「座標系」の版間の差分

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 これまで述べてきた空間座標は、知覚レベルの座標系であり、その次元は最大でも3次元である。しかし、身体が運動を実行する場合には、身体の位置や姿勢、あるいは力やモーメントのベクトルへと変換される必要がある。このような変換に際して、計算論では以下のような座標を定義する。
 これまで述べてきた空間座標は、知覚レベルの座標系であり、その次元は最大でも3次元である。しかし、身体が運動を実行する場合には、身体の位置や姿勢、あるいは力やモーメントのベクトルへと変換される必要がある。このような変換に際して、計算論では以下のような座標を定義する。


 身体部位の位置や姿勢あるいは、運動の対象となる物体は、作業空間と呼ばれる空間にプロットされる<ref name=ref7 />。例えば、運動のプランニングに際しては、始点(現在の手先の位置)や終点(ターゲットの位置)は身体中心座標系の作業空間において記述される。また、身体部位中心座標系において、手先を中心にした物体の位置も記述される。これを手先座標系という。空間内では位置だけで無く、手の姿勢(回転)も定義される必要もある。また、この作業空間の中で手先の軌道や力、モーメントのベクトルが決められる。
 身体部位の位置や姿勢あるいは、運動の対象となる物体は、作業空間と呼ばれる空間にプロットされる<ref name=ref7 />。例えば、運動のプランニングに際しては、始点(現在の手先の位置)や終点(ターゲットの位置)は身体中心座標系の作業空間において記述される。また、手先を中心にした物体の位置も記述される。これを手先座標系という。空間内では位置だけで無く、手の姿勢(回転)も定義される必要もある。また、この作業空間の中で手先の軌道や力、モーメントのベクトルが決められる。


 この運動を実現するためには、[[wj:関節|関節]]や[[wj:|筋肉]]の動きの運動学的変数とそこに発生する力の向きや大きさなどの動力学的変数の両方を決める必要がある。関節においては、運動学的には手先につながる複数の関節の角度と手先の位置との関係がプロットされる。また、力学的には、関節のトルクベクトルと手先の力ベクトルの関係がプロットされる。これが関節座標系である。また、筋肉では、筋長(短縮方向が正)と関節角との関係、及び筋力(短縮方向が正)と関節トルクとの関係がプロットされる。これが筋空間である。それぞれの次元数は、関節と筋肉の数に相当する。これは、自由度が非常に大きく、冗長なシステムとなる。このため、この際、関節・筋座標系における冗長な自由度をへらすために、適切な拘束条件をみいだし筋や関節レベルのインピーダンス調整が行われている<ref name=ref7>'''伊藤 宏司'''<br>身体知システム論 ― ヒューマンロボティクスによる運動の学習と制御<br>''共立出版'' 2005</ref>
 この運動を実現するためには、[[wj:関節|関節]]や[[wj:|筋肉]]の動きの運動学的パラメーターとそこに発生する力の向きや大きさなどの動力学的パラメーターの両方を決める必要がある。関節では、運動学的には手先につながる複数の関節の角度と手先の位置との関係がプロットされる。また、動力学的には、関節のトルクベクトルと手先の力ベクトルの関係がプロットされる。これが関節座標系である。また、筋肉では、筋長(短縮方向が正)と関節角との関係、及び筋力(短縮方向が正)と関節トルクとの関係がプロットされる。これが筋座標系である。それぞれの次元数は、関節と筋肉の数に相当し、自由度が非常に大きく、冗長なシステムとなる。このため、この際、関節・筋座標系における冗長な自由度をへらすために、適切な拘束条件をみいだし筋や関節レベルのインピーダンス調整が行われている<ref name=ref7>'''伊藤 宏司'''<br>身体知システム論 ― ヒューマンロボティクスによる運動の学習と制御<br>''共立出版'' 2005</ref>


 脳内で空間座標から関節座標、筋座標への変換過程しめす神経活動が、[[上頭頂葉]]、[[腹側運動前野]]、[[一次運動野]]などの領域で知られている。例えば、手首の屈曲伸展運動を考える場合に、手掌が上向きか下向きの姿勢によって、外部空間内での手首の動きの向きと、関節や筋肉が表現するベクトルを区別することができる。このとき、サルの頭頂連合野のニューロンは、関節の屈曲か伸展か表現するニューロンが存在する。これは[[固有感覚]]の入力に依る物であるが、関節の座標系の動きである。一方、手のひらの向きに関わらず、(暗闇の中で)空間内の手のうごきの方向を表現するニューロンが見つかっており、これは外部座標系での動きを表現する<ref name=ref34>'''Tanaka, M., et al.'''<br>Monkey postcentral joint neurons responding to visual stimuli.<br>in Annual meeting of the Japan neuroscience society. 1999. Osaka: Elsevier.</ref>。また、腹側運動前野でも、関節の屈曲・伸展に関わらず手の動きを外部座標系の動きで表現するニューロンが多い。[[一次運動野]]では、空間内の向きとともに筋座標系で表現するニューロンがあることがわかっている<ref name=ref35><pubmed>    10497133</pubmed></ref> <ref name=ref36><pubmed>11547338</pubmed></ref>。
 脳内で空間座標から関節座標、筋座標への変換過程をしめす神経活動が、[[上頭頂葉]]、[[腹側運動前野]]、[[一次運動野]]などの領域で知られている。例えば、手首の屈曲伸展運動を考える場合に、手掌が上向きか下向きの姿勢によって、外部空間内での手首の動きの向きと、関節や筋肉が表現するベクトルを区別することができる。このとき、サルの頭頂連合野のニューロンは、関節の屈曲か伸展か表現するニューロンが存在する。これは[[固有感覚]]の入力に依る物であるが、関節の座標系の動きである。一方、手のひらの向きに関わらず、(暗闇の中で)空間内の手のうごきの方向を表現するニューロンが見つかっており、これは外部座標系での動きを表現する<ref name=ref34>'''Tanaka, M., et al.'''<br>Monkey postcentral joint neurons responding to visual stimuli.<br>in Annual meeting of the Japan neuroscience society. 1999. Osaka: Elsevier.</ref>。また、腹側運動前野でも、関節の屈曲・伸展に関わらず手の動きを外部座標系の動きで表現するニューロンが多い。[[一次運動野]]では、空間内の向きとともに筋座標系で表現するニューロンがあることがわかっている<ref name=ref35><pubmed>    10497133</pubmed></ref> <ref name=ref36><pubmed>11547338</pubmed></ref>。


==関連項目==
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