「新生児模倣」の版間の差分

提供:脳科学辞典
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 舌出し行動については,懐疑的な見方がある。Jones (1996)によると、舌出しは一種の探索行動だという。彼女らは、新生児に点滅信号を見せたときに、見せていないときよりも、舌出し行動が有意に増加することを見出した。また、視覚刺激だけでなく、聴覚刺激を聞かせたときにも、新生児の舌出し行動が有意に増加したことも報告されている(Jones, 2006)。また、新生児は他者の舌出しを見たときに、他者の他の行動を見たときよりも、舌出しをする傾向にあったが、これも、他者の舌出しが、他の行動よりも、新生児の注意を引きつけたことによるという。事実、前者に対する注視時間の方が長い。これらを考慮すると,新生児模倣が模倣行動と言えるかについては疑問が残る。  
 舌出し行動については,懐疑的な見方がある。Jones (1996)によると、舌出しは一種の探索行動だという。彼女らは、新生児に点滅信号を見せたときに、見せていないときよりも、舌出し行動が有意に増加することを見出した。また、視覚刺激だけでなく、聴覚刺激を聞かせたときにも、新生児の舌出し行動が有意に増加したことも報告されている(Jones, 2006)。また、新生児は他者の舌出しを見たときに、他者の他の行動を見たときよりも、舌出しをする傾向にあったが、これも、他者の舌出しが、他の行動よりも、新生児の注意を引きつけたことによるという。事実、前者に対する注視時間の方が長い。これらを考慮すると,新生児模倣が模倣行動と言えるかについては疑問が残る。  


 一方で,
 一方で,近年,新生児模倣はミラーニューロンシステムが生得的に備わっている証拠だとする議論もある。新生児模倣はチンパンジーやアカゲザルにおいても観察されるが,Ferrariはアカゲザルの新生児の脳活動を,EEGを用いて計測した。その結果,5-6Hz帯域のEEGの活動が,自身が表情を産出しているときおよび他者の表情を観察しているときに抑制されることが示された。EEGを用いたミラーニューロンシステムの研究では,muリズムが観察自身の運動時および他者の運動観察時に抑制されることが知られており,新生児模倣がミラーニューロンシステムと関連している可能性が示唆される。

2013年1月9日 (水) 00:15時点における版

英語名:neonatal imitation

 生後まもない新生児が、他者の顔の動きを模倣する現象のことである。アメリカの心理学者Andrew Meltzoffらが報告した。ヒトに限らず,チンパンジーなどの多種においても見られる。ヒトの新生児模倣の様子は,ここなどで確認することができる。認知発達理論の初期理論を構築したJean Piagetの考えでは,乳児の模倣行動は,象徴機能が発生する2歳前後になってから観察される。このような考えがまだ根強く残っていた時代において,生後2週間程度の新生児がみせた新生児模倣は衝撃を与え,乳児の有能性を示す証拠として広く知られることとなった。Meltzoffは,新生児模倣を含む乳児の模倣能力に関する知見を基に,"like me"理論を提唱している。この理論によると,乳児は生得的に近い形で自己の行動と他者の行動の間のつながりについて気付いており,次に自分の行為とその行為の背後にある自分の心的状態の関連に気付き,最終的に,これらを基に心の理論を含む他者の心の理解を発達させるという。。


議論

 この現象は広く知られている一方で,新生児が「模倣」しているかどうかについては多くの議論がある。まず、この現象がどの程度頑健かという問題がある。Meltzoff & Decety (2003)は、13の独立した研究機関によってこの現象は報告されているとしている。しかしながら,どの研究においても一貫した報告されるのは,Meltzoff & Moore (1977)が報告した「舌出し」、「口をあける」などの4つの模倣行動のうち,舌出し行動だけのようである(Anisfield,1996)。

 舌出し行動については,懐疑的な見方がある。Jones (1996)によると、舌出しは一種の探索行動だという。彼女らは、新生児に点滅信号を見せたときに、見せていないときよりも、舌出し行動が有意に増加することを見出した。また、視覚刺激だけでなく、聴覚刺激を聞かせたときにも、新生児の舌出し行動が有意に増加したことも報告されている(Jones, 2006)。また、新生児は他者の舌出しを見たときに、他者の他の行動を見たときよりも、舌出しをする傾向にあったが、これも、他者の舌出しが、他の行動よりも、新生児の注意を引きつけたことによるという。事実、前者に対する注視時間の方が長い。これらを考慮すると,新生児模倣が模倣行動と言えるかについては疑問が残る。

 一方で,近年,新生児模倣はミラーニューロンシステムが生得的に備わっている証拠だとする議論もある。新生児模倣はチンパンジーやアカゲザルにおいても観察されるが,Ferrariはアカゲザルの新生児の脳活動を,EEGを用いて計測した。その結果,5-6Hz帯域のEEGの活動が,自身が表情を産出しているときおよび他者の表情を観察しているときに抑制されることが示された。EEGを用いたミラーニューロンシステムの研究では,muリズムが観察自身の運動時および他者の運動観察時に抑制されることが知られており,新生児模倣がミラーニューロンシステムと関連している可能性が示唆される。