「抑制性神経細胞」の版間の差分

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<font size="+1">加藤 剛、鍋倉 淳一</font><br>
<font size="+1">加藤 剛、鍋倉 淳一</font><br>
''自然科学研究機構生理学研究所''<br>
''自然科学研究機構生理学研究所''<br>
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2012年12月20日 原稿完成日:2013年月日<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2012年12月20日 原稿完成日:2013年月日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br>
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== 抑制性神経細胞とは==
== 抑制性神経細胞とは==
 [[中枢神経系]]には[[興奮性神経細胞]]の他に多数の抑制性神経細胞が存在する。[[大脳皮質]]では約20%の神経細胞が抑制性神経細胞である。大脳皮質の抑制性神経細胞の大多数は、局所回路において作用することから[[介在神経細胞]](interneuron)とも呼ばれ、興奮性神経細胞からの出力を調整し、出力の同期性を制御したり、過剰興奮を防ぐなど重要な機能をもつ。
[[image:抑制性神経細胞1.png|thumb|300px|'''図1.抑制性入力のスイッチングの一例'''<br>内側台形体核の抑制性神経細胞は外側上オリーブ核に投射するが、軸索終末部では抑制性神経伝達物質のスイッチングが生じる。すなわちP1-2ではGABAのみが放出されるが(左)、未熟期(P6-7)の共放出の時期(中)を経て、グリシンのみの放出を行うようになる(右)。]]
 [[中枢神経系]]には[[興奮性神経細胞]]の他に多数の[[抑制性]]神経細胞が存在する。[[大脳皮質]]では約20%の神経細胞が抑制性神経細胞である。大脳皮質の抑制性神経細胞の大多数は、局所回路において作用することから[[介在神経細胞]](interneuron)とも呼ばれ、[[興奮性]]神経細胞からの出力を調整し、出力の同期性を制御したり、過剰興奮を防ぐなど重要な機能をもつ。
 
 [[抑制性神経伝達物質]]には[[GABA]]及び[[グリシン]]が有るが、中枢神経系においては[[GABA作動性]]神経細胞が広範囲に存在しており、グリシン作動性神経細胞は主に[[脳幹]]部及び[[脊髄]]に存在している。またGABA及びグリシン共放出の形態も存在することが知られている<ref name=ref1><pubmed>11588160</pubmed></ref>。また、[[聴覚中継路核]]の[[外側上オリーブ核]](lateral superior olivary nucleus, LSO)における[[内側台形体核]](medial nucleus of the trapezoid body, NMTB)からの抑制性入力において、単一神経終末部から放出される伝達物質が未熟期にはGABA優位であったものが、GABA及びグリシン同時放出の時期を経て、成熟期のグリシン優位の状態へと徐々に発達変化していくことも報告された<ref name=ref2><pubmed>14699415</pubmed></ref>。このように共放出を含めた3つの抑制性伝達物質放出様式を持つ(図1)。
 
==作動機序==
 抑制性神経細胞から放出されたGABAやグリシンは、[[シナプス]]後膜において[[GABAA受容体|GABA<sub>A</sub>]]及び/もしくは[[グリシン受容体]]の活性化を介してClイオン透過性を上昇させる。Cl[[平衡電位]]が[[静止膜電位]]より深い場合には[[過分極]]応答を引き起こす。Cl平衡電位が静止膜電位より浅い場合やあるいは静止膜電位に近い場合においても、Clイオン透過性の亢進によって膜抵抗が小さくなることによるシャント効果によって、膜電位の伝播を抑制する。
 
 幼若期、あるいは成熟後においても神経損傷等の病態時には、細胞内Clイオン濃度が比較的高い事が知られている。このため、Clイオンの[[平衡電位]]は[[静止膜電位]]よりも浅い状態にある。このような状態ではGABA<sub>A</sub>受容体の活性化により、Clイオンは細胞内から外へ流出する形となり、過分極応答ではなく、脱分極応答を示す事が知られている<ref name=ref5><pubmed>10191302</pubmed></ref>。


 抑制性神経伝達物質には[[GABA]]及び[[グリシン]]が有るが、中枢神経系においてはGABA作動性神経細胞が広範囲に存在しており、グリシン作動性神経細胞は主に[[脳幹]]部及び[[脊髄]]に存在している。またGABA及びグリシン共放出の形態も存在することが知られている<ref name=ref1><pubmed>11588160</pubmed></ref>)。また、[[聴覚中継路核]]の[[外側上オリーブ核]](lateral superior olivary nucleus, LSO)における[[内側台形体核]](medial nucleus of the trapezoid body, NMTB)からの抑制性入力において、単一神経終末部から放出される伝達物質が未熟期にはGABA優位であったものが、GABA及びグリシン同時放出の時期を経て、成熟期のグリシン優位の状態へと徐々に発達変化していくことも報告された<ref name=ref2><pubmed>14699415</pubmed></ref>。このように共放出を含めた3つの抑制性伝達物質放出様式を持つ(図1)。
[[image:抑制性神経細胞1.png|thumb|300px|'''図1.抑制性入力のスイッチングの一例'''<br>内側台形体核の抑制性神経細胞は外側上オリーブ核に投射するが、軸索終末部では抑制性神経伝達物質のスイッチングが生じる。すなわちP1-2ではGABAのみが放出されるが(左)、未熟期(P6-7)の共放出の時期(中)を経て、グリシンのみの放出を行うようになる(右)。]]
 抑制性神経細胞から放出されたGABAやグリシンは、シナプス後膜において[[GABAA受容体|GABA<sub>A</sub>]]及び/もしくは[[グリシン受容体]]の活性化を介してClイオン透過性を上昇させる。Cl[[平衡電位]]が[[静止膜電位]]より深い場合には[[過分極]]応答を引き起こす。Cl平衡電位が静止膜電位より浅い場合やあるいは静止膜電位に近い場合においても、Clイオン透過性の亢進によって膜抵抗が小さくなることによるシャント効果によって、膜電位の伝播を抑制する。
==分類==
==分類==
 大脳皮質における抑制性神経細胞は[[樹状突起]]上に[[棘突起]]が乏しい(aspiny)といった共通の特徴を有するものの、形態・機能・マーカータンパク質の発現などの点からは非常な多様性をもつ。例えば大脳皮質には、形態的には[[バスケット細胞#大型バスケット細胞|大型バスケット細胞]]、[[バスケット細胞#小型バスケット細胞|小型バスケット細胞]]、[[バスケット細胞#小型バスケット細胞|ネストバスケット細胞]]、[[シャンデリア細胞]]、[[紡錘細胞]]、[[ダブルブーケ細胞]]、[[マルチノッチ細胞]]などが存在する。
 大脳皮質における抑制性神経細胞は[[樹状突起]]上に[[棘突起]]が乏しい(aspiny)といった共通の特徴を有するものの、形態・機能・マーカータンパク質の発現などの点からは非常な多様性をもつ。例えば大脳皮質には、形態的には[[バスケット細胞#大型バスケット細胞|大型バスケット細胞]]、[[バスケット細胞#小型バスケット細胞|小型バスケット細胞]]、[[バスケット細胞#小型バスケット細胞|ネストバスケット細胞]]、[[シャンデリア細胞]]、[[紡錘細胞]]、[[ダブルブーケ細胞]]、[[マルチノッチ細胞]]などが存在する。
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[[image:抑制性神経細胞2.png|thumb|300px|'''図2.抑制性神経細胞の移動過程'''<br>げっ歯類の大脳皮質抑制性神経細胞は終脳腹側の基底核原基(ganglionic eminence)で産生され、脳表に対して接線方向に移動し皮質に至る。<br>LGE: lateral ganglionic eminence, MGE: medial ganglionic eminence]]
[[image:抑制性神経細胞2.png|thumb|300px|'''図2.抑制性神経細胞の移動過程'''<br>げっ歯類の大脳皮質抑制性神経細胞は終脳腹側の基底核原基(ganglionic eminence)で産生され、脳表に対して接線方向に移動し皮質に至る。<br>LGE: lateral ganglionic eminence, MGE: medial ganglionic eminence]]


 [[wikipedia:ja:げっ歯類|げっ歯類]]の[[大脳皮質]]抑制性神経細胞はほぼ全てが終脳腹側の[[基底核原基]]で産生される<ref name=ref3><pubmed>16883309</pubmed></ref>。基底核原基は大きく分けて内側部・尾側部・外側部から構成され、内側部では主に[[パルブアルブミン]]([[parvalbumin]], [[PV]])陽性細胞と[[ソマトスタチン]]([[somatostatin]], [[SOM]])陽性細胞が、尾側部では主に[[カルレチニン]]([[calretinin]], [[CR]])陽性細胞が産生され、それぞれ大脳皮質に移動する。外側部では主に[[嗅球]]の抑制性神経細胞が産生されることが判っているが、大脳皮質抑制性神経細胞の産生に対してどの程度貢献しているかは現在のところ不明である。内側部と尾側部で産生された抑制性神経細胞は脳表面に対して接線方向に移動して大脳皮質に進入した後に移動方向を変え皮質の各層に配置される(図2)。
 [[wikipedia:ja:げっ歯類|げっ歯類]]の[[大脳皮質]]抑制性神経細胞はほぼ全てが[[終脳]]腹側の[[基底核原基]]で産生される<ref name=ref3><pubmed>16883309</pubmed></ref>。基底核原基は大きく分けて内側部・尾側部・外側部から構成され、内側部では主に[[パルブアルブミン]]([[parvalbumin]], [[PV]])陽性細胞と[[ソマトスタチン]]([[somatostatin]], [[SOM]])陽性細胞が、尾側部では主に[[カルレチニン]]([[calretinin]], [[CR]])陽性細胞が産生され、それぞれ大脳皮質に移動する。外側部では主に[[嗅球]]の抑制性神経細胞が産生されることが判っているが、大脳皮質抑制性神経細胞の産生に対してどの程度貢献しているかは現在のところ不明である。内側部と尾側部で産生された抑制性神経細胞は脳表面に対して接線方向に移動して大脳皮質に進入した後に移動方向を変え皮質の各層に配置される(図2)。
 
 一方、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]を含めた[[wikipedia:ja:霊長類|霊長類]]では大脳皮質の抑制性神経細胞のうち基底核原基で産生される割合は35%程度であり、残りの65%は終脳背側の[[脳室帯]]と[[脳室下帯]]で産生されることが判っている<ref name=ref4><pubmed>20011218</pubmed></ref>。さらに前者は胎生初期に産生され[[一酸化窒素合成酵素]]([[nitric oxide synthase]], [[NOS]])陽性、[[ニューロペプチドY]]([[neuropeptide Y]], [[NPY]])陽性、SOM陽性細胞へ分化するのに対し、後者は胎生後期に産生されCR陽性細胞へ分化することが判っている。また、基底核原基で産生された細胞はげっ歯類と同様に脳表面に対して接線方向に移動し大脳皮質に進入するのに対し、脳室帯と脳室下帯で産生された細胞は脳表に向かって放射状に移動し、“inside-out”様式の配置を取ることが示唆されている。
 
== GABA性入力による細胞膜電位の脱分極作用 ==


 幼若期、あるいは成熟後においても神経損傷等の病態時には、細胞内Clイオン濃度が比較的高い事が知られている。このため、Clイオンの[[平衡電位]][[静止膜電位]]よりも浅い状態にある。このような状態ではGABA<sub>A</sub>受容体の活性化により、Clイオンは細胞内から外へ流出する形となり、過分極応答ではなく、脱分極応答を示す事が知られている<ref name=ref5><pubmed>10191302</pubmed></ref>
 一方、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]を含めた[[wikipedia:ja:霊長類|霊長類]]では大脳皮質の抑制性神経細胞のうち基底核原基で産生される割合は35%程度であり、残りの65%は終脳背側の[[脳室帯]]と[[脳室下帯]]で産生されることが判っている<ref name=ref4><pubmed>20011218</pubmed></ref>。さらに前者は胎生初期に産生され[[一酸化窒素合成酵素]]([[nitric oxide synthase]], [[NOS]])陽性、[[ニューロペプチドY]]([[neuropeptide Y]], [[NPY]])陽性、SOM陽性細胞へ[[分化]]するのに対し、後者は胎生後期に産生されCR陽性細胞へ分化することが判っている。また、基底核原基で産生された細胞は[[げっ歯類]]と同様に脳表面に対して接線方向に移動し大脳皮質に進入するのに対し、[[脳室]]帯と脳室下帯で産生された細胞は脳表に向かって放射状に移動し、“inside-out”様式の配置を取ることが示唆されている。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==