「模倣」の版間の差分

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==定義における問題点==
==定義における問題点==


 模倣の神経基盤を明らかにするには模倣とは何かという明確な定義が必要だが、現状では研究者間で共有される定義がないまま模倣という概念が使用されている。WhitenとHornerは[[social learning]]に[[copying]], [[affordance learning]], [[obeservational conditioning]], [[enhancement]]の5つの下位分類を設け、copyingの下に[[imitation]], [[object]] [[movement reenactment]], [[end-state emulation]]の3つを区別している<ref name=ref1><pubmed>15161139</pubmed></ref>。この分類では行為の目的あるいは結果が同じになるように行為することを&lt;end-state emulation&gt;、行為対象物の運動形式が同様になるように行為することを&lt;object movement reenactment&gt;、行為の形式を模倣すること&lt;imitation&gt;と区別している。このように模倣という概念は他者の行為の結果のみを真似するというレベルから運動形式も含めてコピーするというレベルまで含み得る。
 模倣の神経基盤を明らかにするには模倣とは何かという明確な定義が必要だが、現状では研究者間で共有される定義がないまま模倣という概念が使用されている。Whitenらは[[social learning]]に[[copying]], [[affordance learning]], [[obeservational conditioning]], [[enhancement]]の5つの下位分類を設け、copyingの下に[[imitation]], [[object]] [[movement reenactment]], [[end-state emulation]]の3つを区別している<ref name=ref1><pubmed>15161139</pubmed></ref>。この分類では行為の目的あるいは結果が同じになるように行為することを&lt;end-state emulation&gt;、行為対象物の運動形式が同様になるように行為することを&lt;object movement reenactment&gt;、行為の形式を模倣すること&lt;imitation&gt;と区別している。このように模倣という概念は他者の行為の結果のみを真似するというレベルから運動形式も含めてコピーするというレベルまで含み得る。


 また運動形式の模倣にもいくつかのレベルを認めることが出来る。運動には効果器の選択や運動軌跡に加え、スピード・強度・リズムなどの時間的修飾成分もあり、どの成分をコピーしても文脈に応じて模倣と呼ぶことが可能である。例えば[[音声言語]]の模倣では声色をまねること、話し方をまねること、同じ文を言うこと、同じ内容を言うこと、など全て模倣として認めてもよいだろう。
 また運動形式の模倣にもいくつかのレベルを認めることが出来る。運動には効果器の選択や運動軌跡に加え、スピード・強度・リズムなどの時間的修飾成分もあり、どの成分をコピーしても文脈に応じて模倣と呼ぶことが可能である。例えば[[音声言語]]の模倣では声色をまねること、話し方をまねること、同じ文を言うこと、同じ内容を言うこと、など全て模倣として認めてもよいだろう。
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==動物における模倣==
==動物における模倣==


 動物に模倣能力があることを示す科学的証拠はこれまで少なかった。[[wikipedia:JA:チンパンジー|チンパンジー]]ではヒトと長く接することや訓練により任意の動作の模倣ができるようになったという報告がある。最近では[[共同注視]](joint visual attention)によって[[wikipedia:JA:ニホンザル|ニホンザル]]がヒトの運動の模倣をすることができたという報告<ref><pubmed>14511838</pubmed></ref>や、[[wikipedia:JA:イヌ|イヌ]]にも限定的だが人の系列行動を模倣する能力があることを示した報告がある。ただし、サルや[[霊長類]]においては道具や食料およびそれらを結びつける因果関係に重点があり、他個体が得たのと同様の結果を得るための問題解決行動&lt;emulation&gt;であり、他個体の運動自体をコピーしようとする行為ではないという批判がある<ref>'''Michael Tomasello, Joseph Call'''<br>Primate cognition<br>''Oxford University Press, Oxford'':1997</ref>。さらに批判するならば、動物に模倣が可能かという問は、即時的直接目的を持たない運動をコピーする、いわばコピー自体を目的とする、というゲームのルールが動物に了解されうるか、ということも問われねばならいだろう。文化の伝播を模倣の範疇に入れるならば道具を使用する大型霊長類や[[wikipedia:JA:イルカ|イルカ]]<ref><pubmed>15947077</pubmed></ref>、あるいはイモ洗い文化を持つ[[wikipedia:JA:幸島|幸島]]のニホンザルなど模倣能力があると言える。鳴き鳥・[[wikipedia:JA:オウム|オウム]]・[[wikipedia:JA:ハチドリ|ハチドリ]]などの鳥類、[[wikipedia:JA:コウモリ|コウモリ]]・[[wikipedia:JA:クジラ|クジラ]]目・[[wikipedia:JA:ゾウ|ゾウ]]における音声学習などは模倣による学習と考えられる。  
 動物に模倣能力があることを示す科学的証拠はこれまで少なかった。[[wikipedia:JA:チンパンジー|チンパンジー]]ではヒトと長く接することや訓練により任意の動作の模倣ができるようになったという報告がある。最近では[[共同注視]](joint visual attention)によって[[wikipedia:JA:ニホンザル|ニホンザル]]がヒトの運動の模倣をすることができたという報告<ref><pubmed>14511838</pubmed></ref>や、[[wikipedia:JA:イヌ|イヌ]]にも限定的だが人の系列行動を模倣する能力があることを示した報告<ref><pubmed>17024511</pubmed></ref>がある。ただし、サルや[[霊長類]]においては道具や食料およびそれらを結びつける因果関係に重点があり、他個体が得たのと同様の結果を得るための問題解決行動&lt;emulation&gt;であり、他個体の運動自体をコピーしようとする行為ではないという批判がある<ref>'''Michael Tomasello, Joseph Call'''<br>Primate cognition<br>''Oxford University Press, Oxford'':1997</ref>。さらに批判するならば、動物に模倣が可能かという問は、即時的直接目的を持たない運動をコピーする、いわばコピー自体を目的とする、というゲームのルールが動物に了解されうるか、ということも問われねばならいだろう。文化の伝播を模倣の範疇に入れるならば道具を使用する大型霊長類や[[wikipedia:JA:イルカ|イルカ]]<ref><pubmed>15947077</pubmed></ref>、あるいはイモ洗い文化を持つ[[wikipedia:JA:幸島|幸島]]のニホンザルなど模倣能力があると言える。鳴き鳥・[[wikipedia:JA:オウム|オウム]]・[[wikipedia:JA:ハチドリ|ハチドリ]]などの鳥類、[[wikipedia:JA:コウモリ|コウモリ]]・[[wikipedia:JA:クジラ|クジラ]]目・[[wikipedia:JA:ゾウ|ゾウ]]における音声学習などは模倣による学習と考えられる。  


==ヒトにおける模倣==
==ヒトにおける模倣==
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