「抗うつ薬」の版間の差分

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 神経間隙のモノアミンを増加させるMAO阻害薬や三環系抗うつ薬が、抗うつ効果を有することや、モノアミンを枯渇させる薬物が抑うつ状態を惹起することなどから、「うつ病では、なんらかの機序によってモノアミンの枯渇が生じ、神経伝達システムの異常をきたしている」という[[モノアミン仮説]]が登場した。しかし、抗うつ薬は投与直後から神経伝達物質を増加させるものの、臨床効果は数週間たたないと発現しないことや、うつ病患者の血液や髄液中のモノアミンは、必ずしも減少していない等の矛盾が徐々に明らかにされるようになった。  
 神経間隙のモノアミンを増加させるMAO阻害薬や三環系抗うつ薬が、抗うつ効果を有することや、モノアミンを枯渇させる薬物が抑うつ状態を惹起することなどから、「うつ病では、なんらかの機序によってモノアミンの枯渇が生じ、神経伝達システムの異常をきたしている」という[[モノアミン仮説]]が登場した。しかし、抗うつ薬は投与直後から神経伝達物質を増加させるものの、臨床効果は数週間たたないと発現しないことや、うつ病患者の血液や髄液中のモノアミンは、必ずしも減少していない等の矛盾が徐々に明らかにされるようになった。  


 そのため、うつ病の病因に関する仮説の焦点は、モノアミンなどの神経伝達物質そのものから、シナプス後神経細胞の情報伝達異常に移り,抗うつ薬の抗うつ効果は,慢性投与によって生じるシナプス後膜上の神経伝達物質の[[受容体]]のダウンレギュレーションや脱感作、あるいは、モノアミンの変化に引き続いて生じる脳由来神経栄養因子(BDNF)などの遺伝子発現増加を介した、神経可塑的変化が関与していると考えられるようになっている。各種抗うつ薬は、その選択性の程度に差はあるものの、セロトニン、[[ドーパミン]]、ノルアドレナリンの様々なトランスポーターや受容体に作用していることや、脳内でモノアミン伝達は相互に関与しているため、抗うつ薬の治療効果は、どのような機序によりもたらされるのか完全には特定されていないのが現状である。
 そのため、うつ病の病因に関する仮説の焦点は、モノアミンなどの神経伝達物質そのものから、シナプス後神経細胞の情報伝達系の異常に移り、抗うつ効果は転写調節因子cAMP response element binding protein(CREB)とその活性型pCREBが誘導され、脳由来神経成長因子(BDNF)産生の上昇がストレスにより障害を受けた神経細胞を修復し、情動回路の機能を正常化させる神経可塑的変化が関与していると考えられている。
 うつ病患者の血漿BDNF濃度は、健常者と比較して低下しており、うつ状態を招く様々なストレスはBDNFの発現を低下させ、抗うつ薬は逆に発現を上昇させることが報告されているが1)、必ずしも再現性をもって報告されておらず、抗うつ薬の治療効果は、どのような機序によりもたらされるのか、未だ特定されていない。


== 現在使用されている抗うつ薬  ==
== 現在使用されている抗うつ薬  ==
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 三環系抗うつ薬は、様々な神経伝達物質の受容体やトランスポーターへの作用を有している。ノルアドレナリンおよびセロトニントランスポーターを阻害することが中心的な薬理作用であるが、[[アセチルコリン]]受容体、[[アドレナリン]][[Α1受容体]]、[[ヒスタミン]][[H1受容体]]などへの作用も強く、抗うつ効果は強いものの、副作用の出現しやすさや過量服薬時の致死性の高さから、現在は使用される症例は限定的になってきている。  
 三環系抗うつ薬は、様々な神経伝達物質の受容体やトランスポーターへの作用を有している。ノルアドレナリンおよびセロトニントランスポーターを阻害することが中心的な薬理作用であるが、[[アセチルコリン]]受容体、[[アドレナリン]][[Α1受容体]]、[[ヒスタミン]][[H1受容体]]などへの作用も強く、抗うつ効果は強いものの、副作用の出現しやすさや過量服薬時の致死性の高さから、現在は使用される症例は限定的になってきている。  


 [[wikipedia:ja:第3級アミン|第3級アミン]]の三環系抗うつ薬は、セロトニンおよびノルアドレナリントランスポーターの阻害作用を有するが、その活性代謝物の[[wikipedia:ja:第2級アミン|第2級アミン]]が、ノルアドレナリントランスポーターの阻害作用を有している。イミプラミンの代謝産物であるデシプラミン (desipramine)、クロミプラミンの代謝産物であるデスメチルクロミプラミン (desmethylclomipramine)、アミトリプチリンの代謝産物であるノルトリプチリン (nortriptyline)は、強力なノルアドレナリントランスポーター阻害作用を有している。三環系抗うつ薬は、セロトニン、ノルアドレナリン両者のトランスポーターを阻害するが、ノルアドレナリンに対する阻害効果が優位である薬剤が多い。
 [[wikipedia:ja:第3級アミン|第3級アミン]]の三環系抗うつ薬は、セロトニンおよびノルアドレナリントランスポーターの阻害作用を有するが、その活性代謝物の[[wikipedia:ja:第2級アミン|第2級アミン]]が、ノルアドレナリントランスポーターの阻害作用を有している。イミプラミンの代謝産物であるデシプラミン (desipramine)、クロミプラミンの代謝産物であるデスメチルクロミプラミン (desmethylclomipramine)、アミトリプチリンの代謝産物であるノルトリプチリン (nortriptyline)は、強力なノルアドレナリントランスポーター阻害作用を有している。三環系抗うつ薬は、セロトニン、ノルアドレナリン両者のトランスポーターを阻害するが、ノルアドレナリンに対する阻害効果が優位である薬剤が多い。また、前頭葉においては、ドパミントランスポーターが少なく、ノルアドレナリントランスポーターがドパミンの再取り込みを行っており、三環形抗うつ薬は、前頭葉のノルアドレナリントランスポーターに作用することによりドパミンを増加させる。


=== 選択的セロトニン再取り込み阻害薬およびセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 ===
=== 選択的セロトニン再取り込み阻害薬およびセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 ===
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===ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬===
===ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬===


 [[ミルタザピン]] (mirtazapine)は、セロトニンおよびノルアドレナリントランスポーターの阻害作用は弱いが、[[ノルアドレナリン#.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|α<sub>2</sub>受容体]]、[[セロトニン#5-HT2.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5HT<sub>2A</sub>受容体]]、[[セロトニン#5-HT2.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5HT<sub>2C</sub>受容体]]、[[セロトニン#5-HT3.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5HT<sub>3</sub>受容体]]、ヒスタミンH1受容体の阻害作用をもち、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬 (NaSSA)として分類されている。  
 四環系抗うつ薬のmianserinから派生した抗うつ薬である[[ミルタザピン]] (mirtazapine)は、セロトニンおよびノルアドレナリントランスポーターの阻害作用は弱いが、[[ノルアドレナリン#.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|α<sub>2</sub>受容体]]、[[セロトニン#5-HT2.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5HT<sub>2A</sub>受容体]]、[[セロトニン#5-HT2.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5HT<sub>2C</sub>受容体]]、[[セロトニン#5-HT3.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5HT<sub>3</sub>受容体]]、ヒスタミンH1受容体の阻害作用をもち、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬 (NaSSA)として分類されている。  


 セロトニン、ノルアドレナリンの神経細胞では、シナプス前α2自己受容体が、セロトニン、ノルアドレナリンの遊離に抑制をかける作用をしているが、ミルタザピンは、α2受容体を阻害することにより、セロトニンとノルアドレナリンの遊離を増強し、抗うつ効果を発揮する。また、ミルタザピンの5HT<sub>2C</sub>受容体の阻害作用は、ドーパミンの遊離も促進させると考えられている。  
 セロトニン、ノルアドレナリンの神経細胞では、シナプス前α2自己受容体が、セロトニン、ノルアドレナリンの遊離に抑制をかける作用をしているが、ミルタザピンは、α2受容体を阻害することにより、セロトニンとノルアドレナリンの遊離を増強し、抗うつ効果を発揮する。また、ミルタザピンの5HT<sub>2C</sub>受容体の阻害作用は、ドーパミンの遊離も促進させると考えられている。  
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