「水道周囲灰白質」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
30行目: 30行目:
=== 痛覚抑制作用 ===
=== 痛覚抑制作用 ===


 PAGの広範な領域の電気刺激によって痛覚抑制効果が得られる。PAGの痛覚抑制系には、PAGから視床に投射する上行性抑制系と延髄に投射する下行性抑制系がある。上行性抑制系は、背側縫線核からのセロトニン作動性ニューロンと、その周辺の非セロトニン作動性ニューロンが、視床の腹側基底核群や髄板内核群の侵害受容ニューロンを抑制することによって痛覚抑制を引き起こす。下行性抑制系は、背内側部(dmPAG)、腹外側部(vlPAG)から吻側延髄腹内側部 (rostroventromedial medulla; RVM) に投射する。主にグルタミン酸作動性であり、RVMの脊髄投射ニューロンを活性化する。 RVMには、セロトニン作動性ニューロンを含む大縫線核(Raphe Magnus: RMn)、非セロトニン作動性の巨大細胞網様核、傍巨大細胞網様核などが存在し、これらのニューロンが脊髄後核の侵害受容ニューロンを抑制する<ref name=ref1> 横田勝一 <br> 鎮痛機構. 臨床医のための痛みのメカニズム 第2版 p.71-89 <br> 南江堂:1997</ref>。
 PAGの広範な領域の電気刺激によって痛覚抑制効果が得られる。PAGの痛覚抑制系には、PAGから視床に投射する上行性抑制系と延髄に投射する下行性抑制系がある。上行性抑制系は、背側縫線核からのセロトニン作動性ニューロンと、その周辺の非セロトニン作動性ニューロンが、視床の腹側基底核群や髄板内核群の侵害受容ニューロンを抑制することによって痛覚抑制を引き起こす。下行性抑制系は、背内側部(dmPAG)、腹外側部(vlPAG)から吻側延髄腹内側部 (rostroventromedial medulla; RVM) に投射する。主にグルタミン酸作動性であり、RVMの脊髄投射ニューロンを活性化する。 RVMには、セロトニン作動性ニューロンを含む大縫線核(Raphe Magnus: RMn)、非セロトニン作動性の巨大細胞網様核(nucleus gigantocellularis: nGi)、傍巨大細胞網様核(nucleus paragigantocellularis: nPGi)などが存在し、これらのニューロンが脊髄後核の侵害受容ニューロンを抑制する<ref name=ref1> 横田勝一 <br> 鎮痛機構. 臨床医のための痛みのメカニズム 第2版 p.71-89 <br> 南江堂:1997</ref>。


 PAGの痛覚抑制ニューロンは、PAG内のGABA作動性ニューロンの抑制を受けている。視床下部から投射するβエンドルフィン作動性ニューロン、PAG内のエンケファリン作動性ニューロンなどのオピエート系は、このGABA作動性ニューロンを抑制することにより痛覚抑制を引き起こす<ref name=ref1 />。エンドカンナビノイド系も、このGABA作動性ニューロンの作用(GABA放出)を抑えることにより、あるいはRVMに投射するグルタミン酸作動性ニューロンを活性化することにより痛覚抑制を引き起こす<ref><pubmed>18077685</pubmed></ref>。ニューロテンシン作動性ニューロンは、エンドカンナビノイド系を介してGABA作動性ニューロンを抑制<ref><pubmed>19359367</pubmed></ref>、あるいはRMnに投射するグルタミン酸作動性ニューロンを直接活性化する<ref><pubmed>11287471</pubmed></ref>。サブスタンスP、コレシストキニンも、ニューロテンシンと同様のメカニズムで痛覚抑制に関与する<ref><pubmed>19494144</pubmed></ref><ref><pubmed>21525858</pubmed></ref>。  
 PAGの痛覚抑制ニューロンは、PAG内のGABA作動性ニューロンの抑制を受けている。視床下部から投射するβエンドルフィン作動性ニューロン、PAG内のエンケファリン作動性ニューロンなどのオピエート系は、このGABA作動性ニューロンを抑制することにより痛覚抑制を引き起こす<ref name=ref1 />。エンドカンナビノイド系も、このGABA作動性ニューロンの作用(GABA放出)を抑えることにより、あるいはRVMに投射するグルタミン酸作動性ニューロンを活性化することにより痛覚抑制を引き起こす<ref><pubmed>18077685</pubmed></ref>。ニューロテンシン作動性ニューロンは、エンドカンナビノイド系を介してGABA作動性ニューロンを抑制<ref><pubmed>19359367</pubmed></ref>、あるいはRMnに投射するグルタミン酸作動性ニューロンを直接活性化する<ref><pubmed>11287471</pubmed></ref>。サブスタンスP、コレシストキニンも、ニューロテンシンと同様のメカニズムで痛覚抑制に関与する<ref><pubmed>19494144</pubmed></ref><ref><pubmed>21525858</pubmed></ref>。  
63行目: 63行目:
 PAGからは、Botzinger complex, 後疑核(retroambiguus nucleus), 孤束核(nucleus tractus solitarius)など、延髄の呼吸ニューロン群に直接の投射があり、呼吸リズムの修飾、状況に応じたさまざまな呼吸パターンの発現に関与する。PAGのさまざまな領域をグルタミン酸作動薬で刺激すると、例えば、PAGの背内側部からは深呼吸や呼吸停止(dyspnea)、背外側部からは頻呼吸(tachypnea)、内側部からは持続性吸息(inspiratory apneusis)など、さまざまな呼吸パターンが誘発される<ref><pubmed>19020021</pubmed></ref>。
 PAGからは、Botzinger complex, 後疑核(retroambiguus nucleus), 孤束核(nucleus tractus solitarius)など、延髄の呼吸ニューロン群に直接の投射があり、呼吸リズムの修飾、状況に応じたさまざまな呼吸パターンの発現に関与する。PAGのさまざまな領域をグルタミン酸作動薬で刺激すると、例えば、PAGの背内側部からは深呼吸や呼吸停止(dyspnea)、背外側部からは頻呼吸(tachypnea)、内側部からは持続性吸息(inspiratory apneusis)など、さまざまな呼吸パターンが誘発される<ref><pubmed>19020021</pubmed></ref>。


 一方発声は、呼吸運動にも密接に関連し、呼吸筋・補助呼吸筋と発声筋の協調運動によって起こる。PAGによって、呼吸運動から発声への切り替わりが起こる。外側PAG、腹外側PAGやその外側の中脳網様体への電気刺激によって、種特異的な、さまざまな発声パターンが誘発される<ref><pubmed> 9631474</pubmed></ref><ref name=ref26><pubmed>7945960</pubmed></ref>。発声に関しては、PAGから後疑核(retroambiguus nucleus)への投射が重要な役割を果たす<ref name=ref27><pubmed>10906701</pubmed></ref>。後疑核からは、発声筋を支配する種々の運動神経群(三叉神経核、顔面神経核、舌下神経核、擬核)に投射している<ref name=ref27 />。上丘(視覚)、下丘(聴覚)、三叉神経脊髄路核(痛み)、などからの感覚性入力、大脳辺縁系(前帯状皮質、中隔、偏桃体)や大脳基底核、視床下部、視床正中部などの発声誘発領域からPAGへの入力は、情動に伴う発声、あるいは随意性の発声に重要な役割を果たす<ref name=ref26 />。
 一方発声は、呼吸運動にも密接に関連し、呼吸筋・補助呼吸筋と発声筋の協調運動によって起こる。PAGによって、呼吸運動から発声への切り替わりが起こる。外側PAG、腹外側PAGやその外側の中脳網様体への電気刺激によって、種特異的な、さまざまな発声パターンが誘発される<ref><pubmed> 9631474</pubmed></ref><ref name=ref26><pubmed>7945960</pubmed></ref>。発声に関しては、PAGから後疑核(retroambiguus nucleus)への投射が重要な役割を果たす<ref name=ref27><pubmed>10906701</pubmed></ref>。後疑核からは、発声筋を支配する種々の運動神経群(三叉神経核、顔面神経核、舌下神経核、擬核)に投射している<ref name=ref27 />。上丘、下丘、三叉神経脊髄路核などからの感覚性入力、大脳辺縁系(前帯状皮質、中隔、偏桃体)や大脳基底核、視床下部、視床正中部などの発声誘発領域からPAGへの入力は、情動に伴う発声、あるいは随意性の発声に重要な役割を果たす<ref name=ref26 />。


 PAGへの入力系は、主にグルタミン酸作動性であり、PAGニューロンは、この興奮性入力に加えGABA作動性の抑制を持続的に受けている<ref name=ref26 />。また、Glysine, opioidも抑制性の、アセチルコリン、ヒスタミンは促進性の修飾作用を及ぼす<ref name=ref26 />。
 発声に関しては、グルタミン酸の促進性作用、GABAの抑制性作用に加え、アセチルコリン、ヒスタミンは促進性に、グリシン、オピエートは抑制性に作用する<ref name=ref26 />。




75行目: 75行目:
 PAGからnPGiへの投射ニューロンの多くは、ステロイドホルモン゙(エストロゲン、アンドロゲン)のレセプターを発現しており、この系の活性化は、ステロイドホルモンに強く依存する<ref><pubmed>11536188</pubmed></ref>。
 PAGからnPGiへの投射ニューロンの多くは、ステロイドホルモン゙(エストロゲン、アンドロゲン)のレセプターを発現しており、この系の活性化は、ステロイドホルモンに強く依存する<ref><pubmed>11536188</pubmed></ref>。


PAGでは、さまざまなペプタイドが、ロードシスの修飾に関与している。LHRH、プロラクチン、サブスタンスPは促進的に<ref><pubmed>6339979</pubmed></ref><ref><pubmed>6828874</pubmed></ref><ref><pubmed>2441308</pubmed></ref>、CRF,βエンドルフィンは、抑制的に作用する<ref><pubmed>6209590</pubmed></ref><ref><pubmed>2860950</pubmed></ref>。
 ロードシスに対して、LHRH、プロラクチン、サブスタンスPは促進的に<ref><pubmed>6339979</pubmed></ref><ref><pubmed>6828874</pubmed></ref><ref><pubmed>2441308</pubmed></ref>、CRF,βエンドルフィンは、抑制的に作用する<ref><pubmed>6209590</pubmed></ref><ref><pubmed>2860950</pubmed></ref>。