「閉じ込め症候群」の版間の差分

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== 病態生理 ==
== 病態生理 ==
[[image:閉じ込め症候群.png|thumb|350px|'''図.''']]
[[image:閉じ込め症候群.png|thumb|350px|'''図. 閉じ込め症候群での障害部位。'''<br>橋腹側には随意運動を支配する神経の主要経路である錘体路が走行する。この部位の障害により、三叉神経(V)以下の脳脊髄神経の下行路が障害される。一方、背側の感覚などを上向性に伝える求心性線維の束である脊髄視床路、脳幹網様体の上行性網様体賦活系は障害されないため、体性感覚や意識は保たれる。[[動眼神経]](Ⅲ)、[[滑車神経]](Ⅳ)は中脳にあるため障害されず、眼球の上下運動(水平運動はできない)とまばたき(上眼瞼の運動)は可能である。]]


 橋腹側部が広範囲に障害されることによって生じる。
 橋腹側部が広範囲に障害されることによって生じる。[[脳底動脈]]閉塞による橋の[[脳梗塞]]が原因であることが圧倒的に多いが、稀に[[脳幹]]部[[腫瘍]]、[[膿瘍]]、[[脳炎]]、外傷によってもおこる。


 脳幹は上方より中脳・橋・延髄から構成されるので、橋は上方に中脳、下方で延髄につながっている。中脳はさらに上方で大脳、延髄は下方では脊髄につながっている。橋腹側には[[大脳皮質]]の運動野から始まる遠心性線維の束である錘体路が走行する。この錘体路は随意運動を支配する神経の主要経路である。背側には感覚などを上向性に伝える求心性線維の束である脊髄視床路が走行する。また、背側の脳幹網様体には、上行性網様体賦活系という意識の覚醒に重要な関与をしているシステムが存在する。[[脳神経]]では[[三叉神経]](Ⅴ)、[[外転神経]](Ⅵ)、[[顔面神経]](Ⅶ)、聴神経(Ⅷ)が存在する。ちなみに中脳には[[動眼神経]](Ⅲ)、[[滑車神経]](Ⅳ)が存在する。
 橋腹側には[[大脳皮質]]の[[一次運動野|運動野]]から始まる遠心性線維の束である[[錘体路]]が走行する(図)。この錘体路は[[随意運動]]を支配する神経の主要経路である。[[脳神経]]では[[三叉神経]](Ⅴ)、[[外転神経]](Ⅵ)、[[顔面神経]](Ⅶ)、[[聴神経]](Ⅷ)が存在する。そのため橋腹側部の障害により、[[四肢麻痺]](両側[[錘体路障害]])、[[無言]](両側下位[[皮質球路障害]])が生じる。[[動眼神経]](Ⅲ)、[[滑車神経]](Ⅳ)は中脳にあるため障害されず、このため眼球の上下運動(水平運動はできない)とまばたき(上眼瞼の運動)のみ可能である。


 脳底動脈閉塞による橋の脳梗塞が原因であることが圧倒的に多いが、稀に脳幹部腫瘍、膿瘍、脳炎、外傷によってもおこる。前述の橋の構造からもわかるように、四肢麻痺(両側錘体路障害)、無言(両側下位皮質球路障害)が生じる。動眼神経(Ⅲ)、滑車神経(Ⅳ)は中脳にあるため障害されず、このため眼球の上下運動(水平運動はできない)とまばたき(上眼瞼の運動)のみ可能である。また、橋背側部に脳幹網様体と求心性線維が存在しているため感覚は正常、意識は清明である。(図)したがって、自己と外界との意思疎通は、まばたきまたは眼球運動をもってのみ可能である。
 背側には感覚などを上向性に伝える求心性線維の束である[[脊髄視床路]]が走行する。また、背側の[[脳幹網様体]]には、[[上行性網様体賦活系]]という意識の覚醒に重要な関与をしているシステムが存在する。橋腹側部に病変が限局すると、背側部の脳幹網様体と求心性線維は保たれるため感覚は正常、意識は清明である。したがって、自己と外界との意思疎通は、まばたきまたは眼球運動をもってのみ可能である。


== 経過と予後 ==
== 経過と予後 ==

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