「瞬目反射条件づけ」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0109518 岸本 泰司]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0109518 岸本 泰司]</font><br>
''徳島文理大学香川薬学部''<br>
''徳島文理大学香川薬学部''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2015年8月14日 原稿完成日:2015年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2015年8月14日 原稿完成日:2016年5月5日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tsuyoshimiyakawa 宮川 剛](藤田保健衛生大学)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tsuyoshimiyakawa 宮川 剛](藤田保健衛生大学)<br>
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 瞬目反射条件づけの現象についての最も初期の報告はヒトを対象としたもので、1922年の文献まで遡ることができる<ref>'''H Cason'''<br> The conditioned eyelid reaction <br>'' J. Exp. Psychol. 5(3); 153-196.'':1922</ref>。その後、心理学における行動主義の台頭に相まって、多くの重要な心理学的知見が、この瞬目反射条件づけを利用して発見された。例えば、[[ハンフリーズ効果]]、すなわち、連続強化よりも部分強化で条件づけられた行動の方が、消去抵抗が強くなるという現象は、瞬目反射条件づけを用いて発見されたものである<ref>'''L G Humphreys'''<br> The effect of random alteration of reinforcement on the acquisition and extinction of conditioned eyeblink reactions <br>'' J. Exp. Psychol. 25(2); 141-158.'':1939</ref>(この効果の発見により、瞬目反射条件づけの実験では通常CSとUSの対提示だけではなく10回に1回程度CSのみ、あるいはさらにUSのみの試行を組み合わせて行うことが多い)。
 瞬目反射条件づけの現象についての最も初期の報告はヒトを対象としたもので、1922年の文献まで遡ることができる<ref>'''H Cason'''<br> The conditioned eyelid reaction <br>'' J. Exp. Psychol. 5(3); 153-196.'':1922</ref>。その後、心理学における行動主義の台頭に相まって、多くの重要な心理学的知見が、この瞬目反射条件づけを利用して発見された。例えば、[[ハンフリーズ効果]]、すなわち、連続強化よりも部分強化で条件づけられた行動の方が、消去抵抗が強くなるという現象は、瞬目反射条件づけを用いて発見されたものである<ref>'''L G Humphreys'''<br> The effect of random alteration of reinforcement on the acquisition and extinction of conditioned eyeblink reactions <br>'' J. Exp. Psychol. 25(2); 141-158.'':1939</ref>(この効果の発見により、瞬目反射条件づけの実験では通常CSとUSの対提示だけではなく10回に1回程度CSのみ、あるいはさらにUSのみの試行を組み合わせて行うことが多い)。


 60年代、[[wikipedia:Isidore Gormezano:|Isidore Gormezano]]によりウサギに瞬目反射条件づけが導入されて以降は、数多くの実験動物を用いた生理・心理学的研究が実施された<ref name=ref9><pubmed> 14168641 </pubmed></ref>。我が国においても、主にヒトを用いた瞬目反射条件づけの心理学的研究が盛んに行われていた時期がある<ref name=ref10>'''山田冨美雄'''<br>瞬目反射の先行刺激効果:その心理学的意義と応用<br>''多賀出版(東京)'':1993</ref>。1980年代後半になり、[[wikipedia:Ronald W. Skelton|Ronald W. Skelton]]によって、発達・加齢と学習との相関を調べる目的で、ラットに対して非拘束下での瞬目反射条件づけを可能とする手技が開発された('''図1''')<ref><pubmed> 3166733</pubmed></ref>。90年代に入ると、この方法論が[[ノックアウトマウス]]にそのまま適用され、瞬目反射条件づけの[[行動遺伝学]]が開始された<ref name=ref12><pubmed> 7954803 </pubmed></ref>。特に、小脳の[[シナプス可塑性]]である長期抑圧(Long-term depression; LTD)(後述)と[[瞬目反射条件づけ遅延課題]]との関係性が集中的に調べられることになる<ref name=ref12 />。こうした行動遺伝学的研究によって、[[代謝活性型グルタミン酸受容体1型]]([[mGluR1]])、[[PKCγ]]、[[GluRδ2]]、[[内在性カンナビノイド受容体CB1R]]など多くの分子が小脳LTDと瞬目反射条件づけ遅延課題の双方に必要であることが明らかとなり、前庭動眼反射と同様、瞬目反射条件づけにおいても、LTDが記憶形成の神経基盤であるとの「小脳LTD仮説(後述)」が90年代後半には説得力をもって醸成されていった。今世紀に入り、[[瞬目反射条件づけ痕跡課題]]も遺伝子改変マウスに適応され、[[海馬]]におけるシナプス可塑性との相関性が示唆されている<ref><pubmed> 11285019</pubmed></ref>。さらには、特定の時期かつ特定の神経細胞のみで機能を失活させたミュータントマウスに適用することにより、小脳や海馬における特定のシナプス回路が瞬目反射条件づけの記憶形成や保持に果たす役割も詳らかにされつつある<ref><pubmed> 12492436</pubmed></ref><ref name=ref15><pubmed> 17923666</pubmed></ref><ref name=ref16><pubmed> 16452679</pubmed></ref> 。詳細は後述する遅延課題の場合、その [[記憶痕跡]]の場が、主に[[小脳]]にあることから、とりわけ神経科学の分野で小脳依存性学習もしくは[[運動学習]]としてよく分類・記述される。小脳が記憶形成の場であるとの論拠は、主に実験動物の脳損傷実験と小脳疾患患者の臨床例よりもたらされた<ref name=ref5><pubmed> 6701513 </pubmed></ref><ref name=ref6><pubmed> 8493536 </pubmed></ref>。また多くのニューラルネットワークモデルによっても瞬目反射条件づけの小脳理論が構築され、行動実験の結果との擦り合わせが図られている。
 60年代、[[wikipedia:Isidore Gormezano:|Isidore Gormezano]]によりウサギに瞬目反射条件づけが導入されて以降は、数多くの実験動物を用いた生理・心理学的研究が実施された<ref name=ref9><pubmed> 14168641 </pubmed></ref>。我が国においても、主にヒトを用いた瞬目反射条件づけの心理学的研究が盛んに行われていた時期がある<ref name=ref10>'''山田冨美雄'''<br>瞬目反射の先行刺激効果:その心理学的意義と応用<br>''多賀出版(東京)'':1993</ref>。1980年代後半になり、[[wikipedia:Ronald W. Skelton|Ronald W. Skelton]]によって、発達・加齢と学習との相関を調べる目的で、ラットに対して非拘束下での瞬目反射条件づけを可能とする手技が開発された('''図1''')<ref><pubmed> 3166733</pubmed></ref>。90年代に入ると、この方法論が[[ノックアウトマウス]]にそのまま適用され、瞬目反射条件づけの[[行動遺伝学]]が開始された<ref name=ref12><pubmed> 7954803 </pubmed></ref>。特に、小脳の[[シナプス可塑性]]である長期抑圧(Long-term depression; LTD)(後述)と[[瞬目反射条件づけ遅延課題]]との関係性が集中的に調べられることになる<ref name=ref12 />。こうした行動遺伝学的研究によって、[[代謝活性型グルタミン酸受容体1型]]([[mGluR1]])、[[GFAP]]、[[PLCβ4]]、[[GluRδ2]]、[[内在性カンナビノイド受容体CB1R]]など多くの分子が小脳LTDと瞬目反射条件づけ遅延課題の双方に必要であることが明らかとなり<ref name=ref12 /><ref><pubmed> 8785056</pubmed></ref><ref><pubmed> 16928872</pubmed></ref><ref><pubmed> 11403688</pubmed></ref><ref><pubmed> 11722613</pubmed></ref>、前庭動眼反射と同様、瞬目反射条件づけにおいても、LTDが記憶形成の神経基盤であるとの「小脳LTD仮説(後述)」が90年代後半には説得力をもって醸成されていった。今世紀に入り、[[瞬目反射条件づけ痕跡課題]]も遺伝子改変マウスに適応され、[[海馬]]におけるシナプス可塑性との相関性が示唆されている<ref><pubmed> 11285019</pubmed></ref>。さらには、特定の時期かつ特定の神経細胞のみで機能を失活させたミュータントマウスに適用することにより、小脳や海馬における特定のシナプス回路が瞬目反射条件づけの記憶形成や保持に果たす役割も詳らかにされつつある<ref><pubmed> 12492436</pubmed></ref><ref name=ref15><pubmed> 17923666</pubmed></ref><ref name=ref16><pubmed> 16452679</pubmed></ref> 。詳細は後述する遅延課題の場合、その [[記憶痕跡]]の場が、主に[[小脳]]にあることから、とりわけ神経科学の分野で小脳依存性学習もしくは[[運動学習]]としてよく分類・記述される。小脳が記憶形成の場であるとの論拠は、主に実験動物の脳損傷実験と小脳疾患患者の臨床例よりもたらされた<ref name=ref5><pubmed> 6701513 </pubmed></ref><ref name=ref6><pubmed> 8493536 </pubmed></ref>。また多くのニューラルネットワークモデルによっても瞬目反射条件づけの小脳理論が構築され、行動実験の結果との擦り合わせが図られている。




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 CSとUSの情報は、小脳において2つの部位、小脳皮質と小脳核で連合される('''図4''')。小脳核の中でも、瞬目反射条件づけに殊に重要とされる領域は[[中位核]](interpositus nucleus)である。橋核と下オリーブ核からそれぞれ運ばれてきたCSとUS情報の統合に加え、中位核のニューロンは小脳皮質のプルキンエ細胞から強力なGAB<sub>A</sub>作動性の抑制性入力を受けている。中位核から出力された情報は、[[赤核]]を経て、瞬目の運動出力を担う[[顔面神経核]]や[[外転神経核]]へと投射される。すなわち、小脳核は、CSとUSの収斂の場であるだけでなく、小脳からの情報出力を担う構造でもある。
 CSとUSの情報は、小脳において2つの部位、小脳皮質と小脳核で連合される('''図4''')。小脳核の中でも、瞬目反射条件づけに殊に重要とされる領域は[[中位核]](interpositus nucleus)である。橋核と下オリーブ核からそれぞれ運ばれてきたCSとUS情報の統合に加え、中位核のニューロンは小脳皮質のプルキンエ細胞から強力なGAB<sub>A</sub>作動性の抑制性入力を受けている。中位核から出力された情報は、[[赤核]]を経て、瞬目の運動出力を担う[[顔面神経核]]や[[外転神経核]]へと投射される。すなわち、小脳核は、CSとUSの収斂の場であるだけでなく、小脳からの情報出力を担う構造でもある。


 なお、平行線維とプルキンエ細胞間にはシナプス伝達効率の[[長期抑圧]](LTD)が生じることが知られている('''図4''')。プルキンエ細胞の抑制性の出力が解除されることで、[[驚愕反射]]としても知られる「音を聴いて瞬きが起こる経路」が顕れるという説明がこのモデルの眼目である<ref>'''M Ito'''<br>The cerebellum and neural control<br>''Raven Press(New York)'':1984</ref> 。前述したように、これまでにLTDに欠損があるマウス系統の多くで瞬目反射条件づけ(遅延課題)の記憶形成に重篤な障害が起きていることが示されてきた。これは、小脳LTDと瞬目反射条件づけが少なくとも同じ分子基盤を共有していることを強く示す証左であった。ところが、近年小脳LTDが障害されているミュータントマウスでも、前庭動眼反射とともに瞬目反射条件づけ(遅延課題)の学習能力も正常であったと主張する報告が提出された<ref><pubmed> 21482355 </pubmed></ref>。また、小脳LTDは、運動記憶の形成そのものよりも、学習の表出のタイミングなど修飾的な役割を担うとする論調も目立つようになってきた<ref><pubmed> 14500987 </pubmed></ref>が、これらの研究も遺伝子改変マウスにおける行動とシナプス機能の相関関係を論じたものであり、因果関係を必ずしも明確にしたものではない。
 なお、平行線維とプルキンエ細胞間にはシナプス伝達効率の[[長期抑圧]](LTD)が生じることが知られている('''図4''')。プルキンエ細胞の抑制性の出力が解除されることで、[[驚愕反射]]としても知られる「音を聴いて瞬きが起こる経路」が顕れるという説明がこのモデルの眼目である<ref>'''M Ito'''<br>The cerebellum and neural control<br>''Raven Press(New York)'':1984</ref> 。前述したように、これまでにLTDに欠損があるマウス系統の多くで瞬目反射条件づけ(遅延課題)の記憶形成に重篤な障害が起きていることが示されてきた。これは、小脳LTDと瞬目反射条件づけが少なくとも同じ分子基盤を共有していることを強く示す証左であった。ところが、2000年代に入ると、小脳LTDは、運動記憶の形成そのものよりも、学習の表出のタイミングなど修飾的な役割を担うとする研究が報告され<ref><pubmed> 14500987 </pubmed></ref>、さらには小脳LTDが障害されているミュータントマウスでも、前庭動眼反射とともに瞬目反射条件づけ(遅延課題)の学習能力は全く正常であると主張する報告が提出され、小脳学習の研究分野に大きなインパクトを与えた<ref><pubmed> 21482355 </pubmed></ref>。しかしながら、こうした研究も遺伝子改変マウスにおける行動とシナプス機能の相関関係を論じたものであり、因果関係を必ずしも明確にしたものではない。実際、依然としてLTDの障害と瞬目反射条件づけの障害の相関関係を示した論文は、現在も報告され続けている<ref><pubmed> 24523559  </pubmed></ref><ref><pubmed> 25418414 </pubmed></ref>


=== 小脳皮質vs.小脳核の論争 ===
=== 小脳皮質vs.小脳核の論争 ===
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==== 小脳皮質の重要性についての議論 ====
==== 小脳皮質の重要性についての議論 ====
 小脳皮質の中でも特に重要な領域とされるのが、第VI半球[[小葉]]と[[前葉]]である。これらの部位の損傷・除去、不活性化、もしくは発現分子の欠損によって、瞬目反射条件づけ(遅延課題)の学習が阻害されるとの多くの報告がある。LavondとSteinmetzは、小脳核を残したまま、第VI半球小葉と小脳前葉を含む大きな領域を吸引除去したところ、瞬目反射条件づけ(遅延課題)の学習が著明に障害されることを示した<ref><pubmed> 2765164 </pubmed></ref>。ただし、一度学習が成立した後に、こうした領域を除去してもCRの発現に大きな影響は見られないことから、学習の保持には重要ではないとされた。また、GABA<sub>A</sub>受容体アゴニストである[[ムシモル]]や[[AMPA型グルタミン酸受容体]][[アンタゴニストCNQX]]を小脳第VI半球小葉に注入しても、同様に瞬目反射条件づけ(遅延課題)の学習が阻害される<ref name=ref6 />。ただし、こうした方法論も、小脳核の機能を完全に保持したままでの実行が難しい可能性があり、小脳皮質の小脳核に対する相対的優位性については未だに評価が定まっていない。なお、小脳皮質の唯一の出力細胞であるプルキンエ細胞が欠落した[[wikipedia:ja:pcdマウス|''pcd''マウス]]でも、小脳皮質除去動物と同様に、瞬目反射条件づけ(遅延課題)の学習獲得が著明に障害されていた <ref><pubmed> 8786457 </pubmed></ref>。とはいえ、この実験結果も、学習が完全に抑制されるわけではなかったことから、むしろ小脳皮質が遅延課題の記憶形成に必須ではないとの文脈で参照されることが多いようである(要引用)。また、平行線維からプルキンエ細胞に対する[[神経伝達物質]]の放出を可逆的に阻害できるマウスを利用した研究によれば、小脳皮質における神経伝達が瞬目反射条件づけの記憶成立には必須でなく、CRの表出に重要であることが示唆されている<ref name=ref15 />。
 小脳皮質の中でも特に重要な領域とされるのが、第VI半球[[小葉]]と[[前葉]]である。これらの部位の損傷・除去、不活性化、もしくは発現分子の欠損によって、瞬目反射条件づけ(遅延課題)の学習が阻害されるとの多くの報告がある。LavondとSteinmetzは、小脳核を残したまま、第VI半球小葉と小脳前葉を含む大きな領域を吸引除去したところ、瞬目反射条件づけ(遅延課題)の学習が著明に障害されることを示した<ref><pubmed> 2765164 </pubmed></ref>。ただし、一度学習が成立した後に、こうした領域を除去してもCRの発現に大きな影響は見られないことから、学習の保持には重要ではないとされた。また、GABA<sub>A</sub>受容体アゴニストである[[ムシモル]]や[[AMPA型グルタミン酸受容体]][[アンタゴニストCNQX]]を小脳第VI半球小葉に注入しても、同様に瞬目反射条件づけ(遅延課題)の学習が阻害される<ref name=ref6 />。ただし、こうした方法論も、小脳核の機能を完全に保持したままでの実行が難しい可能性があり、小脳皮質の小脳核に対する相対的優位性については未だに評価が定まっていない。なお、小脳皮質の唯一の出力細胞であるプルキンエ細胞が欠落した[[wikipedia:ja:pcdマウス|''pcd''マウス]]でも、小脳皮質除去動物と同様に、瞬目反射条件づけ(遅延課題)の学習獲得が著明に障害されていた <ref><pubmed> 8786457 </pubmed></ref>。とはいえ、この実験結果も、学習が完全に抑制されるわけではなかったことから、むしろ小脳皮質が遅延課題の記憶形成に必須ではないとの文脈で参照されることが多い<ref><pubmed> 21969489 </pubmed></ref>。また、平行線維からプルキンエ細胞に対する[[神経伝達物質]]の放出を可逆的に阻害できるマウスを利用した研究によれば、小脳皮質における神経伝達が瞬目反射条件づけの記憶成立には必須でなく、CRの表出に重要であることが示唆されている<ref name=ref15 />。


==== 小脳核(中位核)の重要性についての議論 ====
==== 小脳核(中位核)の重要性についての議論 ====
 Richard F. Thompsonのグループは、[[前中位核]](anterior interpositus nucleus)のみに限局した損傷でも、同側小脳損傷(皮質と核の双方の損傷)の場合と同程度に、1) ナイーブ動物での瞬目反射条件づけ(遅延課題)の獲得を妨げること、さらに、2) よく学習が成立した後でさえCRの出現を完全に阻害すること、を示した<ref name=ref6 />。また、局所的なムシモルや[[麻酔剤]]の投与、あるいは冷却によって中位核を可逆的に不活性化しても、被験動物でCRが出現しなくなることなどが相次いで報告された。瞬目反射条件づけ中の中位核ニューロン活動のマルチユニット活動解析からは、中位核ニューロンはCRの表出に先んじて活動を始め、さらにこの神経発火の時間パターンはCR表出の時間パターンを非常に良く予測することも明らかにされた<ref><pubmed> 2073949 </pubmed></ref>。''in vivo''の電気生理学的研究によって、中位核においては長期増強の存在も報告されていることもあり<ref><pubmed> 3015653 </pubmed></ref>、現時点において中位核は瞬目反射条件づけの記憶形成において最も重要な部位と認識されるに至っている。
 Richard F. Thompsonのグループは、[[前中位核]](anterior interpositus nucleus)のみに限局した損傷でも、同側小脳損傷(皮質と核の双方の損傷)の場合と同程度に、1) ナイーブ動物での瞬目反射条件づけ(遅延課題)の獲得を妨げること、さらに、2) よく学習が成立した後でさえCRの出現を完全に阻害すること、を示した<ref name=ref6 />。また、局所的なムシモルや[[麻酔剤]]の投与、あるいは冷却によって中位核を可逆的に不活性化しても、被験動物でCRが出現しなくなることなどが相次いで報告された。瞬目反射条件づけ中の中位核ニューロン活動のマルチユニット活動解析からは、中位核ニューロンはCRの表出に先んじて活動を始め、さらにこの神経発火の時間パターンはCR表出の時間パターンを非常に良く予測することも明らかにされた<ref><pubmed> 2073949 </pubmed></ref>。''in vivo''の電気生理学的研究によって、中位核においては長期増強の存在も報告されていることもあり<ref><pubmed> 3015653 </pubmed></ref>、現時点において中位核は瞬目反射条件づけの記憶形成において最も重要な部位と認識されるに至っている<ref><pubmed> 25843404 </pubmed></ref>。


==瞬目反射条件づけの消去==
==瞬目反射条件づけの消去==