「Rhoファミリー低分子量Gタンパク質」の版間の差分

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=== Rhoエフェクター<br> ===
=== Rhoエフェクター<br> ===


 Rhoの活性化はアクチン重合促進とミオシン軽鎖活性化によるアクトミオシン束の形成を誘導する<ref name="ref18"><pubmed>9247125</pubmed></ref>。Rhoによるアクチン細胞骨格制御にはROCK(Rho kinase; Rho-associated kinase)とmDiaの二つのエフェクター分子が主要な役割を担う<ref name="ref19"><pubmed>19160018</pubmed></ref>。<br> ROCKは活性型Rhoにより活性化されるserine/threonine kinaseで、キナーゼ領域以外にcoiled-coil領域、Rho結合領域、PH領域からなる。数多くの基質が知られているが、このうちアクチン細胞骨格制御に関わるものはミオシン軽鎖(myosin light chain; MLC)とミオシン軽鎖脱リン酸化酵素(myosin light chain phosphatase; MLCP)である。ROCKによるMLCリン酸化はMLCを活性化し、アクトミオシン束の形成を促す<ref name="ref20"><pubmed>8702756</pubmed></ref>。また、ROCKによるMLCPのリン酸化はMLCPの酵素活性を阻害することで、間接的にMLCリン酸化を促進する<ref name="ref21"><pubmed>8662509</pubmed></ref> <ref name="ref22"><pubmed>9353125</pubmed></ref>。さらに、ROCKはLIMキナーゼ(LIM kinase)を活性化してcofilinのリン酸化を促し、cofilinによるアクチン脱重合を阻害する<ref name="ref23"><pubmed>10436159</pubmed></ref>。また、ROCKは脱リン酸化酵素PTENの活性も増強する<ref name="ref24"><pubmed>15793569</pubmed></ref>。フォスファチジルイノシトール三リン酸PtdIns(3,4,5)P3の局在は、細胞遊走や突起伸展における細胞極性の形成に不可欠である。PTENはPtdIns(3,4,5)P3を脱リン酸化してPtdIns(4,5)P2に変換することから、細胞極性の形成におけるRho-ROCK-PTEN経路の関与が示唆される<ref name="ref24" />。<br> mDiaは異なる遺伝子でコードされるmDia1、mDia2、mDia3の三つのアイソフォームからなり、mDia1とmDia3が脳内では強く発現する<ref name="ref25"><pubmed>22246438</pubmed></ref>。いずれもプロフィリンと結合するFH1ドメインとアクチン重合促進に必須のFH2ドメインを持つ<ref name="ref26"><pubmed>17373907</pubmed></ref>。不活性化状態ではN末端のDia inhibitory domain (DID)とC末端のDiaphanous autoregulatory domain (DAD)の間で分子内結合を形成するが、活性型RhoがDIDの近傍にあるRho結合ドメインに結合することでDID-DAD間の分子間結合が解除される。これにより、mDiaはプロフィリンと単量体アクチンの複合体に結合してアクチン重合核を形成し、さらにアクチン線維の反矢じり端(barbed end)に単量体アクチンを付加して、直鎖状のアクチン線維の重合を促す<ref name="ref26" /> <ref name="ref27"><pubmed>15044801</pubmed></ref>。<br>線維芽細胞株で見られるRho活性化によるアクトミオシン束の形成には、ROCKによるミオシン活性化とmDiaによる直鎖状アクチン線維形成の両者が不可欠である<ref name="ref28"><pubmed>10559899</pubmed></ref>。また、mDiaはアクチン線維形成に加えて、微小管の安定化や配向の制御にも関わる<ref name="ref29"><pubmed>11483957</pubmed></ref> <ref name="ref30"><pubmed>11146620</pubmed></ref>。特にmDia2は微小管のプラス端に結合するEB1やAPCに結合して、微小管の安定性を制御することが示唆されている<ref name="ref31"><pubmed>15311282</pubmed></ref>。  
 Rhoの活性化はアクチン重合促進とミオシン軽鎖活性化によるアクトミオシン束の形成を誘導する<ref name="ref18"><pubmed>9247125</pubmed></ref>。Rhoによるアクチン細胞骨格制御にはROCK(Rho kinase; Rho-associated kinase)とmDiaの二つのエフェクター分子が主要な役割を担う<ref name="ref19"><pubmed>19160018</pubmed></ref>。<br> ROCKは活性型Rhoにより活性化されるserine/threonine kinaseで、キナーゼ領域以外にcoiled-coil領域、Rho結合領域、PH領域からなる。数多くの基質が知られているが、このうちアクチン細胞骨格制御に関わるものはミオシン軽鎖(myosin light chain; MLC)とミオシン軽鎖脱リン酸化酵素(myosin light chain phosphatase; MLCP)である。ROCKによるMLCリン酸化はMLCを活性化し、アクトミオシン束の形成を促す<ref name="ref20"><pubmed>8702756</pubmed></ref>。また、ROCKによるMLCPのリン酸化はMLCPの酵素活性を阻害することで、間接的にMLCリン酸化を促進する<ref name="ref21"><pubmed>8662509</pubmed></ref> <ref name="ref22"><pubmed>9353125</pubmed></ref>。さらに、ROCKはLIMキナーゼ(LIM kinase)を活性化してcofilinのリン酸化を促し、cofilinによるアクチン脱重合を阻害する<ref name="ref23"><pubmed>10436159</pubmed></ref>。また、ROCKは脱リン酸化酵素PTENの活性も増強する<ref name="ref24"><pubmed>15793569</pubmed></ref>。フォスファチジルイノシトール三リン酸PtdIns(3,4,5)P3の局在は、細胞遊走や突起伸展における細胞極性の形成に不可欠である。PTENはPtdIns(3,4,5)P3を脱リン酸化してPtdIns(4,5)P2に変換することから、細胞極性の形成におけるRho-ROCK-PTEN経路の関与が示唆される<ref name="ref24" />。<br> mDiaは異なる遺伝子でコードされるmDia1、mDia2、mDia3の三つのアイソフォームからなり、mDia1とmDia3が脳内では強く発現する<ref name="ref25"><pubmed>22246438</pubmed></ref>。いずれもプロフィリンと結合するFH1ドメインとアクチン重合促進に必須のFH2ドメインを持つ<ref name="ref26"><pubmed>17373907</pubmed></ref>。不活性化状態ではN末端のDia inhibitory domain (DID)とC末端のDiaphanous autoregulatory domain (DAD)の間で分子内結合を形成するが、活性型RhoがDIDの近傍にあるRho結合ドメインに結合することでDID-DAD間の分子間結合が解除される。これにより、mDiaはプロフィリンと単量体アクチンの複合体に結合してアクチン重合核を形成し、さらにアクチン線維の反矢じり端(barbed end)に単量体アクチンを付加して、直鎖状のアクチン線維の重合を促す<ref name="ref26" /> <ref name="ref27"><pubmed>15044801</pubmed></ref>。<br> 線維芽細胞株で見られるRho活性化によるアクトミオシン束の形成には、ROCKによるミオシン活性化とmDiaによる直鎖状アクチン線維形成の両者が不可欠である<ref name="ref28"><pubmed>10559899</pubmed></ref>。また、mDiaはアクチン線維形成に加えて、微小管の安定化や配向の制御にも関わる<ref name="ref29"><pubmed>11483957</pubmed></ref> <ref name="ref30"><pubmed>11146620</pubmed></ref>。特にmDia2は微小管のプラス端に結合するEB1やAPCに結合して、微小管の安定性を制御することが示唆されている<ref name="ref31"><pubmed>15311282</pubmed></ref>。  


=== Rac/Cdc42エフェクター<br> ===
=== Rac/Cdc42エフェクター<br> ===
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=== 神経突起の伸展<br> ===
=== 神経突起の伸展<br> ===


 神経突起の形成と伸長は、突起先端の成長円錐でのアクチン細胞骨格の再編成と、それに引き続く微小管の配向、安定化を必要とする。PC12やN1E-115など神経様細胞株を用いた解析から、Rhoの活性化は突起伸展を抑制し、Rac及びCdc42の活性化は突起伸展を促進することが示された<ref name="ref60"><pubmed>10594018</pubmed></ref> <ref name="ref61"><pubmed>11279039</pubmed></ref>。初代培養神経細胞においても、Rho、Rac、Cdc42は同様の作用を示す<ref name="ref62"><pubmed>15630019</pubmed></ref>。Rhoによる突起伸展抑制にはROCKが重要な働きを担う<ref name="ref62" />。Rho-ROCKの活性化は成長円錐におけるアクトミオシン束を増強することが報告されている<ref name="ref63"><pubmed>14659092</pubmed></ref>。また、Rho-ROCK経路による突起伸展抑制には、LIM kinaseによるアクチン脱重合抑制が関与することも示唆されている<ref name="ref64"><pubmed>10839361</pubmed></ref>。突起伸展に伴い、ROCKは軸索伸展に不可欠なCRMP-2をリン酸化して、その機能を抑制する<ref name="ref65"><pubmed>16260611</pubmed></ref>。一方、初代培養神経細胞では、SDF-1α投与による突起伸展促進におけるmDiaの重要性が示唆されているが<ref name="ref66"><pubmed>12707308</pubmed></ref> <ref name="ref67"><pubmed>18701697</pubmed></ref>、生理的な突起伸展制御におけるmDiaの役割は不明である。Racによる突起伸展促進作用には、WAVE-Arp2/3による成長円錐のラメリポディア形成の役割が示唆されている<ref name="ref34" />。Cdc42による神経突起伸展にはN-WASP-Arp2/3が関与する<ref name="ref68"><pubmed>10766829</pubmed></ref>。<br> 上記の研究は主に軸索を対象として行われてきたが、同様のRho familyの役割が樹状突起の形成においても示されている<ref name="ref62" />。すなわち、Rho-ROCKの活性化は樹状突起の形成を抑制し、すでに形成された樹状突起を単純化させる。一方、Racは樹状突起の形成に促進的に働く。Cdc42も樹状突起の形成に促進的に働くことが報告されてはいるが、抑制に働くとする報告もある。<br> 細胞外刺激による神経突起伸展におけるRho familyの制御機構についても研究が進んでいる。神経突起伸展に伴うRhoの活性抑制には、別のRho familyタンパク質であるRndが重要な働きを持つことが示されている。例えばRnd3/RhoEの遺伝子欠損マウス由来の海馬初代培養神経細胞では、Rho-ROCKの活性亢進により神経突起の数や長さが減少する<ref name="ref69"><pubmed>22428561</pubmed></ref>。PC12細胞では、FGF刺激による神経突起伸展促進におけるRnd1の関与も示されている<ref name="ref70"><pubmed>11095956</pubmed></ref>。Rnd1とRnd3はp190RhoGAPによりRhoの不活性化を促すことから<ref name=fer71/>、この作用が突起伸展を促進する可能性が考えられる。神経突起伸展に伴うRacの活性化には、別のRho familyタンパクであるRhoGの関与が報告されている<ref name="ref71"><pubmed>12879077</pubmed></ref>。RhoGは足場タンパクElmoとRac GEFのDock180と三量体を形成しているが、NGF受容体の活性化はTrioを介しRhoGを活性化し、これがElmo-Dock180を介したRac活性化を促す<ref name="ref71" />。<br> 神経活動はNMDA受容体活性化による樹状突起伸展を促すが、この作用にはRhoAの抑制とRac、Cdc42の活性化の関与が示唆されている。海馬初代培養神経細胞では、NMDA受容体活性化が細胞内Ca2+依存的にTiam1をリン酸化し、これがRacの活性化を介して樹状突起伸展を促進することが示唆されている<ref name="ref72"><pubmed>15721239</pubmed></ref>。また、海馬初代培養神経細胞では、BDNFによる樹状突起伸展の促進にCLICKIII/CaMKIγが重要であること、この下流でRac GEFのSTEFによるRac活性化が関わることが示唆されている<ref name="ref73"><pubmed>17553424</pubmed></ref>。  
 神経突起の形成と伸長は、突起先端の成長円錐でのアクチン細胞骨格の再編成と、それに引き続く微小管の配向、安定化を必要とする。PC12やN1E-115など神経様細胞株を用いた解析から、Rhoの活性化は突起伸展を抑制し、Rac及びCdc42の活性化は突起伸展を促進することが示された<ref name="ref60"><pubmed>10594018</pubmed></ref> <ref name="ref61"><pubmed>11279039</pubmed></ref>。初代培養神経細胞においても、Rho、Rac、Cdc42は同様の作用を示す<ref name="ref62"><pubmed>15630019</pubmed></ref>。Rhoによる突起伸展抑制にはROCKが重要な働きを担う<ref name="ref62" />。Rho-ROCKの活性化は成長円錐におけるアクトミオシン束を増強することが報告されている<ref name="ref63"><pubmed>14659092</pubmed></ref>。また、Rho-ROCK経路による突起伸展抑制には、LIM kinaseによるアクチン脱重合抑制が関与することも示唆されている<ref name="ref64"><pubmed>10839361</pubmed></ref>。突起伸展に伴い、ROCKは軸索伸展に不可欠なCRMP-2をリン酸化して、その機能を抑制する<ref name="ref65"><pubmed>16260611</pubmed></ref>。一方、初代培養神経細胞では、SDF-1α投与による突起伸展促進におけるmDiaの重要性が示唆されているが<ref name="ref66"><pubmed>12707308</pubmed></ref> <ref name="ref67"><pubmed>18701697</pubmed></ref>、生理的な突起伸展制御におけるmDiaの役割は不明である。Racによる突起伸展促進作用には、WAVE-Arp2/3による成長円錐のラメリポディア形成の役割が示唆されている<ref name="ref34" />。Cdc42による神経突起伸展にはN-WASP-Arp2/3が関与する<ref name="ref68"><pubmed>10766829</pubmed></ref>。<br> 上記の研究は主に軸索を対象として行われてきたが、同様のRho familyの役割が樹状突起の形成においても示されている<ref name="ref62" />。すなわち、Rho-ROCKの活性化は樹状突起の形成を抑制し、すでに形成された樹状突起を単純化させる。一方、Racは樹状突起の形成に促進的に働く。Cdc42も樹状突起の形成に促進的に働くことが報告されてはいるが、抑制に働くとする報告もある。<br> 細胞外刺激による神経突起伸展におけるRho familyの制御機構についても研究が進んでいる。神経突起伸展に伴うRhoの活性抑制には、別のRho familyタンパク質であるRndが重要な働きを持つことが示されている。例えばRnd3/RhoEの遺伝子欠損マウス由来の海馬初代培養神経細胞では、Rho-ROCKの活性亢進により神経突起の数や長さが減少する<ref name="ref69"><pubmed>22428561</pubmed></ref>。PC12細胞では、FGF刺激による神経突起伸展促進におけるRnd1の関与も示されている<ref name="ref70"><pubmed>11095956</pubmed></ref>。Rnd1とRnd3はp190RhoGAPによりRhoの不活性化を促すことから<ref name="ref13" />、この作用が突起伸展を促進する可能性が考えられる。神経突起伸展に伴うRacの活性化には、別のRho familyタンパクであるRhoGの関与が報告されている<ref name="ref71"><pubmed>12879077</pubmed></ref>。RhoGは足場タンパクElmoとRac GEFのDock180と三量体を形成しているが、NGF受容体の活性化はTrioを介しRhoGを活性化し、これがElmo-Dock180を介したRac活性化を促す<ref name="ref71" />。<br> 神経活動はNMDA受容体活性化による樹状突起伸展を促すが、この作用にはRhoAの抑制とRac、Cdc42の活性化の関与が示唆されている。海馬初代培養神経細胞では、NMDA受容体活性化が細胞内Ca2+依存的にTiam1をリン酸化し、これがRacの活性化を介して樹状突起伸展を促進することが示唆されている<ref name="ref72"><pubmed>15721239</pubmed></ref>。また、海馬初代培養神経細胞では、BDNFによる樹状突起伸展の促進にCLICKIII/CaMKIγが重要であること、この下流でRac GEFのSTEFによるRac活性化が関わることが示唆されている<ref name="ref73"><pubmed>17553424</pubmed></ref>。  


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