「アセチルコリン」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0127493/?lang=japanese 三澤 日出巳]</font><br>
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''慶應義塾大学 薬学部''<br>
''慶應義塾大学 薬学部''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年1月15日 原稿完成日:2013年7月22日 原稿改訂日:2015年3月26日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年1月15日 原稿完成日:2013年7月22日 原稿改訂日:2017年9月20日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
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 [[ヒト]]を含めた[[哺乳動物]]では、様々な非神経細胞や組織でアセチルコリンの合成と放出が確認されている。このうち、[[wikipedia:ja:免疫|免疫]]系細胞、[[wikipedia:ja:血管内皮細胞|血管内皮細胞]]、[[wikipedia:ja:胎盤|胎盤]]、[[wikipedia:ja:ケラチノサイト|ケラチノサイト]]、[[wikipedia:ja:気道上皮細胞|気道上皮細胞]]、[[wikipedia:ja:消化管上皮細胞|消化管上皮細胞]]、[[wikipedia:ja:膀胱上皮細胞|膀胱上皮細胞]]などでは、神経系とは独立した非神経性アセチルコリンが局所の[[細胞間情報伝達]]を担うことが報告されている<ref name=ref16><pubmed>28552584</pubmed></ref>。
 [[ヒト]]を含めた[[哺乳動物]]では、様々な非神経細胞や組織でアセチルコリンの合成と放出が確認されている。このうち、[[wikipedia:ja:免疫|免疫]]系細胞、[[wikipedia:ja:血管内皮細胞|血管内皮細胞]]、[[wikipedia:ja:胎盤|胎盤]]、[[wikipedia:ja:ケラチノサイト|ケラチノサイト]]、[[wikipedia:ja:気道上皮細胞|気道上皮細胞]]、[[wikipedia:ja:消化管上皮細胞|消化管上皮細胞]]、[[wikipedia:ja:膀胱上皮細胞|膀胱上皮細胞]]などでは、神経系とは独立した非神経性アセチルコリンが局所の[[細胞間情報伝達]]を担うことが報告されている<ref name=ref16><pubmed>28552584</pubmed></ref>。


== コリン作動性抗炎症反応 (cholinergic anti-inflammatory pathway) ==
== コリン作動性抗炎症反応 ==


 迷走神経の刺激 (vagal nerve stimulation; VNS) により誘導される全身性の抗炎症反応のこと。迷走神経には、中枢神経系の情報を末梢臓器に伝える遠心性の副交感神経と、末梢臓器からの感覚情報を中枢神経系に伝える求心性の内臓知覚神経が走行している。齧歯類では、迷走神経の実験的切断は敗血症による炎症やショックによる致死率を高めること、電気的にVNSを行うことで敗血症、関節リウマチ、炎症腸疾患などの疾患モデルでの炎症性サイトカイン (TNF-alphaやIL-6など)の産生が著明に抑制されて病状が緩解することが報告されている<ref name=ref17><pubmed>27059884</pubmed></ref>。この反応経路には、AChとα7 nicotinic ACh receptorが必要であることから”コリン作動性“と呼ばれているが、そのメカニズムは不明な点が多い。なお医療現場では、迷走神経刺激装置VNSシステムは難治性てんかんやうつ病の治療法として承認され、すでに各国で多くの臨床実績をもつ。その有用性は高いとされるが、メカニズムは完全には解明されていない。
cholinergic anti-inflammatory pathway
 
 迷走神経の刺激 (vagal nerve stimulation; VNS) により誘導される全身性の抗炎症反応のこと。
 
 迷走神経には、中枢神経系の情報を末梢臓器に伝える遠心性の副交感神経と、末梢臓器からの感覚情報を中枢神経系に伝える求心性の[[内臓知覚神経]]が走行している。[[齧歯類]]では、迷走神経の実験的切断は敗血症による炎症やショックによる致死率を高めること、電気的にVNSを行うことで[[wj:敗血症|敗血症]]、[[wj:関節リウマチ|関節リウマチ]]、[[wj:炎症腸疾患|炎症腸疾患]]などの疾患モデルでの[[wj:炎症性サイトカイン|炎症性サイトカイン]] ([[wj:TNF&alpha;|TNF&alpha;]]や[[wj:IL-6|IL-6]]など)の産生が著明に抑制されて病状が緩解することが報告されている<ref name=ref17><pubmed>27059884</pubmed></ref>。この反応経路には、AChと[[α7 ニコチン性アセチルコリン受容体]]が必要であることから”コリン作動性“と呼ばれているが、そのメカニズムは不明な点が多い。
 
 なお医療現場では、[[迷走神経刺激装置]]VNSシステムは難治性[[てんかん]]や[[うつ病]]の治療法として承認され、すでに各国で多くの臨床実績をもつ。その有用性は高いとされるが、メカニズムは完全には解明されていない。


==関連項目 ==
==関連項目 ==