「気づき」の版間の差分

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== 気づきとは ==
== 気づきとは ==


認知神経科学の文脈での「気づき」は英語のawarenssの訳として用いられ、外界の感覚刺激の存在や変化を気づいている状態、意識している状態のことを指す。心の哲学の研究者であるデイヴィッド・J・チャーマーズ<ref name=ref1>'''D.J. Chalmers'''<br>The Conscious Mind: In Search of a Fundamental Theory<br>''Oxford University Press.'': 1996 (2001, 林 一訳 『意識する心』 白揚社)</ref>によれば、
認知神経科学の文脈での「気づき」は英語のawarenssの訳として用いられ、外界の感覚刺激の存在や変化などに気づくこと、あるいは気づいている状態のことを指す。「気づき」awarenessという語は「意識」consciousnessという語としばしば同義に用いられることがあるが、「気づき」という語は[[意識]]のうち、現象的な側面ではなくて心理学的側面、つまり行動を説明づける基盤としての心的概念としての意識を強調するために用いられる。


== 気づきと意識 ==
心の哲学の研究者であるデイヴィッド・J・チャーマーズ<ref name=ref1>'''D.J. Chalmers'''<br>The Conscious Mind: In Search of a Fundamental Theory<br>''Oxford University Press.'': 1996 (2001, 林 一訳 『意識する心』 白揚社)</ref>によれば「気づき」とは、「言葉による報告を含む、行動の意図的なコントロールのために、ある情報に直接的にアクセスできる状態」(訳書p.281より改変)のことを指す。気づきの対象は外界だけではなく、自分の体の状態や、自分の心的状態であることもある。この定義に基づけば、気づきには言語報告は必須ではないため、人間以外の動物にも気づきはあり得る。


「気づき」awarenessという語は「意識」consciousnessという語としばしば同義に用いられることがあるが、
以上のような「何らかの対象に気づいている」(be aware of)という意味での気づきとはべつに、覚醒状態としての気づき(be aware)とがある。状態としての「気づき」は、[[意識障害]]の診断における、[[昏睡]]、[[植物状態]] 、[[最小意識状態]]、[[覚醒状態]]の区別をするための指標<ref><pubmed> 15605342 </pubmed></ref>で定義される。こちらの用法の場合には「気づき」と「意識」とは区別せずに用いられている。


== 気づきの視覚心理学 ==


状態としてのawarenessと
なにか対象に気づいている、という意味での「気づき」を心理学的に研究するためには、主に二つのストラテジーがある。
なにかをawareするという意味でのawareとを区別するべき。
 
* Multistable perception
> [[両眼視野闘争]]([[binocular rivalry]])や[[運動誘発盲]]([[motion-induced blindness]])
* Near-threshold perception
> 閾値近辺での知覚
 
BR
MIB
Inattentional blindness
metacontrast maskingなどのimplicit perception


== 気づきの脳内メカニズム  ==
== 気づきの脳内メカニズム  ==
上記のMultistable perceptionの条件を用いて、ある刺激に気づいているときと気づいていないときとの違いに対応した脳内活動を検出するという試みが数多く為されてきた。<ref><pubmed> 19540794 </pubmed></ref>


JCの論文リストを使う
JCの論文リストを使う
Lammeの仕事
Lammeの仕事


== 気づきのneurology  ==
== 気づきの神経心理 ==
 
盲視
半側空間無視


== 「暗黙の気づき」(Covert awareness) ==
== 「暗黙の気づき」(Covert awareness) ==


[[植物状態]] ([[vegetative state]])での「気づき」を見いだしたもの <ref><pubmed> 16959998 </pubmed></ref>
「気づき」を行動で表すことが出来なくても、脳活動を計測することによってそとからの指示に気づいている証拠を見いだすことが出来る。[[植物状態]] ([[vegetative state]])の患者にテニスをしているところを想像してもらうように指示したところ、[[補足運動野]]([[supplementary motor area]]: [[SMA]])での脳活動の上昇が[[機能的核磁気共鳴画像法]] ([[functional magnetic resonance imaging]]: [[fMRI]])によって検出された<ref><pubmed> 16959998 </pubmed></ref>。この現象のことを「暗黙の気づき」(Covert awareness)<ref><pubmed> 17698699 </pubmed></ref>もしくはCovert consciousness<ref><pubmed> 23351798 </pubmed></ref>と呼ぶことがある。
 
また、[[盲視]]([[blindsight]])や[[閾下知覚]]([[implicit perception]])のことの総称としてcovert awarenessという表現をすることもある<ref><pubmed> 10643478 </pubmed></ref>。しかしこのときのawarenessは[[知覚]]([[perception]])とほとんど同義である。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
*[[意識]]
*[[意識]]
*[[盲視]]
*[[半側空間無視]]


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==

2013年2月26日 (火) 15:42時点における版

英:awareness

類語・同義語:意識、consciousness

(要旨)

気づきとは

認知神経科学の文脈での「気づき」は英語のawarenssの訳として用いられ、外界の感覚刺激の存在や変化などに気づくこと、あるいは気づいている状態のことを指す。「気づき」awarenessという語は「意識」consciousnessという語としばしば同義に用いられることがあるが、「気づき」という語は意識のうち、現象的な側面ではなくて心理学的側面、つまり行動を説明づける基盤としての心的概念としての意識を強調するために用いられる。

心の哲学の研究者であるデイヴィッド・J・チャーマーズ[1]によれば「気づき」とは、「言葉による報告を含む、行動の意図的なコントロールのために、ある情報に直接的にアクセスできる状態」(訳書p.281より改変)のことを指す。気づきの対象は外界だけではなく、自分の体の状態や、自分の心的状態であることもある。この定義に基づけば、気づきには言語報告は必須ではないため、人間以外の動物にも気づきはあり得る。

以上のような「何らかの対象に気づいている」(be aware of)という意味での気づきとはべつに、覚醒状態としての気づき(be aware)とがある。状態としての「気づき」は、意識障害の診断における、昏睡植物状態最小意識状態覚醒状態の区別をするための指標[2]で定義される。こちらの用法の場合には「気づき」と「意識」とは区別せずに用いられている。

気づきの視覚心理学

なにか対象に気づいている、という意味での「気づき」を心理学的に研究するためには、主に二つのストラテジーがある。

  • Multistable perception

> 両眼視野闘争(binocular rivalry)や運動誘発盲(motion-induced blindness)

  • Near-threshold perception

> 閾値近辺での知覚

BR MIB Inattentional blindness metacontrast maskingなどのimplicit perception

気づきの脳内メカニズム

上記のMultistable perceptionの条件を用いて、ある刺激に気づいているときと気づいていないときとの違いに対応した脳内活動を検出するという試みが数多く為されてきた。[3]

JCの論文リストを使う Lammeの仕事

気づきの神経心理

盲視 半側空間無視

「暗黙の気づき」(Covert awareness)

「気づき」を行動で表すことが出来なくても、脳活動を計測することによってそとからの指示に気づいている証拠を見いだすことが出来る。植物状態 (vegetative state)の患者にテニスをしているところを想像してもらうように指示したところ、補足運動野(supplementary motor area: SMA)での脳活動の上昇が機能的核磁気共鳴画像法 (functional magnetic resonance imaging: fMRI)によって検出された[4]。この現象のことを「暗黙の気づき」(Covert awareness)[5]もしくはCovert consciousness[6]と呼ぶことがある。

また、盲視(blindsight)や閾下知覚(implicit perception)のことの総称としてcovert awarenessという表現をすることもある[7]。しかしこのときのawarenessは知覚(perception)とほとんど同義である。

関連項目

参考文献

  1. D.J. Chalmers
    The Conscious Mind: In Search of a Fundamental Theory
    Oxford University Press.: 1996 (2001, 林 一訳 『意識する心』 白揚社)
  2. Giacino, J.T., Kalmar, K., & Whyte, J. (2004).
    The JFK Coma Recovery Scale-Revised: measurement characteristics and diagnostic utility. Archives of physical medicine and rehabilitation, 85(12), 2020-9. [PubMed:15605342] [WorldCat] [DOI]
  3. Sterzer, P., Kleinschmidt, A., & Rees, G. (2009).
    The neural bases of multistable perception. Trends in cognitive sciences, 13(7), 310-8. [PubMed:19540794] [WorldCat] [DOI]
  4. Owen, A.M., Coleman, M.R., Boly, M., Davis, M.H., Laureys, S., & Pickard, J.D. (2006).
    Detecting awareness in the vegetative state. Science (New York, N.Y.), 313(5792), 1402. [PubMed:16959998] [WorldCat] [DOI]
  5. Owen, A.M., Coleman, M.R., Boly, M., Davis, M.H., Laureys, S., & Pickard, J.D. (2007).
    Using functional magnetic resonance imaging to detect covert awareness in the vegetative state. Archives of neurology, 64(8), 1098-102. [PubMed:17698699] [WorldCat] [DOI]
  6. Mashour, G.A., & Avidan, M.S. (2013).
    Capturing covert consciousness. Lancet (London, England), 381(9863), 271-2. [PubMed:23351798] [WorldCat] [DOI]
  7. Cowey, A. (2000).
    MacCurdy and memories: the origins of implicit processing and covert awareness. Brain research bulletin, 50(5-6), 449-50. [PubMed:10643478] [WorldCat] [DOI]

(執筆者:吉田 正俊、担当編集委員:伊佐 正)