「注意のモデル」の版間の差分

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 非注意刺激が行動成績に影響を与えなければ初期選択の裏付けだと解釈された。一方で、フランカ効果やストループ効果のように、非注意刺激が行動成績に影響を与える場合は後期選択を支持と解釈された。機能的核磁気共鳴画像(fMRI)を用いた研究では、一次視覚野<ref name=Somers1999><pubmed>9990081</pubmed></ref>(Somers, Dale, Seiffert, & Tootell 1999)や外側膝状体<ref name=O'Connor2002><pubmed>12379861</pubmed></ref>(O'Connor, Fukui, Pinsk, & Kastner 2002)でも初期選択を裏付ける注意選択の効果が観察されている。さらに、事象関連電位(event related potential: ERP)の最初期成分であるC1に刺激呈示後の非常に早い段階(50ms)で注意の変調が起こることが示されている<ref name=Zhang2012><pubmed>22243756</pubmed></ref>(Zhang, Zhaoping, Zhou, and Fang 2012)。ただし、注意選択はこうした初期段階での信号増幅だけでなく、複数の段階で作用しうる。半側無視に関する神経心理研究によれば、無視された刺激であっても、顔か否かといったカテゴリ分類程度の比較的高度な処理まで進んでいることを示す知見がある<ref name=Vuilleumier2001><pubmed>11248106</pubmed></ref>(Vuilleumier et al., 2001)。
 非注意刺激が行動成績に影響を与えなければ初期選択の裏付けだと解釈された。一方で、フランカ効果やストループ効果のように、非注意刺激が行動成績に影響を与える場合は後期選択を支持と解釈された。機能的核磁気共鳴画像(fMRI)を用いた研究では、一次視覚野<ref name=Somers1999><pubmed>9990081</pubmed></ref>(Somers, Dale, Seiffert, & Tootell 1999)や外側膝状体<ref name=O'Connor2002><pubmed>12379861</pubmed></ref>(O'Connor, Fukui, Pinsk, & Kastner 2002)でも初期選択を裏付ける注意選択の効果が観察されている。さらに、事象関連電位(event related potential: ERP)の最初期成分であるC1に刺激呈示後の非常に早い段階(50ms)で注意の変調が起こることが示されている<ref name=Zhang2012><pubmed>22243756</pubmed></ref>(Zhang, Zhaoping, Zhou, and Fang 2012)。ただし、注意選択はこうした初期段階での信号増幅だけでなく、複数の段階で作用しうる。半側無視に関する神経心理研究によれば、無視された刺激であっても、顔か否かといったカテゴリ分類程度の比較的高度な処理まで進んでいることを示す知見がある<ref name=Vuilleumier2001><pubmed>11248106</pubmed></ref>(Vuilleumier et al., 2001)。


 課題の性質によって選択の水準は変動しうる。負荷が高く、特定の位置や特徴に強い焦点的注意を必要とする課題では初期選択、広めの注意の焦点化で遂行できる課題では後期選択となる。Lavie & Dalton (2014) <ref name=Lavie2014>'''Lavie, N., & Dalton, P. (2014).'''<br>Load theory of attention and cognitive control. The Oxford handbook of attention, 56-75. [https://doi.org/10.1093/oxfordhb/9780199675111.013.003 PDF]</ref>
 課題の性質によって選択の水準は変動しうる。負荷が高く、特定の位置や特徴に強い焦点的注意を必要とする課題では初期選択、広めの注意の焦点化で遂行できる課題では後期選択となる。Lavie & Dalton (2014) <ref name=Lavie2014>'''Lavie, N., & Dalton, P. (2014).'''<br>Load theory of attention and cognitive control. The Oxford handbook of attention, 56-75. [https://doi.org/10.1093/oxfordhb/9780199675111.013.003 PDF]</ref>は負荷理論を提案した。知覚能力の限界に達したときに知覚処理は選択的になると考え、課題要求が容量限界を超えるほど高いとき、課題非関連な項目は処理されず、結果としてうまく無視でき、初期選択が可能となる。一方、知覚負荷が低い課題の場合、残りの容量は自動的に課題非関連の妨害刺激の処理に割り当てられ、結果として干渉が生じ、後期選択となる。このように、負荷理論は課題の知覚負荷に応じて選択の水準が変動することを示唆し、初期・後期選択論争の解決策を提案している。
は負荷理論を提案した。知覚能力の限界に達したときに知覚処理は選択的になると考え、課題要求が容量限界を超えるほど高いとき、課題非関連な項目は処理されず、結果としてうまく無視でき、初期選択が可能となる。一方、知覚負荷が低い課題の場合、残りの容量は自動的に課題非関連の妨害刺激の処理に割り当てられ、結果として干渉が生じ、後期選択となる。このように、負荷理論は課題の知覚負荷に応じて選択の水準が変動することを示唆し、初期・後期選択論争の解決策を提案している。
[[ファイル:横澤 注意のモデル Fig6.png|サムネイル|'''図1.XXXXXXX'''<br>'''上''' 典型的な初期選択モデルであるBroadbent (1958) <ref name=Broadbent1958 />のフィルタモデル。感覚器から得られた情報は物理特性などの特徴に基づいて選択フィルタで選択され、容量に限界のある知覚システムで分析される。この内容に基づいて反応が出力される。<br>'''下''' 典型的な後期選択モデルであるNorman (1968) <ref name=Norman1968 />の選択と注意のモデル。物理的入力と適切さの両方に基づいて、どの項目をさらなる処理の対象とするかが決まる。感覚入力は分析され、記憶にある表象を活性化させる。この分析結果は期待や過去の経験とともにその事態で最も適切だと考えられる表象を決定する。最大の賦活度をもつものがその後の分析の対象として選択される。]]


図1 上 典型的な初期選択モデルであるBroadbent (1958) <ref name=Broadbent1958 />のフィルタモデル。感覚器から得られた情報は物理特性などの特徴に基づいて選択フィルタで選択され、容量に限界のある知覚システムで分析される。この内容に基づいて反応が出力される。<br>下 典型的な後期選択モデルであるNorman (1968) <ref name=Norman1968 />の選択と注意のモデル。物理的入力と適切さの両方に基づいて、どの項目をさらなる処理の対象とするかが決まる。感覚入力は分析され、記憶にある表象を活性化させる。この分析結果は期待や過去の経験とともにその事態で最も適切だと考えられる表象を決定する。最大の賦活度をもつものがその後の分析の対象として選択される。
==バイアス競合理論==
==バイアス競合理論==