灰白質

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渡辺 雅彦
北海道大学大学院医学研究科解剖学講座
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年6月14日 原稿完成日:2013年XX月XX日
担当編集委員:林 康紀(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)

 灰白質(かいはくしつ)とは、脳と脊髄からなる中枢神経系組織の中で、ニューロン(神経細胞)の細胞体が集まる領域を指す。灰白質は、大脳や小脳では表層を占め、大脳皮質や小脳皮質とよばれる(図を参照)。脊髄では灰白質は深層を占め、その位置により前角、側角、後角と命名されている。その他の神経領域では、関与する神経機能と投射関係の違いに応じてニューロンが別々の集団を形成し、神経核を形成する。例えば、線条体にドーパミン作動性投射を行って随意運動を調節するニューロンは中脳腹側部に集まって黒質を形成し、顔面の表情筋にアセチルコリン作動性投射を行って瞬目反射や口唇の運動を制御するニューロンは橋腹側部に集まり、顔面神経核を形成する。一方、ニューロンの細胞体に乏しく主に神経線維(軸索)が走行している領域を白質とよぶ。中脳から脊髄上部にかけては、灰白質と白質が渾然となった領域も有り、網様体とよばれる。

図.灰白質
矢印の範囲が大脳皮質(灰白質)

 ニューロンは、神経情報の入力部となる樹状突起、核を保有する細胞体、神経情報の出力部となる軸索、神経伝達物質を貯蔵し放出する終末部の4つの基本的構成からなる。このうち、灰白質や神経核は、細胞体と樹状突起と終末部が豊富な部位である。細胞体では、核に収納されたゲノム上の遺伝子から蛋白への転写・翻訳を活発に行い、タンパク質の分解も活発に行われる。樹状突起や細胞体の表面には、終末部がシナプスを形成し、ニューロン間の情報伝達や統合も活発に行われる。このように、灰白質や神経核は、ニューロンの代謝や情報処理の中心となる神経領域であり、fMRIやPETなどによる脳機能画像において神経活動の亢進や低下として描出される。灰白質を免疫組織化学法により検出するには、ニューロンの細胞体や樹状突起に選択的な分子(例えば、微小管関連蛋白MAP2など)や終末部に選択的な分子(シナプス小胞関連分子のシナプトフィジンなど)に対する特異抗体を用いるとよい。灰白質には軸索も存在するが、その存在量は白質に及ばない。

 灰白質、白質の名前の由来は、中枢神経組織の断面を肉眼的に観察したとき、白質は明るく光るような白色をしているのに対し、灰白質は白質よりも色が濃く灰色がかって見えることによる。この色の違いは、白質には有髄神経線維を包むミエリン鞘が大量に存在していることによる。