「症状評価尺度」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/toshiya.inada 稲田 俊也]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/toshiya.inada 稲田 俊也]</font><br>
''公益財団法人神経研究所附属晴和病院''<br>
''公益財団法人神経研究所附属晴和病院''<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2014年1月2日 原稿完成日:2014年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2014年1月2日 原稿完成日:2014年1月14日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
</div>
</div>
英語名:symptom assessment scale
{{box|text= 症状評価尺度は、[[精神障害]]における[[精神症状]]の変化や、[[薬物]]・[[ストレス]]などの外的な刺激に対する精神状態や行動特性の変化、あるいは[[パーソナリティ特性]]などの、主として[[ヒト]]のこころの動きに起因する精神や言動の変化などの症状の有無や重症度をできる限り定量的に測定するために開発された尺度である。大きく分けて自己記入式質問票と評価者面接による評価尺度がある。使用にあたっては、信頼性と妥当性が十分に担保されていることが求められる。具体例としては統合失調症に対するBPRS, PANSS, DIEPSS、気分障害に対するHAM-D, SDS, MADRS、不安障害に対するHAM-A, PDSS, Y-BOCS、認知症におけるHDS-R, MMSE, ADASなどがある。}}


== 症状評価尺度とは ==
== 症状評価尺度とは ==
 症状評価尺度(以下、評価尺度)は、[[精神障害]]における[[精神症状]]の変化や、[[薬物]]・[[ストレス]]などの外的な刺激に対する精神状態や行動特性の変化、あるいは[[パーソナリティ特性]]などの、主として[[ヒト]]のこころの動きに起因する精神や言動の変化など、身体医学でしばしば用いられる[[画像診断]]や[[wikipedia:ja:血液検査|血液検査]]などの定量的な計量機器などによっては測定することができないような性質の精神・心理事象について、評価の対象となる症状の有無や重症度をできる限り定量的に測定するために開発されたものであり、精神医学や心理学の領域などで広く用いられている。
 症状評価尺度(以下、評価尺度)は、[[精神障害]]における[[精神症状]]の変化や、[[薬物]]・[[ストレス]]などの外的な刺激に対する精神状態や行動特性の変化、あるいは[[パーソナリティ特性]]などの、主として[[ヒト]]のこころの動きに起因する精神や言動の変化など、身体医学でしばしば用いられる[[画像診断]]や[[wj:血液検査|血液検査]]などの定量的な計量機器などによっては測定することができないような性質の精神・心理事象について、評価の対象となる症状の有無や重症度をできる限り定量的に測定するために開発されたものであり、精神医学や心理学の領域などで広く用いられている<ref>'''稲田俊也、岩本邦弘'''<br> 観察者による精神科領域の症状評価尺度ガイド 改訂版<br>''じほう''、東京、 2009</ref> <ref>'''稲田俊也、 樋口輝彦'''<br>症状評価法. In: 山内俊雄 (総編集)、 岡崎祐士、神庭重信、小山 司、武田雅俊 (編集):<br>精神科専門医のためのプラクティカル精神医学<br>''中山書店''、東京、pp213-220、 2009</ref> <ref>'''北村俊則'''<br>精神症状測定の理論と実際(第2版)<br>''海鳴社''、東京、1995</ref>。


== 使用目的 ==
== 使用目的 ==
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#特定の集団から特定の病態を呈する可能性の高い被験者を抽出すること(スクリーニング)、
#特定の集団から特定の病態を呈する可能性の高い被験者を抽出すること(スクリーニング)、
#被験者の呈するさまざま精神症状の特徴を把握すること(症状特性の把握)、
#被験者の呈するさまざま精神症状の特徴を把握すること(症状特性の把握)、
#症状特性のパターンから操作的に精神障害の診断基準を定義して、それに合致する被験者を選ぶこと([[操作的臨床診断]])
#症状特性のパターンから精神障害を操作的に定義して、それに合致する被験者を選ぶこと(操作的臨床診断の代用)
などがある。特に精神障害は、身体疾患とは異なり、病因論に基づいた診断分類が必ずしも容易ではないことから、その診断は操作的な手法で下されることが多く、このためさまざまな評価尺度や構造化された面接基準が考案されている。
 などがある。特に精神障害は、身体疾患とは異なり、病因論に基づいた診断分類が必ずしも容易ではないことから、その診断は操作的な手法で下されることが多く、このためさまざまな評価尺度や構造化された面接基準が考案されている。


== 分類 ==
== 分類 ==
 被験者の精神現象や心理事象の測定に関する評価方法には、評価者が直接、被験者を面接して評価を行う狭義の評価尺度(評価者面接による評価尺度)のほかに、質問紙を被験者に渡して、被験者自身に評価を記入してもらう自己記入式質問票がある。
 被験者の精神現象や心理事象の測定に関する評価方法には、評価者が直接、被験者を面接して評価を行う狭義の評価尺度(評価者面接による評価尺度)のほかに、質問紙を被験者に渡して、被験者自身に評価を記入してもらう[[自己記入式質問票]]がある。


 [[自己記入式質問票]]は、被験者に質問紙を渡して、被験者自身に評価の結果を記入してもらう、いわゆるアンケート形式の主観的な評価尺度である。調査票を理解し、回答ができる被験者を対象とした調査では、被験者への配布と回収だけでデータの収集が完結するため、
===自己記入式質問票===
 被験者に質問紙を渡して、被験者自身に評価の結果を記入してもらう、質問票形式の主観的な評価尺度である。調査票を理解し、回答ができる被験者を対象とした調査では、被験者への配布と回収だけでデータの収集が完結するため、
#実際の面接評価やそのトレーニングのために要する評価者コストがかからない、
#実際の面接評価やそのトレーニングのために要する評価者コストがかからない、
#誰でも(極端なことを言えば、調査を行う研究者自身が評価尺度の内容や意義を理解していなくても)調査が施行できる、
#誰でも調査が施行できる、
#決められた解析手法にしたがって調査結果が得られるため判定の際に検査者のバイアスが入りにくい、
#決められた解析手法にしたがって調査結果が得られるため判定の際に検査者のバイアスが入りにくい、
などの利点がある。このため、大まかな傾向や特徴を短期間で把握するための予備的な傾向調査や、多数例の中から特定の病態を呈する可能性の高い被験者を抽出するスクリーニング検査などでしばしば用いられるが、厳密な科学研究や症状評価の際には、評価者面接による評価尺度が用いられる。しかし、
 などの利点がある。このため、大まかな傾向や特徴を短期間で把握するための予備的な傾向調査や、多数例の中から特定の病態を呈する可能性の高い被験者を抽出するスクリーニング検査などでしばしば用いられる。
 
 しかし、
 
#被験者が各質問に対して社会的に望ましいと思われる方向で回答する、
#被験者が各質問に対して社会的に望ましいと思われる方向で回答する、
#自分の理想を記入する、あるいは逆に悪くみせて同情や疾病利得を得ようとする、
#自分の理想を記入する、あるいは逆に悪くみせて同情や疾病利得を得ようとする、
#質問票を読まずに適当に記入する、あるいは調査研究においては、その妨害となるようなあり得ない回答をする、
#質問票を読まずに適当に記入する、あるいは調査研究においては、その妨害となるようなあり得ない回答をする、
など、被験者側のバイアスが入って調査結果が歪められる危険性がある。


 したがって、厳密な科学研究のためのデータ収集や客観的な重症度評価を行うためには、評価者面接による評価尺度(いわゆる狭義の評価尺度)を用いることが必要不可欠となる。評価者面接による評価尺度では、自己記入式質問票よりも被験者のバイアスが入りにくく、被験者の回答の姿勢や表情などが読みとれるなどの利点はあるが、その裏返しに研究者が自らの仮説に合致した方向で評価を行う危険性が指摘されている。これらを克服するために試験デザインにさまざまな工夫(例えば、[[wikipedia:ja:薬効評価|薬効評価]]における[[無作為化プラセボ対照試験]]など)がなされている。
 など、被験者側のバイアスが入って調査結果が歪められる危険性がある。
 また、調査を行う研究者自身が評価尺度の内容や意義を理解していなくても行えてしまうために、十分に意義を理解せずに用いられることによって、誤った結論を導き出してしまう危険性もある。
 
===評価者面接による評価尺度===
 
 厳密な科学研究のためのデータ収集や客観的な重症度評価を行うためには、評価者面接による評価尺度(いわゆる狭義の評価尺度)を用いることが必要不可欠となる。
 
 自己記入式質問票よりも被験者のバイアスが入りにくく、被験者の回答の姿勢や表情などが読みとれるなどの利点はあるが、その裏返しに研究者が自らの仮説に合致した方向で評価を行う危険性が指摘されている。これらを克服するために試験デザインにさまざまな工夫(例えば、[[wj:薬効評価|薬効評価]]における[[wj:無作為化プラセボ対照試験|無作為化プラセボ対照試験]]など)がなされている。


== 信頼性と妥当性 ==
== 信頼性と妥当性 ==
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 同じ評価尺度を同じ対象に用いても、さまざまな要因により評価にばらつきのみられることがあることから、評価尺度が開発された時には信頼性が十分であるかの確認が行われる。信頼性の確認とは当該評価尺度を用いて行われた評価の結果が、同席面接など同じ状況において評価者によってばらつくことがないか(評価者間信頼性 inter-rater reliability)や、一定期間をおいて同じ評価者が同じ状況で評価しても評価でばらつくことがないか(試験-再試験信頼性 [[test]]-retest reliability)などが行われる。これらの一致率が低い場合には、問題点を探る必要がある。
 同じ評価尺度を同じ対象に用いても、さまざまな要因により評価にばらつきのみられることがあることから、評価尺度が開発された時には信頼性が十分であるかの確認が行われる。信頼性の確認とは当該評価尺度を用いて行われた評価の結果が、同席面接など同じ状況において評価者によってばらつくことがないか(評価者間信頼性 inter-rater reliability)や、一定期間をおいて同じ評価者が同じ状況で評価しても評価でばらつくことがないか(試験-再試験信頼性 [[test]]-retest reliability)などが行われる。これらの一致率が低い場合には、問題点を探る必要がある。


====被験者側の要因====
 信頼性を低下させる要因としては、被験者側の要因によるものとして、
 信頼性を低下させる要因としては、被験者側の要因によるものとして、
#被験者分散(被験者が各質問に対して実際の自分の症状をその通り回答せずに、より軽症に答えたり、重症に答えたりするなど回答を操作するために生じるもの)や
#被験者分散(被験者が各質問に対して実際の自分の症状をその通り回答せずに、より軽症に答えたり、重症に答えたりするなど回答を操作するために生じるもの)
#状況分散(面接を行う状況や環境によって生じる分散)があり、評価者側の要因としては
#状況分散(面接を行う状況や環境によって生じる分散)
#情報分散(被験者の症状に関する[[情報量]]や情報内容が異なるために生じるもの)、
 
#基準分散(該当する症状なのか別の症状なのか評価者間で基準が異なるために異なる症状であると判断するなど、同一の情報が与えられても評価の対象となっている症状の基準が異なるために生じるもの)、
 があり、これらによる信頼性の低下を防ぐ対策としては、
#観察分散(同一の情報が与えられた場合に、その症状の重症度を判断する水準が評定者によって異なるために生じる同一項目内の重症度分散)がある。
 
これらを防ぐためにさまざまな工夫がなされている。
#被験者分散は、質問に対して正しい回答を導き出せるように、評価尺度の回答内容が他人に漏れたり、現在の治療内容や今後の治療方針に影響を与えたりすることがないということを明確に伝える
#状況分散は面接環境をできる限り一定に保つようにすること、これらの対応によって被験者が安心して実際の症状をその通り回答できる環境を作るように心がける
 
 ことが大切である。
 また、同一の内容を異なった項目で繰り返し質問するなどして、回答の信頼性を評価できるように工夫されている評価尺度もある。


 被験者側の要因による信頼性の低下を防ぐ対策としては、<br>
====評価者側の要因====
  1. 被験者分散は、質問に対して正しい回答を導き出せるように、評価尺度の回答内容が他人に漏れたり、現在の治療内容や今後の治療方針に影響を与えたりすることがないということを明確に伝えること、<br>
  2. 状況分散は面接環境をできる限り一定に保つようにすること、これらの対応によって被験者が安心して実際の症状をその通り回答できる環境を作るように心がけることが大切である。


 評価者側の要因による信頼性の低下を防ぐ対策としては、症状の把握や重症度評価のルールを習得するための評価者トレーニングで、評価者間で評価の意見が分かれた場合にはその根拠について議論し、参加する評価者全員が一貫して安定した評価得られるような教育や訓練が行われることが重要であるが、個々の分散要因については、
 評価者側の要因としては


  3. 情報分散は、評価者の質問のしかたや質問内容が異なるために、異なった情報が得られることが要因で、異なる評価がされるような事態であり、対策としては面接内容を構造化することであり、これにより信頼性の高まることが示されている。構造化面接が開発されていない評価尺度では、面接手順をできる限り構造化して、質問の違いによる回答のずれを少なくすることが重要である。<br>
#情報分散(被験者の症状に関する[[情報量]]や情報内容が異なるために生じるもの)
  4. 基準分散は、評定者間で症状の定義が異なる場合や、症状に対して持つイメージが異なっている場合に起こりやすいため、開発者があらかじめ項目の名称とともに評価尺度の中でその定義を明確にすることが必要である。<br>
#基準分散(該当する症状なのか別の症状なのか評価者間で基準が異なるために異なる症状であると判断するなど、同一の情報が与えられても評価の対象となっている症状の基準が異なるために生じるもの)
  5. 観察分散は、「軽度」、「中等度」、「重度」や「時々」、「しばしば」、「いつも」など、程度や頻度を表す形容詞などがアンカーポイントになっていて、事実上、評価者の独自の感覚で重症度が決められるような状況で起こりがちであるために評価がばらつく事態であり、対策としては、なるべく具体的な事例を挙げてアンカーポイント間の違いをわかりやすく説明することが重要である。
#観察分散(同一の情報が与えられた場合に、その症状の重症度を判断する水準が評定者によって異なるために生じる同一項目内の重症度分散)
 
 がある。これらを防ぐためにさまざまな工夫がなされている。症状の把握や重症度評価のルールを習得するための評価者トレーニングで、評価者間で評価の意見が分かれた場合にはその根拠について議論し、参加する評価者全員が一貫して安定した評価が得られるような教育や訓練が行われることが重要であるが、個々の分散要因については、
 
#情報分散は、評価者の質問のしかたや質問内容が異なるために、異なった情報が得られることが要因で、異なる評価がされるような事態であり、対策としては面接内容を構造化することであり、これにより信頼性の高まることが示されている。構造化面接が開発されていない評価尺度では、面接手順をできる限り構造化して、質問の違いによる回答のずれを少なくすること
#基準分散は、評定者間で症状の定義が異なる場合や、症状に対して持つイメージが異なっている場合に起こりやすいため、開発者があらかじめ項目の名称とともに評価尺度の中でその定義を明確にすること
#観察分散は、「軽度」、「中等度」、「重度」や「時々」、「しばしば」、「いつも」など、程度や頻度を表す形容詞などがアンカーポイントになっていて、事実上、評価者の独自の感覚で重症度が決められるような状況で起こりがちであるために評価がばらつく事態であり、対策としては、なるべく具体的な事例を挙げてアンカーポイント間の違いをわかりやすく説明すること
 
 が重要である。


==精神症状評価尺度==
==精神症状評価尺度==
 実際に臨床や研究の現場で使用されている評価尺度の例として、ここでは精神医学領域の代表的な評価尺度を取り上げて紹介する。
 実際に臨床や研究の現場で使用されている評価尺度の例として、ここでは精神医学領域の代表的な評価尺度を取り上げて紹介する。


===統合失調症の評価尺度===
===統合失調症の評価尺度===
 [[統合失調症]]の重症度を評価する尺度としては、簡便で包括的な精神症状を評価する目的でOverallと Gorham (1962)が開発した18項目版の[[簡易精神症状評価尺度]](Brief Psychiatric Rating Scale; BPRS)や、統合失調症の精神状態を全般的に把握する目的で、Kayら(1991)が開発した30項目からなる[[陽性・陰性症状評価尺度]](Positive and Negative Syndrome Scale; PANSS)などがある。また、統合失調症の生活の質を評価する目的でCarpenterら(1984)が開発した[[クオリティ・オブ・ライフ尺度]](Quality of Life Scale; QLS)、統合失調症の認知機能を測定する目的でKeefeら (2004)が開発した[[統合失調症認知機能簡易評価尺度]](Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia; BACS)や米国の精神科医や心理学者等の専門家のコンセンサスに基づいて開発された[[MATRICS Consensus Cognitive Battery]] (MCCB) 、このほか、[[抗精神病薬]]の副作用として発現する薬原性[[錐体外路症状]]の重症度を評価する目的で稲田(1996)が開発した9項目からなる[[薬原性錐体外路症状評価尺度]](Drug Induced Extra-Pyramidal Symptoms Scale; DIEPSS)などがある。
 [[統合失調症]]の重症度を評価する尺度としては、簡便で包括的な精神症状を評価する目的でOverallと Gorham (1962)が開発した18項目版の[[簡易精神症状評価尺度]](Brief Psychiatric Rating Scale; BPRS)や、統合失調症の精神状態を全般的に把握する目的で、Kayら(1991)が開発した30項目からなる[[陽性・陰性症状評価尺度]](Positive and Negative Syndrome Scale; PANSS)などがある。また、統合失調症の生活の質を評価する目的でCarpenterら(1984)が開発した[[クオリティ・オブ・ライフ尺度]](Quality of Life Scale; QLS)、統合失調症の[[認知機能]]を測定する目的でKeefeら (2004)が開発した[[統合失調症認知機能簡易評価尺度]](Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia; BACS)や米国の精神科医や心理学者等の専門家のコンセンサスに基づいて開発された[[マトリックス・コンセンサス認知機能バッテリー]](MATRICS Consensus Cognitive Battery; MCCB)、このほか、[[抗精神病薬]]の副作用として発現する薬原性[[錐体外路症状]]の重症度を評価する目的で稲田(1996)が開発した9項目からなる[[薬原性錐体外路症状評価尺度]](Drug Induced Extra-Pyramidal Symptoms Scale; DIEPSS)などがある。


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86行目: 110行目:
| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 名称
| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 名称
| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 目的
| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 目的
| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 開発者・開発年
| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 開発者(公表年)
|-  
|-  
|簡易精神症状評価尺度<br>(Brief Psychiatric Rating Scale; BPRS)
|簡易精神症状評価尺度<br>(Brief Psychiatric Rating Scale; BPRS)
|簡便で包括的な精神症状を評価する目的
|簡便で包括的な精神症状の重症度評価
|Overallと Gorham (1962)<ref>'''Overall JE, Gorham DR'''<br>The brief psychiatric rating scale. <br>''Psychological Reports'' 1962 vol. 10, pp799­-812. (1962)</ref>
|Overallと Gorham(1962)<ref>'''J E Overall, D R Gorham'''<br>The brief psychiatric rating scale. <br>''Psychological Reports'' 1962 vol. 10, pp799­-812. 1962</ref>
|-
|-
|陽性・陰性症状評価尺度<br>(Positive and Negative Syndrome Scale; PANSS)
|陽性・陰性症状評価尺度<br>(Positive and Negative Syndrome Scale; PANSS)
|統合失調症の精神状態を全般的に把握する目的
|全般的な精神状態の重症度評価
|Kayら(1991)<ref>'''Kay, Stanley R.'''<br>Positive and Negative Syndromes in Schizophrenia<br>Routledge Mental Health, pp. 33–36. (1991)</ref>
|Kayら(1991)<ref>'''S R Kay, L A Opler, A Fiszbein'''<br>Positive and negative syndrome scale. <br>''Multi-Health System Inc.'' Tronto, Canada, 1991. </ref>
|-
|-
|クオリティ・オブ・ライフ尺度<br>(Quality of Life Scale; QLS)
|クオリティ・オブ・ライフ尺度<br>(Quality of Life Scale; QLS)
|統合失調症の生活の質を評価する目的
|生活の質(QOL)の重症度評価
|Carpenterら(1984)
|Carpenterら(1984)<ref><pubmed>6474101</pubmed></ref>
|-
|-
|統合失調症認知機能簡易評価尺度<br>(Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia; BACS)
|統合失調症認知機能簡易評価尺度<br>(Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia; BACS)
|統合失調症の認知機能を測定する目的
|簡便な認知機能の重症度評価
|Keefeら (2004)<ref><pubmed>15099610</pubmed></ref>
|Keefeら(2004)<ref><pubmed>15099610</pubmed></ref>
|-
|-
|MATRICS Consensus Cognitive Battery (MCCB)
|マトリックス・コンセンサス認知機能バッテリー<br>(MATRICS Consensus Cognitive Battery; MCCB)
|米国の精神科医や心理学者等の専門家のコンセンサスに基づいて開発
|全般的な認知機能の重症度評価
|
|GreenとNuechterlein(2004)<ref><pubmed>15531401</pubmed></ref>
|-
|-
|薬原性錐体外路症状評価尺度<br>(Drug Induced Extra-Pyramidal Symptoms Scale; DIEPSS)
|薬原性錐体外路症状評価尺度<br>(Drug Induced Extra-Pyramidal Symptoms Scale; DIEPSS)
|抗精神病薬の副作用として発現する薬原性錐体外路症状の重症度を評価する目的
|抗精神病薬で発現する錐体外路症状の重症度評価
|稲田(1996)
|稲田(1996)<ref>'''稲田俊也著、八木剛平監修'''<br>薬原性錐体外路症状の評価と診断、DIEPSSの解説と利用の手引き<br>''星和書店'' 東京 1996</ref>
|-
|-
|}
|}


===気分障害の評価尺度===
===気分障害の評価尺度===
 うつ病の重症度を評価する尺度としては、Hamilton (1960) が開発した[[ハミルトンうつ病評価尺度]](Hamilton Depression Scale; HAM-D)をはじめ、MontgomeryとAsberg (1979) が開発した10項目からなる[[モンゴメリ・アスベルグうつ病評価尺度]] (Montgomery-Asberg Depression Rating Scale; MADRS)、 Rushら (1986) が開発した30項目からなる[[医師版うつ病症候学評価尺度]] (Inventory of Depressive Symptomatology-Clinician Rating; IDS-C)などがある。また、うつ病の自己記入式質問票にはZung(1965)が開発した[[Self-rating Depression Scale]](SDS)などがある。一方、[[躁病]]エピソードの重症度を評価する尺度としてはYoungら(1978)が開発した[[ヤング躁病評価尺度]](Young Mania Rating Scale; YMRS)がある。
 うつ病の重症度を評価する尺度としては、Hamilton (1960) が開発した[[ハミルトンうつ病評価尺度]](Hamilton Depression Scale; HAM-D)をはじめ、MontgomeryとAsberg (1979) が開発した10項目からなる[[モンゴメリ・アスベルグうつ病評価尺度]] (Montgomery-Asberg Depression Rating Scale; MADRS)、 Rushら (1986) が開発した30項目からなる[[医師版うつ病症候学評価尺度]] (Inventory of Depressive Symptomatology-Clinician Rating; IDS-C)などがある。また、うつ病の自己記入式質問票にはZung(1965)が開発した[[自記式抑うつ質問票]](Self-rating Depression Scale; SDS)などがある。一方、[[躁病]]エピソードの重症度を評価する尺度としてはYoungら(1978)が開発した[[ヤング躁病評価尺度]](Young Mania Rating Scale; YMRS)がある。


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122行目: 146行目:
| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 名称
| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 名称
| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 目的
| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 目的
| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 開発者・開発年
| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 開発者(公表年)
|-  
|-  
|ハミルトンうつ病評価尺度<br>(Hamilton Depression Scale; HAM-D)
|ハミルトンうつ病評価尺度<br>(Hamilton Depression Scale; HAM-D)
|うつ病の重症度を評価する尺度として
|既にうつ病と診断された患者に対する抑うつ症状の重症度評価
|Hamilton (1960)  
|Hamilton (1960) <ref><pubmed>14399272</pubmed></ref>
|-
|-
|モンゴメリ・アスベルグうつ病評価尺度<br>(Montgomery-Asberg Depression Rating Scale; MADRS)
|モンゴメリ・アスベルグうつ病評価尺度<br>(Montgomery-Asberg Depression Rating Scale; MADRS)
|うつ病の重症度を評価する尺度として
|身体症状を極力除外して精神症状を重視したうつ病の重症度評価
|MontgomeryとAsberg (1979)
|MontgomeryとAsberg (1979)<ref><pubmed>444788</pubmed></ref>
|-
|-
|医師版うつ病症候学評価尺度<br>(Inventory of Depressive Symptomatology-Clinician Rating; IDS-C)
|医師版うつ病症候学評価尺度<br>(Inventory of Depressive Symptomatology-Clinician Rating; IDS-C)
|うつ病の重症度を評価する尺度として
|不安・非定型・メランコリー型の特徴を含むうつ病の重症度評価
|Rushら (1986)
|Rushら (1986)<ref><pubmed>3737788</pubmed></ref>
|-
|-
|Self-rating Depression Scale(SDS)
|自記式抑うつ質問票<br>(Self-rating Depression Scale; SDS)
|うつ病の自己記入式質問票
|抑うつ症状の自覚の程度を評価する自己記入式質問票
|Zung(1965)
|Zung(1965)<ref><pubmed>14221692</pubmed></ref>
|-
|-
|ヤング躁病評価尺度<br>(Young Mania Rating Scale; YMRS)
|ヤング躁病評価尺度<br>(Young Mania Rating Scale; YMRS)
|躁病エピソードの重症度を評価する尺度として
|躁病エピソードの重症度評価
|Youngら(1978)
|Youngら(1978)<ref><pubmed>728692</pubmed></ref>
|-
|-
|}
|}


===不安障害の評価尺度===
===不安障害の評価尺度===
 [[不安障害]]を評価する尺度としては、不安障害全般の重症度を評価する目的でHamilton(1959)が開発した[[ハミルトン不安尺度]](Hamilton Anxiety Scale; HAM-A)をはじめ、[[社交不安障害]]の重症度を評価する目的でLiebowitzら(1999)が開発した[[リーボヴィッツ社交不安尺度]](Liebowitz Social Anxiety Scale; L-SAS)、[[パニック障害]]の重症度を評価する目的でShearら(2001)が開発した[[パニック障害重症度評価尺度]] (Panic Disorder Severity Scale; PDSS)、[[強迫性障害]]の重症度を評価する目的でGoodmanら(1989)が開発した[[エール・ブラウン強迫尺度]] (Yale-Brown Obsessive Compulsive Scale; Y-BOCS)などがある。
 [[不安障害]]を評価する尺度としては、不安障害全般の重症度を評価する目的でHamilton(1959)が開発した[[ハミルトン不安尺度]](Hamilton Anxiety Scale; HAM-A)をはじめ、[[社交不安障害]]の重症度を評価する目的でLiebowitz(1987)が開発した[[リーボヴィッツ社交不安尺度]](Liebowitz Social Anxiety Scale; L-SAS)、[[パニック障害]]の重症度を評価する目的でShearら(2001)が開発した[[パニック障害重症度評価尺度]] (Panic Disorder Severity Scale; PDSS)、[[強迫性障害]]の重症度を評価する目的でGoodmanら(1989)が開発した[[エール・ブラウン強迫尺度]] (Yale-Brown Obsessive Compulsive Scale; Y-BOCS)などがある。


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154行目: 178行目:
| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 名称
| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 名称
| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 目的
| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 目的
| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 開発者・開発年
| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 開発者(公表年)
|-  
|-  
|ハミルトン不安尺度<br>(Hamilton Anxiety Scale; HAM-A)
|ハミルトン不安尺度<br>(Hamilton Anxiety Scale; HAM-A)
|不安障害全般の重症度を評価する目的
|不安障害全般の重症度評価
|Hamilton(1959)
|Hamilton(1959)<ref><pubmed>13638508</pubmed></ref>
|-
|-
|リーボヴィッツ社交不安尺度<br>(Liebowitz Social Anxiety Scale; L-SAS)
|リーボヴィッツ社交不安尺度<br>(Liebowitz Social Anxiety Scale; L-SAS)
|社交不安障害の重症度を評価する目的
|社交不安障害の重症度評価
|Liebowitzら(1999)
|Liebowitz(1987)<ref>'''M R Liebowitz'''<br>Social Phobia.<br>''Mod Probl Pharmacopsychiatry'' 1987;22:141-173</ref>
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|パニック障害重症度評価尺度<br>(Panic Disorder Severity Scale; PDSS)
|パニック障害重症度評価尺度<br>(Panic Disorder Severity Scale; PDSS)
|パニック障害の重症度を評価する目的
|パニック障害の重症度評価
|Shearら(2001)
|Shearら(2001)<ref><pubmed>11591432</pubmed></ref>
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|エール・ブラウン強迫尺度<br>(Yale-Brown Obsessive Compulsive Scale; Y-BOCS)
|エール・ブラウン強迫尺度<br>(Yale-Brown Obsessive Compulsive Scale; Y-BOCS)
|強迫性障害の重症度を評価する目的
|強迫性障害の重症度評価
|Goodmanら(1989)
|Goodmanら(1989)<ref><pubmed>2684084</pubmed></ref>
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===認知症の評価尺度===
===認知症の評価尺度===
 [[認知症]]のスクリーニング検査としては長谷川(1974)が開発した[[改訂長谷川式簡易知能評価スケール]](HDS-R)やFolsteinら(1975)が開発した11項目の[[ミニメンタルステイト検査]](Mini Mental State Examination; MMSE)などがある。また、[[アルツハイマー型認知症]]患者にみられる精神症状の重症度を評価する尺度としては、Reisbergら(1987)が開発した25項目からなる[[アルツハイマー病行動病理学尺度]](Behavioral Pathology in [[Alzheimer's disease|Alzheimer's Disease]]; Behave-AD)やMohsら(1983)が開発した[[アルツハイマー病評価尺度]] (Alzheimer's Disease Assessment Scale; ADAS) などがある。
 [[認知症]]のスクリーニング検査としては長谷川(1974)が開発した[[改訂長谷川式簡易知能評価スケール]](Hasegawa Dementia Scale, Revised; HDS-R)やFolsteinら(1975)が開発した11項目の[[ミニメンタルステイト検査]](Mini Mental State Examination; MMSE)などがある。また、[[アルツハイマー型認知症]]患者にみられる精神症状の重症度を評価する尺度としては、Reisbergら(1987)が開発した25項目からなる[[アルツハイマー病行動病理学尺度]]([[Behavioral Pathology in Alzheimer's disease]]; Behave-AD)やMohsら(1983)が開発した[[アルツハイマー病評価尺度]] (Alzheimer's Disease Assessment Scale; ADAS) などがある。


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| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 名称
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| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 目的
| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 目的
| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 開発者・開発年
| style="text-align:center; background-color:#ddf" | 開発者(公表年)
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|改訂長谷川式簡易知能評価スケール<br>(HDS-R)
|改訂長谷川式簡易知能評価スケール<br>(Hasegawa Dementia Scale, Revised; HDS-R)
|認知症のスクリーニング検査
|認知症のスクリーニング検査
|長谷川(1974)
|加藤ら(1991)<ref>'''加藤伸司、下垣光、小野寺敦志、植田宏樹、老川賢三、池田一彦、小坂敦二、今井幸充、長谷川和夫'''<br>改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の作成<br>''老年精神医学雑誌''、2:1339-1347(1991)</ref>
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|ミニメンタルステイト検査<br>(Mini Mental State Examination; MMSE)
|ミニメンタルステイト検査<br>(Mini Mental State Examination; MMSE)
|認知症のスクリーニング検査
|認知症のスクリーニング検査
|Folsteinら(1975)
|Folsteinら(1975)<ref><pubmed>1202204</pubmed></ref>
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|アルツハイマー病行動病理学尺度<br>(Behavioral Pathology in Alzheimer's Disease; Behave-AD)
|[[アルツハイマー病]]行動病理学尺度<br>(Behavioral Pathology in Alzheimer's Disease; Behave-AD)
|アルツハイマー型認知症患者にみられる精神症状の重症度を評価する尺度
|アルツハイマー型認知症患者にみられる精神症状(周辺症状としての行動・心理症状)の重症度評価
|Reisbergら(1987)
|Reisbergら(1987)<ref><pubmed>3553166</pubmed></ref>   
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|アルツハイマー病評価尺度<br> (Alzheimer's Disease Assessment Scale; ADAS)  
|アルツハイマー病評価尺度<br>(Alzheimer's Disease Assessment Scale; ADAS)  
|アルツハイマー型認知症患者にみられる精神症状の重症度を評価する尺度
|アルツハイマー型認知症患者にみられる認知機能10項目と非認知機能11項目の重症度評価
|Mohsら(1983)
|Mohsら(1983)<ref><pubmed>6635122</pubmed></ref>
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==関連==
*[[統合失調症]]
*[[気分障害]]
*[[不安神経症]]
*[[認知症]]
*[[操作的診断基準]]


==参考文献==
==参考文献==
<references />
<references />
稲田俊也、岩本邦弘: 観察者による精神科領域の症状評価尺度ガイド 改訂版. じほう、 東京、 2009
稲田俊也、 樋口輝彦: 症状評価法. In: 山内俊雄 (総編集)、 岡崎祐士、神庭重信、小山 司、武田雅俊 (編集): 精神科専門医のためのプラクティカル精神医学. 中山書店. 東京、pp213-220、 2009
北村俊則:精神症状測定の理論と実際(第2版).海鳴社、東京、1995.