「水道周囲灰白質」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/koyamay 小山 純正]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/koyamay 小山 純正]</font><br>
''福島大学 共生システム理工学類''<br>
''福島大学 共生システム理工学類''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年3月4日 原稿完成日:2013年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年3月4日 原稿完成日:2016年6月11日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/keijitanaka 田中 啓治](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/keijitanaka 田中 啓治](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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===構成===
===構成===
 [[第三脳室]]と[[第四脳室]]を結ぶ中脳水道を取り巻く細胞集団<ref name=ref2>'''佐野豊'''<br>神経科学携帯的基礎 Ⅱ脊髄・脳幹 p.763-777<br>''金芳堂'':1999</ref> 。
 [[第三脳室]]と[[第四脳室]]を結ぶ中脳水道を取り巻く細胞集団<ref name=ref2>'''佐野豊'''<br>神経科学 形態学的基礎 Ⅱ脊髄・脳幹 p.763-777<br>''金芳堂'':1999</ref> 。


 内側、外側、背側に分けられ、種によってはさらに細分される。明確な境界はないが、前後軸にそったカラム状の機能単位が存在する。一方、PAGの吻側の被蓋領域には、正中腹側部に、[[Darkschewisch核]]、[[動眼神経副核]]、[[Edinger-Westphal核]]、さらに[[動眼神経核]]、[[滑車神経核]]など、[[眼球運動]]や[[瞳孔反射]]に関連するニューロン群が分布する。その尾側には[[セロトニン]]作動性ニューロンを豊富に含む[[背側縫線核]]が、腹外側部には[[アセチルコリン]]作動性ニューロンの局在する[[外背側被蓋核]]が拡がる。背側縫線核、外背側被蓋核は、構造的には中脳水道周囲に位置しPAGに含まれるが、明確な細胞集団を形成し、PAGとは異なる細胞群として扱われることが多い。これらの詳細については、「縫線核」「睡眠制御の神経回路」などを参照して欲しい。
 内側、外側、背側に分けられ、種によってはさらに細分される。明確な境界はないが、前後軸にそったカラム状の機能単位が存在する。一方、PAGの吻側の被蓋領域には、正中腹側部に、[[Darkschewisch核]]、[[動眼神経副核]]、[[Edinger-Westphal核]]、さらに[[動眼神経核]]、[[滑車神経核]]など、[[眼球運動]]や[[瞳孔反射]]に関連するニューロン群が分布する。その尾側には[[セロトニン]]作動性ニューロンを豊富に含む[[背側縫線核]]が、腹外側部には[[アセチルコリン]]作動性ニューロンの局在する[[外背側被蓋核]]が拡がる。背側縫線核、外背側被蓋核は、構造的には中脳水道周囲に位置しPAGに含まれるが、明確な細胞集団を形成し、PAGとは異なる細胞群として扱われることが多い。これらの詳細については、「縫線核」「睡眠制御の神経回路」などを参照して欲しい。
 
 
=== 線維連絡 ===
=== 線維連絡 ===
====入力====
====入力====
 大脳辺縁系([[海馬]]、[[扁桃体]])、視床下部、[[不確帯]]、[[分界条床核]]、[[脚傍核]]などから、情動やそれに伴う自律神経性の入力を受ける<ref name=ref2 />。特に情動の発現に関連する大脳辺縁系と密接な線維連絡がある。[[上丘]]、[[脳幹網様体]]、[[三叉神経脊髄路核]]、[[脊髄]]などからは、自律神経性入力に加え、[[痛覚]]や[[体性感覚]]などの感覚性入力を受ける。[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]、[[wikipedia:ja:ウサギ|ウサギ]]、[[wikipedia:ja:ネコ|ネコ]]では、[[一次運動野]]から運動情報の入力を受ける。[[wikipedia:ja:サル|サル]]では、[[前運動野]]/[[補足運動野]]([[6野]])、[[前頭眼野]]([[8野]])、[[前頭前野]]([[9野]])、[[前頭極]]([[10野]])からの入力を受ける。
 大脳辺縁系([[海馬]]、[[扁桃体]])、視床下部、[[不確帯]]、[[分界条床核]]、[[脚傍核]]などから、情動やそれに伴う自律神経性の入力を受ける<ref name=ref2 />。特に情動の発現に関連する大脳辺縁系と密接な線維連絡がある。[[上丘]]、[[脳幹網様体]]、[[三叉神経脊髄路核]]、[[脊髄]]などからは、自律神経性入力に加え、[[痛覚]]や[[体性感覚]]などの感覚性入力を受ける。[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]、[[wikipedia:ja:ウサギ|ウサギ]]、[[wikipedia:ja:ネコ|ネコ]]では、[[一次運動野]]から運動情報の入力を受ける。[[wikipedia:ja:サル|サル]]では、[[前運動野]]/[[補足運動野]]([[6野]])、[[前頭眼野]]([[8野]])、[[前頭前野]]([[9野]])、[[前頭極]]([[10野]])からの入力を受ける。


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====出力====  
====出力====  
 視床下部、不確帯、脳幹網様体、上丘、[[外側脚傍核]]、縫線核群、脊髄などに投射する。これらの領域との結合はいずれも双方向性であり、これらの領域から受け取るさまざまな情報を統合して、適切な行動や自律神経系活動を発現させるための情報を送り返している。
 視床下部、不確帯、脳幹網様体、上丘、[[外側脚傍核]]、縫線核群、脊髄などに投射する。これらの領域との結合はいずれも双方向性であり、これらの領域から受け取るさまざまな情報を統合して、適切な行動や自律神経系活動を発現させるための情報を送り返している。
 
=== おもな神経伝達物質===
=== おもな神経伝達物質===
 PAGのニューロンは、主な興奮性伝達物質としてグルタミン酸、抑制性伝達物質として[[GABA]]、[[グリシン]]をもつ<ref>'''遠山正彌 編'''<br>分子脳・神経機能解剖学 3章 脳の構造と化学的神経回路 B延髄・橋・中脳 p.59-113<br>''金芳堂'':2004</ref> 。表1に示すように、さまざまなペプタイドを含有するニューロンと、その受容体を発現するニューロンが分布する。  
 PAGのニューロンは、主な興奮性伝達物質としてグルタミン酸、抑制性伝達物質として[[GABA]]、[[グリシン]]をもつ。表1に示すように、さまざまなペプタイドを含有するニューロンと、その受容体を発現するニューロンが分布する<ref>'''遠山正彌 編'''<br>分子脳・神経機能解剖学 3章 脳の構造と化学的神経回路 B延髄・橋・中脳 p.59-113<br>''金芳堂'':2004</ref> 


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| [[ソマトスタチン]]  
| [[ソマトスタチン]]  
| style="text-align:center" | SOM  
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| [[コレシストキニン]]  
| [[コレシストキニン]]  
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| style="text-align:center" | +([[CCK-A]])
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存在が確認されているペプタイドニューロンの細胞体、神経線維、[[受容体]]のサブタイプを示す。
存在が確認されているペプタイドニューロンの細胞体、神経線維、[[受容体]]のサブタイプを示す。
<references group="註"/>


== おもな機能 ==
== おもな機能 ==
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 PAGの広範な領域の電気刺激によって痛覚抑制効果が得られる。PAGの痛覚抑制系には、PAGから[[視床]]に投射する上行性抑制系と延髄に投射する下行性抑制系がある。
 PAGの広範な領域の電気刺激によって痛覚抑制効果が得られる。PAGの痛覚抑制系には、PAGから[[視床]]に投射する上行性抑制系と延髄に投射する下行性抑制系がある。


 上行性抑制系で、背側縫線核からのセロトニン作動性ニューロンと、その周辺の非セロトニン作動性ニューロンが、視床の腹側基底核群や髄板内核群の侵害受容ニューロンを抑制することによって痛覚抑制を引き起こす。
 上行性抑制系では、背側縫線核からのセロトニン作動性ニューロンと、その周辺の非セロトニン作動性ニューロンが、視床の腹側基底核群や髄板内核群の侵害受容ニューロンを抑制することによって痛覚抑制を引き起こす。


 下行性抑制系は、背内側部(dmPAG)、腹外側部(vlPAG)から[[吻側延髄腹内側部]](rostroventromedial medulla; RVM)に投射する。主にグルタミン酸作動性であり、RVMの脊髄投射ニューロンを活性化する。 
 下行性抑制系は、背内側部(dmPAG)、腹外側部(vlPAG)から[[吻側延髄腹内側部]](rostroventromedial medulla; RVM)に投射する。主にグルタミン酸作動性であり、RVMの脊髄投射ニューロンを活性化する。 
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 情動の中枢とされる大脳辺縁系(海馬、扁桃体、[[中隔核]])から直接に、あるいは視床下部を介して入力を受ける<ref name=ref7><pubmed>11263761</pubmed></ref>。
 情動の中枢とされる大脳辺縁系(海馬、扁桃体、[[中隔核]])から直接に、あるいは視床下部を介して入力を受ける<ref name=ref7><pubmed>11263761</pubmed></ref>。


 [[扁桃体基底核群]](basal complex)からPAGへの直接の入力は防衛/威嚇反応を促進し、[[扁桃体中心核]](central amygdale)からの入力は、防御/威嚇反応を抑制する<ref name=ref8><pubmed>7633640</pubmed></ref>。扁桃体内側核(medial amygdala)は、視床下部内側部を介して、防御/威嚇反応を促進し、攻撃行動を抑制するく<ref name=ref8 />。視床下部外側部からの入力は攻撃反応を促進する<ref name=ref8 />。
 [[扁桃体基底核群]](basal complex)からPAGへの直接の入力は防衛/威嚇反応を促進し、[[扁桃体中心核]](central amygdale)からの入力は、防御/威嚇反応を抑制する<ref name=ref8><pubmed>7633640</pubmed></ref>。扁桃体内側核(medial amygdala)は、視床下部内側部を介して、防御/威嚇反応を促進し、攻撃行動を抑制する<ref name=ref8 />。視床下部外側部からの入力は攻撃反応を促進する<ref name=ref8 />。


 これらの系の活性化には、主にグルタミン酸作動性ニューロンが関与しており、背側PAGへのセロトニン入力は、[[5HT1Aレセプター]]を介して防御反応の抑制を引き起こす<ref><pubmed>1410130</pubmed></ref>。
 これらの系の活性化には、主にグルタミン酸作動性ニューロンが関与しており、背側PAGへのセロトニン入力は、[[5HT1Aレセプター]]を介して防御反応の抑制を引き起こす<ref><pubmed>1410130</pubmed></ref>。
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=== 体温調節 ===
=== 体温調節 ===
 体温調節中枢である視索前野/前視床下部(POA/AH)には、脳温の変化によって活動の変化する温度感受性ニューロンが存在し、直接、あるいは視床下部背内側核(DMH)を介してPAGに作用し、適切な体温調節反応を起こすと考えられている<ref>'''入来正躬'''<br>体温調節中枢. 体温生理学テキストp.110-117<br>文光堂:2003</ref> <ref><pubmed>15190110</pubmed></ref>。一方、DMHからの下行路に関しては、PAGを介さず直接延髄(淡蒼縫線核)に投射する系も明らかになり、議論が分かれている<ref><pubmed>15927405</pubmed></ref>。
 体温調節中枢である視索前野/前視床下部(POA/AH)には、脳温の変化によって活動の変化する温度感受性ニューロンが存在し、直接、あるいは視床下部背内側核(DMH)を介してPAGに作用し、適切な体温調節反応を起こすと考えられている<ref>'''入来正躬'''<br>体温調節中枢. 体温生理学テキストp.110-117<br>文光堂:2003</ref> <ref name=ref><pubmed>15927405</pubmed></ref>。一方、DMHからの下行路に関しては、PAGを介さず直接延髄(淡蒼縫線核)に投射する系も明らかになり、議論が分かれている<ref><pubmed>24981837</pubmed></ref>。


=== 呼吸・発声===
=== 呼吸・発声===
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=== 睡眠・覚醒 ===
=== 睡眠・覚醒 ===
 レム睡眠の発現は、橋被蓋領域のレム睡眠中枢に存在するアセチルコリン作動性ニューロンとグルタミン酸作動性ニューロンによって調節されているが、PAG腹外側部のGABA作動性ニューロンはこのレム睡眠中枢に投射し、覚醒時に活動してレム睡眠の発現を抑制する<ref><pubmed>22647467</pubmed></ref>]。
 レム睡眠の発現は、橋被蓋領域のレム睡眠中枢に存在するアセチルコリン作動性ニューロンとグルタミン酸作動性ニューロンによって調節されているが、PAG腹外側部のGABA作動性ニューロンはこのレム睡眠中枢に投射し、覚醒時に活動してレム睡眠の発現を抑制する<ref><pubmed>22083642</pubmed></ref>]。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==

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