「抗NMDA受容体脳炎」の版間の差分

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 [[辺縁系脳炎]]は[[海馬]]・[[扁桃体]]などの[[辺縁系]]を主座とする[[脳炎]]で、辺縁系症状と呼ばれる特徴的な症状が診断のポイントとなるが、[[傍腫瘍性神経症候群|傍腫瘍性]]と非傍腫瘍性に分類される('''図1''')<ref name=高橋幸利、他2014>'''高橋幸利、他 (2014)'''<br>神経疾患とNMDA型グルタミン酸受容体抗体. 日本小児科学会誌118:1695-1707.</ref>。非傍腫瘍性では[[単純ヘルペスウイルス脳炎|単純ヘルペスウイルス(HSV)脳炎]]が多いが、1994年にHSV陰性で腫瘍の合併もない症例群が[[非ヘルペス性急性辺縁系脳炎]](non-herpetic acute limbic encephalitis、NHALE)として報告された<ref name=楠原智彦、他1994></ref>。[[NMDA型グルタミン酸受容体]]のサブユニットのひとつである[[GluN2B]](GluR&epsilon;2、NR2B)全長蛋白質を抗原とする抗体のイムノブロット法による検出系が確立され<ref name=Takahashi2003><pubmed>14557555</pubmed></ref>、急性脳炎症例でGluN2B抗体が存在する症例が2002-2005年に報告され、その後NHALEの多数例で検出されている<ref name=高橋幸利2002></ref><ref name=Takahashi2005><pubmed>15987271</pubmed></ref>。
 [[辺縁系脳炎]]は[[海馬]]・[[扁桃体]]などの[[辺縁系]]を主座とする[[脳炎]]で、辺縁系症状と呼ばれる特徴的な症状が診断のポイントとなるが、[[傍腫瘍性神経症候群|傍腫瘍性]]と非傍腫瘍性に分類される('''図1''')<ref name=高橋幸利、他2014>'''高橋幸利、他 (2014)'''<br>神経疾患とNMDA型グルタミン酸受容体抗体. 日本小児科学会誌118:1695-1707.</ref>。非傍腫瘍性では[[単純ヘルペスウイルス脳炎|単純ヘルペスウイルス(HSV)脳炎]]が多いが、1994年にHSV陰性で腫瘍の合併もない症例群が[[非ヘルペス性急性辺縁系脳炎]](non-herpetic acute limbic encephalitis、NHALE)として報告された<ref name=楠原智彦、他1994></ref>。[[NMDA型グルタミン酸受容体]]のサブユニットのひとつである[[GluN2B]](GluR&epsilon;2、NR2B)全長蛋白質を抗原とする抗体のイムノブロット法による検出系が確立され<ref name=Takahashi2003><pubmed>14557555</pubmed></ref>、急性脳炎症例でGluN2B抗体が存在する症例が2002-2005年に報告され、その後NHALEの多数例で検出されている<ref name=高橋幸利2002></ref><ref name=Takahashi2005><pubmed>15987271</pubmed></ref>。


 2007年、卵巣奇形腫を伴う[[傍腫瘍性神経症候群|傍腫瘍性脳炎]](paraneoplastic encephalitis with ovarian teratoma)症例12例の血清・[[髄液]]中に、HEK細胞に発現させた[[[GluN1]](NR1)+GluN2B([[GluN2A]])]のNMDA型グルタミン酸受容体複合体抗原とのみ反応する抗体が存在すると、Dalmauらが報告した<ref name=Dalmau2007><pubmed>17262855</pubmed></ref>。このNMDA受容体複合体に対する抗体は、GluN1あるいはGluN2Bの単独サブユニットを発現させた細胞とは反応しないが二つのサブユニットを含む複合体とは反応することが特徴とされたが、単独のNMDA型グルタミン酸受容体のサブユニットでは細胞表面に発現しにくいための誤解であった<ref name=Groc2006><pubmed>17124177</pubmed></ref><ref name=Takahashi2008><pubmed>18350587</pubmed></ref>。その後、抗NMDA受容体脳炎の主たる神経抗体はGluN1抗体と考えられるようになっている<ref name=Dalmau2008><pubmed>18851928</pubmed></ref><ref name=Vincent2011><pubmed>21777830</pubmed></ref>。
 2007年、卵巣奇形腫を伴う[[傍腫瘍性神経症候群|傍腫瘍性脳炎]](paraneoplastic encephalitis with ovarian teratoma)症例12例の血清・[[髄液]]中に、HEK細胞に発現させた<nowiki>[</nowiki>[[GluN1]](NR1)+GluN2B([[GluN2A]])<nowiki>]</nowiki>のNMDA型グルタミン酸受容体複合体抗原とのみ反応する抗体が存在すると、Dalmauらが報告した<ref name=Dalmau2007><pubmed>17262855</pubmed></ref>。このNMDA受容体複合体に対する抗体は、GluN1あるいはGluN2Bの単独サブユニットを発現させた細胞とは反応しないが二つのサブユニットを含む複合体とは反応することが特徴とされたが、単独のNMDA型グルタミン酸受容体のサブユニットでは細胞表面に発現しにくいための誤解であった<ref name=Groc2006><pubmed>17124177</pubmed></ref><ref name=Takahashi2008><pubmed>18350587</pubmed></ref>。その後、抗NMDA受容体脳炎の主たる神経抗体はGluN1抗体と考えられるようになっている<ref name=Dalmau2008><pubmed>18851928</pubmed></ref><ref name=Vincent2011><pubmed>21777830</pubmed></ref>。


 NMDA型グルタミン酸受容体分子を発現させた細胞を用いたcell-based assayによるNMDA受容体抗体(NMDA受容体複合体抗体あるいはGluN1抗体)の測定が広く行われるようになると、抗NMDA受容体脳炎の臨床スペクトラムは幅広くなり、腫瘍の合併率は原著の100%から徐々に低下し、2013年の報告では38%となっている<ref name=Titulaer2013><pubmed>23290630</pubmed></ref>。腫瘍の94%は卵巣[[wj:奇形腫|奇形腫]]で、2%は卵巣以外の奇形腫、4%は肺、乳房などの腫瘍、卵巣がん、胸腺がん、すい臓がんからなる。また、小児例の報告も増え、成人とは発病症状が異なることが分かってきた。
 NMDA型グルタミン酸受容体分子を発現させた細胞を用いたcell-based assayによるNMDA受容体抗体(NMDA受容体複合体抗体あるいはGluN1抗体)の測定が広く行われるようになると、抗NMDA受容体脳炎の臨床スペクトラムは幅広くなり、腫瘍の合併率は原著の100%から徐々に低下し、2013年の報告では38%となっている<ref name=Titulaer2013><pubmed>23290630</pubmed></ref>。腫瘍の94%は卵巣[[wj:奇形腫|奇形腫]]で、2%は卵巣以外の奇形腫、4%は肺、乳房などの腫瘍、卵巣がん、胸腺がん、すい臓がんからなる。また、小児例の報告も増え、成人とは発病症状が異なることが分かってきた。