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 次に、言語の起源という人間特有の現象を生物学的に理解するモデルとして鳥の歌学習について考える。哺乳類と鳥類は1億5千万年前に分岐したと言われる。人間が言葉を話すようになったのも、鳥が歌をさえずるようになったのも、その時からさらにずっと後のことであり、進化の歴史から言えばどちらもごく最近の出来事である。それなのになぜ、鳥のさえずりが人間言語の理解に貢献すると私は考えるのであろうか。それは、行動として比較すると、鳥の歌と人間の言語には大切な共通点があるからだ。そして行動としての共通点が、脳機能での共通点として一部反映されているからだ。鳥の歌学習を理解することで、人間言語の起源について考察できるかも知れない(「[[音声学習]]」参照)。
 
 次に、言語の起源という人間特有の現象を生物学的に理解するモデルとして鳥の歌学習について考える。哺乳類と鳥類は1億5千万年前に分岐したと言われる。人間が言葉を話すようになったのも、鳥が歌をさえずるようになったのも、その時からさらにずっと後のことであり、進化の歴史から言えばどちらもごく最近の出来事である。それなのになぜ、鳥のさえずりが人間言語の理解に貢献すると私は考えるのであろうか。それは、行動として比較すると、鳥の歌と人間の言語には大切な共通点があるからだ。そして行動としての共通点が、脳機能での共通点として一部反映されているからだ。鳥の歌学習を理解することで、人間言語の起源について考察できるかも知れない(「[[音声学習]]」参照)。
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 ある種の鳥の歌と人間の言葉は、親や同種他個体などの生活環境から学ぶ必要のある行動である。もっとも学習効率が高い時期である敏感期を外してしまうと、本来のものとはかけはなられたものになり、その機能を失う。どちらも、大脳のいくつかの専門化したネットワークにより学習可能になる行動である。コミュニケーションに用いる発声信号を学習によって獲得すること、すなわち発声学習は、動物全体の中ではめずらしい形質である。鳥類では約1万種のうち5千種がこのような性質を持つが、哺乳類ではクジラなどごく少数であり、霊長類では我々人間しかいない。人間にもっとも近いとされるチンパンジーにもこの形質はない(Bolhuis, Okanoya, & Scharff, 2010)
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 ある種の鳥の歌と人間の言葉は、親や同種他個体などの生活環境から学ぶ必要のある行動である。もっとも学習効率が高い時期である敏感期を外してしまうと、本来のものとはかけはなられたものになり、その機能を失う。どちらも、大脳のいくつかの専門化したネットワークにより学習可能になる行動である。コミュニケーションに用いる発声信号を学習によって獲得すること、すなわち発声学習は、動物全体の中ではめずらしい形質である。鳥類では約1万種のうち5千種がこのような性質を持つが、哺乳類ではクジラなどごく少数であり、霊長類では我々人間しかいない。人間にもっとも近いとされるチンパンジーにもこの形質はない<ref name=ref1><pubmed>20959859</pubmed></ref>
    
 鳥の発声の学習は2つの段階から成り立つ<ref name=ref3>'''Catchpole, C., & Slater, P.'''<br>Bird song: biological themes and variations<br>''Cambridge Univ Pr''. 2003</ref>。ひとつは感覚学習期と呼ばれ、種特有な音声刺激を環境より抽出して聴覚的な記憶を形成する過程である。通常の発育環境では、父親が発する音声を記憶する過程となる。もうひとつは感覚運動学習期と呼ばれる。発達に応じて分泌される性ホルモンの作用により、自発的な発声行動が始まる。この音声が聴覚的に自己にフィードバックされ、感覚学習期に形成された聴覚的な記憶(聴覚鋳型と呼ばれる)を手本として照合を取る。手本とのずれが甚だしい場合には、異なる音声を発する努力をし、手本に近い発声が得られた場合にはその運動パターンを保持するようにする。これが十分進展すると、手本と非常に類似した音声を自発することができるようになる。以上が歌学習の行動学的な記述である。
 
 鳥の発声の学習は2つの段階から成り立つ<ref name=ref3>'''Catchpole, C., & Slater, P.'''<br>Bird song: biological themes and variations<br>''Cambridge Univ Pr''. 2003</ref>。ひとつは感覚学習期と呼ばれ、種特有な音声刺激を環境より抽出して聴覚的な記憶を形成する過程である。通常の発育環境では、父親が発する音声を記憶する過程となる。もうひとつは感覚運動学習期と呼ばれる。発達に応じて分泌される性ホルモンの作用により、自発的な発声行動が始まる。この音声が聴覚的に自己にフィードバックされ、感覚学習期に形成された聴覚的な記憶(聴覚鋳型と呼ばれる)を手本として照合を取る。手本とのずれが甚だしい場合には、異なる音声を発する努力をし、手本に近い発声が得られた場合にはその運動パターンを保持するようにする。これが十分進展すると、手本と非常に類似した音声を自発することができるようになる。以上が歌学習の行動学的な記述である。
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 次に、鳥の歌の神経メカニズムについて概説しよう<ref name=ref14><pubmed></pubmed></ref>。歌の音源は、気管支にある一対の発声器官である鳴管を呼気が通りベルヌーイ流を作ることで生成される。呼気の流速と鳴管の筋肉は、延髄の擬核と後擬核および第十二神経核によって制御され、これらはすべて自律神経系による調整と中脳水道灰白質からの情動性入力の調整を受ける。ここまでは発声器官一般の特徴であるが、鳥類ではさらに、大脳皮質運動野から直接投射を受け、意図的な制御が可能である。延髄の発声中枢を大脳皮質運動野が直接制御するという特徴は、鳥類以外では人間のみで発見されている。
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 次に、鳥の歌の神経メカニズムについて概説しよう<ref name=ref14>Zeigler, '''H., & Marler, P. E.''' <br>Behavioral neurobiology of birdsong.<br>2004</ref>。歌の音源は、気管支にある一対の発声器官である鳴管を呼気が通りベルヌーイ流を作ることで生成される。呼気の流速と鳴管の筋肉は、延髄の擬核と後擬核および第十二神経核によって制御され、これらはすべて自律神経系による調整と中脳水道灰白質からの情動性入力の調整を受ける。ここまでは発声器官一般の特徴であるが、鳥類ではさらに、大脳皮質運動野から直接投射を受け、意図的な制御が可能である。延髄の発声中枢を大脳皮質運動野が直接制御するという特徴は、鳥類以外では人間のみで発見されている。
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 大脳皮質運動野が発声中枢を直接制御することは、発声信号に可塑性をもたらすが、発声学習を可能にするわけではない。発声学習が可能になるためには、自己の発声信号を聴覚系にフィードバックし、お手本となる発声の聴覚鋳型と比較し、ずれがあれば修正していくような学習が必要である。この過程は強化学習モデルとして定式化されたが、これを可能にするメカニズムとして、大脳皮質と大脳基底核が作る誤差修正ループと、大脳皮質高次運動野に発見された聴覚・発声ミラーニューロンが提案されている<ref name=ref9>Zeigler, '''H., & Marler, P. E.''' <br>Behavioral neurobiology of birdsong.<br>2004</ref>。
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 大脳皮質運動野が発声中枢を直接制御することは、発声信号に可塑性をもたらすが、発声学習を可能にするわけではない。発声学習が可能になるためには、自己の発声信号を聴覚系にフィードバックし、お手本となる発声の聴覚鋳型と比較し、ずれがあれば修正していくような学習が必要である。この過程は強化学習モデルとして定式化されたが、これを可能にするメカニズムとして、大脳皮質と大脳基底核が作る誤差修正ループと、大脳皮質高次運動野に発見された聴覚・発声ミラーニューロンが提案されている<ref name=ref9><pubmed>18202651</pubmed></ref>。
    
 前者については、以下の仮説が立てられている。お手本の聴覚鋳型は大脳高次聴覚野に記憶され、自身の歌のフィードバックとの誤差が大脳基底核で計算される。この誤差は、大脳皮質前部帯状回相同部位より出力され、大脳皮質高次運動野と大脳皮質運動野との結合様式にゆらぎを与え、正解に近い発声パターンを探索することを可能にしているのであろう。後者のミラーニューロンは、発声運動の随伴発射がもとになって対応する聴覚活動が生成され、その逆モデルとして聴覚活動から発声の運動パターンを活動させるような仕組みがあると考えられる。以上のメカニズムで、自己の歌をお手本に似せることができる。人間の発声学習についてはここまでの詳細はわかっていない。全く同一ではないにせよ、類似した原理を用いていることは疑いにくい<ref name=ref1><pubmed>20959859</pubmed></ref>。
 
 前者については、以下の仮説が立てられている。お手本の聴覚鋳型は大脳高次聴覚野に記憶され、自身の歌のフィードバックとの誤差が大脳基底核で計算される。この誤差は、大脳皮質前部帯状回相同部位より出力され、大脳皮質高次運動野と大脳皮質運動野との結合様式にゆらぎを与え、正解に近い発声パターンを探索することを可能にしているのであろう。後者のミラーニューロンは、発声運動の随伴発射がもとになって対応する聴覚活動が生成され、その逆モデルとして聴覚活動から発声の運動パターンを活動させるような仕組みがあると考えられる。以上のメカニズムで、自己の歌をお手本に似せることができる。人間の発声学習についてはここまでの詳細はわかっていない。全く同一ではないにせよ、類似した原理を用いていることは疑いにくい<ref name=ref1><pubmed>20959859</pubmed></ref>。
 
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 鳥を対象とした研究では、発声学習がそもそもどう始まったかを解明することが可能かも知れない。歩行運動と歌をうたう行動でそれぞれc-fos遺伝子の発現を比較した研究によれば、鳥の発声制御神経系は、運動制御領域が特殊化したものだと言える<ref name=ref4><pubmed>18335043</pubmed></ref>。
 
 鳥を対象とした研究では、発声学習がそもそもどう始まったかを解明することが可能かも知れない。歩行運動と歌をうたう行動でそれぞれc-fos遺伝子の発現を比較した研究によれば、鳥の発声制御神経系は、運動制御領域が特殊化したものだと言える<ref name=ref4><pubmed>18335043</pubmed></ref>。