「摂食制御の神経回路」の版間の差分

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<font size="+1">船戸 弘正、イラスト作成:柿崎 美代</font><br>
<font size="+1">船戸 弘正、イラスト作成:柿崎 美代</font><br>
''東邦大学 医学部解剖学講座''<br>
''東邦大学 医学部解剖学講座''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年5月19日 原稿完成日:2012年6月13日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年5月19日 原稿完成日:2012年6月13日 更新日:2014年7月9日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/hitoshiokamoto 岡本 仁](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/hitoshiokamoto 岡本 仁](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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[[Image:Neural connection.png|thumb|right|500px|<b>図1.摂食行動制御に関わる主な神経回路</b><br />AP:[[最後野]] ARC:[[弓状核]] DMH:[[背内側核]] DR:[[背側縫線核]] IS:[[島皮質]] LHA:[[外側野]] MA:[[運動野]] NAc:[[側坐核]] NTS:[[孤束核]] OFC:[[眼窩前頭皮質]] PB:[[結合腕傍核]] PVN:[[室傍核]] Sc:[[脊髄]] VMH:[[腹内側核]] VTA:[[腹側被蓋野]] V:[[三叉神経]] VII:[[顔面神経]] XII:[[舌下神経]]]]
[[Image:Neural connection.png|thumb|right|500px|<b>図1.摂食行動制御に関わる主な神経回路</b><br />AP:[[最後野]] ARC:[[弓状核]] DMH:[[背内側核]] DR:[[背側縫線核]] IS:[[島皮質]] LHA:[[外側野]] MA:[[運動野]] NAc:[[側坐核]] NTS:[[孤束核]] OFC:[[眼窩前頭皮質]] PB:[[結合腕傍核]] PVN:[[視床下部室傍核]] Sc:[[脊髄]] VMH:[[腹内側核]] VTA:[[腹側被蓋野]] V:[[三叉神経]] VII:[[顔面神経]] XII:[[舌下神経]]]]
== 歴史  ==
== 歴史  ==


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==== 弓状核  ====
==== 弓状核  ====


 弓状核は摂食行動制御の中心に位置すると考えられている。弓状核への主な入力は室傍核、[[内側視索前野]]、[[背内側核]]、外側野、[[前乳頭核]]、[[分界条床核]]、[[扁桃体内側核]]、[[中隔核]]であり、出力は室傍核、内側視索前野、背内側核に多い。弓状核には、摂食行動を促進するニューロペプチドY (Neuropeptide Y: NPY)および[[アグーチ関連ペプチド]](Agrouti-related peptide: AgRP)を産生する神経細胞と、摂食行動を抑制する[[&alpha;-メラノサイト刺激ホルモン]](α-melanocyte stimulating hormone: α-MSH)を産生する細胞が存在する。NPY産生神経細胞とAgRP産生神経細胞はほぼ同一の細胞集団であることからNPY/AgRP神経細胞と記載されることもある。α-MSH は、[[プロオピオメラノコルチン]](proopiomelanocortin: POMC)神経細胞が産生する前駆体タンパク質POMCが酵素によってプロセスされて生成される。POMC神経は[[コカイン・アンフェタミン調節転写産物]](cocaine- and amphetamine-regulated transcript: CART)も産生することからPOMC/CART神経と記載されることもある。NPY、AgRP、α-MSHに加えて、摂食行動抑制作用を示す[[ガラニン様ペプチド]](galanin-like peptide: GALP)は視床下部では弓状核のみに発現している。また、弓状核は[[レプチン受容体]]が最も強く発現している部位であり、レプチン投与後にレプチン受容体シグナル活性化のマーカーであるリン酸化Stat3陽性細胞数が著増する。
 弓状核は摂食行動制御の中心に位置すると考えられている。弓状核への主な入力は[[視床下部室傍核]]、[[内側視索前野]]、[[背内側核]]、外側野、[[前乳頭核]]、[[分界条床核]]、[[扁桃体内側核]]、[[中隔核]]であり、出力は視床下部室傍核、内側視索前野、背内側核に多い。弓状核には、摂食行動を促進するニューロペプチドY (Neuropeptide Y: NPY)および[[アグーチ関連ペプチド]](Agrouti-related peptide: AgRP)を産生する神経細胞と、摂食行動を抑制する[[&alpha;-メラノサイト刺激ホルモン]](α-melanocyte stimulating hormone: α-MSH)を産生する細胞が存在する。NPY産生神経細胞とAgRP産生神経細胞はほぼ同一の細胞集団であることからNPY/AgRP神経細胞と記載されることもある。α-MSH は、[[プロオピオメラノコルチン]](proopiomelanocortin: POMC)神経細胞が産生する前駆体タンパク質POMCが酵素によってプロセスされて生成される。POMC神経は[[コカイン・アンフェタミン調節転写産物]](cocaine- and amphetamine-regulated transcript: CART)も産生することからPOMC/CART神経と記載されることもある。NPY、AgRP、α-MSHに加えて、摂食行動抑制作用を示す[[ガラニン様ペプチド]](galanin-like peptide: GALP)は視床下部では弓状核のみに発現している。また、弓状核は[[レプチン受容体]]が最も強く発現している部位であり、レプチン投与後にレプチン受容体シグナル活性化のマーカーであるリン酸化Stat3陽性細胞数が著増する。


==== NPY/AgRP神経  ====
==== NPY/AgRP神経  ====
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 腹内側核の内側部はレプチン受容体やオレキシン受容体が豊富に発現しており、摂食行動に重要な働きをしている。腹内側核は[[視床下部#.E8.A6.96.E4.BA.A4.E5.8F.89.E4.B8.8A.E6.A0.B8|視交叉上核]]、弓状核、室傍核、背内側核、外側野と密な線維連絡を持ち、扁桃体、結合腕傍核からの投射を受ける。特に、腹内側核PACAP陽性細胞から弓状核POMC神経への興奮性投射は摂食行動抑制に重要である<ref name=krashes2014><pubmed>24487620</pubmed></ref>。また、[[内在性カンナビノイド]]系を活性化すると摂食行動促進、体重増加を引き起こすが、[[カンナビノイド受容体]]CB1は腹内側核に豊富に存在している。
 腹内側核の内側部はレプチン受容体やオレキシン受容体が豊富に発現しており、摂食行動に重要な働きをしている。腹内側核は[[視床下部#.E8.A6.96.E4.BA.A4.E5.8F.89.E4.B8.8A.E6.A0.B8|視交叉上核]]、弓状核、室傍核、背内側核、外側野と密な線維連絡を持ち、扁桃体、結合腕傍核からの投射を受ける。特に、腹内側核PACAP陽性細胞から弓状核POMC神経への興奮性投射は摂食行動抑制に重要である<ref name=krashes2014><pubmed>24487620</pubmed></ref>。また、[[内在性カンナビノイド]]系を活性化すると摂食行動促進、体重増加を引き起こすが、[[カンナビノイド受容体]]CB1は腹内側核に豊富に存在している。
==== 背内側核  ====
 背内側核は視床下部の全ての神経核群と密な線維連絡がある。視床下部外への主な投射先は、中心灰白質、結合腕傍核、[[孤束核]]である。[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]、マウスは夜行性であるが、明期の一定時間に給餌するとその時間に覚醒するようになる。このような摂食行動に関連する[[概日リズム]]の調節時に視交叉上核の[[時計遺伝子]]の発現は変化しないことから、視交叉上核からの出力が途中で修飾を受けて特定の時間の覚醒行動を引き起こす。この修飾には背内側核が重要であると報告されている<ref><pubmed> 16880388 </pubmed></ref>。


==== 室傍核  ====
==== 室傍核  ====