「情動的記憶」の版間の差分

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== 脳損傷後の情動的記憶の障害 ==
== 脳損傷後の情動的記憶の障害 ==
=== 扁桃体損傷による情動的記憶への選択的な障害(ウルバッハ・ヴィーテ病:Urback Wiethe disease) ===
=== 扁桃体損傷による情動的記憶への選択的な障害(ウルバッハ・ヴィーテ病) ===
脳内での恐怖感に関与する扁桃体損傷による[[ウルバッハ・ヴィーテ病]]の患者を対象に、情動的な顔表情刺激を想起する実験を行った結果、ポジティブ、ネガティブ両方の刺激においても想起することが極めて困難であることが明らかとなった
脳内での恐怖感に関与する扁桃体損傷による[[ウルバッハ・ヴィーテ病 (Urback Wiethe disease)]]の患者を対象に、情動的な顔表情刺激を想起する実験を行った結果、ポジティブ、ネガティブ両方の刺激においても想起することが極めて困難であることが示されている
<ref><pubmed> 2310319 </pubmed></ref>。また、神経生理学的な先行知見では、知能および言語能力に異常のないウルバッハ・ヴィーテ病の患者が、社会的行動や実行制御機能において非言語の視覚記憶が著しく欠如していることから、扁桃体が記憶や社会的行動および情動的行動の調節において重要な役割を果たしていることが示唆された<ref><pubmed> 12937075 </pubmed></ref>。
<ref><pubmed> 2310319 </pubmed></ref>。また、神経生理学的な先行知見では、知能および言語能力に異常のないウルバッハ・ヴィーテ病の患者が、社会的行動や実行制御機能において非言語の視覚記憶が著しく欠如していることから、扁桃体が記憶や社会的行動および情動的行動の調節において重要な役割を果たしていることが示唆されている<ref><pubmed> 12937075 </pubmed></ref>。


=== アルツハイマー病における研究 ===
=== アルツハイマー病における研究 ===
扁桃体と[[海馬 (hippocampus)]]は、[[アルツハイマー病]]に関連する主要な脳領域である。アルツハイマー病における扁桃体と海馬の容積を測定する研究では、扁桃体の萎縮が視覚的な記憶障害を予測することを示唆した<ref><pubmed> 9285461 </pubmed></ref>。また、アルツハイマー病患者を対象とした記憶の再認実験では、情動的に覚醒度の高い物語の記憶はNeutralな物語の記憶より、より多く想起できることが示唆されており<ref><pubmed> 11116776 </pubmed></ref>、扁桃体は、記憶の情動的覚醒度の促進効果に重要な役割を果たすことが明らかとなっている<ref><pubmed> 12724465 </pubmed></ref>。
扁桃体と[[海馬 (hippocampus)]]は、[[アルツハイマー病 (Alzheimer's disease)]]に関連する主要な脳領域である。アルツハイマー病における扁桃体と海馬の容積を測定する研究では、扁桃体の萎縮が視覚的な記憶障害を予測することが示唆されている<ref><pubmed> 9285461 </pubmed></ref>。また、アルツハイマー病の患者を対象とした記憶の再認実験では、情動的に覚醒度の高い物語の記憶はNeutralな物語の記憶より、より多く想起できることが示唆されており<ref><pubmed> 11116776 </pubmed></ref>、扁桃体は、記憶の情動的覚醒度の促進効果に重要な役割を果たすことが明らかとされている<ref><pubmed> 12724465 </pubmed></ref>。


== 情動的記憶の脳機能イメージング ==
== 情動的記憶の脳機能イメージング ==
=== 情動的記憶の記銘 ===
=== 情動的記憶の記銘 ===
事象関連fMRIを用いた先行知見<ref><pubmed> 15182723 </pubmed></ref>によると、[[subsequent memory(SM)パラダイム]]を用いて、情動的な写真とNeutralな写真を記銘する際の脳活動を測定した結果、情動的な写真を記銘する際のほうがNeutralな写真を記銘する際よりも、扁桃体および海馬や[[海馬傍回 (parahippocampal gyrus)]]を含む[[内側側頭葉(medial temporal lobe:MTL)]]において、脳活動のより強い相関が示唆された。この結果から、情動的覚醒度の高い刺激を記銘するときはNeutralな刺激を記銘するときと比較して、扁桃体および内側側頭葉における神経伝達の強度が強くなることにより記銘が促進されることが明らかとなり、記銘の成功に関連して神経活動が増加する効果として知られている[[difference in memory effect(Dm効果)]]<ref><pubmed> 14758364 </pubmed></ref>が示唆された。
[[事象関連fMRI (event-related fMRI)]]を用いた先行知見<ref><pubmed> 15182723 </pubmed></ref>によると、[[subsequent memory(SM)パラダイム]]を用いて、情動的な写真とNeutralな写真を記銘する際の脳活動を測定した結果、情動的な写真を記銘する際のほうがNeutralな写真を記銘する際よりも、扁桃体および海馬や[[海馬傍回 (parahippocampal gyrus)]]を含む[[内側側頭葉(medial temporal lobe:MTL)]]において、脳活動のより強い相関が示唆された。この結果から、情動的覚醒度の高い刺激を記銘するときはNeutralな刺激を記銘するときと比較して、扁桃体および内側側頭葉における神経伝達の強度が強くなることにより記銘が促進されることが明らかとなり、記銘の成功に関連して神経活動が増加する効果として知られている[[difference in memory effect(Dm効果)]]<ref><pubmed> 14758364 </pubmed></ref>が示唆されている。


=== 情動的記憶の想起 ===
=== 情動的記憶の想起 ===
PETやfMRIを用いた神経科学的な先行知見では、扁桃体は情動的記憶処理にとって重要な役割を果たすことが示唆されており、特に扁桃体の活動と感情価の高いエピソード記憶との相関が明らかとなっている<ref><pubmed> 8755595 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10509835 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11000199 </pubmed></ref>。<ref><pubmed> 16371950 </pubmed></ref><ref><pubmed> 16476670 </pubmed></ref><ref><pubmed> 15703295 </pubmed></ref>
[[PET]]やfMRIを用いた神経科学的な先行知見では、扁桃体は情動的記憶処理にとって重要な役割を果たすことが示唆されており、特に扁桃体の活動と感情価の高いエピソード記憶との相関が明らかとなっている<ref><pubmed> 8755595 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10509835 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11000199 </pubmed></ref>。<ref><pubmed> 16371950 </pubmed></ref><ref><pubmed> 16476670 </pubmed></ref><ref><pubmed> 15703295 </pubmed></ref>


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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