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(ページの作成:「英語名 : tonotopy   聴覚系のニューロンが音の周波数に選択性があり、最も敏感に反応する周波数のことを特徴周波数と呼ば...」)
 
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== 定義 ==
== 定義 ==


 周波数地図は聴覚系の神経細胞の性質を純音刺激に対する反応で特徴づける場合に生じた概念である。ある周波数の純音において、音圧を徐々に上昇させ、細胞活動が初めて変化を示す音圧のことを閾値音圧と呼ばれる。周波数に従って閾値音圧が変化する様子を示す曲線がその細胞の周波数同調曲線と呼ばれる。周波数同調曲線が蝸牛神経のレベルまで、左右非対称なV字型で、低い周波数側に伸びている。蝸牛神経核とそれ以降のレベルでは、V字型以外に抑制性回路の働きで菱型の曲線も見られる。周波数同調曲線の最も低い部位が対応する周波数、即ち閾値音圧が最も低い周波数のことをその細胞の特徴周波数と呼ばれる。周波数地図は神経細胞がその特徴周波数の高低順に空間的に規則正しく配置されていることを意味する。周波数地図の替わりに、周波数局在、トノトピーなどの言葉も同義で使われている。
 ある周波数の純音において、音圧を徐々に上昇させ、細胞活動が初めて変化を示す音圧のことを閾値音圧と呼ばれる。周波数に従って閾値音圧が変化する様子を示す曲線がその細胞の周波数同調曲線と呼ばれる。周波数同調曲線が蝸牛神経のレベルまで、左右非対称なV字型で、低い周波数側に伸びている。蝸牛神経核とそれ以降のレベルでは、V字型以外に抑制性回路の働きで菱型の曲線も見られる。周波数同調曲線の最も低い部位が対応する周波数、即ち閾値音圧が最も低い周波数のことをその細胞の特徴周波数と呼ばれる。周波数地図は神経細胞がその特徴周波数の高低順に空間的に規則正しく配置されていることを意味する。周波数地図の替わりに、周波数局在、トノトピーなどの言葉も同義で使われている。


== 聴覚路で見られる部位 ==
== 聴覚路で見られる部位 ==
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== 起源 ==
== 起源 ==


 周波数地図の起源は内耳である。音刺激に対して蝸牛基底膜に、基底部から蝸牛孔に向かう進行波が生じ、その最大振幅が音の周波数に従って特定の部位で生じることで周波数地図が生まれる<ref name=ref1>'''Békésy von G.'''<br>Experiments in hearing. <br>New York: McGraw Hill, 1960</ref>
 周波数地図の起源は内耳である。音刺激に対して蝸牛基底膜に、基底部から蝸牛孔に向かう進行波が生じ、その最大振幅が音の周波数に従って特定の部位で生じることで周波数地図が生まれる<ref name=ref1>'''Békésy von G.'''<br>Experiments in hearing. <br>New York: McGraw Hill, 1960</ref>。このことが生じる原因として、基底部から蝸牛孔に向かうに従って、基底膜の共振周波数が徐々に低くなることと、基底膜隣接部位間の機械的カップリングによるとされている<ref name=ref1 />。また、外有毛細胞の電位依存性伸縮が基底膜の周波数同調曲線の先鋭化に非常に重要な働きをしており、その基盤にある電位感受性モータータンパクのprestinも同定されている<ref name=ref3><pubmed>1464757</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>10821263</pubmed></ref>。蝸牛以降の聴覚路において、周波数地図が保存されるのは、上位中枢への投射に常にトポグラフィーが存在するためである<ref name=ref6>'''Møller AR.'''<br>Hearing.<br> Amsterdam: Academic Press, 2006</ref>。 
 
 このことが生じる原因として、基底部から蝸牛孔に向かうに従って、基底膜の共振周波数が徐々に低くなることと、基底膜隣接部位間の機械的カップリングによるとされている<ref name=ref1 />。また、外有毛細胞の電位依存性伸縮が基底膜の周波数同調曲線の先鋭化に非常に重要な働きをしており、その基盤にある電位感受性モータータンパクのprestinも同定されている<ref name=ref3><pubmed>1464757</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>10821263</pubmed></ref>。蝸牛以降の聴覚路において、周波数地図が保存されるのは、上位中枢への投射に常にトポグラフィーが存在するためである<ref name=ref6>'''Møller AR.'''<br>Hearing.<br> Amsterdam: Academic Press, 2006</ref>。 


== 機能 ==
== 機能 ==
 
 
 任意波形を周波数成分に分解するフーリエ変換が信号処理の分野で中心的な役割を果たすように、周波数地図が聴覚生理学における中心的な概念である。その存在は、聴覚系が音声情報を周波数帯域ごとに分解し、並列処理を行っていることを示している。周波数地図がピッチ受容や周波数弁別の神経基盤の一つを構成するのみならず、人工内耳の設計に重要な指針を与えている。一方、フーリエ変換の場合、逆変換で元の信号を復元できるが、周波数地図から神経活動のパタンを推定し、音声波形を復元することは出来ない。事実、周波数地図から音刺激に対する神経活動のパタンを推定することすらできない。
 任意波形を周波数成分に分解するフーリエ変換が信号処理の分野で中心的な役割を果たすように、周波数地図が聴覚生理学における中心的な概念である。その存在は、聴覚系が音声情報を周波数帯域ごとに分解し、並列処理を行っていることを示している。周波数地図がピッチ受容や周波数弁別の神経基盤の一つを構成するのみならず、人工内耳の設計に重要な指針を与えている。一方、フーリエ変換の場合、逆変換で元の信号を復元できるが、周波数地図から神経活動のパタンを推定し、音声波形を復元することは出来ない。事実、周波数地図から音刺激に対する神経活動のパタンを推定することすらできない。その理由として、
 
 その理由として、
#特徴周波数は実験上定義されているもので、実際の音環境では音圧は閾値音圧より数十デシベルも高い。
#特徴周波数は実験上定義されているもので、実際の音環境では音圧は閾値音圧より数十デシベルも高い。
#音圧の変化に対する聴覚系の応答は非線形的である。音圧を固定して周波数ごとの反応を調べて、最も良く反応する周波数を最適周波数(Best frequency; BF)と呼ばれるが、BFは音圧に依存することが知られている<ref name=ref7><pubmed>5000366</pubmed></ref>。
#音圧の変化に対する聴覚系の応答は非線形的である。音圧を固定して周波数ごとの反応を調べて、最も良く反応する周波数を最適周波数(Best frequency; BF)と呼ばれるが、BFは音圧に依存することが知られている<ref name=ref7><pubmed>5000366</pubmed></ref>。