「情動的記憶」の版間の差分

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{{box|text= 情動的記憶は情動的な出来事の記憶のことであり、情動を伴わない出来事よりも情動を伴う出来事のほうが記憶されやすい<ref><pubmed> 10195224 </pubmed></ref>。情動を伴う出来事を記憶する際には、扁桃体 (amygdala)が関与することが知られている<ref>LaBar, K. S., & Phelps, E. A. (1998). Arousal-mediated memory consolidation: Role of the medial temporal lobe in humans. Psychological Science, 9, 490-493.</ref>。}}
{{box|text= 情動的記憶は情動的な出来事の記憶のことであり、情動を伴わない出来事よりも情動を伴う出来事のほうが記憶されやすいことが知られている。情動的記憶の記銘時には、[[扁桃体 (amygdala)]]と[[海馬 (hippocampus)]]の相互作用に依存することが示唆されており、想起時には、特に扁桃体が関与すると考えられている。}}


== 情動的記憶の実験心理学的研究 ==
== 情動的記憶の実験心理学的研究 ==
情動的記憶において、情動的に[[覚醒度 (arousal)]]が高い刺激の方が覚醒度の低い刺激よりも、記憶が促進され<ref><pubmed> 1532823 </pubmed></ref>、その促進は、[[Recollection]]において[[Familiarity]]よりも顕著であることが示唆されている<ref><pubmed> 10868336 </pubmed></ref>。また、単語に含まれる[[感情価 (valence)]]は、情報をいつ、どこで得たのかという記憶である[[出典記憶 (source memory)]]を想起しやすくすることが示唆されている。この情動的効果は、第一に、[[自律神経系]]および[[辺縁系]](すなわち、[[扁桃体]])の活動が、ItemおよびSourceの情報に関連する記憶を促進し、第二に、単語に含まれる感情価が個人的な記憶に関与するような[[自伝的記憶]]の構造形成の側面に関連している<ref><pubmed> 12894807 </pubmed></ref>。
情動的記憶は情動的な出来事の記憶のことであり、情動を伴わない出来事よりも情動を伴う出来事のほうが記憶されやすい<ref><pubmed> 10195224 </pubmed></ref>。情動的記憶において、情動的に[[覚醒度 (arousal)]]が高い刺激の方が覚醒度の低い刺激よりも、記憶が促進され<ref><pubmed> 1532823 </pubmed></ref>、その促進は、[[Recollection]]において[[Familiarity]]よりも顕著であることが示唆されている<ref><pubmed> 10868336 </pubmed></ref>。また、単語に含まれる[[感情価 (valence)]]は、情報をいつ、どこで得たのかという記憶である[[出典記憶 (source memory)]]を想起しやすくすることが示唆されている。この情動的効果は、第一に、[[自律神経系]]および[[辺縁系]](すなわち、[[扁桃体]])の活動が、ItemおよびSourceの情報に関連する記憶を促進し、第二に、単語に含まれる感情価が個人的な記憶に関与するような[[自伝的記憶]]の構造形成の側面に関連している<ref><pubmed> 12894807 </pubmed></ref>。


== 脳損傷後の情動的記憶の障害 ==
== 脳損傷後の情動的記憶の障害 ==
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=== アルツハイマー病における研究 ===
=== アルツハイマー病における研究 ===
扁桃体と[[海馬 (hippocampus)]]は、[[アルツハイマー病 (Alzheimer's disease)]]に関連する主要な脳領域である。アルツハイマー病における扁桃体と海馬の容積を測定する研究では、扁桃体の萎縮が視覚的な記憶障害を予測することが示唆されている<ref><pubmed> 9285461 </pubmed></ref>。また、アルツハイマー病の患者を対象とした記憶の再認実験では、情動的に覚醒度の高い物語の記憶はNeutralな物語の記憶より、より多く想起できることが示唆されており<ref><pubmed> 11116776 </pubmed></ref>、扁桃体は、記憶の情動的覚醒度の促進効果に重要な役割を果たすことが明らかとされている<ref><pubmed> 12724465 </pubmed></ref>。
扁桃体と海馬は、[[アルツハイマー病 (Alzheimer's disease)]]に関連する主要な脳領域である。アルツハイマー病における扁桃体と海馬の容積を測定する研究では、扁桃体の萎縮が視覚的な記憶障害を予測することが示唆されている<ref><pubmed> 9285461 </pubmed></ref>。また、アルツハイマー病の患者を対象とした記憶の再認実験では、情動的に覚醒度の高い物語の記憶はNeutralな物語の記憶より、より多く想起できることが示唆されており<ref><pubmed> 11116776 </pubmed></ref>、扁桃体は、記憶の情動的覚醒度の促進効果に重要な役割を果たすことが明らかとされている<ref><pubmed> 12724465 </pubmed></ref>。


== 情動的記憶の脳機能イメージング ==
== 情動的記憶の脳機能イメージング ==
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=== 情動的記憶の想起 ===
=== 情動的記憶の想起 ===
[[PET (positron emission tomography)]]やfMRIを用いた神経科学的な先行知見では、扁桃体は情動的記憶処理にとって重要な役割を果たすことが示唆されており、特に扁桃体の活動と感情価の高いエピソード記憶との相関が明らかとなっている<ref><pubmed> 8755595 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10509835 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11000199 </pubmed></ref>。また、情動的記憶はNeutralな記憶よりも、扁桃体と内側側頭葉の記憶システム (amygdala-MTL memory system)において想起されやすいことが明らかとされている<ref><pubmed> 15703295 </pubmed></ref>。さらに、情動的記憶を想起する際には、情動的な情報は眼窩前頭皮質 (orbitofrontal cortex:OFC)で処理した後、扁桃体と海馬で相互作用しながら想起されるというモデルが提案されている<ref><pubmed> 16476670 </pubmed></ref>。
[[PET (positron emission tomography)]]やfMRIを用いた神経科学的な先行知見では、扁桃体は情動的記憶処理にとって重要な役割を果たすことが示唆されており、特に扁桃体の活動と感情価の高いエピソード記憶との相関が明らかとなっている<ref><pubmed> 8755595 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10509835 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11000199 </pubmed></ref>。また、情動的記憶はNeutralな記憶よりも、扁桃体と内側側頭葉の記憶システム (amygdala-MTL memory system)において想起されやすいことが明らかとされている<ref><pubmed> 15703295 </pubmed></ref>。さらに、情動的記憶を想起する際には、情動的な情報は[[眼窩前頭皮質 (orbitofrontal cortex:OFC)]]で処理した後、扁桃体と海馬で相互作用しながら想起されるというモデルが提案されている<ref><pubmed> 16476670 </pubmed></ref>。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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