「慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー」の版間の差分

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英:chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy 独:Chronische inflammatorische demyelinisierende Polyneuropathie 仏:polyradiculonévrite inflammatoire démyélinisante chronique<br>
英:chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy 独:chronische inflammatorische demyelinisierende Polyneuropathie 仏:polyradiculonévrite inflammatoire démyélinisante chronique<br>
英略語:CIDP<br>
英略語:CIDP<br>
同義語:慢性炎症性脱髄性多発神経炎
同義語:慢性炎症性脱髄性多発神経炎


{{box|text= 慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーは慢性進行性、または再発性の経過を呈する免疫介在性の末梢神経疾患である。多様な臨床病型が含まれており、病態は単一ではないと考えられている。古典的にはマクロファージによる髄鞘の貪食が重要な役割を果たすとされてきたが、近年では傍絞輪部に存在するニューロファシン155などに対するIgG4自己抗体を介したマクロファージを介さない病態が存在することが明らかになっている。第一選択の治療として経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)、副腎皮質ステロイド薬、血液浄化療法があるが、有効性には個人差がある。これらのうち現在最も多く用いられているのはIVIgであるが、一定期間有効であっても再発が多くみられることやIgG4自己抗体陽性例に対する効果が乏しいことを念頭に置く必要がある。繰り返しのIVIgで再発がみられる患者に対しては、病態の再燃による軸索障害などの不可逆的な障害の蓄積を回避するという観点から、再発を未然に防ぐための定期的なIVIgまたは免疫グロブリン製剤の皮下投与による維持療法を行うことが可能になっている。}}
{{box|text= 慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーは慢性進行性、または再発性の経過を呈する免疫介在性の末梢神経疾患である。多様な臨床病型が含まれており、病態は単一ではないと考えられている。古典的にはマクロファージによる髄鞘の貪食が重要な役割を果たすとされてきたが、近年では傍絞輪部に存在するニューロファシン155などに対するIgG4自己抗体によるマクロファージを介さない病態が存在することが明らかになっている。第一選択の治療として経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)、副腎皮質ステロイド薬、血液浄化療法があるが、有効性には個人差がある。これらのうち現在最も多く用いられているのはIVIgであるが、一定期間有効であっても再発が多くみられることやIgG4自己抗体陽性例に対する効果が乏しいことを念頭に置く必要がある。繰り返しのIVIgで再発がみられる患者に対しては、病態の再燃による軸索障害などの不可逆的な障害の蓄積を回避するという観点から、再発を未然に防ぐための定期的なIVIgまたは免疫グロブリン製剤の皮下投与による維持療法を行うことが可能になっている。}}


== 慢性炎症性脱髄性多発神経炎とは ==
== 慢性炎症性脱髄性多発神経炎とは ==
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== 診断 ==
== 診断 ==
 現在頻用されているEFNS/PNSガイドラインの診断基準では、2ヶ月以上にわたる慢性進行、階段状増悪、あるいは再発型の経過を呈し、左右対称性で近位部と遠位部同程度、すなわちびまん性の四肢筋力低下と感覚異常をきたす病型を典型的CIDPと定義している('''表2''')<ref name=JointTaskForceofthe2010><pubmed>20433600</pubmed></ref>。CIDPの診断にあたっては、典型的CIDPに加えて先に述べた非典型的CIDP、すなわちDADS、MADSAM、局所型、純粋運動型、純粋感覚型のような臨床病型も念頭に入れながら、末梢神経伝導検査で脱髄を示唆する所見の有無を検討する。EFNS/PNSのガイドラインでは詳細は電気診断基準が定められており、これに基づいて[[運動神経]]伝導速度の遅延、終末潜時の延長、[[伝導ブロック]]、時間的分散、F波の異常などを見いだすことが重要である('''表3''')。電気診断基準に加えて[[脳脊髄液]]検査、[[MR]]I、感覚神経伝導検査、免疫療法に対する反応性、神経生検などの所見が支持基準に含まれており('''表4''')、これらをあわせて総合的に診断する('''表5''')。
 現在頻用されているEFNS/PNSガイドラインの診断基準では、2ヶ月以上にわたる慢性進行、階段状増悪、あるいは再発型の経過を呈し、左右対称性で近位部と遠位部が同程度、すなわちびまん性の四肢筋力低下と感覚異常をきたす病型を典型的CIDPと定義している('''表2''')<ref name=JointTaskForceofthe2010><pubmed>20433600</pubmed></ref>。CIDPの診断にあたっては、典型的CIDPに加えて先に述べた非典型的CIDP、すなわちDADS、MADSAM、局所型、純粋運動型、純粋感覚型のような臨床病型も念頭に入れながら、末梢神経伝導検査で脱髄を示唆する所見の有無を検討する。EFNS/PNSのガイドラインでは詳細は電気診断基準が定められており、これに基づいて[[運動神経]]伝導速度の遅延、終末潜時の延長、[[伝導ブロック]]、時間的分散、F波の異常などを見いだすことが重要である('''表3''')。電気診断基準に加えて[[脳脊髄液]]検査、[[MR]]I、感覚神経伝導検査、免疫療法に対する反応性、神経生検などの所見が支持基準に含まれており('''表4''')、これらをあわせて総合的に診断する('''表5''')。


 典型的CIDPでは感覚障害よりも運動障害が前景に立つ場合が多く、[[自律神経]]症候は通常みられない<ref name=ガイドライン>慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン 2013.東京, 南光堂 2013</ref>。感覚障害に関しては、四肢のしびれ感を自覚する場合が多いが、痛みを訴えることは少ない。EFNS/PNS診断基準は治療に反応しうる患者を網羅する診断感度への配慮が見られる反面、AAN診断基準に比べて特異度が低く、当初診断基準があてはまっても、後に[[POEMS症候群]]、[[リンパ腫]]、[[家族性アミロイドポリニューロパチー]]など、CIDP以外の疾患が明らかになる場合もあり注意を要する<ref name=Koike2008><pubmed>18356256</pubmed></ref><ref name=Koike2011><pubmed>21463231</pubmed></ref><ref name=Tomita2013><pubmed>23884813</pubmed></ref>。これらの疾患では痛みを訴えることが多いため、痛みを伴う脱髄性のニューロパチー患者ではCIDP以外の疾患の可能性も考慮に入れて原因を精査する必要がある。
 典型的CIDPでは感覚障害よりも運動障害が前景に立つ場合が多く、[[自律神経]]症候は通常みられない<ref name=ガイドライン>慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン 2013.東京, 南光堂 2013</ref>。感覚障害に関しては、四肢のしびれ感を自覚する場合が多いが、痛みを訴えることは少ない。EFNS/PNS診断基準は治療に反応しうる患者を網羅する診断感度への配慮が見られる反面、AAN診断基準に比べて特異度が低く、当初診断基準があてはまっても、後に[[POEMS症候群]]、[[リンパ腫]]、[[家族性アミロイドポリニューロパチー]]など、CIDP以外の疾患が明らかになる場合もあり注意を要する<ref name=Koike2008><pubmed>18356256</pubmed></ref><ref name=Koike2011><pubmed>21463231</pubmed></ref><ref name=Tomita2013><pubmed>23884813</pubmed></ref>。これらの疾患では痛みを訴えることが多いため、痛みを伴う脱髄性のニューロパチー患者ではCIDP以外の疾患の可能性も考慮に入れて原因を精査する必要がある。