「睡眠障害」の版間の差分

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ⅱ)概日リズム睡眠障害<br> 前述したように,睡眠は体内時計に依存して発現する生体現象である.それゆえ,睡眠は,覚醒中の精神身体活動量などの内部または外部環境要因の影響だけでなく,睡眠覚醒リズムの維持に関わる体内時計リズムからの制御を強く受ける.概日リズム睡眠障害は,この体内時計機能の障害により発症するものである.<br> 睡眠覚醒,自律神経系,メラトニン,コルチゾールなどの内分泌系,代謝系活動にみられる約24時間周期のリズムは概日リズムと呼ばれ,体内時計によって支配されている.これらのリズムは,光刺激や運動,摂食など様々な外因によって修飾され,外界環境へ同調する.生物時計システムは,環境情報の変化を時計本体に伝える入力部,システムの中枢をなし自律的な24時間リズムを形成する時計本体,そして時計から発振される概日シグナルにより諸生理機能リズムを駆動する出力部から構成されている.<br> 哺乳類の中枢時計は,SCNに存在するが,ほとんどの組織・器官の細胞にも生物時計(末梢時計)が備わっており,中枢時計SCNから発振される概日シグナルが末梢時計に階層的に作用し,生体リズムを統合している.もっとも強力な同調因子である光刺激は,その入力情報が網膜から網膜視床下部路を経由してSCNに直接伝えられ,これにより中枢リズムの位相がリセット(前進もしくは後退)されることで,個体の生体リズムが環境因子に順応する.体内時計システムに関わるほとんどの遺伝子は,SCNにおいて約24時間の転写日周リズムを示し,この時計遺伝子群の転写・翻訳制御のフィードバックループが体内時計発信機構の中核をなす.全身の時計遺伝子が自律的に作る約25時間の概日リズム(circadian rhythm)は朝の光で位相が毎日補正されて,24時間の外界周期に適応する.<br> 概日リズム睡眠障害は,睡眠内容そのものは正常であるが,望ましい時間帯に睡眠をとることが困難になり社会生活に支障を来すもので,概日リズムを司る体内時計の発振機構,もしくは時計の同調機能の障害により生じる.睡眠相後退型は,睡眠時間帯が非常に遅れており,望ましい時刻に入眠および覚醒することが困難で,遅刻・欠勤の重要な原因となる.それに対し,睡眠相前進型は,睡眠時間帯が著しく前にずれ,極端な早寝早起きの状態となる.自由継続型は,24時間のリズムに適合できないために入眠・覚醒時刻が毎日1時間程度遅れ,定まった時刻に入眠および覚醒することができないために,昼夜の生活が逆転する期間が生じる.自由継続型は,体内時計に明暗情報が入力されないために,24時間周期に同調できない全盲者に多い.不規則型は,1日の中に睡眠エピソードが不規則に3回以上起こり,その持続時間も一定しない.この型の障害はアルツハイマー型などの認知症高齢者に併発することが多い.<br> 概日リズム睡眠障害の治療として,ヒトの体内時計位相変化部分に高照度光を照射する高照度光療法がある.早朝の時間帯に高照度光を照射すると深部体温リズムやメラトニンリズムなどの概日リズム位相が早まり,夜の就寝時刻前後に高照度光を照射すると概日リズム位相が遅くなる.光による生体リズムの同調は光パルスに対する位相反応曲線(phase response curve:PRC)によって説明することができる.恒暗条件下において光パルスを与えると,その照射時刻によってリズムの位相変位の度合いが変化するが,照射時刻と位相変位の関係を関数プロットしたものが位相反応曲線である(図4)<ref><pubmed>12717008</pubmed></ref>.高照度光療法は,これを応用して,光照射器を用いて高照度光を一定時間照射し,睡眠相を望ましい時間帯に矯正するという方法である.本療法には通常2500 lux以上の高照度光が用いられる. <br> メラトニン分泌が体内時計によって制御されている一方で,外部から投与したメラトニンも生体リズムの位相を変化させる働きがあることが明らかにされている.夕方にメラトニンを投与すると生体リズムの位相は早まり,朝に投与すると逆に遅れる.これは夕の光が生物時計を遅らせ,朝の光が体内時計を早めるのとちょうど反対の位相反応である.このような特徴から,概日リズム睡眠障害の治療に対するメラトニン投与の有効性が確立されている.実際の投与法については,0.5~1㎎を実際に入眠にできる時刻(前夜入眠した時刻)の6~7時間前,または望まれる入眠時刻の2~3時間前に投与する方法が主体である.  
ⅱ)概日リズム睡眠障害<br> 前述したように,睡眠は体内時計に依存して発現する生体現象である.それゆえ,睡眠は,覚醒中の精神身体活動量などの内部または外部環境要因の影響だけでなく,睡眠覚醒リズムの維持に関わる体内時計リズムからの制御を強く受ける.概日リズム睡眠障害は,この体内時計機能の障害により発症するものである.<br> 睡眠覚醒,自律神経系,メラトニン,コルチゾールなどの内分泌系,代謝系活動にみられる約24時間周期のリズムは概日リズムと呼ばれ,体内時計によって支配されている.これらのリズムは,光刺激や運動,摂食など様々な外因によって修飾され,外界環境へ同調する.生物時計システムは,環境情報の変化を時計本体に伝える入力部,システムの中枢をなし自律的な24時間リズムを形成する時計本体,そして時計から発振される概日シグナルにより諸生理機能リズムを駆動する出力部から構成されている.<br> 哺乳類の中枢時計は,SCNに存在するが,ほとんどの組織・器官の細胞にも生物時計(末梢時計)が備わっており,中枢時計SCNから発振される概日シグナルが末梢時計に階層的に作用し,生体リズムを統合している.もっとも強力な同調因子である光刺激は,その入力情報が網膜から網膜視床下部路を経由してSCNに直接伝えられ,これにより中枢リズムの位相がリセット(前進もしくは後退)されることで,個体の生体リズムが環境因子に順応する.体内時計システムに関わるほとんどの遺伝子は,SCNにおいて約24時間の転写日周リズムを示し,この時計遺伝子群の転写・翻訳制御のフィードバックループが体内時計発信機構の中核をなす.全身の時計遺伝子が自律的に作る約25時間の概日リズム(circadian rhythm)は朝の光で位相が毎日補正されて,24時間の外界周期に適応する.<br> 概日リズム睡眠障害は,睡眠内容そのものは正常であるが,望ましい時間帯に睡眠をとることが困難になり社会生活に支障を来すもので,概日リズムを司る体内時計の発振機構,もしくは時計の同調機能の障害により生じる.睡眠相後退型は,睡眠時間帯が非常に遅れており,望ましい時刻に入眠および覚醒することが困難で,遅刻・欠勤の重要な原因となる.それに対し,睡眠相前進型は,睡眠時間帯が著しく前にずれ,極端な早寝早起きの状態となる.自由継続型は,24時間のリズムに適合できないために入眠・覚醒時刻が毎日1時間程度遅れ,定まった時刻に入眠および覚醒することができないために,昼夜の生活が逆転する期間が生じる.自由継続型は,体内時計に明暗情報が入力されないために,24時間周期に同調できない全盲者に多い.不規則型は,1日の中に睡眠エピソードが不規則に3回以上起こり,その持続時間も一定しない.この型の障害はアルツハイマー型などの認知症高齢者に併発することが多い.<br> 概日リズム睡眠障害の治療として,ヒトの体内時計位相変化部分に高照度光を照射する高照度光療法がある.早朝の時間帯に高照度光を照射すると深部体温リズムやメラトニンリズムなどの概日リズム位相が早まり,夜の就寝時刻前後に高照度光を照射すると概日リズム位相が遅くなる.光による生体リズムの同調は光パルスに対する位相反応曲線(phase response curve:PRC)によって説明することができる.恒暗条件下において光パルスを与えると,その照射時刻によってリズムの位相変位の度合いが変化するが,照射時刻と位相変位の関係を関数プロットしたものが位相反応曲線である(図4)<ref><pubmed>12717008</pubmed></ref>.高照度光療法は,これを応用して,光照射器を用いて高照度光を一定時間照射し,睡眠相を望ましい時間帯に矯正するという方法である.本療法には通常2500 lux以上の高照度光が用いられる. <br> メラトニン分泌が体内時計によって制御されている一方で,外部から投与したメラトニンも生体リズムの位相を変化させる働きがあることが明らかにされている.夕方にメラトニンを投与すると生体リズムの位相は早まり,朝に投与すると逆に遅れる.これは夕の光が生物時計を遅らせ,朝の光が体内時計を早めるのとちょうど反対の位相反応である.このような特徴から,概日リズム睡眠障害の治療に対するメラトニン投与の有効性が確立されている.実際の投与法については,0.5~1㎎を実際に入眠にできる時刻(前夜入眠した時刻)の6~7時間前,または望まれる入眠時刻の2~3時間前に投与する方法が主体である. [[Image:Takaスライド4.PNG|586x437px|RTENOTITLE]]


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