「成長円錐」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
25行目: 25行目:
周辺部の微小管もアクチン繊維と同様にプラス端を外側に向けて配向しており、周辺部への接着分子や膜成分の輸送をガイドする足場として機能すると考えられている。この微小管依存的な小胞輸送経路は成長円錐の旋回運動に重要で、周辺部における微小管の空間的な制御が成長円錐の旋回方向を規定する要因の一つと考えられている。  
周辺部の微小管もアクチン繊維と同様にプラス端を外側に向けて配向しており、周辺部への接着分子や膜成分の輸送をガイドする足場として機能すると考えられている。この微小管依存的な小胞輸送経路は成長円錐の旋回運動に重要で、周辺部における微小管の空間的な制御が成長円錐の旋回方向を規定する要因の一つと考えられている。  


さらに、周辺部においてアクチン繊維と微小管は両結合性分子を介して相互作用しており、このアクチン繊維-微小管の相互作用も成長円錐の運動性に重要であると考えられている。両結合性分子としてShot、Dpod-1等が同定されており、これらの分子をを欠く神経細胞では軸索の伸長や走行に異常を示す。  
さらに、周辺部においてアクチン繊維と微小管は両結合性分子を介して相互作用しており、このアクチン繊維-微小管の相互作用も成長円錐の運動性に大きく関与する。両結合性分子としてShot、Dpod-1等が同定されており、これらの分子をを欠く神経細胞では軸索の伸長や走行に異常を示す。  


<br><br>
<br><br>
99行目: 99行目:
=== 成長円錐の旋回運動を制御する細胞内シグナル経路  ===
=== 成長円錐の旋回運動を制御する細胞内シグナル経路  ===


上述のように成長円錐の運動性は細胞骨格、接着分子とそのリサイクリングにより規定されるが、成長円錐の前進速度に空間的な非対称性が生じれば、成長円錐は全体として旋回運動を呈することになる。実際に、軸索ガイダンス因子が制御する成長円錐の旋回運動にもRhoファミリー低分子量Gタンパク質、ADF/cofilin、Ena/Vasp、APCなどの細胞骨格制御分子、CalpainやFAK、Srcチロシンキナーゼによる細胞接着の制御が関与することが明らかにされている。  
成長円錐の運動性は細胞骨格、接着分子とそのリサイクリングにより規定されるが、成長円錐の前進速度に空間的な非対称性が生じれば、成長円錐は全体として旋回運動を呈することになる。実際に、軸索ガイダンス因子が制御する成長円錐の旋回運動にもRhoファミリー低分子量Gタンパク質、ADF/cofilin、Ena/Vasp、APCなどの細胞骨格制御分子、CalpainやFAK、Srcチロシンキナーゼによる細胞接着の制御が関与することが明らかにされている。  


軸索ガイダンスの細胞内シグナルの研究では、Pooのグループによって開発されたターニングアッセイと呼ばれる実験系が用いられ、この手法は、培養条件下でガラスピペットからガイダンス因子をパルス状に放出し、成長円錐近傍にガイダンス因子の濃度勾配を人工的に作り出し、それに対する成長円錐の挙動を観察するものである。このターニングアッセイを用いた解析では、特定のシグナルカスケードを遮断すると軸索ガイダンス因子に対する誘引-反発の応答が逆転する現象が見られる。例えば、ネトリン-1及びBDNFの濃度勾配に対する成長円錐の誘引は、cAMPのアンタゴニストであるRp-cAMPsの投与により反発へと逆転する。このことは、成長円錐は生体内で様々な軸索ガイダンス因子のシグナルを受容しており、旋回方向は多様な細胞内シグナル伝達経路の複雑なクロストークの結果決定されることを意味するのもと思われる。近年、成長円錐の旋回方向(誘引 or 反発)を決定する分子メカニズムの理解が急速に進んでおり、本項では、旋回方向を規定する因子について概説する。  
上述したとおり、成長円錐には軸索ガイダンス因子に対する応答性(反応の有無、誘引-反発の方向)を場所や時期により変化させる。また、成長円錐は生体内で様々な軸索ガイダンス因子のシグナルを受容しており、成長円錐の旋回方向は多様な細胞内シグナル伝達経路の複雑なクロストークの結果決定されると考えられている。そのため、軸索ガイダンス因子に対する応答性を規定するメカニズムの理解は、神経回路形成の分子機構を理解する上で極めて重要である。近年、成長円錐の旋回方向(誘引 or 反発)を決定する分子メカニズムの理解が急速に進んでおり、本項では、旋回方向を規定する因子について概説する。  


<br>
<br>
109行目: 109行目:
===== 環状ヌクレオチド  =====
===== 環状ヌクレオチド  =====


成長円錐内のcAMPおよびcGMPシグナルは、同一軸索ガイダンス因子に対する成長円錐の誘引-反発応答性を規定するものとして報告例が多い。 上述のようにネトリン-1及びBDNFの濃度勾配に対する成長円錐の誘引は、cAMPシグナルの抑制により反発へと逆転する。また、軸索再生阻害因子として知られ軸索反発を誘導するMAGの濃度勾配に対する反発は、cAMPアゴニストであるsp-cAMPsの投与により誘引へと逆転する。逆に、cGMPのアゴニストである8-Br-cGMPの投与によりネトリン-1による誘引が反発へと逆転する報告もあり、多くの軸索ガイダンス因子に共通するメカニズムとしてcAMP/cGMPシグナルにより成長円錐の旋回方向が決定されると考えられている。 cAMP/cGMPの下流では主にプロテインキナーゼA(PKA)/プロテインキナーゼG(PKG)が機能することも示されており、これら2種類のリン酸化酵素の標的分子などの違いにより成長円錐の誘引または反発という正反対の応答が誘導されると考えられている。
成長円錐内のcAMPおよびcGMPシグナルは、同一軸索ガイダンス因子に対する成長円錐の誘引-反発応答性を規定するものとして報告例が多い。 例えば、ネトリン-1及びBDNFの濃度勾配に対する成長円錐の誘引は、cAMPのアンタゴニストであるRp-cAMPsの投与によって反発へと逆転する。また、軸索再生阻害因子として知られ軸索反発を誘導するMAGの濃度勾配に対する反発は、cAMPアゴニストであるsp-cAMPsの投与により誘引へと逆転する。逆に、cGMPのアゴニストである8-Br-cGMPの投与によりネトリン-1による誘引が反発へと逆転する報告もあり、多くの軸索ガイダンス因子に共通するメカニズムとしてcAMP/cGMPシグナルにより成長円錐の旋回方向が決定されると考えられている。 cAMP/cGMPの下流では主にプロテインキナーゼA(PKA)/プロテインキナーゼG(PKG)が機能することも示されており、これら2種類のリン酸化酵素の標的分子などの違いにより成長円錐の誘引と反発という正反対の応答が誘導されると考えられている。


===== 細胞内カルシウムシグナル  =====
===== 細胞内カルシウムシグナル  =====
161

回編集