磁気共鳴画像法

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磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging, MRI)

京都大学医学部医学研究科脳機能総合研究センター 藤本晃司 京都大学医学部医学研究科脳統合イメージング分野 花川 隆

藤本晃司
京都大学医学部医学研究科脳機能総合研究センター
花川 隆
京都大学医学部医学研究科脳機能総合研究センター
DOI:10.14931/bsd.9061 原稿受付日:2020年3月28日 原稿完成日:2020年X月XX日
担当編集委員:定藤 規弘(自然科学研究機構生理学研究所 大脳皮質機能研究系)

 地球上の生命体は、水分子、脂質やアミノ酸など、水素原子を含んだ数多くの化合物から構成されている。現在広く用いられているMRIは、これら化合物中の水素原子核(プロトン:物理学による定義)が有する小さな磁石としての性質(原子核スピン)と、これに外部から特定の電磁波を与えた際に生じる相互作用(核磁気共鳴現象)を利用して、(おもに)生命体内の情報を非侵襲的に画像化する手法である。アメリカ合衆国の化学者Paul Lauterburとイギリスの物理学者Peter MansfieldはMRIに関する発見により、2003年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。

編集部コメント:必ずしも本文中に対応した内容がないようです

MRI信号の原理:核磁気共鳴と緩和

超電導磁石による静磁場の形成

 現在の医療・脳科学研究では、1.5T(テスラ)から7Tの静磁場強度を持つMRIが使用されている。このような磁場強度を持つMRIは、NbTi(ニオブチタン)合金による超伝導ワイヤーを何重にも巻いたドーナツ型の空芯コイルを、液体ヘリウム(沸点4.2K)で常時冷却可能なデュワー瓶(Dewar flask)中に置き、そこに電流を流すことで、電気抵抗による発熱の問題を克服した強力な超電導磁石を用いている(図1)。


<図1 京都大学医学部医学研究科のヒト用7-T MRI装置 >

静磁場中の原子核スピンの振る舞い

 この超電導磁石により形成される静磁場(外部磁場またはB0とも呼ばれる)中に置かれた原子核(典型的には生体内の水素原子核)は、固有の周波数(ラーモア周波数ω)で静磁場の方向を回転軸とする歳差運動を行う。ラーモア周波数は静磁場の強さに比例する(は静磁場の強さ、は磁気回転比と呼ばれる定数)。強い静磁場内では、静磁場の向きと一致(+)した方向と逆(-)方向を向いて歳差運動を行う原子核の個数はわずかに異なることが知られている(ゼーマン分裂)。生体内の水素原子核の数が非常に多いため、強い静磁場内に置かれた生体内には+方向を向いた巨視的磁化が形成される。

外部からの電磁波による「核磁気共鳴現象または励起現象」

 例えば3T MRI装置における水素原子核のラーモア周波数は128MHzである。この周波数はFMラジオが使用する周波数帯(radio frequency,RF)である。送信コイルを用いてラーモア周波数の回転磁場(RFパルスまたはとも呼ばれる)を照射すると(通常は数ミリ秒程度のごく短時間)、水素原子核がエネルギーを吸収し、低いエネルギー準位から高いエネルギー準位に遷移する(核磁気共鳴)。この際、外部から観測される磁化(巨視的磁化)は、回転座標系において(図2)回転磁場および静磁場の双方に直交する方向を軸として回転する。この巨視的磁化は、静止座標系においては、静磁場と直交する平面上で、共鳴周波数で回転する磁化(横磁化)の出現および静磁場と平行な成分(縦磁化)の減少として観測される(励起)。

電磁波(RF)の停止に続く緩和現象

 励起された原子核は、RFパルスの照射が終わった直後から、エネルギーを放出して定常状態に戻ろうとする(緩和現象)。この緩和現象の主なものとして、縦磁化の回復(縦緩和、緩和)と横磁化の消失(横緩和、緩和)がある。


<図2.RFパルスによる励起、および緩和>定常状態(緩和しきった状態)のスピン集団に対して、共鳴周波数でRFパルスを照射した後のスピンの緩和過程を示した図。共鳴周波数と同じ速度で回転する座標系から眺めているため、スピン集団は静止してみえる。上段の3つの図はスピン集団を各々上(xy平面)、横(xz平面およびyz平面)から眺めた図。下段左は斜め上方から眺めた図。下段右の上段には縦磁化の時間変化を、下段右の下段には横磁化の時間変化を示す。RFパルスを照射されたスピンはまず、xy平面上に倒れる(=横磁化の出現)。xy平面上で円弧を描くように広がる(T2*緩和)その後、z軸の(+)方向にむかって、z軸方向の磁化(=縦磁化)が回復して(定常状態に戻って)ゆく。

縦緩和(T1緩和)

 励起後の巨視的磁化の縦磁化成分の回復(緩和)はスピン―格子緩和とも呼ばれ、原子核スピンが周囲の格子(プロトン以外の物質)にエネルギーを放出して熱平衡状態に戻ることによる現象である。この際の縦磁化の時間変化は、巨視的磁化ベクトルの、ある時間における静磁場方向に平行な成分を、熱平衡状態の縦磁化をとおくと

で回復する。はこの回復の早さを決める時定数である。

横緩和(T2緩和)

 励起後の巨視的磁化の横磁化成分の消失(T2緩和)はスピンースピン緩和とも呼ばれ、原子核スピン集団のコヒーレンス(位相同期)の消失(即ち位相分散)による。個々の原子核スピンが「感じる」静磁場はわずかながらランダムに変動しており、結果として時間の経過とともにスピン集団のコヒーレンスが失われてゆく(ある原子核スピンは位相が早くなり、別の原子核スピンは位相が遅くなる)。この際の横磁化の時間変化は、巨視的磁化ベクトルの、ある時間における静磁場方向に直交する成分をとおくと構文解析に失敗 (構文エラー): {\displaystyle M_{xy}(t)=M_{xy}(0)e^\frac{-t/T_2}} で減衰する。T_2はこの減衰の早さを決める時定数である。

T2*緩和

 前述のT2緩和に加え、現実のMRI環境では、励起されたスピン集団の外部磁場は場所により少しずつ異なる(ただしここでは緩和過程中の時間変動はないものと仮定する)。結果として外部から観測される横磁化成分の減衰の早さは、静磁場の空間的分布の不均一性の強さ∆B0 および磁気回転比(gyromagnetic ratio γ)を用いて

とあらわされ、T2*と呼ばれる。

空間情報のエンコーディングとデコーディング

 MRIは、緩和過程において放出される電磁波を受信コイルにより測定し、励起された水素原子核集団の挙動の違いを画像化している。 まず二次元(2D)MRIにおいては、スライス方向に直行する軸に傾斜磁場を短時間加え、その間に帯域幅の限られたRFパルスを与えることで「スライス選択励起」を行っている。三次元(3D)MRIでは厚さを持った範囲(スラブ)を励起する傾斜磁場とRFパルスを与える。

 励起されたスライスやスラブ内での水素原子核集団の分布を知るために、傾斜(勾配)磁場を用いたエンコーディングおよび離散フーリエ変換を用いたデコーディングが必要である。典型的には、RFパルスによる励起に加えて、撮像領域(field-of-view, FOV)の中心部からx方向あるいはy方向に線形に変化する傾斜磁場を追加することで、FOV内の水素原子核の共鳴周波数が位置に依存する状態をつくりだすことが可能となる。そうすれば、FOV内の特定の部位に存在する水素原子核集団は、特定の周波数の電磁波を放出することになるため、位置情報の特定が可能となる。MRIでは傾斜磁場の与え方を工夫することで、測定された電磁波から空間情報を読み取る際に離散フーリエ変換を用いる。

 MRIの測定信号(電磁波)の画像化の理解には、離散フーリエ変換(discrete Fourier transform, DFT)の原理の理解が重要であるため簡単に説明する。フランスの数学者ジョゼフ・フーリエは、あらゆる周期関数(や周期信号)は、三角級数の(無限の)和として表現できることを発見した。すなわち、実数xを変数とする周期2nの周期関数f(x)について、

a_n=1/π ∫_(-π)^π▒〖f(t) cos⁡〖nt dt,(n=0,1,2,3,…)〗 〗

b_n=1/π ∫_(-π)^π▒〖f(t) sin⁡〖nt dt,(n=1,2,3,…)〗 〗

と置くと、

f(x)=a_0/2+∑_(n=1)^∞▒〖(a_n cos⁡〖nx+b_n sin⁡〖nx)〗 〗 〗

と書ける。これを複素数に拡張すれば、 c_n=1/2π ∫_(-π)^π▒〖f(t) e^(-ιnt) dt,(n=0,±1,±2,…)〗

として f(x)=∑_(n=-∞)^∞▒〖(c_n e^(-ixn))〗 と書ける。

f(x)がデジタル信号で離散化できる場合、上記のフーリエ級数表現を2次元、かつ複素数に拡張したものは以下のようにあらわすことができる(離散フーリエ変換, discrete Fourier transform, DFT) F(u,v)=∑_(x=0)^(M-1)▒∑_(y=0)^(N-1)▒〖f(x,y)e^(-ι2π(u/M x+v/N y) ) 〗 また、この逆変換にあたる逆離散フーリエ変換(inverse discrete Fourier transform, IDFT)は以下のようにかける f(x,y)=1/MN ∑_(u=0)^(M-1)▒∑_(v=0)^(N-1)▒〖F(u,v)e^(-ι2π(u/M x+v/N y) ) 〗


 これは画素数MxNの画像の画素値が、周波数領域(u,v)空間では波数0~M-1,0~N-1個の三角関数の係数値として表現できることを示している。 例えばu=1,v=0とした場合、 F(1,0)=∑_(x=0)^(M-1)▒∑_(y=0)^(N-1)▒〖f(x,y)e^(-ι2π(1/M x) ) 〗

となるが、これはMRIでは撮像領域(FOV)の右端から左端にかけて複素数の重み係数 e^iθ=cos⁡〖θ+i sin⁡θ,θ=[-π π]〗 を画像に乗じたのちに総和をとったことに等しい。同様に、u=2,v=0とした場合には、FOVの右端から左端にかけてθ=[-2π 2π]の重み係数を乗じたのちに総和をとったことに等しい。

 傾斜磁場コイルを用いて空間内に線形の周波数変化をもたらせば、場所に応じた連続的な位相の変化としてこの重み係数を物理的につくりだすことが可能であり、結果として撮像対象にフーリエ変換を行っていることと等しい。 画像f(x,y)の周波数空間での表現であるF(u,v)はMRIにおいてはk-spaceと呼ばれる。MRIではk-spaceの信号を逆フーリエ変換することで画像を得ている。

主なMRI撮像法

 さまざまなMRI撮像法が提案されているが主な違いはRFパルスを照射する回数、タイミングや大きさ、傾斜磁場の印加法である。これら電磁波の照射の時系列制御がキーであるため撮像シークエンスとも呼ぶ。代表的なMRI撮像法を簡単に紹介する。

スピンエコー法

(spin echo)  励起のための電磁波(90°RFパルス)を与えたのちに、再度180°RFパルス(再収束パルス、refocus pulse)を与えることで、局所の静磁場の不均一性による位相分散の影響を取り除くことが出来る。

グラジエントエコー法

(gradient echo)  励起のための電磁波(RFパルス)を与えたのちに、再収束パルスを与えず、勾配磁場を用いて信号を取り出す手法。局所の静磁場の不均一性による位相分散の影響を取り除くことは出来ないが、再収束パルスを必要としないため高速撮像に向く。また、後述のBOLD fMRIのように、(鉄などによる)局所の静磁場の不均一性を強調したい場合にも用いられる。

エコープラナー法

(echo planar imaging, EPI)  一度のRFパルスの後、グラジエントエコー法あるいはスピンエコー法の信号収集時間を極端に延長し、読み出し傾斜磁場を急速に変動させることで連続的なグラジエントエコーを発生させ、画像化に必要なデータを全て収集してしまう方法。T2*緩和の影響が強く、かつ原理的にもっとも高速な撮像法の一つである。fMRIで利用されるBOLDコントラスト(後述)はT_2^*緩和に依存し、かつ高い時間分解能が必要とされるため、本手法が用いられる。

主なMRIコントラスト

T1強調像

(T1-weighted image, T1WI)  縦磁化が十分に回復しないうちに信号収集を行うことで、各組織における縦磁化回復の早さの違いを強調した画像が得られる。具体的にはスピンエコー法では励起から次の励起までの時間(repetition time, TR)および励起から収集までの時間(echo time, TE)を短くすることで、またグラジエントエコー法ではフリップ角(FA)を適度に大きく、TEを短くすることでT1強調像が得られる。  撮像部位に流入する血管内の血液が高信号を示すことを利用して、造影剤を用いずに脳血管を可視化する手法であるTime-of-flight (TOF)法では、グラジエントエコー法によるT1強調像が用いられる。

T2強調像

(T2-weighted image, T2WI)  励起から収集までの時間(TE)を長くとれば、各組織における横磁化の減衰速度の違いを強調した画像が得られる。画像収集にスピンエコー法を用いた場合、得られる画像は時定数T2を強調した画像となる。

T2*強調像

(T2-star-weighted image, T2*WI)  TEを長くとり、画像収集にグラジエントエコー法を用いた場合、得られる画像はT2*強調像となる。得られた画像に特殊な画像処理を施すことで、磁化率強調像(susceptibility-weighted image, SWI)[1] や定量的磁化率マップ(quantitative susceptibility map, QSM)[2] といった画像が得られる。

拡散強調像

(diffusion-weighted image, DWI)  撮像の際に、数msから数十ms程度のごく短時間で反転する一組の強い勾配磁場、すなわち運動検出傾斜磁場(motion probing gradient, MPG)を追加することで水の動きを強調した画像。MPG を与えた方向に拡散する水由来の信号は低下する。脳梗塞を起こした部位では健常組織よりも水の拡散が制限されることが知られており、脳梗塞を早期に検出する手法として臨床で広く用いられている。6方向以上のMPGを用いてDWIを収集し、テンソルモデルを用いて撮像単位内に存在する水の動きやすさの「方向」を推定することも可能である(diffusion tensor imaging, DTI)。この推定値を用いて白質を通る神経線維の走行を推測する方法を拡散テンソルトラクトグラフィー(diffusion tensor tractography)と呼ぶ[3][4] 。DTIは各ボクセル内に1種類の神経線維の存在を仮定しているため、神経線維が交叉する撮像単位での推定に限界があり、近年ではより高度なモデルを用いた解析手法も提唱されている(Diffusion spectrum imaging, DSIなど)[5]

MRスペクトロスコピー

MR spectroscopy、MRS  MRSは、化合物に存在するプロトンの共鳴周波数が、水の水素原子の共鳴周波数とわずかに異なることを利用して、測定対象物の化合物を推定、あるいはその濃度を計測する手法である。脳MRSにおいては、シナプス間の情報伝達物質として最もポピュラーなグルタミン酸(glutamate)をはじめ、複数の神経伝達物質が計測のターゲットとなる。

撮像高速化の手法

パラレルイメージング

(parallel imaging)  従来、撮像対象に対して一つの受信コイルを用いた撮像が行われていたが、1990年代に感度領域が限られた複数の受信コイルを並べて配置するアレイコイルと呼ばれる技術が開発された[6] 。コイルごとに少しずつ異なる感度分布をうまく利用することで、MRIの信号取得をスキップし、撮像時間を短縮する方法が開発された。この技術は複数の受信コイルを用いて同時(並列)に得られた信号を用いていることから、パラレルイメージングと呼ばれる。コイルの空間感度分布を用いる手法をsensitivity encoding (SENSE[7] 、コイルの空間感度分布を用いず、k-spaceにおける近傍点の相対的な関係をもとに重み係数を決定し欠損データを補完する手法をGeneRalized Autocalibrating Partial Parallel Acquisition(GRAPPA)と呼ぶ[8]

Multi-band/Simultaneous Multi-Slice撮像

2010年にDavid Feinberg らは「スライス選択励起」RFパルスを工夫することで、複数のスライスをひとつのRFパルスで同時に励起する手法を開発し[9] 、multiband MRI と名付けた。従来はEPIを用いて全脳を撮像するのに2-3秒程度必要であったが、multiband撮像を用いると1秒以内に全脳を撮像することが可能である。

機能的磁気共鳴画像法

 磁気共鳴機能画像法(functional MRI, fMRI)ともいう。

原理と歴史

 fMRIとは、生体の脳をMRIで数分~数十分間連続撮像する間に、脳活動(神経活動とシナプス活動の総和)に相関して変化するMRI信号変化を非侵襲的に計測する手法である。脳磁図(Magnetencephalography, MEG)では脳の電気活動による微細な磁場変化を直接計測しているが、fMRIは以下に示すように脳の電気活動そのものを直接測定している訳ではなく、脳活動変化に随伴する局所酸素代謝・血液動態変化を画像化している。

 1990年に小川誠二らは、グラジエントエコー法を用いたMRIでマウス生体脳内の血管が可視化でき、かつ酸素飽和度の違いによって血管近傍のMRI信号が変化することを発見した[10] 。酸素飽和度の減少により常磁性体である血管内の還元ヘモグロビン(deoxy Hb)が増加し、結果として生じる磁場の乱れが近傍の脳実質の信号を変化させると考えた。さらに1992年に小川らは、ヒト用4T MRI装置を用いて、健常ボランティアに視覚刺激を与えている間に一次視覚野のMRI信号が上昇することを証明し、脳活動が局所の脳血流量および静脈内酸素飽和度を上昇させ、従って脳活動が増加する局所で還元ヘモグロビン濃度が薄まると説明した[11] 。この原理を、blood oxygen-level-dependent (BOLD) コントラストと名付けた。なお、還元ヘモグロビンは不対電子をもつため常磁性(paramagnetic)であり、これによる横磁化減衰の程度は静磁場強度の2乗に比例して増加する[12] ため、高磁場MRIに優位性がある。

 脳の神経活動に対する局所血流は、神経細胞、微小血管(細動脈~毛細血管)、内皮細胞、周皮細胞、アストロサイトなどからなる神経血管単位(neurovascular unit)と呼ばれる機能的単位によりコントロールされており、前述のように脳活動に引き続いて局所に過剰な酸素供給(機能的充血、functional hyperemia)をもたらす。つまり、fMRIにおけるBOLDコントラストは、この機能的充血をひきおこす仕組み(neurovascular coupling)に依存している。

 Logothetisらによる2001年の研究によると、電気生理学的手法を用いて記録した単一ユニット活動(single-unit activity)、マルチユニット活動(multiple-unit activity)は視覚刺激に対して一過性の活動しか示さなかったのに対し、局所電場電位(local field potential, LFP)は一過性および持続性の活動を示し、より正確にBOLD信号変化を予測できた[13]

血流動態応答

hemodynamic response

 短時間の感覚刺激後に生じるBOLD MRI信号の経時変化を計測すると、刺激呈示から約2秒後に信号強度はベースラインを超え、約5-6秒後に最大値を示す。初期に1-2秒間の負のBOLD反応(イニシャルディップ、initial dip)が観測されることもある。神経活動が終わるとBOLD信号強度はベースラインより低下し、しばらくその状態が続く(アンダーシュート)。イニシャルディップに関しては、2010年のTianらのラットを対象とした研究によると、血管拡張が最も早い皮質最深部の層ではみとめられず、最も遅い最表層の皮質ではみとめられたことから、血流動態応答の前に生じる酸素消費の増加を反映する、という仮説が支持されている[14] 。Duongらはネコの視覚野を対象とした実験で、イニシャルディップのほうが正のBOLD反応よりも空間選択性が高いという結果を示している[15]

fMRI実験デザイン

 fMRIには、安静時自発的な脳活動の変動を計測する安静時(resting-stateまたはtask-free) fMRIと、外部から音声や映像などの刺激、あるいは課題を与えてそれに伴うBOLD信号の変動を測定するtask fMRIがある。Task fMRIの施行方法は、大きくブロックデザイン(block-design)と、事象関連デザイン(event-related design)に分けられる。ブロックデザインでは10-30秒ごとに異なる種類の刺激提示や運動・認知課題(および安静時などの対象条件)が交互に繰り返される。事象関連デザインでは、刺激が試行(trial)として呈示される。課題に関連して活動する脳領域の検出力が高いのはブロックデザインであるが、脳領域の賦活における時間変化の推定が目的である場合には事象関連デザインが用いられることが多い。

fMRI解析

 fMRIにおいて、脳活動による信号変化は高々数パーセントとされる。MRI撮像では、生体の熱ノイズ、MRI装置の不完全性、被験者の動き等に由来するノイズも同程度存在する。元画像における動きの影響の除去(motion correction)、脳活動の局在性の情報を犠牲にして信号強度比を高める手法であるガウスフィルタによる平滑化などが前処理として行われることがある。

 時系列データであるfMRIの解析には、与えたタスクに対する脳活動の時間遅れを考慮に入れた(hemodynamic response function)信号変化のモデルを構築した上で、モデルと計測fMRIデータとの相関を計算することが多い。

MRIによる脳科学研究の最近のトレンド

 2010年より、NIHは約1200名の健康な若年成人被験者を対象として、安静時fMRI、標準的な課題を用いたtask fMRI、構造的MRI(T1・T2強調画像)、拡散強調画像を撮像し、脳内の機能的結合と構造的結合の情報を統合的に取得し解析するというHuman Connectome Project(HCP)を開始した。このプロジェクトは(1)質が高いデータを大量に取得する、(2)空間分解能を犠牲にすることなくデータを処理する手法を開発する、(3)構造的結合と機能的結合の情報を統合した上で脳の領域分割(parcellation)を行う、(4)取得したデータ、データ処理に必要なコードを前世界に無料で公開するといった、多くの野心的な内容を含んでおり、世界のMRI脳科学研究に大きな影響を与えつつある。

参考文献

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