「神経細胞リプログラミング」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
21行目: 21行目:


== 誘導因子と阻害因子 ==  
== 誘導因子と阻害因子 ==  
[[ファイル:Yamashita Figure 2.jpg|サムネイル|図2 ダイレクトリプログラミングの誘導因子と阻害因子<br><ref name=山下徹、阿部康二2018 />より改変転載]]
 神経細胞リプログラミングを誘導する最も重要な転写因子はAscl1であると現時点で考えられている。2013年Wapinskiらが、線維芽細胞ではAscl1の標的遺伝子座のクロマチンは閉じているが、Ascl1が発現すると閉じたクロマチンの構造変化を起こすことで、ニューロン関連遺伝子の転写を活性化させることを報告している<ref name=Wapinski2013><pubmed>24243019</pubmed></ref> 。一方、Ascl1は線維芽細胞特異的遺伝子のプロモーター領域はメチル化してクロマチンを閉じさせ、線維芽細胞特異的遺伝子の発現を抑制することも明らかにされている<ref name=Luo2019><pubmed>30644360</pubmed></ref> 。このようにAscl1はニューロン関連遺伝子の発現を上昇させるだけでなく、元の線維芽細胞関連遺伝子を抑制することで、神経細胞リプログラミングを行うと考えられている。
 神経細胞リプログラミングを誘導する最も重要な転写因子はAscl1であると現時点で考えられている。2013年Wapinskiらが、線維芽細胞ではAscl1の標的遺伝子座のクロマチンは閉じているが、Ascl1が発現すると閉じたクロマチンの構造変化を起こすことで、ニューロン関連遺伝子の転写を活性化させることを報告している<ref name=Wapinski2013><pubmed>24243019</pubmed></ref> 。一方、Ascl1は線維芽細胞特異的遺伝子のプロモーター領域はメチル化してクロマチンを閉じさせ、線維芽細胞特異的遺伝子の発現を抑制することも明らかにされている<ref name=Luo2019><pubmed>30644360</pubmed></ref> 。このようにAscl1はニューロン関連遺伝子の発現を上昇させるだけでなく、元の線維芽細胞関連遺伝子を抑制することで、神経細胞リプログラミングを行うと考えられている。


27行目: 28行目:
 一方、通常の体内では線維芽細胞がいきなり神経細胞に変わるようなことが起きないように様々な制御機構が働いていると考えられており、これまでにp53-p21経路<ref name=Jiang2015><pubmed>26639555</pubmed></ref> 、CAF-1複合体<ref name=Cheloufi2015><pubmed>26659182</pubmed></ref> 、RE1-silencing transcription factor (REST)<ref name=Masserdotti2015><pubmed>26119235</pubmed></ref>、そして過剰な酸化ストレスの存在<ref name=Gascon2016><pubmed>26748418</pubmed></ref> がダイレクトリプログラミングを阻害することが報告されてきている'''(図2)'''。
 一方、通常の体内では線維芽細胞がいきなり神経細胞に変わるようなことが起きないように様々な制御機構が働いていると考えられており、これまでにp53-p21経路<ref name=Jiang2015><pubmed>26639555</pubmed></ref> 、CAF-1複合体<ref name=Cheloufi2015><pubmed>26659182</pubmed></ref> 、RE1-silencing transcription factor (REST)<ref name=Masserdotti2015><pubmed>26119235</pubmed></ref>、そして過剰な酸化ストレスの存在<ref name=Gascon2016><pubmed>26748418</pubmed></ref> がダイレクトリプログラミングを阻害することが報告されてきている'''(図2)'''。


 特筆すべきこととしてはmiR-124の標的遺伝子であるpyrimidine-tract-binding protein(PTB)というRNA結合タンパクをshRNA等でノックダウンするだけでiN細胞が誘導できることが報告されている。<ref name=Xue2013><pubmed>23313552</pubmed></ref> 。miR-124はPTBならびにRESTの発現を抑制することから、これら誘導因子と阻害因子はお互いに相互作用があり、両者のバランスによって細胞の運命が最終決定されていると現在考えられている。
 特筆すべきこととしてはmiR-124の標的遺伝子であるpyrimidine-tract-binding protein(PTB)というRNA結合タンパクをshRNA等でノックダウンするだけでiN細胞が誘導できることが報告されている<ref name=Xue2013><pubmed>23313552</pubmed></ref> 。miR-124はPTBならびにRESTの発現を抑制することから、これら誘導因子と阻害因子はお互いに相互作用があり、両者のバランスによって細胞の運命が最終決定されていると現在考えられている。


== 臨床応用の可能性 ==
== 臨床応用の可能性 ==