「磁気共鳴画像法」の版間の差分

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英略号:MRI
英略号:MRI


{{box|text= 磁気共鳴画像法(MRI)は、生体中に多数存在する水素原子核(プロトン)と、外部から与える電磁波との相互作用を利用することで、多彩な生命現象を可視化する技術であり、特にヒトを対象とする非侵襲的脳科学計測研究においては最も重要な手法の一つである。MRIによる生体内情報の可視化には、強い静磁場を形成するドーナツ型の超電導磁石、生体内のプロトンにエネルギーを送信して核磁気共鳴を生じさせ、緩和で放出される電磁波を受信するコイル、プロトンの空間分布をエンコード・デコードするための勾配磁場コイルが必要となる。電磁波で励起されたプロトンが、エネルギーを放出して定常状態に戻る際に放出する電磁波は、プロトン周囲の微小環境を反映したT1, T2, T2<sup>*</sup>と呼ばれる時定数を持つ。RFコイルによる電磁波と勾配磁場の印加方法を巧みに操ることでこれらの時定数を強調した画像が得られる。さらに、複数の受信コイルから得られた信号を組み合わせる手法(パラレルイメージング)と併用することで、機能的磁気共鳴画像(fMRI)実験において1秒以内に全脳を撮像することも可能となっている。}}
{{box|text= 磁気共鳴画像法(MRI)は、生体中に多数存在する水素原子核(プロトン)と、外部から与える電磁波との相互作用を利用することで、多彩な生命現象を可視化する技術であり、特にヒトを対象とする非侵襲的脳科学計測研究においては最も重要な手法の一つである。MRIによる生体内情報の可視化には、強い静磁場を形成するドーナツ型の超電導磁石、生体内のプロトンにエネルギーを送信して核磁気共鳴を生じさせ、緩和で放出される電磁波を受信するコイル、プロトンの空間分布をエンコード・デコードするための勾配磁場コイルが必要となる。電磁波で励起されたプロトンが、エネルギーを放出して定常状態に戻る際に放出する電磁波は、プロトン周囲の微小環境を反映したT<sub>1</sub>, T<sub>2</sub>, T<sub>2</sub>T<sub>2</sub><sup>*</sup>と呼ばれる時定数を持つ。RFコイルによる電磁波と勾配磁場の印加方法を巧みに操ることでこれらの時定数を強調した画像が得られる。さらに、複数の受信コイルから得られた信号を組み合わせる手法(パラレルイメージング)と併用することで、機能的磁気共鳴画像(fMRI)実験において1秒以内に全脳を撮像することも可能となっている。}}


== はじめに ==
== はじめに ==
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 一度のRFパルスの後、[[グラジエントエコー法]]あるいは[[スピンエコー法]]の信号収集時間を極端に延長し、読み出し勾配磁場を急速に変動させることで連続的なグラジエントエコーを発生させ、画像化に必要なデータを全て収集してしまう方法。<math>T_2^*</math>緩和の影響が強く、かつ原理的にもっとも高速な撮像法の一つである。fMRIで利用されるblood oxygenation-level dependent (BOLD)コントラスト(後述)は<math>T_2^*</math>緩和に依存し、かつ高い時間分解能が必要とされるため、本手法が用いられる('''図3''')。
 一度のRFパルスの後、[[グラジエントエコー法]]あるいは[[スピンエコー法]]の信号収集時間を極端に延長し、読み出し勾配磁場を急速に変動させることで連続的なグラジエントエコーを発生させ、画像化に必要なデータを全て収集してしまう方法。<math>T_2^*</math>緩和の影響が強く、かつ原理的にもっとも高速な撮像法の一つである。fMRIで利用されるblood oxygenation-level dependent (BOLD)コントラスト(後述)は<math>T_2^*</math>緩和に依存し、かつ高い時間分解能が必要とされるため、本手法が用いられる('''図3''')。


[[ファイル:Hanakawa Fig 3.png|サムネイル|右|400px| '''図3. それぞれの強調像の比較'''<br>三次元撮像(3d)T1強調画像(magnetization-prepared rapid gradient echo, MPRAGE)では脳脊髄液が黒く、白質が明るい灰色、灰白質がその中間の暗い灰色に見える。<br>T2強調画像(sampling perfection with application optimized contrasts using different flip angle evolution, SPACE)では逆に白質が最も暗く、灰白質、脳脊髄液と明るく見える。<br>機能的MRI用のmulti-band echo planar imaging(MB-EPI)ではT2に似たコントラストを示すが、副鼻腔による磁場不均一の影響を受ける<math>T_2^*</math>強調であるため前頭部の信号の一部が欠損している。]]
[[ファイル:Hanakawa Fig 3.png|サムネイル|右|400px| '''図3. それぞれの強調像の比較'''<br>三次元撮像(3d)T<sub>1</sub>強調画像(magnetization-prepared rapid gradient echo, MPRAGE)では脳脊髄液が黒く、白質が明るい灰色、灰白質がその中間の暗い灰色に見える。<br>T<sub>2</sub>強調画像(sampling perfection with application optimized contrasts using different flip angle evolution, SPACE)では逆に白質が最も暗く、灰白質、脳脊髄液と明るく見える。<br>機能的MRI用のmulti-band echo planar imaging(MB-EPI)ではT<sub>2</sub>に似たコントラストを示すが、副鼻腔による磁場不均一の影響を受ける<math>T_2^*</math>強調であるため前頭部の信号の一部が欠損している。]]


== 主なMRIコントラスト ==
== 主なMRIコントラスト ==
=== T1強調像 ===
=== T<sub>1</sub>強調像 ===
T1-weighted image, T1WI
T<sub>1</sub>-weighted image, T<sub>1</sub>WI


 縦磁化が十分に回復しないうちに信号収集を行うことで、各組織における縦磁化回復の早さの違いを強調した画像が得られる。具体的にはスピンエコー法では励起から次の励起までの時間(repetition time, TR)および励起から収集までの時間(echo time, TE)を短くすることで、またグラジエントエコー法では[[wj:フリップ角|フリップ角]](FA)を適度に大きく、TEを短くすることで[[T1強調像]]が得られる。
 縦磁化が十分に回復しないうちに信号収集を行うことで、各組織における縦磁化回復の早さの違いを強調した画像が得られる。具体的にはスピンエコー法では励起から次の励起までの時間(repetition time, TR)および励起から収集までの時間(echo time, TE)を短くすることで、またグラジエントエコー法では[[wj:フリップ角|フリップ角]](FA)を適度に大きく、TEを短くすることで[[T1強調像|T<sub>1</sub>強調像]]が得られる。


 撮像部位に流入する血管内の血液が高信号を示すことを利用して、[[造影剤]]を用いずに[[脳血管]]を可視化する手法であるTime-of-flight (TOF)法では、グラジエントエコー法によるT1強調像が用いられる。
 撮像部位に流入する血管内の血液が高信号を示すことを利用して、[[造影剤]]を用いずに[[脳血管]]を可視化する手法であるTime-of-flight (TOF)法では、グラジエントエコー法によるT1強調像が用いられる。


=== T2強調像 ===
=== T<sub>2</sub>強調像 ===
T2-weighted image, T2WI
T<sub>2</sub>-weighted image, T<sub>2</sub>WI


 励起から収集までの時間(TE)を長くとれば、各組織における横磁化の減衰速度の違いを強調した画像が得られる('''図3''')。画像収集にスピンエコー法を用いた場合、得られる画像は時定数[[T2強調像]]となる。
 励起から収集までの時間(TE)を長くとれば、各組織における横磁化の減衰速度の違いを強調した画像が得られる('''図3''')。画像収集にスピンエコー法を用いた場合、得られる画像は時定数[[T2強調像|T<sub>2</sub>強調像]]となる。


=== T<sub>2</sub><sup>*</sup>強調像 ===
=== T<sub>2</sub><sup>*</sup>強調像 ===
T2-star-weighted image, T2<sup>*</sup>WI
T<sub>2</sub>-star-weighted image, T<sub>2</sub><sup>*</sup>WI


 TEを長くとり、画像収集にグラジエントエコー法を用いた場合、得られる画像は[[T2*強調像|T2<sup>*</sup>強調像]]となる('''図3''')。得られた画像に特殊な画像処理を施すことで、[[磁化率強調像]](susceptibility-weighted image, SWI)<ref name=Haacke2004><pubmed>15334582</pubmed></ref> や定量的磁化率マップ(quantitative susceptibility map, QSM)<ref name=Li2011><pubmed>21224002</pubmed></ref> といった画像が得られる。
 TEを長くとり、画像収集にグラジエントエコー法を用いた場合、得られる画像は[[T2*強調像|T<sub>2</sub><sup>*</sup>強調像]]となる('''図3''')。得られた画像に特殊な画像処理を施すことで、[[磁化率強調像]](susceptibility-weighted image, SWI)<ref name=Haacke2004><pubmed>15334582</pubmed></ref> や定量的磁化率マップ(quantitative susceptibility map, QSM)<ref name=Li2011><pubmed>21224002</pubmed></ref> といった画像が得られる。


=== 拡散強調像 ===
=== 拡散強調像 ===