「瞬目反射条件づけ」の版間の差分

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=== 瞬目の反射経路 ===
=== 瞬目の反射経路 ===
 USが角膜に到達すると、その感覚情報は三叉神経核(trigeminal nucleus)に運ばれ、外転神経核に中継される。これらの神経核からの出力が、USに対する瞬目の無条件反射を引き起こす様々な眼筋を制御している。瞬目の主動筋である眼輪筋(''orbicularis ocul''i muscle)の筋電図(EMG)法は、有効で感度の高い瞬目の検出法と考えられ、現在では瞬目反射条件づけ研究においてもっとも頻用される行動出力の評価指標である(図4A)。この眼輪筋筋電図法の短所として顔面部への電極装着による異物感があげられるが、瞬目反射の動作筋そのものの活動を記録するという意味において計測にはもっとも適しているとされる<ref name=ref10 />。その他に、ビデオカメラを用いて、瞼の物理的な位置をトラッキングする方法 (図4B)や、小型の磁気サーチコイルを用いた方法論が必要に応じて利用される <ref name=ref4 /><ref name=ref10 />。
 USが角膜に到達すると、その感覚情報は三叉神経核(trigeminal nucleus)に運ばれ、外転神経核に中継される。これらの神経核からの出力が、USに対する瞬目の無条件反射を引き起こす様々な眼筋を制御している。瞬目の主動筋である眼輪筋(''orbicularis oculi'' muscle)の筋電図(EMG)法は、有効で感度の高い瞬目の検出法と考えられ、現在では瞬目反射条件づけ研究においてもっとも頻用される行動出力の評価指標である(図4A)。この眼輪筋筋電図法の短所として顔面部への電極装着による異物感があげられるが、瞬目反射の動作筋そのものの活動を記録するという意味において計測にはもっとも適しているとされる<ref name=ref10 />。その他に、ビデオカメラを用いて、瞼の物理的な位置をトラッキングする方法 (図4B)や、小型の磁気サーチコイルを用いた方法論が必要に応じて利用される <ref name=ref4 /><ref name=ref10 />。


[[ファイル:Ykishimoto_fig_4.jpg|サムネイル|300px|右|'''図4. 眼輪筋筋電図法およびビデオカメラ法による瞬目条件反射の解析例'''<br>(A) 眼輪筋筋電図法による筋電位の例(マウス)。上にCSとUSのタイミングを並べて示している。条件づけ成立前にはUS開始前には筋電位の有意な変化が見られないのに対し、成立後にはCSが開始した後USの開始前に大きな筋電位変化が観察されている。これがCRである。
[[ファイル:Ykishimoto_fig_4.jpg|サムネイル|300px|右|'''図4. 眼輪筋筋電図法およびビデオカメラ法による瞬目条件反射の解析例'''<br>(A) 眼輪筋筋電図法による筋電位の例(マウス)。上にCSとUSのタイミングを並べて示している。条件づけ成立前にはUS開始前には筋電位の有意な変化が見られないのに対し、成立後にはCSが開始した後USの開始前に大きな筋電位変化が観察されている。これがCRである。
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=== 小脳核(中位核)の重要性についての議論 ===
=== 小脳核(中位核)の重要性についての議論 ===
 Richard F Thompsonのグループは、前中位核(anterior interpositus nucleus)のみに限局した損傷でも、同側小脳損傷(皮質と核の双方の損傷)の場合と同程度に、1) ナイーブ動物での瞬目反射条件づけ(遅延課題)の獲得を妨げること、さらに、2) よく学習が成立した後でさえCRの出現を完全に阻害すること、を示した<ref name=ref6 />。また、局所的なムシモルや麻酔剤の投与、あるいは冷却によって中位核を可逆的に不活性化しても、被験動物でCRが出現しなくなることなどが相次いで報告された。瞬目反射条件づけ中の中位核ニューロン活動のマルチユニット活動解析からは、中位核ニューロンはCRの表出に先んじて活動を始め、さらにこの神経発火の時間パターンはCR表出の時間パターンを非常に良く予測することも明らかにされた<ref><pubmed> 2073949 </pubmed></ref>。in vivoの電気生理学的研究によって、中位核においては長期増強の存在も報告されていることもあり<ref><pubmed> 3015653 </pubmed></ref>、現時点において中位核は瞬目反射条件づけの記憶形成において最も重要な部位と認識されるに至っている。
 Richard F Thompsonのグループは、前中位核(anterior interpositus nucleus)のみに限局した損傷でも、同側小脳損傷(皮質と核の双方の損傷)の場合と同程度に、1) ナイーブ動物での瞬目反射条件づけ(遅延課題)の獲得を妨げること、さらに、2) よく学習が成立した後でさえCRの出現を完全に阻害すること、を示した<ref name=ref6 />。また、局所的なムシモルや麻酔剤の投与、あるいは冷却によって中位核を可逆的に不活性化しても、被験動物でCRが出現しなくなることなどが相次いで報告された。瞬目反射条件づけ中の中位核ニューロン活動のマルチユニット活動解析からは、中位核ニューロンはCRの表出に先んじて活動を始め、さらにこの神経発火の時間パターンはCR表出の時間パターンを非常に良く予測することも明らかにされた<ref><pubmed> 2073949 </pubmed></ref>。''in vivo''の電気生理学的研究によって、中位核においては長期増強の存在も報告されていることもあり<ref><pubmed> 3015653 </pubmed></ref>、現時点において中位核は瞬目反射条件づけの記憶形成において最も重要な部位と認識されるに至っている。


== 神経・精神疾患と瞬目反射条件づけ ==
== 神経・精神疾患と瞬目反射条件づけ ==
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