「毛様体神経栄養因子」の版間の差分

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 CNTFは過度な光刺激などで障害された網膜棒細胞([[wikipedia:rod_cell|rod cell]])や錐細胞([[wikipedia:cone_cell|cone cell]])の再生を促す活性がある。また網膜神経節細胞([[wikipedia:retinal_ganglion_cell|retinal ganglion cell]])に対しても、栄養因子活性を持ち、視神経の断裂によって生じる[[wikipedia:ja:プログラム細胞死|細胞死]]を抑制し、軸索の再生と伸長を助ける。CNTFがこのような活性を持つことから、その医療への応用が模索されている。しかし、CNTFの投与は網膜棒細胞の分化を抑制する、もしくは[[wikipedia:ja:ロドプシン|ロドプシン]]([[wikipedia:rhodopsin|rhodopsin]])の発現を抑制し、網膜電位([[wikipedia:electroretinography|electroretinography]])の低下がおきる。したがって、CNTF遺伝子を持つウイルス感染による遺伝子導入やCNTF発現細胞の移植などによる継続的なCNTFの供給は視力の回復を妨げるため、一時的かつ比較的低い濃度での供給方法の確立が必要である。また、リン酸化STAT3に対する抗体を使った免疫染色の結果から、このようなCNTFの活性はおもにミュラーグリア([[wikipedia:Muller glia|Muller glia]])に作用しておきる間接的なものと考えられている。
 CNTFは過度な光刺激などで障害された網膜棒細胞([[wikipedia:rod_cell|rod cell]])や錐細胞([[wikipedia:cone_cell|cone cell]])の再生を促す活性がある。また網膜神経節細胞([[wikipedia:retinal_ganglion_cell|retinal ganglion cell]])に対しても、栄養因子活性を持ち、視神経の断裂によって生じる[[wikipedia:ja:プログラム細胞死|細胞死]]を抑制し、軸索の再生と伸長を助ける。CNTFがこのような活性を持つことから、その医療への応用が模索されている。しかし、CNTFの投与は網膜棒細胞の分化を抑制する、もしくは[[wikipedia:ja:ロドプシン|ロドプシン]]([[wikipedia:rhodopsin|rhodopsin]])の発現を抑制し、網膜電位([[wikipedia:electroretinography|electroretinography]])の低下がおきる。したがって、CNTF遺伝子を持つウイルス感染による遺伝子導入やCNTF発現細胞の移植などによる継続的なCNTFの供給は視力の回復を妨げるため、一時的かつ比較的低い濃度での供給方法の確立が必要である。また、リン酸化STAT3に対する抗体を使った免疫染色の結果から、このようなCNTFの活性はおもに[[ミュラーグリア]]([[wikipedia:Muller glia|Muller glia]])に作用しておきる間接的なものと考えられている。




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 ニューロスフェアの培養実験によって、CNTFやLIFが[[神経幹細胞]]の維持と増殖の促進をおこなう活性があることが示されている。このうち、CNTFのノックアウトマウスでは、[[海馬]](hippocampus)の[[歯状回]](dentate gyrus)や大脳側脳室といった生後脳で[[神経新生]]がおきる場所において神経幹細胞や中間増殖細胞の数の減少が見られる<ref><pubmed> 19023034 </pubmed></ref>。一方LIFのノックアウトでは生後脳の神経新生に影響は認められない。上にも述べたようにCNTFはCNTFRα−LIFRβ−gp130という受容体複合体を通してシグナルを伝達するが、LIFもLIFRβ−gp130という共通の受容体を用いるため、培養実験ではCNTFとLIFが同様の活性を持つものの、実際にin vivoで働いているのはCNTFであると思われる。一方CNTFノックアウトマウスの脳の発生は正常であるため、CNTFとLIF両方が胎生期の神経幹細胞の維持と増殖に関わっていると思われる。また、STAT3のコンディショナルノックアウトマウスで歯状回における神経幹細胞/中間増殖細胞の数が減少する<ref><pubmed> 19023034 </pubmed></ref>ことから、STAT遺伝子の中でもSTAT3がCNTFシグナルのエフェクターとして中心的な役割を果たしていると考えられる。
 ニューロスフェアの培養実験によって、CNTFやLIFが[[神経幹細胞]]の維持と増殖の促進をおこなう活性があることが示されている。このうち、CNTFのノックアウトマウスでは、[[海馬]](hippocampus)の[[歯状回]](dentate gyrus)や大脳側脳室といった生後脳で[[神経新生]]がおきる場所において神経幹細胞や中間増殖細胞の数の減少が見られる<ref><pubmed> 19023034 </pubmed></ref>。一方LIFのノックアウトでは生後脳の神経新生に影響は認められない。上にも述べたようにCNTFはCNTFRα−LIFRβ−gp130という受容体複合体を通してシグナルを伝達するが、LIFもLIFRβ−gp130という共通の受容体を用いるため、培養実験ではCNTFとLIFが同様の活性を持つものの、実際にin vivoで働いているのはCNTFであると思われる。一方CNTFノックアウトマウスの脳の発生は正常であるため、CNTFとLIF両方が胎生期の神経幹細胞の維持と増殖に関わっていると思われる。また、STAT3のコンディショナルノックアウトマウスで歯状回における神経幹細胞/中間増殖細胞の数が減少する<ref><pubmed> 19023034 </pubmed></ref>ことから、STAT遺伝子の中でもSTAT3がCNTFシグナルのエフェクターとして中心的な役割を果たしていると考えられる。
 [[黒質]][[線条体]]([[wikipedia:nigrostriatal_pathway|nigrostriatal]])のドーパミン産生ニューロンが大脳[[側脳室]]の神経前駆細胞の増殖を制御しており、ドーパミンの欠乏や神経切断によって増殖が低下する。このことは[[wikipedia:ja:パーキンソン病|パーキンソン病]]患者([[パーキンソン病]]の項参照)でも確認されており、ドーパミンと神経新生の関連が示唆されている。ドーパミンD2受容体の選択的アゴニストであるキンピロール([[wikipedia:quinpirole|quinpirole]])は側脳室や歯状回における細胞増殖を促進するが、この効果がCNTFのノックアウトマウスでは認められない<ref><pubmed> 18305256 </pubmed></ref>。[[黒質]](substantia nigra)ドーパミン産生ニューロンの投射を失わせたマウスではキンピロールによる増殖の回復が見られるが、CNTFノックアウトマウスでは効果が無い<ref><pubmed> 18305256 </pubmed></ref>。これらのことから、ドーパミンによるD2受容体の活性化がCNTFの産生を促進することで、間接的に神経幹細胞/中間増殖細胞の増殖を活性化しているのではないかと考えられている。
 [[黒質]][[線条体]]([[wikipedia:nigrostriatal_pathway|nigrostriatal]])のドーパミン産生ニューロンが大脳[[側脳室]]の[[神経前駆細胞]]の増殖を制御しており、ドーパミンの欠乏や神経切断によって増殖が低下する。このことは[[wikipedia:ja:パーキンソン病|パーキンソン病]]患者([[パーキンソン病]]の項参照)でも確認されており、ドーパミンと神経新生の関連が示唆されている。ドーパミンD2受容体[[wikipedia:dopamine_receptor_D2|dopamine receptor D2]]の選択的アゴニストであるキンピロール([[wikipedia:quinpirole|quinpirole]])は側脳室や歯状回における細胞増殖を促進するが、この効果がCNTFのノックアウトマウスでは認められない<ref><pubmed> 18305256 </pubmed></ref>。[[黒質]](substantia nigra)ドーパミン産生ニューロンの投射を失わせたマウスではキンピロールによる増殖の回復が見られるが、CNTFノックアウトマウスでは効果が無い<ref><pubmed> 18305256 </pubmed></ref>。これらのことから、ドーパミンによるD2受容体の活性化がCNTFの産生を促進することで、間接的に神経幹細胞/中間増殖細胞の増殖を活性化しているのではないかと考えられている。




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