「抗不安薬」の版間の差分

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== 歴史 ==
== 歴史 ==
[[image:抗不安薬1.jpg|thumb|300px|'''図1. ベンゾジアゼピン系薬物の作用機序'''<br><ref name=ref9>'''渡邊 衡一郎(浦部昌夫、島田和幸、川合眞一 編)'''<br>抗不安薬 睡眠薬<br>''今日の治療薬'' 2013 解説と便覧 :2013、 838-857
[[image:抗不安薬1.jpg|thumb|300px|'''図1. ベンゾジアゼピン系薬物の作用機序'''<br><ref name=ref9>'''渡邊 衡一郎(浦部昌夫、島田和幸、川合眞一 編)'''<br>抗不安薬 睡眠薬<br>''今日の治療薬'' 2013 解説と便覧 :2013、838-857</ref>
</ref><br>左上:ベンゾジアゼピン受容体-GABAA受容体-Cl-チャンネル複合体<br>右上:GABAが結合するとCl-の細胞内への流入
<br>左上:ベンゾジアゼピン受容体-GABA<sub>A</sub>受容体-Cl<sup>-</sup>チャンネル複合体<br>
が促進される<br>左下:BZDとGABAが共に受容体に結合するとCl-の細胞内への流入が一層促進される<br>左下:BZDだけが結合してもGABAと共役しないとCl-の細胞内への流入を促進しない]]
右上:GABAが結合するとCl<sup>-</sup>の細胞内への流入が促進される<br>左下:BZDとGABAが共に受容体に結合するとCl<sup>-</sup>の細胞内への流入が一層促進される<br>
左下:BZDだけが結合してもGABAと共役しないとCl<sup>-</sup>の細胞内への流入を促進しない]]
[[image:抗不安薬2.jpg|thumb|300px|'''図2. ベンゾジアゼピン受容体'''<br><ref name=ref13>'''木内 祐二'''<br>ベンゾジアゼピン受容体サブタイプと睡眠薬の薬理作用<br>''分子精神医学'' : 2002、 2(3);58(262)-65(269)</ref>]]
[[image:抗不安薬2.jpg|thumb|300px|'''図2. ベンゾジアゼピン受容体'''<br><ref name=ref13>'''木内 祐二'''<br>ベンゾジアゼピン受容体サブタイプと睡眠薬の薬理作用<br>''分子精神医学'' : 2002、 2(3);58(262)-65(269)</ref>]]


 [[不安障害]]など不安を持つ患者に対して、1940年代までは[[アルコール]]や[[バルビツール酸]]製剤(barbiturate)が、その鎮静効果を活かして用いられてきた。しかしこれらは不安そのものを解消する薬物ではなかった。1951年に臨床に登場した[[メプロバメート]](meprobamate)は、不安を特異的に軽減する作用にちなんで[[トランキライザー]](tranquilizer、[[精神安定剤]])と名付けられ一時代を築いたが、依存性・乱用などの問題のため短期間で臨床から姿を消した<ref name=ref1>'''越野 好文'''<br>不安障害の薬理学的理解と臨床への活用<br>''臨床精神薬理'' : 2012、 15(8);1317-1324</ref>。 1955年Sternbachにより最初のベンゾジアゼピン系薬物[[クロルジアゼポキシド]]が合成され、1957年、これが強い鎮静作用、抗けいれん作用、筋弛緩作用を持つことが確認された。この薬物はメプロバメートより抗不安作用、安全性において遙かに優れており、その後1960年に海外で上市された。続いて合成されたのが、1963年に上市された[[ジアゼパム]](diazepam)である。この2剤は世界的に広く汎用され、ジアゼパムは本邦でもいまだに広く使用されている<ref name=ref2><pubmed>21714826</pubmed></ref> <ref name=ref3>'''寺尾 岳'''<br>中止しにくい向精神病薬と多剤併用<br>''精神科治療学'' :2012、 27(1); 81-86</ref>。以後、多数のベンゾジアゼピン系薬物が開発され全盛を誇った。しかし、ベンゾジアゼピン系抗不安薬をもってしても過鎮静効果(oversedation)や精神運動機能低下などの有害作用、あるいはアルコールとの併用により生じる問題などに加え、長期服用に伴う弊害が指摘されるようになった。
 [[不安障害]]など不安を持つ患者に対して、1940年代までは[[アルコール]]や[[バルビツール酸]]製剤(barbiturate)が、その鎮静効果を活かして用いられてきた。しかしこれらは不安そのものを解消する薬物ではなかった。1951年に臨床に登場した[[メプロバメート]](meprobamate)は、不安を特異的に軽減する作用にちなんで[[トランキライザー]](tranquilizer、[[精神安定剤]])と名付けられ一時代を築いたが、依存性・乱用などの問題のため短期間で臨床から姿を消した<ref name=ref1>'''越野 好文'''<br>不安障害の薬理学的理解と臨床への活用<br>''臨床精神薬理'' : 2012、15(8);1317-1324</ref>。 1955年Sternbachにより最初のベンゾジアゼピン系薬物[[クロルジアゼポキシド]]が合成され、1957年、これが強い鎮静作用、抗けいれん作用、筋弛緩作用を持つことが確認された。この薬物はメプロバメートより抗不安作用、安全性において遙かに優れており、その後1960年に海外で上市された。続いて合成されたのが、1963年に上市された[[ジアゼパム]](diazepam)である。この2剤は世界的に広く汎用され、ジアゼパムは本邦でもいまだに広く使用されている<ref name=ref2><pubmed>21714826</pubmed></ref> <ref name=ref3>'''寺尾 岳'''<br>中止しにくい向精神病薬と多剤併用<br>''精神科治療学'' :2012、 27(1); 81-86</ref>。以後、多数のベンゾジアゼピン系薬物が開発され全盛を誇った。しかし、ベンゾジアゼピン系抗不安薬をもってしても過鎮静効果(oversedation)や精神運動機能低下などの有害作用、あるいはアルコールとの併用により生じる問題などに加え、長期服用に伴う弊害が指摘されるようになった。


 米国の[[wikipedia:ja:ブリストル・マイヤーズ社|ブリストル・マイヤーズ社]]は1968年にアザピロン(azapirone)誘導体の[[ブスピロン]](buspirone)を合成したが、その後の研究でジアゼパムと同等の抗不安効果があることが明らかになり、最初のベンゾジアゼピン受容体に作用しない抗不安薬として1985年に西ドイツ、1986年に米国で承認された<ref name=ref4><pubmed>7838922</pubmed></ref> <ref name=ref1 />。[[wikipedia:ja:住友製薬|住友製薬]](現、[[wikipedia:ja:大日本住友製薬|大日本住友製薬]])は、このブスピロン(buspirone)を改良し[[抗コンフリクト作用]]を強めた同じアザピロン(azapirone)系のセロトニン5-HT<sub>1A</sub>受容体部分[[作動薬]]である[[タンドスピロン]](tandospirone)を開発し<ref name=ref5>'''中村 三孝'''<br>セロトニン(5-HT)<sub>1A</sub>作動薬の薬効薬理作用<br>''臨床精神薬理'' : 1998、1(5);497-505</ref>、本邦では1996年に上市した<ref name=ref1 />。
 米国の[[wikipedia:ja:ブリストル・マイヤーズ社|ブリストル・マイヤーズ社]]は1968年にアザピロン(azapirone)誘導体の[[ブスピロン]](buspirone)を合成したが、その後の研究でジアゼパムと同等の抗不安効果があることが明らかになり、最初のベンゾジアゼピン受容体に作用しない抗不安薬として1985年に西ドイツ、1986年に米国で承認された<ref name=ref4><pubmed>7838922</pubmed></ref> <ref name=ref1 />。[[wikipedia:ja:住友製薬|住友製薬]](現、[[wikipedia:ja:大日本住友製薬|大日本住友製薬]])は、このブスピロン(buspirone)を改良し[[抗コンフリクト作用]]を強めた同じアザピロン(azapirone)系のセロトニン5-HT<sub>1A</sub>受容体部分[[作動薬]]である[[タンドスピロン]](tandospirone)を開発し<ref name=ref5>'''中村 三孝'''<br>セロトニン(5-HT)<sub>1A</sub>作動薬の薬効薬理作用<br>''臨床精神薬理'' : 1998、1(5);497-505</ref>、本邦では1996年に上市した<ref name=ref1 />。