「有髄線維」の版間の差分

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英語1: Myelinated nerve 英語2: Medullated nerve
<div align="right"> 
<font size="+1">[http://researchmap.jp/9190 清水 崇弘]</font><br>
''University College London (Wolfson Institute for Biomedical Research)''<br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/kazuhiroikenaka 池中 一裕]</font><br>
''自然科学研究機構 生理学研究所 分子生理研究系・分子神経生理''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年8月29日 原稿完成日:2012年11月20日 原稿更新日:2013年8月21日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br>
</div>


中枢神経系では希突起膠細胞(あるいはオリゴデンドロサイト[oligodendrocyte])、末梢神経系ではシュワン細胞(Schwann cell)というグリア細胞の形成する髄鞘(ミエリン)[参照:「髄鞘」[http://bsd.neuroinf.jp/w/index.php?title=%E9%AB%84%E9%9E%98&redirect=no]]が神経軸索[参照:「軸索」[[http://bsd.neuroinf.jp/w/index.php?title=%E8%BB%B8%E7%B4%A2&action=edit&redlink=1]]]の周囲に形成された神経のことをいう。神経軸索は樹状突起と比べると細く、長く、平滑な細胞突起である。ミエリン鞘は等間隔にあるランヴィエの絞輪(node of Ranvier)で途切れていて、軸索中のNa+チャネルはほぼこの節に集中している。
英語名: myelinated nerve, medullated nerve 独:myelinisierte Nervenfaser 仏:fibres myélinisées


髄鞘はリン脂質に富んだタンパク質で層構造を形成しているため、髄鞘は絶縁体の役割を果たし、軸索膜を絶縁して膜からの電流のもれをほぼ完全に防ぎ、神経細胞からの電気信号を跳躍伝導させることができる。&nbsp;<br>
{{box|text=
 [[髄鞘]]([[ミエリン]])を有する[[軸索]]のことを有髄線維あるいは[[有髄神経]]線維という。髄鞘は[[中枢神経系]]では[[稀突起膠細胞]](あるいは[[オリゴデンドロサイト]][oligodendrocyte])、[[末梢神経系]]では[[シュワン細胞]](Schwann cell)という[[グリア細胞]]が形成する。軸索は樹状突起と比べると細く平滑な細胞突起である。[[ミエリン鞘]]は等間隔にある[[ランヴィエ絞輪]](node of Ranvier)によって区切られており、軸索中の[[電位依存性ナトリウムチャネル]]はランヴィエ絞輪に集積している。


<br>
 髄鞘は[[リン脂質]]に富んだ[[wikipedia:ja:タンパク質|タンパク質]]で層構造を形成しているため、非常に良い[[絶縁体]]の役割を果たす。さらに、活動電位を発生させる電位依存性[[ナトリウムチャネル]]がランヴィエ絞輪に集積しているために、活動電位を軸索に沿って[[跳躍伝導]]させることができる。また、単に絶縁体としての働きだけではなく、軸索との間に物質交換を行うことによって神経軸索の栄養・保護などさまざまな神経機能を調節している。主要構成タンパク質は[[ミエリン塩基性タンパク質]]([[myelin basic protein]]; [[MBP]])、[[ミエリンプロテオリピドプロテイン]]([[myelin proteolipid protein]]; [[PLP]])であり、その他に[[ミエリン関連糖タンパク質]]([[myelin associated glycoprotein]]; [[MAG]])、[[ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質]]([[myelin oligodendrocyte glycoprotein]]; [[MOG]])、[[2',3'-環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ]]([[2',3'-cyclic-nucleotide phosphodiesterase]]; [[CNPase]])などを含む。
}}


<br>
== 神経の分類と髄鞘の有無  ==


1:跳躍伝導(saltatory conduction)<br>
 末梢神経の神経線維は伝導速度によって大きくA,B,C線維と分類される。A線維はさらに速度の速い順にalpha,beta,gamma, deltaと分類される。例えばAalphaは固有知覚を求心性に伝えるとともに体性運動を遠心性に伝える。一方、感覚神経では太さに応じてI,II,III,IV線維と分類される。筋からの求心線維には慣用的にI-IVの分類が主に用いられ、皮膚からの求心線維にはA-Cの分類が用いられる。また、この伝導速度は髄鞘の有無や神経線維の直径の大小の組み合わせで規定される。同じ直径の有髄線維と[[無髄線維]]では有髄線維が、同じ種類の線維間では神経線維の直径の大きい方が伝導速度が速い。前者は跳躍伝導により、後者の[[電気緊張電位]]の広がりを利用した伝導よりも速い伝導速度を得ている。一般に[[wikipedia:ja:骨格筋|骨格筋]]運動と付随する[[固有感覚]]、部位のはっきりした[[皮膚感覚]]は伝導速度の速い線維を、[[交感神経]]活動や[[鈍痛]]などは伝導速度の遅い線維を利用して伝えられる。


神経軸索の起始部で髄鞘に覆われていない部分は初節(axon initial segment; よくAISと略される)とよばれ、電位依存性のナトリウムチャネルが高密度に集中しており、活動電位が最初に発火する部分である。AIS以降の神経軸索の遠位部では、ほぼ等間隔に髄鞘が途切れる節があり、その部分をランヴィエの絞輪とよぶ。髄鞘間のランヴィエの絞輪にも電位依存性ナトリウムチャネルが存在し、ここで活動電位は再生される。ある節に起こった脱分極は、受動的伝播によって即座に次の節に伝わり、活動電位は髄鞘化された神経軸索上を節から節へ伝わっていくので、跳躍伝導と呼ばれる。この伝播様式は活動電位が速く伝わるうえ、興奮が軸索の細胞膜上の狭いランヴィエの絞輪に限定されるので、代謝エネルギーの節約にもなる。
{| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1"
|+'''表1.神経線維の分類'''<ref name="ref1">'''Eric R. Kandel et al.'''<br>Principles of neural science fifth edition p475-480<br>''McGraw-Hill Professional, New York, 2012''</ref>
|-
|
| style="text-align:center" | 筋からの求心性感覚神経線維(太さから分類)
| style="text-align:center" |  線維直径(μm)
| style="text-align:center" | 皮膚からの求心性感覚神経線維(速度から分類)
| style="text-align:center" | 伝導速度(m/s)
|-
| rowspan="4" style="text-align:center" | 有髄神経
| style="text-align:center" | I
| style="text-align:center" | 12-20
| style="text-align:center" | [[Aα]]
| style="text-align:center" | 72-120
|-
| style="text-align:center" | II
| style="text-align:center" | 6-12
| style="text-align:center" | [[Aβ]]
| style="text-align:center" | 36-72
|-
| style="text-align:center" | III
| style="text-align:center" | 1-6
| style="text-align:center" | [[Aδ]]
| style="text-align:center" | 4-36
|-
| style="text-align:center" |  -
| style="text-align:center" | ≦3
| style="text-align:center" | [[B(注1)]]
| style="text-align:center" | 3-15
|-
| style="text-align:center" | 無髄神経
| style="text-align:center" | IV
| style="text-align:center" | 0.2-1.5
| style="text-align:center" | [[C]]
| style="text-align:center" | 0.4-2.0
|}
(注1)B繊維は一般的に自律神経系前繊維を指す。


[[Image:跳躍伝導.png|図1 興奮の伝導(活動電位)]]<br>
{| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1"
|+'''表2.神経線維の受容器の分類とその様式'''<ref name="ref1" />
|-
| style="text-align:center" | 受容器の種類
| style="text-align:center" | 伝達速度からの分類
| style="text-align:center" | 太さあるいは機能からの名称
| style="text-align:center" | 様式
|-
| 皮膚と皮下の[[機械受容器]]
|
|
| [[触覚]]
|-
|  [[マイスナー小体]]
| style="text-align:center" | Aα、β
| style="text-align:center" | RA1 (注2)
|  なでる、粗動
|-
|  [[メルケル細胞]]
| style="text-align:center" | Aα、β
| style="text-align:center" | SA1 (注3)
|  圧力、触感
|-
|  [[パチニ小体]]
| style="text-align:center" | Aα、β
| style="text-align:center" | RA2 (注2)
|  振動
|-
|  [[ルフィニ終末]]
| style="text-align:center" | Aα、β
| style="text-align:center" | SA2 (注3)
|  皮膚の伸縮
|-
|  [[Hair-tylotrich]], [[hair-guard]]
| style="text-align:center" | Aα、β
| style="text-align:center" | G1、G2
|  なでる、粗動
|-
|  [[Hair-down]]
| style="text-align:center" | Aδ
| style="text-align:center" | D
|  軽くなでる
|-
|  Field
| style="text-align:center" | Aα、β
| style="text-align:center" | F
|  皮膚の伸縮
|-
|   C機械受容器
| style="text-align:center" | C
|
|  なでる、erotic touch
|-
| style="background-color:#a9a9a9" |
| style="background-color:#a9a9a9" |
| style="background-color:#a9a9a9" |
| style="background-color:#a9a9a9" |
|-
| [[温度受容器]]
|  
|   
| 温度 
|-
|  [[冷覚受容器]]
| style="text-align:center" | Aδ
| style="text-align:center" | III
|  皮膚冷感(&lt;25℃[77℉])
|-
|   [[温覚]]受容器
| style="text-align:center" | C
| style="text-align:center" | IV
|  皮膚温感(&gt;35℃[95℉])
|-
|   [[高熱侵害受容器]]
| style="text-align:center" | Aδ
| style="text-align:center" | III
|  高温(&gt;45℃[113℉])
|-
|  [[寒冷侵害受容器]]
| style="text-align:center" | C
| style="text-align:center" | IV
|  低温(&lt;5℃[41℉])
|-
| style="background-color:#a9a9a9" |
| style="background-color:#a9a9a9" |
| style="background-color:#a9a9a9" |
| style="background-color:#a9a9a9" |
|-
| [[侵害受容器]]
|
|
| 痛み
|-
|   機械的
| style="text-align:center" | Aδ
| style="text-align:center" | III
|  鋭く穿刺するような痛み
|-
|   温度機械的(熱)
| style="text-align:center" | Aδ
| style="text-align:center" | III
|  焼けるような痛み
|-
|  温度機械的(寒冷) 
| style="text-align:center" | C
| style="text-align:center" | IV
|  凍てつく痛み
|-
|  多様式的
| style="text-align:center" | C
| style="text-align:center" | IV
|  鈍い焼けるような痛み
|-
| style="background-color:#a9a9a9" |
| style="background-color:#a9a9a9" |
| style="background-color:#a9a9a9" |
| style="background-color:#a9a9a9" |
|-
| 筋・骨格の機械受容器
|
|
| 四肢の[[固有受容性感覚]]
|-
|   [[筋紡錘]](第一)
| style="text-align:center" | Aα
| style="text-align:center" | Ia
|  筋肉の長さとスピード
|-
|   筋紡錘(第二)
| style="text-align:center" | Aβ
| style="text-align:center" | II
|  筋肉の伸展
|-
|   [[ゴルジ腱器官]]
| style="text-align:center" | Aα
| style="text-align:center" | Ib
|  筋肉の収縮
|-
|   [[間接嚢受容器]]  
| style="text-align:center" | Aβ
| style="text-align:center" | II
|  筋肉の角度
|-
|   [[伸縮感応性自由終末]]
| style="text-align:center" | Aδ
| style="text-align:center" | III
|  過剰な伸展あるいは力
|}


<br>
(注2)Rapidly adapting type 1 あるいは 2


<br>
(注3)Slowly adapting type1 あるいは 2


2:ランヴィエの絞輪周辺のノード等のイオンチャネルの分布など。&nbsp; <br> →電位作動型イオンチャネルNav1.2やNav1.6がノードに発現する。また、パラノードにはCaspr,ジャクスタパラノードにはKv1.2などのカリウムチャネルが分布する。ここはあまり丁寧に説明せずとも論文の引用で済ます。Oriのpaperを参照する。&nbsp;
== 有髄線維の構造  ==


[[Image:Node of Ranvier.png|RTENOTITLE]]<br>&nbsp; <br>  
[[Image:Node of Ranvier.png|thumb|350px|<b>図1.有髄線維の構造とサブドメイン</b>]]


<br> 3:脱髄性疾患(Demyelination)<br>  
 髄鞘は細胞[[形質膜]]の多層構造体であるため、[[細胞形質膜]]や細胞内小胞膜などの他の多くの細胞と比べてタンパク質成分が少なく、脂質が約8割程度を占め、残りがタンパク質である。髄鞘を構成する主な脂質は糖脂質[[ガラクトセレブロシド]]([[Galactocerebroside]])とその硫酸化誘導体[[スルファチド]]([[Sulfatide]])である<ref><pubmed>9530920</pubmed></ref>。神経軸索の髄鞘と髄鞘の隙間は特別な名称がつけられており、非常に特異な構造をしている。[[ノード]](node)に[[電位作動型ナトリウムチャネル]][[ナトリウムチャネル#.CE.B1.E3.82.B5.E3.83.96.E3.83.A6.E3.83.8B.E3.83.83.E3.83.88|Nav1.2]]や[[ナトリウムチャネル#.CE.B1.E3.82.B5.E3.83.96.E3.83.A6.E3.83.8B.E3.83.83.E3.83.88|Nav1.6]]、[[アンキリン]]G(Ankyrin G)などが、[[パラノード]]([[paranode]])には[[Caspr]]など、[[ジャクスタパラノード]]([[jaxtaparanode]])には[[カリウムチャネル#遅延整流性カリウム電流|Kv1.2]]などの[[カリウムチャネル]]などが分布する<ref><pubmed>18803321</pubmed></ref>。発達とともにこれらのチャネルやそのアイソフォームの分布が変化する<ref><pubmed>9880595</pubmed></ref>。また、病態時にもチャネルの分布は変化する<ref><pubmed>12898531</pubmed></ref> <ref><pubmed>10739574</pubmed></ref>


正常な発生における髄鞘形成がなされたのち、神経軸索から髄鞘が脱落すること。この疾患を脱髄性疾患(demyelinating disease)といい、中枢神経系では多発性硬化症(Multiple sclerosis)、末梢神経系ではギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome)などがある。また、髄鞘形成が不完全な髄鞘形成不全疾患(dysmyelination disease)とは区別される。 <br> <br> <br>  
 中枢神経系(オリゴデンドロサイト)と末梢神経系(シュワン細胞)で髄鞘の巻き方が異なる。オリゴデンドロサイトは離れた複数の軸索個々に髄鞘を形成するのに対し、シュワン細胞はいくつかの軸索を抱え込むようにして包んだ後、1本の軸索を選別して、その周りに髄鞘を形成する<ref><pubmed>22192173</pubmed></ref>。髄鞘を構成するタンパク質も異なる。中枢神経系では髄鞘の主要構成タンパク質はPLP,MBPである。一方、末梢神経系では[[P0]](ピーゼロ)と[[P2]]が主要構成タンパク質である。その他のタンパク質は中枢神経系ではCNPase、MOG、[[Mag|MAG]]などがあり、末梢神経系では[[PMP22]]、MAG、MOGなどが発現している。
 
[[Image:受動輸送と能動輸送(改).jpg|thumb|350px|'''図2.興奮伝達(活動電位の伝達)<ref>ニューロンの生理学 D. Tritsch, D.Chenoy-Marchais, A.Feltz</ref>''']]
== 跳躍伝導==
[[Image:跳躍伝導(有髄).png|thumb|350px|'''図3.跳躍伝導'''<br>髄鞘が絶縁体の役割を果たし、活動電位の伝達が早くなる。]]
 
それぞれのイオンが受動的に流失し、[[電気化学的平衡]]が失われた場合、それを補償する[[能動的輸送]]が必要となる。この能動的輸送にはエネルギーが必要とされる。一般的には一次と二次[[能動輸送]]という二種類の重要な能動輸送がある(図2)。
神経軸索の起始部で髄鞘に覆われていない部分は[[初節]](axon initial segment; AISと略される)とよばれ、電位依存性ナトリウムチャネルが高密度に集積しており、通常[[活動電位]]が最初に発火する<ref><pubmed>20631711</pubmed></ref>。AISで発現するチャネルは発達に伴い、あるいは病態時にその発現や分布が変化する<ref><pubmed>22103418</pubmed></ref>。AIS以降の軸索では、ほぼ等間隔にランヴィエ絞輪が現れる。AISやランヴィエ絞輪で発生した活動電位は、受動的伝播(電気緊張電位)によって次のランヴィエ絞輪に伝わる。髄鞘の絶縁性が高いために電位変化の減衰度合いは小さく押さえられる。そのため無髄軸索よりも離れた距離でも臨界脱分極を越える。またランヴィエ絞輪では電位依存性ナトリウムチャネルが集積しているため、活動電位が発生しやすい。この2つの効果によって跳躍伝導(saltatory conduction)が起こる。跳躍伝導は、活動電位の伝導速度を速く保つとともに、活動電位発生がランヴィエ絞輪に限局されるために、代謝エネルギーの節約にもなる。
 
== 脱髄性疾患==
 
 正常な発生における髄鞘形成がなされたのち、神経軸索から髄鞘が脱落することを脱髄という<ref><pubmed>18558866</pubmed></ref>。[[脱髄性疾患]](demyelinating disease)では、髄鞘の消失により神経伝導速度が遅くなり、さまざまな神経症状が引き起こされる。脱髄が起こる場所により症状はさまざまである。[[wj:運動麻痺|運動麻痺]]、[[wj:感覚麻痺|感覚麻痺]]、[[wj:視力障害|視力障害]]などが起こる。
 
 中枢性脱髄疾患の中では[[多発性硬化症]](multiple sclerosis, MS)が最も多くみられる。日本での有病率は2006年では10万人あたり8 - 9人程度と推定されている。若年成人での神経障害の主な原因である。約80-90%のMS患者が二十代後半で再発-[[寛解]]型になり、寛解期には共通して、ある一定程度神経障害が一過的に回復する。発病から数年後、多くの患者が実質上機能回復はなくなり第二ステージに移り、病状は進行型になる。そして、あとの残り10-20%の患者は初めから寛解を経験することのない進行型である<ref name=ref10><pubmed>22189514</pubmed></ref>。[[カルシウムチャネル]]ブロッカーである[[Fampridine]](Fampyra)はMS治療において初めて機能回復に成功した経口投与薬であるが、転倒する、背中が痛む、[[めまい]]がする、[[不眠]]、[[疲労感]]、[[悪心]]、[[平衡障害]]などの副作用を伴うことが知られている<ref><pubmed>7354839</pubmed></ref> <ref><pubmed>6631441</pubmed></ref> <ref><pubmed>3001584</pubmed></ref> <ref><pubmed>2435223</pubmed></ref>。[[wj:インターフェロン|インターフェロン]]β(Interferon β)と[[wj:グラチマラー酢酸塩|グラチマラー酢酸塩]](glatiramer acetate)が現在もっともよく用いられている。これらの薬剤は根本治療法であるが、おもに再発-寛解型の患者に用いられている<ref name=ref10 />。
 
 また、末梢神経系では[[ギラン・バレー症候群]]([[Guillain-Barré syndrome]])や[[慢性炎症性脱髄性多発神経炎]]([[chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy]]; [[CIDP]])、などがある。また、最近の研究により[[統合失調症]]との関連が示唆されている<ref><pubmed>18538868</pubmed></ref> <ref><pubmed>20216548</pubmed></ref> <ref><pubmed>21196354</pubmed></ref>。髄鞘形成が不完全な[[髄鞘形成不全疾患]](dysmyelinating disease)とは区別される。
 
{| width="583" cellspacing="1" cellpadding="1" border="1"
|-
| rowspan="9" | 中枢神経系
| rowspan="3" | 原発性
| [[多発性硬化症]]
| [[同心円硬化症]]([[Balo病]])
|-
| [[急性散在性脳脊髄炎]]([[ADEM]])
|-
| [[炎症性広汎性硬化症]]([[Schilder病]])
|-
| rowspan="2" | 感染性
| [[亜急性硬化症全脳炎]](SSPE)
|-
| [[進行性多巣性白質脳症]](PML)
|-
| rowspan="3" | 中毒・代謝性
| [[低酸素脳症]]
|-
| [[橋中心髄鞘破壊症]]
|-
| [[wj:ビタミンB12|ビタミンB12]]欠乏症
|-
| 血管性
| [[Binswanger病]]
|-
| rowspan="2" | 末梢神経系
| [[ギラン・バレー症候群]]
| [[フィッシャー症候群]]
|-
| colspan="2" | [[慢性炎症性脱髄性多発神経炎]]
|}
 
'''表3.代表的な脱髄性疾患'''
 
大きく分けて中枢神経系と末梢神経系の疾患がある。


== 関連語  ==
== 関連語  ==


*[[グリア細胞]]
*[[グリア細胞]]
*[[オリゴデンドロサイト]]
*[[オリゴデンドロサイト]]
*[[シュワン細胞]]
*[[シュワン細胞]]
*[[活動電位]]
*[[活動電位]]
*[[軸索]]
*[[軸索]]
 
*[[跳躍伝導]]
*[[ランビエ絞輪]]
*[[ランビエ絞輪]]
*[[脱髄性疾患]]


== 参考文献  ==
== 参考文献  ==


<references />&nbsp;
<references />

2021年6月17日 (木) 12:15時点における最新版

清水 崇弘
University College London (Wolfson Institute for Biomedical Research)
池中 一裕
自然科学研究機構 生理学研究所 分子生理研究系・分子神経生理
DOI:10.14931/bsd.816 原稿受付日:2012年8月29日 原稿完成日:2012年11月20日 原稿更新日:2013年8月21日
担当編集委員:柚崎 通介(慶應義塾大学 医学部生理学)

英語名: myelinated nerve, medullated nerve 独:myelinisierte Nervenfaser 仏:fibres myélinisées

 髄鞘(ミエリン)を有する軸索のことを有髄線維あるいは有髄神経線維という。髄鞘は中枢神経系では稀突起膠細胞(あるいはオリゴデンドロサイト[oligodendrocyte])、末梢神経系ではシュワン細胞(Schwann cell)というグリア細胞が形成する。軸索は樹状突起と比べると細く平滑な細胞突起である。ミエリン鞘は等間隔にあるランヴィエ絞輪(node of Ranvier)によって区切られており、軸索中の電位依存性ナトリウムチャネルはランヴィエ絞輪に集積している。

 髄鞘はリン脂質に富んだタンパク質で層構造を形成しているため、非常に良い絶縁体の役割を果たす。さらに、活動電位を発生させる電位依存性ナトリウムチャネルがランヴィエ絞輪に集積しているために、活動電位を軸索に沿って跳躍伝導させることができる。また、単に絶縁体としての働きだけではなく、軸索との間に物質交換を行うことによって神経軸索の栄養・保護などさまざまな神経機能を調節している。主要構成タンパク質はミエリン塩基性タンパク質myelin basic protein; MBP)、ミエリンプロテオリピドプロテインmyelin proteolipid protein; PLP)であり、その他にミエリン関連糖タンパク質myelin associated glycoprotein; MAG)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質myelin oligodendrocyte glycoprotein; MOG)、2',3'-環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(2',3'-cyclic-nucleotide phosphodiesterase; CNPase)などを含む。

神経の分類と髄鞘の有無

 末梢神経の神経線維は伝導速度によって大きくA,B,C線維と分類される。A線維はさらに速度の速い順にalpha,beta,gamma, deltaと分類される。例えばAalphaは固有知覚を求心性に伝えるとともに体性運動を遠心性に伝える。一方、感覚神経では太さに応じてI,II,III,IV線維と分類される。筋からの求心線維には慣用的にI-IVの分類が主に用いられ、皮膚からの求心線維にはA-Cの分類が用いられる。また、この伝導速度は髄鞘の有無や神経線維の直径の大小の組み合わせで規定される。同じ直径の有髄線維と無髄線維では有髄線維が、同じ種類の線維間では神経線維の直径の大きい方が伝導速度が速い。前者は跳躍伝導により、後者の電気緊張電位の広がりを利用した伝導よりも速い伝導速度を得ている。一般に骨格筋運動と付随する固有感覚、部位のはっきりした皮膚感覚は伝導速度の速い線維を、交感神経活動や鈍痛などは伝導速度の遅い線維を利用して伝えられる。

表1.神経線維の分類[1]
筋からの求心性感覚神経線維(太さから分類) 線維直径(μm) 皮膚からの求心性感覚神経線維(速度から分類) 伝導速度(m/s)
有髄神経 I 12-20 72-120
II 6-12 36-72
III 1-6 4-36
- ≦3 B(注1) 3-15
無髄神経 IV 0.2-1.5 C 0.4-2.0

(注1)B繊維は一般的に自律神経系前繊維を指す。

表2.神経線維の受容器の分類とその様式[1]
受容器の種類 伝達速度からの分類 太さあるいは機能からの名称 様式
皮膚と皮下の機械受容器 触覚
 マイスナー小体 Aα、β RA1 (注2)  なでる、粗動
 メルケル細胞 Aα、β SA1 (注3)  圧力、触感
 パチニ小体 Aα、β RA2 (注2)  振動
 ルフィニ終末 Aα、β SA2 (注3)  皮膚の伸縮
 Hair-tylotrich, hair-guard Aα、β G1、G2  なでる、粗動
 Hair-down D  軽くなでる
 Field Aα、β F  皮膚の伸縮
  C機械受容器 C  なでる、erotic touch
温度受容器      温度 
 冷覚受容器 III  皮膚冷感(<25℃[77℉])
  温覚受容器 C IV  皮膚温感(>35℃[95℉])
  高熱侵害受容器 III  高温(>45℃[113℉])
 寒冷侵害受容器 C IV  低温(<5℃[41℉])
侵害受容器 痛み
  機械的 III  鋭く穿刺するような痛み
  温度機械的(熱) III  焼けるような痛み
 温度機械的(寒冷)  C IV  凍てつく痛み
 多様式的 C IV  鈍い焼けるような痛み
筋・骨格の機械受容器 四肢の固有受容性感覚
  筋紡錘(第一) Ia  筋肉の長さとスピード
  筋紡錘(第二) II  筋肉の伸展
  ゴルジ腱器官 Ib  筋肉の収縮
  間接嚢受容器 II  筋肉の角度
  伸縮感応性自由終末 III  過剰な伸展あるいは力

(注2)Rapidly adapting type 1 あるいは 2

(注3)Slowly adapting type1 あるいは 2

有髄線維の構造

図1.有髄線維の構造とサブドメイン

 髄鞘は細胞形質膜の多層構造体であるため、細胞形質膜や細胞内小胞膜などの他の多くの細胞と比べてタンパク質成分が少なく、脂質が約8割程度を占め、残りがタンパク質である。髄鞘を構成する主な脂質は糖脂質ガラクトセレブロシド(Galactocerebroside)とその硫酸化誘導体スルファチドSulfatide)である[2]。神経軸索の髄鞘と髄鞘の隙間は特別な名称がつけられており、非常に特異な構造をしている。ノード(node)に電位作動型ナトリウムチャネルNav1.2Nav1.6アンキリンG(Ankyrin G)などが、パラノード(paranode)にはCasprなど、ジャクスタパラノード(jaxtaparanode)にはKv1.2などのカリウムチャネルなどが分布する[3]。発達とともにこれらのチャネルやそのアイソフォームの分布が変化する[4]。また、病態時にもチャネルの分布は変化する[5] [6]

 中枢神経系(オリゴデンドロサイト)と末梢神経系(シュワン細胞)で髄鞘の巻き方が異なる。オリゴデンドロサイトは離れた複数の軸索個々に髄鞘を形成するのに対し、シュワン細胞はいくつかの軸索を抱え込むようにして包んだ後、1本の軸索を選別して、その周りに髄鞘を形成する[7]。髄鞘を構成するタンパク質も異なる。中枢神経系では髄鞘の主要構成タンパク質はPLP,MBPである。一方、末梢神経系ではP0(ピーゼロ)とP2が主要構成タンパク質である。その他のタンパク質は中枢神経系ではCNPase、MOG、MAGなどがあり、末梢神経系ではPMP22、MAG、MOGなどが発現している。

図2.興奮伝達(活動電位の伝達)[8]

跳躍伝導

図3.跳躍伝導
髄鞘が絶縁体の役割を果たし、活動電位の伝達が早くなる。

それぞれのイオンが受動的に流失し、電気化学的平衡が失われた場合、それを補償する能動的輸送が必要となる。この能動的輸送にはエネルギーが必要とされる。一般的には一次と二次能動輸送という二種類の重要な能動輸送がある(図2)。 神経軸索の起始部で髄鞘に覆われていない部分は初節(axon initial segment; AISと略される)とよばれ、電位依存性ナトリウムチャネルが高密度に集積しており、通常活動電位が最初に発火する[9]。AISで発現するチャネルは発達に伴い、あるいは病態時にその発現や分布が変化する[10]。AIS以降の軸索では、ほぼ等間隔にランヴィエ絞輪が現れる。AISやランヴィエ絞輪で発生した活動電位は、受動的伝播(電気緊張電位)によって次のランヴィエ絞輪に伝わる。髄鞘の絶縁性が高いために電位変化の減衰度合いは小さく押さえられる。そのため無髄軸索よりも離れた距離でも臨界脱分極を越える。またランヴィエ絞輪では電位依存性ナトリウムチャネルが集積しているため、活動電位が発生しやすい。この2つの効果によって跳躍伝導(saltatory conduction)が起こる。跳躍伝導は、活動電位の伝導速度を速く保つとともに、活動電位発生がランヴィエ絞輪に限局されるために、代謝エネルギーの節約にもなる。

脱髄性疾患

 正常な発生における髄鞘形成がなされたのち、神経軸索から髄鞘が脱落することを脱髄という[11]脱髄性疾患(demyelinating disease)では、髄鞘の消失により神経伝導速度が遅くなり、さまざまな神経症状が引き起こされる。脱髄が起こる場所により症状はさまざまである。運動麻痺感覚麻痺視力障害などが起こる。

 中枢性脱髄疾患の中では多発性硬化症(multiple sclerosis, MS)が最も多くみられる。日本での有病率は2006年では10万人あたり8 - 9人程度と推定されている。若年成人での神経障害の主な原因である。約80-90%のMS患者が二十代後半で再発-寛解型になり、寛解期には共通して、ある一定程度神経障害が一過的に回復する。発病から数年後、多くの患者が実質上機能回復はなくなり第二ステージに移り、病状は進行型になる。そして、あとの残り10-20%の患者は初めから寛解を経験することのない進行型である[12]カルシウムチャネルブロッカーであるFampridine(Fampyra)はMS治療において初めて機能回復に成功した経口投与薬であるが、転倒する、背中が痛む、めまいがする、不眠疲労感悪心平衡障害などの副作用を伴うことが知られている[13] [14] [15] [16]インターフェロンβ(Interferon β)とグラチマラー酢酸塩(glatiramer acetate)が現在もっともよく用いられている。これらの薬剤は根本治療法であるが、おもに再発-寛解型の患者に用いられている[12]

 また、末梢神経系ではギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome)や慢性炎症性脱髄性多発神経炎(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy; CIDP)、などがある。また、最近の研究により統合失調症との関連が示唆されている[17] [18] [19]。髄鞘形成が不完全な髄鞘形成不全疾患(dysmyelinating disease)とは区別される。

中枢神経系 原発性 多発性硬化症 同心円硬化症Balo病
急性散在性脳脊髄炎ADEM
炎症性広汎性硬化症Schilder病
感染性 亜急性硬化症全脳炎(SSPE)
進行性多巣性白質脳症(PML)
中毒・代謝性 低酸素脳症
橋中心髄鞘破壊症
ビタミンB12欠乏症
血管性 Binswanger病
末梢神経系 ギラン・バレー症候群 フィッシャー症候群
慢性炎症性脱髄性多発神経炎

表3.代表的な脱髄性疾患

大きく分けて中枢神経系と末梢神経系の疾患がある。

関連語

参考文献

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