に利用できるようになった[3]。健常者にさまざまな高次脳機能課題を課し、課題による効果を統計的に解析し、有意差から抽出される脳部位を検証することで脳の機能解剖を確立しようとする方法である。「脳の不思議」を、知的好奇心から探求する方法論としても利用される。賦活研究においては、どのような課題を課するかが要点となる。高次脳機能障害として確立されてきた課題が用いられることもあるが、心理学的・認知神経学的の立場から提出されてきた処理モデルに則り、仮説検証的課題を負荷することでも検討されている。機能障害からの知見と健常者研究方の結果の対照を考えるとき、両者がきれいに重ならないことも多い[4]。この乖離を統合する研究成果も期待されている。
 機能画像研究として[[PET]]、fMRIが研究に利用できるようになった[3]。健常者にさまざまな高次脳機能課題を課し、課題による効果を統計的に解析し、有意差から抽出される脳部位を検証することで脳の機能解剖を確立しようとする方法である。「脳の不思議」を、知的好奇心から探求する方法論としても利用される。賦活研究においては、どのような課題を課するかが要点となる。高次脳機能障害として確立されてきた課題が用いられることもあるが、心理学的・認知神経学的の立場から提出されてきた処理モデルに則り、仮説検証的課題を負荷することでも検討されている。機能障害からの知見と健常者研究方の結果の対照を考えるとき、両者がきれいに重ならないことも多い[4]。この乖離を統合する研究成果も期待されている。


=== [[動物]]実験 ===
=== 動物実験 ===
 動物では[[ヒト]]のようには高次脳機能が発達を遂げておらず、高次脳機能においては、ヒトとはギャップがある。しかし、ヒトと共通する基盤を想定できる高次脳機能に関し、動物から推測するという立場は妥当であろうし、その可能性と限界を明確に了解する限りは興味深い知見が見いだせる実験系であろう。
 動物では[[ヒト]]のようには高次脳機能が発達を遂げておらず、高次脳機能においては、ヒトとはギャップがある。しかし、ヒトと共通する基盤を想定できる高次脳機能に関し、動物から推測するという立場は妥当であろうし、その可能性と限界を明確に了解する限りは興味深い知見が見いだせる実験系であろう。



2016年10月8日 (土) 00:02時点における版

高山 吉弘
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DOI:10.14931/bsd.7304 原稿受付日:2016年10月4日 原稿完成日:2016年月日
担当編集委員:漆谷 真(滋賀医科大学 医学部 内科学講座 神経内科)

失認とは

 「失認」とよばれる症候はいくつもあるが、その主なものは、「ある感覚を介して対象物を認知することの障害」と定義される失認であろう[1]。ある感覚、例えば視覚で述べれば、視覚的に対象を認知できないが、視覚そのもの要素的な異常や、知能低下、意識障害などに対象認知障害の原因を求めることができない症候である。視覚・聴覚・触覚などの感覚様式で視覚失認・聴覚失認・触覚失認という臨床型が報告されてきた。一方、神経心理学・高次脳機能障害学のテキストを開くと、失認という用語が付いている症候はたくさんある。認識・認知を失ったのが「失認」とされるので、指や身体の認識・認知を失ったものは手指失認・身体失認である。病態を認識できないものは病態失認である。つまり、現象的に何かを「認識・認知」することを失う時にも、「失認」と命名されている。

失認をめぐる研究手法の枠組みについて

機能障害から検討する手法

 脳損傷例から脳障害の症候を検討する方法が高次脳機能障害を考える基本的な手法である。症例研究である。症候を分析し、その症状の発現メカニズムを検討する。また、最近の手法の進展で、健常者に対し、例えば経頭蓋的に磁気刺激を与えることで瞬時の脳機能低下を誘発させることも行われている。患者の脳動脈に麻酔薬を注入し一時的に脳の機能を低下させることで脳機能を検討するアミタールテストや、てんかん患者への電極植え込み後の覚醒下電気刺激法、覚醒開頭下の機能的脳外科における局所的脳機能確認といった手法[2]も機能低下・機能障害から症候を解析する研究手法といえる。

正常脳機能解明から

 機能画像研究としてPET、fMRIが研究に利用できるようになった[3]。健常者にさまざまな高次脳機能課題を課し、課題による効果を統計的に解析し、有意差から抽出される脳部位を検証することで脳の機能解剖を確立しようとする方法である。「脳の不思議」を、知的好奇心から探求する方法論としても利用される。賦活研究においては、どのような課題を課するかが要点となる。高次脳機能障害として確立されてきた課題が用いられることもあるが、心理学的・認知神経学的の立場から提出されてきた処理モデルに則り、仮説検証的課題を負荷することでも検討されている。機能障害からの知見と健常者研究方の結果の対照を考えるとき、両者がきれいに重ならないことも多い[4]。この乖離を統合する研究成果も期待されている。

動物実験

 動物ではヒトのようには高次脳機能が発達を遂げておらず、高次脳機能においては、ヒトとはギャップがある。しかし、ヒトと共通する基盤を想定できる高次脳機能に関し、動物から推測するという立場は妥当であろうし、その可能性と限界を明確に了解する限りは興味深い知見が見いだせる実験系であろう。

視覚関連の失認[5] [6]

 物をつまんだり、障害物を避けることができるため、「見えている」と考えられるにも関わらず、物を見てもそれが何かがわからない、でも、触れたり、それが発する音を聞くと何かがわかるという、奇妙な視覚関連の症候を示す患者がいる。視覚からは何かわからなかったのに、視覚以外の感覚情報(例えば聴覚情報)からは何であるかがわかり、わかってしまえばそれを使うことができる方である。こういった症候が視覚失認と言われる。視覚に関連した失認として他には、相貌失認地誌的見当識障害なども述べられてきた。視覚関連の失認は後大脳動脈の支配領域と関連の深いことが明らかとなっている[7]。

視覚失認[8] [9]

統覚型視覚失認[10]

 視覚認知には、要素的視覚情報(光の強弱、対象の大小、運動の方向など)を形態に統覚する必要があると考えられてきた。そして、その統覚レベルでの障害されるため視覚失認を呈するのが統覚型視覚失認である。両側有線野を含む後頭葉損傷例や、両側有線野は保たれるがその周辺が大きく損傷された症例が報告されている。しかし、実際の症例報告では、この要素的知覚の正常さを完全に証明できているとは言いがたい[11]。

連合型視覚失認[12]

 要素的知覚もその統覚(知覚表象)も正常であるが、視覚的に対象が何かわからない病態を示す症例が報告されている。つまり、意味を奪われた正常な知覚表象と説明される。他の感覚モダリティを介するときには正常に物を認識できることより「意味のシステム」自体は正常に維持されていると判断される。この「意味のシステム」とは、過去の経験を貯蔵する系と理解することが可能である。正常な視覚系と対象についての過去の経験を貯蔵する系との連合障害として、正常な知覚表象が確保されているにも関わらず視覚的認知ができなくなると考察された。

 左半球の一次視覚野、脳梁膨大、右半球の下縦束の損傷例の報告があり、視覚連合野から下縦束を介して海馬に至る経路が両側性に断たれたため(左半球では一次視覚野の損傷のため、右半球では下縦束の損傷のため)に生じたとしている。両側下縦束の損傷例の報告もある。

統合型視覚失認[13] [14]

 連合型視覚失認の診断のため、知覚表象が正常であることを、課題を達成する時間要因などを加味して詳細に検討すると、実は「知覚表象は完全には正常ではない」ことが明らかになることがある。つまり、統覚型視覚失認と連合型視覚失認の典型例の間に「移行型」がありえることが明らかになり、統合型視覚失認と診断される。では、どのように操作的に診断するかであるが、格子で干渉をされた図形(網掛け線画)の模写を用いる課題が考案され、統合型視覚失認では、この課題が困難である。統覚型知覚失認・統合型知覚失認・連合型視覚失認は視覚失認の最近の分類方法である。これらは、一連の視覚関連の物品認知障害がスペクトラム的にとらえることが妥当であることを示している。

その他の視覚的な物品認知障害

 上記以外にもいろいろな状況で視覚的な物品認知は低下するが、それらも視覚失認の範疇で論じられている。幾つかを挙げる。

視点による物品認知の障害:変換型失認・Transformation agnosia

 ヒトは、ある物品を見る時、普通にそれを見る向き・角度がある。たまたま、ひっくり返されていても、推測し、過去の経験に照らし合わせることで何かを理解する。しかし、それが困難になる症例をWarringtonらは報告している[15]。

視覚認知におけるカテゴリー化機能の障害

 言語優位側の一側性の損傷で連合型視覚失認が生ずるとの報告が蓄積してきた。これらでは視覚的カテゴリー化の障害がみられると考察されている。

意味型失認:semantic agnosia

 連合型視覚失認では認知された形に意味をもたすことができない。「意味」は脳内で保たれているが、それは他のモダリティからは「意味」にアクセスができることで証明される。しかし、意味自体を失えば、形に意味を持たせることが元来できない。意味型失認と分類される。物品や語彙自身の意味を喪失したために物品認知のできないもので、両側の側頭葉₋辺縁系の損傷で生ずるとされる。視覚以外の感覚様式でも物品認知は困難になり、視覚失認の概念からは逸脱していく[16]。

同時失認による視覚認知障害[17]

 複数の形態を同時に認知できなければ、全体を把握することができない。複雑な情景画などでその個々の部分は理解できるが、全体が何を表しているか理解できない症候である。部分ごとの視知覚は正常だが、その部分と部分の互いの関係を把握できず、結果として全体の意味が分からないものである。同時失認の報告例は、「全体把握の能力の障害」としてとらえられてきた。しかし、一連の視覚刺激に視空間性の注意を維持しつづけることの障害であるととらえ、注意障害であるとの仮説も述べられてきた。損傷部位として、左後頭葉前方部あるいは後頭側頭葉損傷、もしくは両側後頭葉外側部損傷が報告されている。

メカニズム

 視覚失認のメカニズムの考察では、視覚認知が段階的なステップを経て認識されるという神経心理学的仮説が述べられてきた。要素的知覚があり、形の統覚があり、意味との連合がなされるというものである。そして、視覚の記憶痕跡の活性化により、視覚認知が確立するという仮説である。一方、Damasio[18]は視覚認知が神経ネットワークの活動のパターンで表現され、特別な記憶痕跡が活性化されるものではないと主張している。

機能画像研究より

 賦活研究で、形の刺激に特別に反応する部位として両側の側後頭複合体部が注目されている。しかしこの部を損傷研究と照合しようとしても、この部の両側性損傷は実際の症例では起こりにくく、照合は困難である。

相貌失認[19]

 人の顔を認知することの障害であるが、狭義と広義の相貌失認が記述されてきた。狭義の相貌失認は、熟知した人物を相貌によって認知する能力の障害である。しかし、声を聞くとわかる。一方、熟知相貌の認知障害がなくとも、未知相貌の学習・弁別、表情認知、性別・年齢・人種などの判定、美醜の区別などにいくつかに障害がある病態が広義の相貌失認と診断される。「一般的な物体失認の変則型」、「健忘症候群の顔貌限定型」、「クラス内での個々の判別障害で顔に特異的なものではない」などといった仮説があるも、「顔貌の認知は特異な系がつかさどっておりその処理システムの障害」が相貌失認であるとの説が受け入れられている。剖検例は両側側がほとんどであるが、右半球後頭葉内側面(紡錘状回、舌状回)が重視されている[20]。一側性では広義の相貌失認は起こるが、軽度で一過性のことが多い。両側性では症状が多彩で重度かつ持続性である。

 賦活研究の顔に関するものはかなり蓄積されてきた。基本的には顔を提示して特異的に反応する部位を抽出するわけであるが、顔の異同弁別課題、顔の向きへの反応課題、倒立顔画像の提示課題など、さまざまな課題が考案されている。顔の認知が、顔の部分の処理過程と顔の全体の処理過程によりなされているであろうことより、課題が考案されている。紡錘状回顔領域(fusiform face area)[21]、後頭顔領域(occipital face area)[22]が注目されている。左右差があり、右半球に賦活が強いと報告されている。これらの領域が顔認知のネットワークを形成し、処理していると考察されている。

地誌的見当識障害

 認知症の方が道に迷ってしまい、家に帰れないことがある。これは全般的な知的機能の低下からと説明される。また、半側空間無視があっても道に迷ってしまうことがあろうが、その際は、半側空間無視による地誌的情報の処理障害による迷いと説明できる。これらは二次的に生じた症候であるが、しかし、道に迷ってしまう原因となる一次的な要因がないにも関わらず、慣れた道で迷ってしまうとすれば、「道に迷ってしまう」という特別な症候が存在することになる。そして、実際に、他の症候から二次的に発生したとは考えにくく、地誌的な情報の処理が特別に強く障害されている症例が報告されてきた。本邦の高橋[23]がこの症候につき解析を深めた。症候を分類し、熟知しているはずの街並をみても何の建物かどこの風景かわからない街並失認と、一度に見通せない比較的広い範囲内において自己や他の地点の空間的位置を定位することが困難である道順障害に分けている。責任病巣として、街並失認例では海馬傍回後部、舌状回前部とこれに隣接する紡錘状回損傷が、道順障害は脳梁膨大後域から頭頂葉内側部にかけての損傷が重視されている。

 風景によって賦活される脳部位として、海馬傍回後部から舌状回前部の紡錘状回場所領域と、脳梁膨大後皮質と後帯状皮質が報告されている。地誌的見当識障害の損傷部位と重なり、これらの部位が地誌的見当識と関連することを支持する報告である。[24] [25]

聴覚関連の失認[26]

 聴力は保たれており聞こえているはずなのに、音を聞いても何かわからないが、見たり触ったりすると何かがわかるのが聴覚失認である。環境音、言語、音楽などの聴覚刺激での「失認」症候が報告されてきたが、これらの症例研究より聴覚刺激の脳機能処理過程を検討することがなされてきた。

聴覚失認(auditory agnosia)

 狭義には言語・音楽を除く有意味な聴覚刺激の認知障害である。この意味で聴覚失認の用語を使用するときには、言語性聴覚刺激の認知障害を純粋語聾(pure word deafness)という。広義には、言語性、非言語性を含めた有意味な聴覚刺激の認知障害である。狭義の聴覚失認と純粋語聾が独立して存在することにより、聴入力は言語性、非言語性が別途に処理されるとの説が受け入れられているが、広義の聴覚失認から狭義の聴覚失認への移行例の報告もあり、高次の聴覚認知障害は、スペクトラムを示すとの説も提出されている。

純粋語聾(pure word deafness)

 言語刺激に限定された聴覚認知障害である。ウェルニッケ領が聴力入力から両側性に離断されたものとの説が強い。時間分解能の障害との考察もあるが、それのみでは説明できないとの報告もある。通常は両側性病変でヘシュル回を幾分残し、両側の上側頭回の前方の皮質・皮質下の病巣で出現の報告がある。一側性でも言語優位側の側頭葉皮質下病変で出現するともされる。一次聴覚皮質の両側性の病変で、純粋語聾が生じたが狭義の聴覚失認は生じなかった症例より、言語には一次聴皮質が必要で、非言語性は聴覚連合野が重要との報告がある。

狭義の聴覚失認

 非言語性有意味の聴覚認知障害であり、言語音認知は正常である。右視床・頭頂葉損傷例や右側頭・頭頂・後頭接合部の損傷例が述べられている。右の上・中側頭回の後方に位置する一側性の小出血例の報告もある。右半球が非言語性有意味音の認知に優位とされ、その損傷により生ずると考察されている。また。言語性・非言語性両方の聴覚刺激認知障害は両側性の皮質下病変例で散見される。

身体部位に関連して失認の用語が付されている症候

 何かを認知できないことを指して、「失・認知」つまり「失認」の用語が使われる。身体部位の認知や手指認知、左右認知に困難をきたす症例の報告が蓄積されてきた。それぞれ、身体部位失認、手指失認、左右失認と記述されている。

ゲルストマン症候群に含まれる手指失認と左右失認[27]

 ゲルストマン症候群とは、手指失認・左右失認・計算障害・失書を示すものであり、二つの「失認」が構成要素となっている。これらの4つの症候が共通する基盤をもつため症候群として出現するとしたのがゲルストマン[28]である。ゲルストマンは指の個別性の識別能力が左右弁別、計算能力、書字能力成立の共通の基盤であると考え、その障害が基本障害であるとした。しかしゲルストマン症候群の臨床的独立性の意義を問うPoeckら[29]は、何らかの特異な基本障害があるのではなく、失語症がゲルストマン症候群をおこすのであろうとしている。しかし、それぞれの症候の純粋例の報告またみられている。

 手指失認とは、個々の指を手で掴んだり、呈示したり、前に出したり、名称を言うように指示されてもできない手指の指示障害、手指の呼称障害などがあるときに下される症候名である。この症候を説明する概念が、身体図式・身体イメージである。身体図式は、再帰的な意識、自覚を必要とせずに、身体運動を意識下で調整している主体であるとされる。一方、身体イメージとは、顕在的な自己身体に関する知識を指す。身体イメージが障害され、身体図式が保たれるというパターンを示した手指失認の純粋例をAnemaらが報告している[30]。

 左右障害では、患者および検者の右側および左側に対する左右位置づけ障害を、交叉二重命令・交叉性単純命令障害・同側性二重命令・同側性単純命令などで検査されてきた。

身体部位失認

 身体部位失認は、

  1. 命令に従って、身体部位を指し示すことができず、迷い、誤り、身体 外空間を探ったりする。
  2. しかし、個々の身体の部分に関する知識の障害ではない。
  3. 検者が身体の部分を指し示したら呼称できることより失語によるものでもない。
  4. 一般的な空間的能力は比較的保たれている、

という特徴を持っている[31]。 De Renzらは[32]、身体部位失認の患者が、身体部位ばかりではなく、自転車の部品の指示に関しても同様の障害を有することを示し、全体から部分を抽出する能力の障害を考えている。しかし、Siriguらの症例[33]では身体部位の同定のみが著明に障害されており、身体部位失認が独立して存在することを支持する報告である。一般的には、身体部位失認は、失語や知能障害などに二次的症候とする説が受け入れられているが、感覚運動・視空間・語義などの多数のレベルの表象が関係する身体意識の統合が障害されるとの考察もある。病巣は、左半球後半、頭頂・後頭・側頭葉領域が重視されている。

触覚失認(tactile agnosia)[34] [35]

 基本的感覚(触覚、痛覚、温度覚、深部知覚など)に障害がなく、素材もわかるが、触ることでは物品を認知できない病態である。病巣と反対側の手にみられることが多いが、両側性の報告もある。また、立体覚障害(astereognosis)は基本的感覚(触覚、痛覚、温度覚、深部知覚など)に障害がないにもかかわらず、手のなかに与えられた素材がわからない病態であり、これは痛覚失認の統覚型ともみることができる。左下頭頂小頭の限局性損傷例や、左角回と右頭頂、側頭、後頭葉の損傷例がある。感覚連合野の損傷で触覚失認が生じるとも報告されている。感覚連合野が下側頭葉と断離されたために生じたと考察されている。

病態失認

 脳損傷では、種々の行動・認知障害が生じ、日常生活が明らかに制限されたり、誰の目にも明らかな障害が出現することも多い。そういった他者からみて明確な症状があるにも関わらず、患者自身はその障害に気付いていなかったり、その障害を軽く見積っていたりすることがある。このような 症候に対し病態失認、病態否認、疾病無認知などの用語が用いられている。

片麻痺の無認知

 患者は麻痺について何も知らない様に、また麻痺が存在しないかのように振舞う。「手足は動きますか?」等と問いかけると、「両方ともちゃんと動きます」、「今は 動かしたくないので・・・」、等と答える。「動かしてみせて下さい」との求めに、いいほうの手足を動かして「はい、動きました」とか、動いていないのにちゃんと動かした様な表情をしたりもする。片麻痺の無認知は右半球損傷・左片麻痺で起こりやすい。運動麻痺の程度と麻痺の無認知の程度は必ずしも並行しない。麻痺の無認知の例では深部知覚障害がみられることがほとんどである。片麻痺の無認知は非優位側縁上回もしくは視床ー頭頂葉連絡線維の損傷で生じる可能性が指摘されている。急性期に見られることが多く、心的防御によるとの説明もある[36]。また、運動意図が発動されたにも関わらず、麻痺によって運動が引き起こされなかった状況があれば、運動意図だけで運動をおこなったと認知をするが、しかし実際には動いていないという片麻痺の病態失認が発生するとの仮説もある[37]。病態失認の重症度と関連の強い症候を検討したVocatらの研究[38]では、固有知覚の低下、失見当識、半側空間無視を抽出しており、これらが複合的に関連することで症候が出現すると考察されている。

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