「腸管神経系」の版間の差分

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===筋層間神経叢===
===筋層間神経叢===
[[image:腸管神経系3.png|thumb|300px|'''図3.筋層間神経叢(写真)'''<br>モルモット遠位結腸縦走筋‐筋層間神経叢のホールマウント標本を蛍光免疫染色した。<br>A: 神経性NO 合成酵素(NOS)に対する特異的抗体を一次抗体とした。図中の白線は 500 μm を意味する。<br>B: NOS (緑)と NPY (赤)の二重染色。NOS 陽性神経の細胞体と神経線維、NPY 陽性の神経膨隆部がみられる。図中の白線は 100 μm を意味する。
[[image:腸管神経系3.png|thumb|300px|'''図3.筋層間神経叢(写真)'''<br>モルモット遠位結腸縦走筋‐筋層間神経叢のホールマウント標本を蛍光免疫染色した。<br>A: 神経性NO 合成酵素(NOS)に対する特異的抗体を一次抗体とした。図中の白線は 500 μm を意味する。<br>B: NOS (緑)と NPY (赤)の二重染色。NOS 陽性神経の細胞体と神経線維、NPY 陽性の神経膨隆部がみられる。図中の白線は 100 μm を意味する。
<ref name=ref3'''>唐木晋一郎、桑原厚和'''<br>大腸の腸管神経系 -腸管神経細胞の携帯・機能的分類と神経回路-<br>''Foods & Food Ingredients Journal of Japan'', 212(12):1044-1053, 2007.</ref>より引用]]
<ref name=ref3>'''唐木晋一郎、桑原厚和'''<br>大腸の腸管神経系 -腸管神経細胞の携帯・機能的分類と神経回路-<br>''Foods & Food Ingredients Journal of Japan'', 212(12):1044-1053, 2007.</ref>より引用]]


 筋層間神経叢は輪走筋と縦走筋にはさまれて存在する(図2、3)<ref name=ref3 />。この神経叢は消化管壁内で環状の神経ネットワークを構築すると共に、食道から肛門までの消化管全長にわたる長軸方向にも連続したネットワークを構築している。
 筋層間神経叢は輪走筋と縦走筋にはさまれて存在する(図2、3)<ref name=ref3 />。この神経叢は消化管壁内で環状の神経ネットワークを構築すると共に、食道から肛門までの消化管全長にわたる長軸方向にも連続したネットワークを構築している。
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===グリア細胞===
===グリア細胞===
 腸管神経叢の神経細胞や神経線維を支持している多数のグリア細胞はDogielにより1899年に初めて記載されたが<ref name=ref21><pubmed></pubmed></ref>、1970年代に電子顕微鏡レベルでの解析がなされるまで、その詳細については明らかにされなかった<ref name=ref22><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref23><pubmed></pubmed></ref>。しかしながら、ここ数年、腸管グリアに関しての形態的及び機能的知見が集積しはじめ、消化管機能との関連について注目が集まってきている。
 腸管神経叢の神経細胞や神経線維を支持している多数のグリア細胞はDogielにより1899年に初めて記載されたが<ref name=ref21>'''Dogiel A.S.'''<br>Ȕber den Bau der Ganglien in den Geflechten des Darmes und der Gallenblase des Menschen des Säugetiere. <br>Arch. Anat. Physiol. Leipzig Anat. Abt. Jg., 130-158, 1899.</ref>、1970年代に電子顕微鏡レベルでの解析がなされるまで、その詳細については明らかにされなかった<ref name=ref22><pubmed>4335909</pubmed></ref> <ref name=ref23><pubmed>7219723</pubmed></ref>。しかしながら、ここ数年、腸管グリアに関しての形態的及び機能的知見が集積しはじめ、消化管機能との関連について注目が集まってきている。


 現在のところ、[[カルシウム]]結合タンパクであるS100<ref name=ref24><pubmed></pubmed></ref>やglial fibrillary acidic protein(GFAP)<ref name=ref25><pubmed></pubmed></ref>およびSOX8、SOX9あるいはSOX10<ref name=ref26><pubmed></pubmed></ref>などの転写因子を発現する細胞を腸管グリアと呼んでおり、電気生理学的特性が中枢神経系のアストログリアと極めて類似している<ref name=ref27><pubmed></pubmed></ref>。神経細胞よりわずかに多い腸管グリアは腸管神経叢ばかりでなく、粘膜の直下にある結合組織にも存在する<ref name=ref28><pubmed></pubmed></ref>。腸管グリア細胞はその形態的特徴と分布域から少なくとも4種類に区別することができる<ref name=ref28 />。
 現在のところ、[[カルシウム]]結合タンパクであるS100<ref name=ref24><pubmed>7043279</pubmed></ref>やglial fibrillary acidic protein(GFAP)<ref name=ref25><pubmed>6997753</pubmed></ref>およびSOX8、SOX9あるいはSOX10<ref name=ref26><pubmed>18512230</pubmed></ref>などの転写因子を発現する細胞を腸管グリアと呼んでおり、電気生理学的特性が中枢神経系のアストログリアと極めて類似している<ref name=ref27><pubmed>10762619</pubmed></ref>。神経細胞よりわずかに多い腸管グリアは腸管神経叢ばかりでなく、粘膜の直下にある結合組織にも存在する<ref name=ref28><pubmed>22890111</pubmed></ref>。腸管グリア細胞はその形態的特徴と分布域から少なくとも4種類に区別することができる<ref name=ref28 />。


 粘膜直下に存在する腸管グリアはS100とGFAPを含んでおり、上皮細胞の[[分化]]やバリアー機能に重要な因子(S-nitrosoglutathione, 15-deoxy-Δ-12,14-prostaglandin J2(15-d-PGJ)、transforming growth factor β1、proepidermal growth factor)を分泌する<ref name=ref28 />。腸管グリアと腸管神経細胞の連絡はconnexin-43が関与する細胞内カルシウム濃度の上昇を介して行われる<ref name=ref29><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref30><pubmed></pubmed></ref>。腸管神経の保護や再生に関与している腸管グリア<ref name=ref31><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref32><pubmed></pubmed></ref>には、多くの神経伝達物質受容体や神経調節物質受容体も発現しているため、神経から放出される伝達物質にも反応する<ref name=ref29 /> <ref name=ref33><pubmed></pubmed></ref>。すなわち、腸管神経から放出されたATPが腸管グリア上のP2受容体に結合して腸管グリアを活性化させたり、腸管グリアの減少が消化管運動の減弱を引き起こす<ref name=ref34><pubmed></pubmed></ref>。
 粘膜直下に存在する腸管グリアはS100とGFAPを含んでおり、上皮細胞の[[分化]]やバリアー機能に重要な因子(S-nitrosoglutathione, 15-deoxy-Δ-12,14-prostaglandin J2(15-d-PGJ)、transforming growth factor β1、proepidermal growth factor)を分泌する<ref name=ref28 />。腸管グリアと腸管神経細胞の連絡はconnexin-43が関与する細胞内カルシウム濃度の上昇を介して行われる<ref name=ref29><pubmed>22426419</pubmed></ref> <ref name=ref30><pubmed>24211490</pubmed></ref>。腸管神経の保護や再生に関与している腸管グリア<ref name=ref31><pubmed>19906678</pubmed></ref> <ref name=ref32><pubmed>21865643</pubmed></ref>には、多くの神経伝達物質受容体や神経調節物質受容体も発現しているため、神経から放出される伝達物質にも反応する<ref name=ref29 /> <ref name=ref33><pubmed>19250649</pubmed></ref>。すなわち、腸管神経から放出されたATPが腸管グリア上のP2受容体に結合して腸管グリアを活性化させたり、腸管グリアの減少が消化管運動の減弱を引き起こす<ref name=ref34><pubmed>16236773</pubmed></ref>。


===Intestinofugal neurons===
===Intestinofugal neurons===
 Intestionofugal神経は細胞体が大腸の筋層間神経叢にあり、交感神経節後線維との間にシナプスを作り、消化管全域を支配する交感神経節後線維を支配している<ref name=ref35><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref36><pubmed></pubmed></ref>。この神経は消化管の輪状筋方向に配置され、壁の伸展や内容物の移動及び消化管の容積変化を感知する機械刺激受容器として機能する。Intestinofugal神経からの情報は交感神経性椎前神経節に伝えられ、交感神経と協調して消化管の全長にわたる運動の制御に関与する<ref name=ref36 />。すなわち、大腸の拡張刺激により椎前神経節内でAChを放出し、ニコチン性fast EPSPを発生させ、消化管各部位間における局所反射の求心路を形成する。この細胞は小動物では筋層間神経叢にありDogiel I型の形態を示す<ref name=ref1 />が、ブタでは粘膜下神経叢にも認められる<ref name=ref37><pubmed></pubmed></ref>。
 Intestionofugal神経は細胞体が大腸の筋層間神経叢にあり、交感神経節後線維との間にシナプスを作り、消化管全域を支配する交感神経節後線維を支配している<ref name=ref35><pubmed>12077055</pubmed></ref> <ref name=ref36><pubmed>22997196</pubmed></ref>。この神経は消化管の輪状筋方向に配置され、壁の伸展や内容物の移動及び消化管の容積変化を感知する機械刺激受容器として機能する。Intestinofugal神経からの情報は交感神経性椎前神経節に伝えられ、交感神経と協調して消化管の全長にわたる運動の制御に関与する<ref name=ref36 />。すなわち、大腸の拡張刺激により椎前神経節内でAChを放出し、ニコチン性fast EPSPを発生させ、消化管各部位間における局所反射の求心路を形成する。この細胞は小動物では筋層間神経叢にありDogiel I型の形態を示す<ref name=ref1 />が、ブタでは粘膜下神経叢にも認められる<ref name=ref37><pubmed>8227951</pubmed></ref>。


==消化管運動の制御==
==消化管運動の制御==
<ref name=ref1 /> <ref name=ref2 /> <ref name=ref3 /> <ref name=ref38><pubmed></pubmed></ref>
<ref name=ref1 /> <ref name=ref2 /> <ref name=ref3 /> <ref name=ref38>'''唐木晋一郎、桑原厚和'''<br>大腸の腸管神経系 II -大腸運動調節、粘膜上皮における水・電解質輸送調節、および生体防御機構に対する関与-<br>''Foods & Food Ingredients Journal of Japan'', 213(2):157-168, 2008.</ref>


 腸管神経系は内容物を肛門側へ移動させる蠕動運動、内容物を混和する分節運動、空腹期に十二指腸から回腸末端まで強い収縮が規則正しく伝播する空腹期伝播性収縮運動(interdigestive migrating motor contraction(IMMC))、さらには嘔吐に関連した逆蠕動など各種の運動パターンを制御している。腸管神経系には、この様な多彩な運動パターンを消化管平滑筋に起こさせるような神経回路網が存在する。
 腸管神経系は内容物を肛門側へ移動させる蠕動運動、内容物を混和する分節運動、空腹期に十二指腸から回腸末端まで強い収縮が規則正しく伝播する空腹期伝播性収縮運動(interdigestive migrating motor contraction(IMMC))、さらには嘔吐に関連した逆蠕動など各種の運動パターンを制御している。腸管神経系には、この様な多彩な運動パターンを消化管平滑筋に起こさせるような神経回路網が存在する。

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