「核内受容体」の版間の差分

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<div align="right"> 
<font size="+1">[http://researchmap.jp/ohuchihideyo 大内 淑代]</font><br>
''岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科細胞組織学分野''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年8月7日 原稿完成日:2012年10月29日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br>
</div>
英語名:nuclear receptor 英略語:NR 独:Kernrezeptoren 仏:récepteur nucléaire 
{{box|text=
 核内受容体は、[[ステロイド]]や[[甲状腺ホルモン]]、[[レチノイド]]、[[ビタミンD]]などの受容体であり、主に、リガンドが結合すると[[細胞質]]から[[核]]内へ移行して[[転写調節因子]]としてはたらく<ref name="ref1">'''Alberts B, Johnson A, Lewis J, Raff M.'''<br>Molecular Biology of the Cell, 5th Edition, <br>pp889-891, ''Garland Science'', New York, 2008.</ref>。リガンドの不明な核内受容体、リガンド結合とは別のしくみで活性が調節される核内受容体もある<ref name="ref2"><pubmed>16892386</pubmed></ref>。ヒトで48の遺伝子にコードされており、[[wikipedia:ja:代謝|代謝]]、[[wikipedia:ja:恒常性|恒常性]]、[[wikipedia:ja:分化|分化]]、[[wikipedia:ja:成長|成長]]、[[wikipedia:ja:発生|発生]]、[[wikipedia:ja:老化|老化]]、[[wikipedia:ja:生殖|生殖]]などの機能を担う。
}}
{{Pfam_box
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| Symbol = zf-C4
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| CDD = cd06916
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[[Image:核内受容体1.png|thumb|300px|<b>図1. 核内受容体の基本構造</b><ref name="ref2" /><ref name="ref3"><pubmed>18023286</pubmed></ref>]]
[[Image:核内受容体1.png|thumb|300px|<b>図1. 核内受容体の基本構造</b><ref name="ref2" /><ref name="ref3"><pubmed>18023286</pubmed></ref>]]


[[Image:核内受容体2.png|thumb|300px|<b>図2. 核内受容体の2量体化とDNA結合配列の3つのパターン</b><ref name="ref3" /><br>ホモダイマー化したGRなどホルモン受容体は、[[wikipedia:ja:パリンドローム|パリンドローム]](回文配列)状に並んだ2つのホルモン応答エレメント(HRE)に結合する。ヘテロダイマー化したRXRと他の核内受容体(XR)は、同方向に並んだ(ダイレクトリピート)2つのHREに結合する。ERRなどオーファン受容体は、モノマーのまま1つのHRE(ハーフサイト)に結合する。]]
[[Image:核内受容体2.png|thumb|300px|<b>図2. 核内受容体の2量体化とDNA結合配列の3つのパターン</b><ref name="ref3" /><br>ホモダイマー化したGRなどホルモン受容体は、[[wikipedia:ja:パリンドローム|パリンドローム]](回文配列)状に並んだ2つのホルモン応答エレメント(HRE)に結合する。ヘテロダイマー化したRXRと他の核内受容体(XR)は、同方向に並んだ(ダイレクトリピート)2つのHREに結合する。ERRなどオーファン受容体は、モノマーのまま1つのHRE(ハーフサイト)に結合する。]]
英語名:nuclear receptor 英略語:NR 独:Kernrezeptoren 仏:récepteur nucléaire 
 核内受容体は、[[ステロイド]]や[[甲状腺ホルモン]]、[[レチノイド]]、[[ビタミンD]]などの受容体であり、主に、リガンドが結合すると[[細胞質]]から[[核]]内へ移行して[[転写調節因子]]としてはたらく<ref name="ref1">'''Alberts B, Johnson A, Lewis J, Raff M.'''<br>Molecular Biology of the Cell, 5th Edition, <br>pp889-891, ''Garland Science'', New York, 2008.</ref>。リガンドの不明な核内受容体、リガンド結合とは別のしくみで活性が調節される核内受容体もある<ref name="ref2"><pubmed>16892386</pubmed></ref>。ヒトで48の遺伝子にコードされており、[[wikipedia:ja:代謝|代謝]]、[[wikipedia:ja:恒常性|恒常性]]、[[wikipedia:ja:分化|分化]]、[[wikipedia:ja:成長|成長]]、[[wikipedia:ja:発生|発生]]、[[wikipedia:ja:老化|老化]]、[[wikipedia:ja:生殖|生殖]]などの機能を担う。


== 研究の歴史、背景==
== 研究の歴史、背景==
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 核内受容体は通常2量体、ホモダイマー(ステロイド受容体)あるいはヘテロダイマー([[RXR]]と[[PPAR]]s, [[LXR]], [[FXR]]など)を形成して転写調節を行う(図2)。単量体でDNAに結合するもの([[ERR]], [[LRH1]], [[SF1]], [[NGFIB]])もある。HNF4sやNGFIBは、リガンド結合とは無関係に活性化されており、これらはオーファン核内受容体と呼ばれる。
 核内受容体は通常2量体、ホモダイマー(ステロイド受容体)あるいはヘテロダイマー([[RXR]]と[[PPAR]]s, [[LXR]], [[FXR]]など)を形成して転写調節を行う(図2)。単量体でDNAに結合するもの([[ERR]], [[LRH1]], [[SF1]], [[NGFIB]])もある。HNF4sやNGFIBは、リガンド結合とは無関係に活性化されており、これらはオーファン核内受容体と呼ばれる。


== 核内受容体スーパーファミリー ==
== ファミリー ==
===分子系統樹に基づく分類===
===分子系統樹に基づく分類===
 分子系統樹から7つのサブファミリー(NR0〜6)に分類され、個々の慣用名に対応する正式名がある<ref name="ref4"><pubmed>10219237</pubmed></ref>(表1)。サブファミリー0 (NR0)は、DNA結合領域(DBD, C領域)またはリガンド結合領域(LBD, E領域)の一方しか持たないもので、例えばSHPはLBDしか持たず[[NR0B2]]と呼ばれる。各サブファミリーはさらにA, B,,,のグループに分けられ、1つのグループはパラログによって構成される。例えば、甲状腺ホルモン受容体 (TR) はサブファミリー1グループA ([[NR1A]])で、[[TRα]]は[[NR1A1]], [[TRβ]]は[[NR1A2]]となる。また、例えば[[NR5A1a]] (=SF1)と[[NR5A1b]]([[ELP]])とは、同じ遺伝子から[[wikipedia:ja:スプライシング|スプライシング]]の違いによってできた異なったアイソフォームである。  
 分子系統樹から7つのサブファミリー(NR0〜6)に分類され、個々の慣用名に対応する正式名がある<ref name="ref4"><pubmed>10219237</pubmed></ref>(表1)。サブファミリー0 (NR0)は、DNA結合領域(DBD, C領域)またはリガンド結合領域(LBD, E領域)の一方しか持たないもので、例えばSHPはLBDしか持たず[[NR0B2]]と呼ばれる。各サブファミリーはさらにA, B,,,のグループに分けられ、1つのグループはパラログによって構成される。例えば、甲状腺ホルモン受容体 (TR) はサブファミリー1グループA ([[NR1A]])で、[[TRα]]は[[NR1A1]], [[TRβ]]は[[NR1A2]]となる。また、例えば[[NR5A1a]] (=SF1)と[[NR5A1b]]([[ELP]])とは、同じ遺伝子から[[wikipedia:ja:スプライシング|スプライシング]]の違いによってできた異なったアイソフォームである。  
254行目: 265行目:
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| rowspan="9" | 3   
| rowspan="9" | 3   
| rowspan="9" | エストロゲン受容体型
| rowspan="9" | [[エストロゲン受容体]]型
| rowspan="2" | A   
| rowspan="2" | A   
| rowspan="2" | エストロゲン受容体  
| rowspan="2" | エストロゲン受容体  
| [[NR3A1]]  
| [[NR3A1]]  
| ER&alpha;  
| [[ER&alpha;]]
| [[エストロゲン受容体&alpha;]]   
| [[エストロゲン受容体&alpha;]]   
| [[ESR1]]  
| [[ESR1]]  
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| [[NR3A2]]  
| [[NR3A2]]  
| ER&beta;  
| [[ER&beta;]]
| エストロゲン受容体&beta;
| [[エストロゲン受容体&beta;]]
| [[ESR2]]
| [[ESR2]]
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394行目: 405行目:
| style="text-align:center" rowspan="3" | I
| style="text-align:center" rowspan="3" | I
| rowspan="3" | ステロイド合成
| rowspan="3" | ステロイド合成
| FXRb
| FXR&beta;
| ヒトになし、マウスで機能不明
| ヒトになし、マウスで機能不明
| rowspan="3" | 中枢神経系、生殖器、副腎
| rowspan="3" | 中枢神経系、生殖器、副腎
406行目: 417行目:
| rowspan="5" | 生殖と発生
| rowspan="5" | 生殖と発生
| AR
| AR
| rowspan="3" | 内分泌ステロイドホルモン受容体(性決定、性生殖)
| rowspan="3" | 内[[分泌]][[ステロイドホルモン]]受容体(性決定、性生殖)
| rowspan="5" |  
| rowspan="5" |  
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422行目: 433行目:
| rowspan="12" | [[中枢神経系]]、[[概日リズム]]、基礎代謝機能
| rowspan="12" | [[中枢神経系]]、[[概日リズム]]、基礎代謝機能
| TLX
| TLX
| rowspan="4" | 神経細胞と末梢組織の分化
| rowspan="4" | 神経細胞と末梢組織の[[分化]]
| rowspan="4" | 中枢神経系
| rowspan="4" | 中枢神経系
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460行目: 471行目:
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| FXR&alpha;
| FXR&alpha;
| rowspan="3" | 胆汁酸代謝
| rowspan="3" | [[胆汁酸]]代謝
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| LRH-1
| LRH-1
501行目: 512行目:
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| PPAR&gamma;
| PPAR&gamma;
| rowspan="2" | 食餌中のコレステロール・脂肪を感知してインスリンシグナルを亢進させ、脂肪を蓄積
| rowspan="2" | 食餌中のコレ[[ステロール]]・脂肪を感知してインスリンシグナルを亢進させ、脂肪を蓄積
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| LXR&alpha;
| LXR&alpha;
541行目: 552行目:


*カテゴリー(3)  
*カテゴリー(3)  
**アンドロスタン(男性ホルモン代謝中間体):CARに結合。
**アンドロスタン([[男性ホルモン]]代謝中間体):CARに結合。
**脂肪酸:HNF-4a, gに結合。  
**脂肪酸:HNF-4a, gに結合。  
**リン酸化脂質(ホスファチジルイノシトール類):SF1/LRH1に結合。  
**リン酸化脂質(ホスファチジルイノシトール類):SF1/LRH1に結合。  
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== 参考文献  ==
== 参考文献  ==


<references />  
<references />
 
(執筆者:大内淑代 担当編集委員:大隅典子)

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