「小胞GABAトランスポーター」の版間の差分

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== 分子クローニングと構造 ==
== 分子クローニングと構造 ==
 行動異常(uncordinate)を呈する幾つかの[[線虫]]の変異体のうち、unc-47はGABAニューロンの[[シナプス終末]]における機能破綻が示唆されていた<ref name=ref1><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref2><pubmed></pubmed></ref>。1998年にUNC-47遺伝子の[[哺乳類]]相同遺伝子がクローニングされ、遺伝子産物が[[抑制性シナプス]]終末に存在し[[シナプス小胞]]へのGABA充填に関わることが示され、小胞GABAトランスポーターと名付けられた<ref name=ref3><pubmed></pubmed></ref>。また、UNC-47遺伝子は末梢神経系の主な抑制性神経伝達物質である[[グリシン]]も輸送することから、小胞型抑制性神経伝達物質トランスポーター(VIAAT)とも呼ばれる<ref name=ref4><pubmed></pubmed></ref>。SLC32ファミリーに属し、SCL32A1と呼ばれるが、現在までに同じファミリーに属する相同遺伝子が同定されていない<ref name=ref5><pubmed></pubmed></ref>。また、C末端側の配列が異なるスプライシング・バリアントの存在が知られている<ref name=ref6><pubmed></pubmed></ref>。タンパク質の一次構造から、VGAT/VIAATは約500個余りのアミノ酸からなり、N末端が細胞質側、C末端が小胞内腔にある9回膜貫通型タンパク質であることが示唆されている<ref name=ref7><pubmed></pubmed></ref>。脳のサンプルのウェスタンブロットでは、55KDaと45KDa付近に二本の主要なバンドとして観察されるが、これらはリン酸化による修飾の違いである<ref name=ref8><pubmed></pubmed></ref>。リン酸化部位の特定はされていない。スプライシング・バリアントやリン酸化の違いによる機能の差異は不明である。
 行動異常(uncordinate)を呈する幾つかの[[線虫]]の変異体のうち、unc-47はGABAニューロンの[[シナプス終末]]における機能破綻が示唆されていた<ref name=ref1><pubmed>8332190</pubmed></ref> <ref name=ref2><pubmed>8332191</pubmed></ref>。1998年にUNC-47遺伝子の[[哺乳類]]相同遺伝子がクローニングされ、遺伝子産物が[[抑制性シナプス]]終末に存在し[[シナプス小胞]]へのGABA充填に関わることが示され、小胞GABAトランスポーターと名付けられた<ref name=ref3><pubmed>9349821</pubmed></ref>。また、UNC-47遺伝子は末梢神経系の主な抑制性神経伝達物質である[[グリシン]]も輸送することから、小胞型抑制性神経伝達物質トランスポーター(VIAAT)とも呼ばれる<ref name=ref4><pubmed>9395291</pubmed></ref>。SLC32ファミリーに属し、SCL32A1と呼ばれるが、現在までに同じファミリーに属する相同遺伝子が同定されていない<ref name=ref5><pubmed>12750892</pubmed></ref>。また、C末端側の配列が異なるスプライシング・バリアントの存在が知られている<ref name=ref6><pubmed>12573541</pubmed></ref>。タンパク質の一次構造から、VGAT/VIAATは約500個余りのアミノ酸からなり、N末端が細胞質側、C末端が小胞内腔にある9回膜貫通型タンパク質であることが示唆されている<ref name=ref7><pubmed>19052203</pubmed></ref>。脳のサンプルのウェスタンブロットでは、55KDaと45KDa付近に二本の主要なバンドとして観察されるが、これらはリン酸化による修飾の違いである<ref name=ref8><pubmed>10987847</pubmed></ref>。リン酸化部位の特定はされていない。スプライシング・バリアントやリン酸化の違いによる機能の差異は不明である。


== 発現分布 ==
== 発現分布 ==
 中枢神経系及び末梢神経系のGABAニューロンとグリシンニューロンの[[神経終末]]に局在する<ref name=ref9><pubmed></pubmed></ref>。GABA合成酵素であるGAD (glutamic acid decarboxylase)よりも神経終末に局在するので、抑制性[[シナプス]]終末の分子マーカーとして免疫組織科学的な同定によく用いられている。また、VGATのC末端側が小胞内腔にあることを利用して、C末端を認識する抗体を培養細胞や生体脳に暴露させることで、GABAシナプス終末を特異的に蛍光標識する技術も開発されている<ref name=ref7 />。更に、神経系以外でも下垂体[[分泌]]細胞、松果体や膵臓のグルカゴン分泌細胞などでもVGAT/VIAATの発現が確認されているが、生理機能は明らかではない<ref name=ref10><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref12><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref14><pubmed></pubmed></ref>。
 中枢神経系及び末梢神経系のGABAニューロンとグリシンニューロンの[[神経終末]]に局在する<ref name=ref9><pubmed>   9822734</pubmed></ref>。GABA合成酵素であるGAD (glutamic acid decarboxylase)よりも神経終末に局在するので、抑制性[[シナプス]]終末の分子マーカーとして免疫組織科学的な同定によく用いられている。また、VGATのC末端側が小胞内腔にあることを利用して、C末端を認識する抗体を培養細胞や生体脳に暴露させることで、GABAシナプス終末を特異的に蛍光標識する技術も開発されている<ref name=ref7 />。更に、神経系以外でも下垂体[[分泌]]細胞、松果体や膵臓のグルカゴン分泌細胞などでもVGAT/VIAATの発現が確認されているが、生理機能は明らかではない<ref name=ref10><pubmed>16146821</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>12806177</pubmed></ref> <ref name=ref12><pubmed>15252115</pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed>15308302</pubmed></ref> <ref name=ref14><pubmed>12882924</pubmed></ref>。


== GABA輸送機構 ==
== GABA輸送機構 ==
[[image:小胞GABAトランスポーター1.jpg|thumb|350px|'''図1''']]
[[image:小胞GABAトランスポーター1.jpg|thumb|350px|'''図1''']]


 GABAおよびグリシンのシナプス小胞内への輸送は、プロトンの電気化学勾配を駆動力とする二次輸送である<ref name=ref15><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref16><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref17><pubmed></pubmed></ref>。プロトン勾配は、液胞型プロトンATPaseが細胞質から小胞内腔にプロトンを運ぶことにより、膜電位勾配(小胞内が+)とpH勾配(小胞内が酸性)が形成される。[[グルタミン酸]]の輸送は、主に膜電位勾配、[[アセチルコリン]]や[[モノアミン]]類の輸送は主にpH勾配によって駆動されることが知られているが、GABAおよびグリシンの輸送はちょうどその中間に位置しているとされている<ref name=ref18><pubmed></pubmed></ref>。基質とプロトンとの共役を含めVGAT/VIAATの詳細な輸送メカニズムは不明であるが、最近、VGAT/VIAATの再構成実験の結果から、VGAT/VIAATは膜電位勾配を駆動力として使い、GABAとCl–を1:2で輸送する共輸送体であるとする新しい仮説が提唱された<ref name=ref19><pubmed></pubmed></ref>(図1)。
 GABAおよびグリシンのシナプス小胞内への輸送は、プロトンの電気化学勾配を駆動力とする二次輸送である<ref name=ref15><pubmed>1678614</pubmed></ref> <ref name=ref16><pubmed>2903047</pubmed></ref> <ref name=ref17><pubmed>2566998</pubmed></ref>。プロトン勾配は、液胞型プロトンATPaseが細胞質から小胞内腔にプロトンを運ぶことにより、膜電位勾配(小胞内が+)とpH勾配(小胞内が酸性)が形成される。[[グルタミン酸]]の輸送は、主に膜電位勾配、[[アセチルコリン]]や[[モノアミン]]類の輸送は主にpH勾配によって駆動されることが知られているが、GABAおよびグリシンの輸送はちょうどその中間に位置しているとされている<ref name=ref18><pubmed>9843673</pubmed></ref>。基質とプロトンとの共役を含めVGAT/VIAATの詳細な輸送メカニズムは不明であるが、最近、VGAT/VIAATの再構成実験の結果から、VGAT/VIAATは膜電位勾配を駆動力として使い、GABAとCl–を1:2で輸送する共輸送体であるとする新しい仮説が提唱された<ref name=ref19><pubmed>19843525</pubmed></ref>(図1)。


== 遺伝子改変マウスと生理機能 ==
== 遺伝子改変マウスと生理機能 ==
 VGAT/VIAATノックアウト[[マウス]]は胎生致死であり、[[胎生期]]18日目以降にGAD67ノックアウトマウスと類似した臍帯ヘルニアと口蓋裂の所見が認められる<ref name=ref20><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref21><pubmed></pubmed></ref>。このことからGABAあるいはグリシンが司るシグナル伝達は胎生期の発達に不可欠であることが示された。VGAT/VIAATノックアウトマウスでは、IPSCが顕著に減弱しているが、miniature IPSCは振幅・頻度が野生型に比べて激減するものの、若干検出される<ref name=ref21 />。このIPSCがVGAT/VIAAT以外の未知の小胞型GABAトランスポーターによるものなのか、あるいはVGAT/VIAATに依存しないGABA再充填メカニズムや非小胞型GABA放出によるものなのかは不明である。
 VGAT/VIAATノックアウト[[マウス]]は胎生致死であり、[[胎生期]]18日目以降にGAD67ノックアウトマウスと類似した臍帯ヘルニアと口蓋裂の所見が認められる<ref name=ref20><pubmed>21190592</pubmed></ref> <ref name=ref21><pubmed>16701208</pubmed></ref>。このことからGABAあるいはグリシンが司るシグナル伝達は胎生期の発達に不可欠であることが示された。VGAT/VIAATノックアウトマウスでは、IPSCが顕著に減弱しているが、miniature IPSCは振幅・頻度が野生型に比べて激減するものの、若干検出される<ref name=ref21 />。このIPSCがVGAT/VIAAT以外の未知の小胞型GABAトランスポーターによるものなのか、あるいはVGAT/VIAATに依存しないGABA再充填メカニズムや非小胞型GABA放出によるものなのかは不明である。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references />
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