「無意識」の版間の差分

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''東京大学 先端科学技術研究センター 認知科学分野 ''<br>
''東京大学 先端科学技術研究センター 認知科学分野 ''<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2013年6月27日 原稿完成日:2013年XX月XX日<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2013年6月27日 原稿完成日:2013年XX月XX日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0048432 定藤 規弘](自然科学研究機構 生理学研究所 大脳皮質機能研究系)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0048432 定藤 規弘](自然科学研究機構 生理学研究所 [[大脳皮質]]機能研究系)<br>
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== 歴史的変遷 ==
== 歴史的変遷 ==


 無意識・[[潜在意識]](あるいは類似)の概念は古来からあったものの、学術的かつ日常的な単語として一般的に広がる一つのきっかけなったのは、[[wikipedia:Ja:ジークムント・フロイト|Freud]]であると言われている<ref name=ref2>'''竹田青嗣、山竹伸二''' 著<br>『フロイト思想を読む―無意識の哲学』<br>''日本放送出版協会NHKブックス''、2008年</ref>。自分の[[行動]]・[[認知]]・[[思考]]が自分の知り得ない過程によって影響を受けているという考え方は、あらゆる学問分野に影響を与えた。心理学・行動科学においては、[[Watson]]や[[Skinner]]らの行動主義心理学が心的過程を観測不能なものとし、特に主観的意識を研究の射程から積極的に排除することを目指したが<ref name=ref3>'''宇津木保、うつきただし''' 訳<br>『心理学的ユートピア』<br>''誠信書房''、1969年<br>原書:Walden Two, 1948. ISBN 0-02-411510-X.</ref>、それに対する部分的な批判としての情報処理心理学・認知心理学<ref name=ref4>'''Neisser,U'''<br>Cognitive psychology<br>''Appleton-Century-Crofts'', New York, 1967<br> (大羽蓁訳、認知心理学、誠信書房、1987)</ref>の台頭は、再び心的過程(意識)を研究の対象とすることを可能にし、必然的に無意識も研究の俎上にのせられることとなった。
 無意識・[[潜在意識]](あるいは類似)の概念は古来からあったものの、学術的かつ日常的な単語として一般的に広がる一つのきっかけなったのは、[[wikipedia:Ja:ジークムント・フロイト|Freud]]であると言われている<ref name=ref2>'''竹田青嗣、山竹伸二''' 著<br>『フロイト思想を読む―無意識の哲学』<br>''日本放送出版協会NHKブックス''、2008年</ref>。自分の[[行動]]・[[認知]]・[[思考]]が自分の知り得ない過程によって影響を受けているという考え方は、あらゆる学問分野に影響を与えた。心理学・行動科学においては、[[wj:ジョン・ワトソン (心理学)|Watson]]や[[wj:バラス・スキナー|Skinner]]らの行動主義心理学が心的過程を観測不能なものとし、特に主観的意識を研究の射程から積極的に排除することを目指したが<ref name=ref3>'''宇津木保、うつきただし''' 訳<br>『心理学的ユートピア』<br>''誠信書房''、1969年<br>原書:Walden Two, 1948. ISBN 0-02-411510-X.</ref>、それに対する部分的な批判としての情報処理心理学・認知心理学<ref name=ref4>'''Neisser,U'''<br>Cognitive psychology<br>''Appleton-Century-Crofts'', New York, 1967<br> (大羽蓁訳、認知心理学、誠信書房、1987)</ref>の台頭は、再び心的過程(意識)を研究の対象とすることを可能にし、必然的に無意識も研究の俎上にのせられることとなった。


== 無意識と観察者 ==
== 無意識と観察者 ==
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== 無意識とコントロール ==
== 無意識とコントロール ==


 無意識を議論する際には、意思による操作(コントロール)が可能かどうかという観点もしばしば取り入れられる。例えば、複雑な行動や精緻な動作を学習([[手続き学習]])する場合、初期段階では学習前の行動や動作を引きずっていたり複数動作の協調がうまく行えないために、「やるべき事は分かっているのにできない」状態になる。しかし、何度もくり返すことによって習慣化された行動に関しては、細かな意識的コントロールなしに遂行できるようになり、「どうやってやっているのかは説明できないけどできる」状態になる。両方とも、自己の意思によるコントロールからの逸脱を観察することによって、無意識的過程が存在することが推測されている。また、多くの人が感情や情動の自己操作は難しいと感じている。このような意思や知識によるトップダウン的なコントロールの困難さは、他にも、[[錯覚]]などの[[知覚]]現象、ステレオタイプや社会的偏見などにも広く見られ、コントロール可能性と無意識の概念は分けて考えることはできない。
 無意識を議論する際には、意思による操作(コントロール)が可能かどうかという観点もしばしば[[取り入れ]]られる。例えば、複雑な行動や精緻な動作を学習([[手続き学習]])する場合、初期段階では学習前の行動や動作を引きずっていたり複数動作の協調がうまく行えないために、「やるべき事は分かっているのにできない」状態になる。しかし、何度もくり返すことによって習慣化された行動に関しては、細かな意識的コントロールなしに遂行できるようになり、「どうやってやっているのかは説明できないけどできる」状態になる。両方とも、自己の意思によるコントロールからの逸脱を観察することによって、無意識的過程が存在することが推測されている。また、多くの人が感情や情動の自己操作は難しいと感じている。このような意思や知識によるトップダウン的なコントロールの困難さは、他にも、[[錯覚]]などの[[知覚]]現象、ステレオタイプや社会的偏見などにも広く見られ、コントロール可能性と無意識の概念は分けて考えることはできない。


== 内容の無意識性/関係性の無意識性/過程の無意識性 ==
== 内容の無意識性/関係性の無意識性/過程の無意識性 ==


 気づき(awareness)を心理物理学的に計測するときには[[閾値]]が使われることが多いが、閾下知覚(subliminal perception)や[[盲視]](blindsight)のような現象に見られるように、意識にのぼらなかったコンテンツ(内容)の影響が、行動や他の判断などに現れることがある<ref name=ref5>'''下條信輔'''<br>『サブリミナル・マインド—潜在的人間観のゆくえ』<br>''中央公論社''、1996</ref>。この場合無意識的なのは刺激の内容ということになるが、多くの場合気づかれなかった内容が、行動に判断に影響を与えているという関係性にも、またそれが「なぜ/どのように」影響を与えているのかというプロセス(過程)も意識されず、主に判断や行動の結果のみが意識上に存在することが多い。日常生活における多くの複雑な判断(感性判断・好みの判断など)においては、内容の無意識性よりも、関係性・過程の無意識性のに関連する現象が多く存在する<ref name=ref6>'''Nisbett, R. & Wilson, T.'''<br>Telling More than we can Know: Verbal reports on mental processes.<br>''Psychological Review'' 84, 231-259. 1977</ref>。
 気づき(awareness)を心理物理学的に計測するときには[[閾値]]が使われることが多いが、閾下知覚(subliminal [[perception]])や[[盲視]]([[blindsight]])のような現象に見られるように、意識にのぼらなかったコンテンツ(内容)の影響が、行動や他の判断などに現れることがある<ref name=ref5>'''下條信輔'''<br>『サブリミナル・マインド—潜在的人間観のゆくえ』<br>''中央公論社''、1996</ref>。この場合無意識的なのは刺激の内容ということになるが、多くの場合気づかれなかった内容が、行動に判断に影響を与えているという関係性にも、またそれが「なぜ/どのように」影響を与えているのかというプロセス(過程)も意識されず、主に判断や行動の結果のみが意識上に存在することが多い。日常生活における多くの複雑な判断(感性判断・好みの判断など)においては、内容の無意識性よりも、関係性・過程の無意識性のに関連する現象が多く存在する<ref name=ref6>'''Nisbett, R. & Wilson, T.'''<br>Telling More than we can Know: Verbal reports on mental processes.<br>''Psychological Review'' 84, 231-259. 1977</ref>。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==