「恒常性可塑性」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
 
(同じ利用者による、間の3版が非表示)
3行目: 3行目:
''慶應義塾大学 医学部生理学1''<br>
''慶應義塾大学 医学部生理学1''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年3月28日 原稿完成日:2016年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年3月28日 原稿完成日:2016年月日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/haruokasai 河西 春郎](東京大学 大学院医学系研究科)<br>
</div>
</div>


11行目: 11行目:


==恒常性可塑性の発見==
==恒常性可塑性の発見==
(<u>編集部コメント:概念図のようなものがあればと思います。</u>)
 神経細胞は他の神経細胞から入力を受け取り[[脱分極]]し、[[閾値]]を越えると神経発火が起こる。成熟した神経回路内では神経細胞は一定の頻度で発火しており、[[長期増強]]や[[長期抑圧]]が起こると結果として[[発火]]頻度の亢進や低下が生じる事が個体レベルの行動や学習に作用すると考えられている。このような長期増強によるシナプス強度の上昇や、発達期における神経回路内でのシナプス数の増加等によって個々の神経細胞が受け取る入力は増加する。その結果、発火頻度の上昇や、それまでに閾値を越えなかった入力に対しても神経細胞が発火してしまい、神経回路の特性が失われる可能性がある。それを回避するメカニズムの存在が予想されていたが、1998年に独立した2つの研究グループからそれぞれ異なるメカニズムの存在を示す実験結果が報告された<ref name=ref1><pubmed>9495341</pubmed></ref> <ref name=ref2><pubmed>9510251</pubmed></ref>。
 神経細胞は他の神経細胞から入力を受け取り[[脱分極]]し、[[閾値]]を越えると神経発火が起こる。成熟した神経回路内では神経細胞は一定の頻度で発火しており、[[長期増強]]や[[長期抑圧]]が起こると結果として[[発火]]頻度の亢進や低下が生じる事が個体レベルの行動や学習に作用すると考えられている。このような長期増強によるシナプス強度の上昇や、発達期における神経回路内でのシナプス数の増加等によって個々の神経細胞が受け取る入力は増加する。その結果、発火頻度の上昇や、それまでに閾値を越えなかった入力に対しても神経細胞が発火してしまい、神経回路の特性が失われる可能性がある。それを回避するメカニズムの存在が予想されていたが、1998年に独立した2つの研究グループからそれぞれ異なるメカニズムの存在を示す実験結果が報告された<ref name=ref1><pubmed>9495341</pubmed></ref> <ref name=ref2><pubmed>9510251</pubmed></ref>。


 [[w:Gina G. Turrigiano|Turrigiano]]研究室において[[大脳]][[視覚野]]由来の[[培養神経]]細胞に[[テトロドトキシン]]を2日間慢性投与し発火を阻害し、この神経細胞の電気生理学的な解析を行なったところ、[[AMPA型グルタミン酸受容体]]由来[[微小興奮性シナプス後電流]]の振幅が大きくなり、自発的な発火の頻度が上昇した。一方[[GABA受容体]]の[[アンタゴニスト]]である[[ビキュキュリン]]の投与によって神経細胞の発火を活性化させると振幅が小さくなった<ref name=ref1 />。[[免疫]]の染色の結果からテトロドトキシン処理後の神経細胞では表面AMPAグルタミン酸受容体量が上昇している結果が得られた<ref name=ref3><pubmed>15772349</pubmed></ref>。これら2つの結果からシナプス後部側で[[グルタミン酸]]に対する感度の上昇が起きた事が判明した。さらに神経細胞の興奮性、[[内在的興奮性]] ([[intrinsic excitability]])も上昇している実験結果が得られた<ref name=ref4><pubmed>10448215</pubmed></ref>。
 [[w:Gina G. Turrigiano|Turrigiano]]研究室において[[大脳]][[視覚野]]由来の[[培養神経]]細胞に[[テトロドトキシン]]を2日間慢性投与し発火を阻害し、この神経細胞の電気生理学的な解析を行なったところ、[[AMPA型グルタミン酸受容体]]由来[[微小興奮性シナプス後電流]]の振幅が大きくなり、自発的な発火の頻度が上昇した。一方[[GABA受容体]]の[[アンタゴニスト]]である[[ビキュキュリン]]の投与によって神経細胞の発火を活性化させると振幅が小さくなった<ref name=ref1 />。[[免疫染色]]の結果からテトロドトキシン処理後の神経細胞では表面AMPAグルタミン酸受容体量が上昇している結果が得られた<ref name=ref3><pubmed>15772349</pubmed></ref>。これら2つの結果からシナプス後部側で[[グルタミン酸]]に対する感度の上昇が起きた事が判明した。さらに神経細胞の興奮性、[[内在的興奮性]] ([[intrinsic excitability]])も上昇している実験結果が得られた<ref name=ref4><pubmed>10448215</pubmed></ref>。


 一方、Davis研究室において[[ショウジョウバエ]][[神経筋接合部]]で強制的(<u>編集部コメント:具体的にどのようにでしょうか</u>)にシナプス数を増減させたところ、増加した[[シナプス前部]]からの[[放出確率]]が下がり、一方、減少したシナプス前部からの放出量が増加した<ref name=ref2 />。これらの結果から[[筋肉]]からシナプス前部側に逆行性のシグナルが放出されシナプス前部の活性を調節し、シナプス数の増減を補っている事が示唆された。
 一方、Davis研究室において[[ショウジョウバエ]][[神経筋接合部]]で強制的(<u>編集部コメント:具体的にどのようにでしょうか</u>)にシナプス数を増減させたところ、増加した[[シナプス前部]]からの[[放出確率]]が下がり、一方、減少したシナプス前部からの放出量が増加した<ref name=ref2 />。これらの結果から[[筋肉]]からシナプス前部側に逆行性のシグナルが放出されシナプス前部の活性を調節し、シナプス数の増減を補っている事が示唆された。
20行目: 23行目:


==分子機構==
==分子機構==
(<u>編集部コメント:この点をもっと詳細に最新の原著を引用しつつご記述いただければと思います。</u>)
 上述した様に恒常性可塑性の作用として、シナプス後部の表面[[グルタミン酸受容体]]量が増減する事、[[ナトリウムチャネル]]量または性質が変化する事、シナプス前部から放出される伝達物質量が変化する事が明らかにされたが、それらがどの様な細胞内や細胞外シグナルによって引き起こされているかについては詳細には明らかとなっていない。恒常性可塑性に関わる分子として種々の分子が報告されており、神経疾患と両方に関わる分子も存在しているが因果関係は不明である<ref name=ref5><pubmed>24312013</pubmed></ref>。
 上述した様に恒常性可塑性の作用として、シナプス後部の表面[[グルタミン酸受容体]]量が増減する事、[[ナトリウムチャネル]]量または性質が変化する事、シナプス前部から放出される伝達物質量が変化する事が明らかにされたが、それらがどの様な細胞内や細胞外シグナルによって引き起こされているかについては詳細には明らかとなっていない。恒常性可塑性に関わる分子として種々の分子が報告されており、神経疾患と両方に関わる分子も存在しているが因果関係は不明である<ref name=ref5><pubmed>24312013</pubmed></ref>。


案内メニュー