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(→心身症とは) |
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<font size="+1">[http://www.ncnp.go.jp/ibic/staff/member_02.html 守口 善也]</font><br> | <font size="+1">[http://www.ncnp.go.jp/ibic/staff/member_02.html 守口 善也]</font><br> | ||
''独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 脳病態統合イメージングセンター''<br> | ''独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 脳病態統合イメージングセンター''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年6月4日 原稿完成日:2013年6月10日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所) | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所) | ||
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心身症に関連した概念として、[[心身医学]](psychosomatic medicine)がある。心身医学は、身体症状・疾患などの身体面だけではなく、その背景にある心理社会的な側面や、脳(こころ)と身体の相互作用(心身相関)をベースにして、心-身を統合的に考察する全人的医学で、[[wj:デカルト|デカルト]]流の精神・身体を明確に区別した二元論的アプローチとは相反するものである。医療としての実践においては、本邦では心療内科、精神科、一般内科をはじめとする幅広い診療科において[[取り入れ]]られている。世界的にはドイツで誕生し、その後アメリカでは精神科を中心に発展した。 | 心身症に関連した概念として、[[心身医学]](psychosomatic medicine)がある。心身医学は、身体症状・疾患などの身体面だけではなく、その背景にある心理社会的な側面や、脳(こころ)と身体の相互作用(心身相関)をベースにして、心-身を統合的に考察する全人的医学で、[[wj:デカルト|デカルト]]流の精神・身体を明確に区別した二元論的アプローチとは相反するものである。医療としての実践においては、本邦では心療内科、精神科、一般内科をはじめとする幅広い診療科において[[取り入れ]]られている。世界的にはドイツで誕生し、その後アメリカでは精神科を中心に発展した。 | ||
この心身医学の背景には、[[wj:Freud|Freud]]による精神分析理論・力動的精神医学などの、複雑で微妙な人間の心理・行動をひもとく学問、[[wj:ウォルター・B・キャノン|Cannon]]の[[緊急反応]]や[[ホメオスターシス]]の概念、[[wj:ハンス・セリエ|Selye]]のストレス学説、[[wj:イワン・パブロフ|Pavlov]]の条件反射学、[[wj:バラス・スキナー|Skinner]]の[[ | この心身医学の背景には、[[wj:Freud|Freud]]による精神分析理論・力動的精神医学などの、複雑で微妙な人間の心理・行動をひもとく学問、[[wj:ウォルター・B・キャノン|Cannon]]の[[緊急反応]]や[[ホメオスターシス]]の概念、[[wj:ハンス・セリエ|Selye]]のストレス学説、[[wj:イワン・パブロフ|Pavlov]]の条件反射学、[[wj:バラス・スキナー|Skinner]]の[[オペラント条件づけ]]といった、脳・精神生理学、学習理論、精神神経内分泌、精神神経免疫などの、こころと身体に関する幅広い学問の統合がある。その上で、この心身医学の勃興の最終的な動機となったのは、現代の医学の専門化・細[[分化]]である。専門的に細分化された身体医学は、今日の医学の発展と患者への恩恵をもたらした反面で、身体偏重・臓器中心などの考え方に偏り、「病気をみて人を診ない」という医学・医療のありかたへの反省をもたらした。そのことから、心身両面からの全人的・統合的医療の必要性が唱えられるようになった。さらに、現代のストレス社会において、人々が受ける心理社会的ストレスは日々増大しており、それに伴ったストレス関連疾患や心身症が国民的な問題になってきた、という背景もある。 | ||
==機序== | ==機序== | ||
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===ストレス=== | ===ストレス=== | ||
[[Image:Yoshiyamoriguchi_fig_5.png|thumb|300px|'''図1.ストレス脆弱性モデル '''<br>]] ストレス研究の歴史で最も大きな意味を持つのは、Selyeのストレス学説<ref>''' Selye, H '''<br> A syndrome produced by diverse nocuous agents.<br>'' Nature, 1936. 138: p. 32'':1936</ref> <ref><pubmed> 9722327 </pubmed></ref>である。Selyeは、ストレスによって起こる生体の非特異的な生体防御反応としての「[[一般適応症候群]]」を提唱し、ストレス後のステージとして、段階的に警告反応期(ショック相、反ショック相)、抵抗期、症憊期と進行し、[[wj:副腎皮質|副腎皮質]]の肥大、[[wj:胸腺|胸腺]]萎縮、[[wj:胃・十二指腸潰瘍|胃・十二指腸潰瘍]]の3つの症状が起こるとした。ここで重要なのは、物理的・科学的・生物学的ストレッサーと同様に、心理的ストレッサーも同じような反応が起きるということを提唱したことである。 | |||
心理社会的ストレスの研究として有名なものとして、Holmes and Raheによるライフイベントによるストレスモデルがある。彼らはストレスを「日常生活上の様々な変化(ライフイベント)に再適応するために必要な努力」と定義して、その努力によってエネルギーが費やされ蓄積し、個人の対応能力を超えた際に疾患が生じると考え、表のような尺度を作成した(表3)<ref><pubmed> 6059863 </pubmed></ref><ref><pubmed> 6059865 </pubmed></ref>。対してLazarus <ref>''' Lazarus, R. S. '''<br> Psychological stress and the coping process.<br>'' McGraw-Hill, New York'':1966</ref>は、「日常生活の些事により、常に長期間繰り返され、かつ意識されないうちに経験されるストレス」の重要性を強調した(表4)。重大なライフイベントであれ日常のいらだちの蓄積であれ、彼らが提言したことは、人間であれば誰もが遭遇する可能性のある出来事が、[[ストレス反応]]を引き起こし、心身症につながる可能性があるということである。また、突発的な急性のストレス反応でも、それが繰り返され蓄積し慢性化することにより、その身体症状が遷延化することにつながる。もちろん、大きなストレス反応であれば、一回の急性のストレス反応が重大な心身の問題を引き起こすことになる。 | |||
また、外からみると同じにみえるストレスでも、個人によってストレスとして感じやすい傾向は違う。この個体差を説明するために、疾病発症のモデルとして語られるものとして、ストレス脆弱性モデルがある(図1)。これは、何らかの脳機能不全として語られる内因に、ストレス(外因)が加わり、疾病を発症するとするものである。この文脈で語られる脆弱性(内因)としては、遺伝的素因を含むが、後天的に獲得されたものも個体の脆弱性となり得る。 | |||
{| class="wikitable" style="float:right" | {| class="wikitable" style="float:right" | ||
|+表4.Daily Hassles (日常いらだちごと) | |+表4.Daily Hassles (日常いらだちごと) | ||
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===情動=== | ===情動=== | ||
心理社会的ストレスの中で、最も重要であると考えられるのが情動ストレスである。ヒトのみでなく[[wj:ネズミ|ネズミ]]の実験でも、この心理・情動ストレスを用いることができ、例えば[[ | 心理社会的ストレスの中で、最も重要であると考えられるのが情動ストレスである。ヒトのみでなく[[wj:ネズミ|ネズミ]]の実験でも、この心理・情動ストレスを用いることができ、例えば[[恐怖条件づけ]]や[[コミュニケーションボックス]](隣の[[マウス]]が電撃ストレスを受けているのを観察する)などの手法は心理的なストレスの代表的なものである。こうした実験的な心理・情動ストレスでは、[[扁桃体]]や[[視床下部]]などを中心とした情動ネットワークが関わっている。 | ||
===心身症の背景となる心理・性格的要因=== | ===心身症の背景となる心理・性格的要因=== |