「ドリフト拡散モデル」の版間の差分

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[[Image:DDM_animation.gif|thumb|280px|<b>図2.ドリフト拡散モデルのエビデンス蓄積過程と,反応時間分布。</b>ドリフト率や開始点,境界は試行間で固定している (<math>v = 1, z = 0.5, a = 1</math>)。]]
[[Image:DDM_animation.gif|thumb|280px|<b>図2.ドリフト拡散モデルのエビデンス蓄積過程と,反応時間分布。</b>ドリフト率や開始点,境界は試行間で固定している (<math>v = 1, z = 0.5, a = 1</math>)。]]


 ここでは,反応Aと反応Bのいずれかの反応が求められる強制二肢選択課題を想定し,基本的なドリフト拡散モデルを考える。上側の境界を<math>a</math>,下側の境界を0, 開始点を<math>z</math>とする。上側の境界に決定変数 (decision variable) <math>x</math>が到達した場合,そのタイミングで反応Aが起こり,下側の境界である0に到達したらそのタイミングで反応Bが起こると仮定する。刺激が呈示されてから,刺激情報の読み込みや反応の準備に必要な時間が経過してからエビデンスの蓄積が開始され,<math>x</math>が変化する。エビデンスの蓄積過程は以下の式のように連続時間上で定義される確率過程である,ウィーナー過程 (ブラウン運動) に従うとする。
 ここでは,反応Aと反応Bのいずれかの反応が求められる強制二肢選択課題を想定し,基本的なドリフト拡散モデルを考える。上側の境界を<math>a</math>,下側の境界を0, 開始点を<math>z</math>とする。上側の境界に決定変数 (decision variable) <math>x</math>が到達した場合,そのタイミングで反応Aが起こり,下側の境界である0に到達したらそのタイミングで反応Bが起こると仮定する。
 
 刺激が呈示されてから,刺激情報の読み込みや反応の準備に必要な時間が経過してからエビデンスの蓄積が開始され,<math>x</math>が変化する。エビデンスの蓄積過程は以下の式のように連続時間上で定義される確率過程である,ウィーナー過程 (ブラウン運動) に従うとする。


<math>dx = v dt + \sigma dW</math>
<math>dx = v dt + \sigma dW</math>


ここで,<math>dx</math> は微小な時間間隔 <math>dt</math>の間の<math>x</math>の変化を表す。<math>v</math>はドリフト率である。反応Aが正解である場合は<math>v > 0</math>,反応Bが正解である場合は<math>v < 0</math>とする。<math>\sigma dW</math>は平均が0で分散が<math>\sigma^2 dt</math>となる正規分布に従うホワイトノイズを表す。ウィーナー過程は<math>dt \to 0</math>という極限における連続時間上で定義されるが,計算機上でシミュレーションする場合は,離散時間で近似する必要がある。例えばシンプルな近似法としては以下のようなものがある。微小な時間幅<math>\Delta t</math>を考え (例えば<math>\Delta t = 0.001</math> (秒)とする),平均0, 分散1の標準正規分布に従う正規乱数<math>\epsilon</math>を用いて,この時間幅<math>\Delta t</math>あたりの変数<math>x</math>の変化量を,以下の式で決定する。
ここで,<math>dx</math> は微小な時間間隔 <math>dt</math>の間の<math>x</math>の変化を表す。<math>v</math>はドリフト率である。反応Aが正解である場合は<math>v > 0</math>,反応Bが正解である場合は<math>v < 0</math>とする。<math>\sigma dW</math>は平均が0で分散が<math>\sigma^2 dt</math>となる正規分布に従うホワイトノイズを表す。
 
 ウィーナー過程は<math>dt \to 0</math>という極限における連続時間上で定義されるが,計算機上でシミュレーションする場合は,離散時間で近似する必要がある。例えばシンプルな近似法としては以下のようなものがある。微小な時間幅<math>\Delta t</math>を考え (例えば<math>\Delta t = 0.001</math> (秒)とする),平均0, 分散1の標準正規分布に従う正規乱数<math>\epsilon</math>を用いて,この時間幅<math>\Delta t</math>あたりの変数<math>x</math>の変化量を,以下の式で決定する。


<math>\Delta x = v \Delta t + \sigma \epsilon \sqrt{\Delta t} </math>
<math>\Delta x = v \Delta t + \sigma \epsilon \sqrt{\Delta t} </math>
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この式で<math>x</math>を更新していくことによりエビデンスの蓄積過程をシミュレートできる。図2の各軌道はこの方法により得られたものである。
この式で<math>x</math>を更新していくことによりエビデンスの蓄積過程をシミュレートできる。図2の各軌道はこの方法により得られたものである。


 標準的なドリフト拡散モデルでは,開始点とドリフト率,および非決定時間は,試行間で変動すると仮定される<ref name=Ratclif1978 />。ドリフト率の試行間変動は,刺激に対する注意の変動などに対応すると考えられ,標準偏差<math>\eta</math>の正規分布に従って変動すると仮定される。この変動を仮定することで,正反応より誤反応の方が反応時間が長くなるという現象が説明可能となる。これは,ドリフト率が小さくなる試行では,ノイズの影響が強くなるため誤反応が起こりやすくなり,かつ反応時間が長くなるためである。開始点の試行間変動は区間<math>[z-s_{z}, z+s_{z}]</math>の一様分布に従うと仮定される。これは,ある特定の刺激がどの程度呈示されやすいかについての期待が試行間で変動することを表現する。この変動により,誤反応が起こる試行で反応時間が短くなることが説明できる。これは,開始点が誤反応側の境界に寄っているときに,早い時間帯で誤反応が起きやすくなるためである。一度正反応の方に決定係数が近づけば,開始点の影響はなくなるため,遅い時間帯では開始点の影響による誤反応は生じにくい。また,非決定時間も区間<math>[T_{er}-s_{t}, T_{er}+s_{t}]</math>の一様分布に従うと仮定される。
 標準的なドリフト拡散モデルでは,開始点とドリフト率,および非決定時間は,試行間で変動すると仮定される<ref name=Ratclif1978 />。ドリフト率の試行間変動は,刺激に対する注意の変動などに対応すると考えられ,標準偏差<math>\eta</math>の正規分布に従って変動すると仮定される。この変動を仮定することで,正反応より誤反応の方が反応時間が長くなるという現象が説明可能となる。これは,ドリフト率が小さくなる試行では,ノイズの影響が強くなるため誤反応が起こりやすくなり,かつ反応時間が長くなるためである。
 
 開始点の試行間変動は区間<math>[z-s_{z}, z+s_{z}]</math>の一様分布に従うと仮定される。これは,ある特定の刺激がどの程度呈示されやすいかについての期待が試行間で変動することを表現する。この変動により,誤反応が起こる試行で反応時間が短くなることが説明できる。これは,開始点が誤反応側の境界に寄っているときに,早い時間帯で誤反応が起きやすくなるためである。一度正反応の方に決定係数が近づけば,開始点の影響はなくなるため,遅い時間帯では開始点の影響による誤反応は生じにくい。また,非決定時間も区間<math>[T_{er}-s_{t}, T_{er}+s_{t}]</math>の一様分布に従うと仮定される。


 以上より,標準的なドリフト拡散モデルのパラメータは,開始点の平均 (<math>z</math>),開始点の試行間変動 (<math>s_{z}</math>),ドリフト率の平均 (<math>v</math>),ドリフト率の標準偏差 (<math>\eta</math>),境界 (<math>a</math>),非決定時間の平均 (<math>T_{er}</math>),非決定時間の試行間変動 (<math>s_{t}</math>) の7つとなる。
 以上より,標準的なドリフト拡散モデルのパラメータは,開始点の平均 (<math>z</math>),開始点の試行間変動 (<math>s_{z}</math>),ドリフト率の平均 (<math>v</math>),ドリフト率の標準偏差 (<math>\eta</math>),境界 (<math>a</math>),非決定時間の平均 (<math>T_{er}</math>),非決定時間の試行間変動 (<math>s_{t}</math>) の7つとなる。
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