「神経細胞リプログラミング」の版間の差分

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 iN細胞は未分化な状態を経ずに誘導可能なことから、細胞DNAメチル化のパターンがiN細胞誘導後も保存されることが知られている<ref name=Huh2016><pubmed>27644593</pubmed></ref> 。この特徴は、中高年に多い神経変性疾患の疾患モデルを作るうえで特に重要であり、実際、iN細胞を用いた様々な[[神経変性疾患]]([[アルツハイマー病]]、[[筋萎縮性側索硬化症]]、[[脊髄性筋萎縮症]]など)の疾患モデルが報告されてきている。神経疾患患者由来のiN細胞を大量に作成し、ドラッグスクリーニングを行うなど創薬分野への応用も展開が今後可能になると期待されている。
 iN細胞は未分化な状態を経ずに誘導可能なことから、細胞DNAメチル化のパターンがiN細胞誘導後も保存されることが知られている<ref name=Huh2016><pubmed>27644593</pubmed></ref> 。この特徴は、中高年に多い神経変性疾患の疾患モデルを作るうえで特に重要であり、実際、iN細胞を用いた様々な[[神経変性疾患]]([[アルツハイマー病]]、[[筋萎縮性側索硬化症]]、[[脊髄性筋萎縮症]]など)の疾患モデルが報告されてきている。神経疾患患者由来のiN細胞を大量に作成し、ドラッグスクリーニングを行うなど創薬分野への応用も展開が今後可能になると期待されている。


 さらに、iN細胞はiPS細胞などの未熟な状態を経ずに作成できるため、腫瘍形成のリスクが低いと考えられている。そこでアストロサイトなどのグリア細胞を脳内で直接目的の神経細胞に誘導するin vivoでの神経細胞リプログラミングが近年注目を集めてきている。脳梗塞や神経変性疾患患者の脳内ではニューロンは脱落しその数が減少している一方でアストロサイトやミクログリアなどのグリア細胞が多く存在していることから、iN細胞の有望な供給源と考えられる。2019年7月には著者らが脳梗塞マウス脳内グリア細胞からiN細胞を誘導できたことを報告した<ref name=Yamashita2019><pubmed>31358888</pubmed></ref> 。2020年4、5月には複数の研究グループから、PTBノックダウンの手法でマウス脳内アストロサイトからドパミン作動性ニューロンを直接誘導し、パーキンソン症状を改善させる実験結果も報告されてきており<ref name=Qian2020><pubmed>32581380</pubmed></ref><ref name=Zhou2020><pubmed>32272060</pubmed></ref> 、このin vivo神経細胞リプログラミング法は今後の脳梗塞やパーキンソン病の有望な治療戦略となる可能性がある。
 さらに、iN細胞はiPS細胞などの未熟な状態を経ずに作成できるため、腫瘍形成のリスクが低いと考えられている。そこで[[アストロサイト]]などの[[グリア細胞]]を脳内で直接目的の神経細胞に誘導するin vivoでの神経細胞リプログラミングが近年注目を集めてきている。[[脳梗塞]]や神経変性疾患患者の脳内ではニューロンは脱落しその数が減少している一方でアストロサイトや[[ミクログリア]]などのグリア細胞が多く存在していることから、iN細胞の有望な供給源と考えられる。2019年7月には著者らが脳梗塞マウス脳内グリア細胞からiN細胞を誘導できたことを報告した<ref name=Yamashita2019><pubmed>31358888</pubmed></ref> 。2020年4、5月には複数の研究グループから、PTBノックダウンの手法でマウス脳内アストロサイトからドパミン作動性ニューロンを直接誘導し、[[パーキンソン病|パーキンソン症状]]を改善させる実験結果も報告されてきており<ref name=Qian2020><pubmed>32581380</pubmed></ref><ref name=Zhou2020><pubmed>32272060</pubmed></ref> 、このin vivo神経細胞リプログラミング法は今後の脳梗塞や[[パーキンソン病]]の有望な治療戦略となる可能性がある。




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| グルタミン酸作動性ニューロン || Ascl1, Brn2, Myt1l || 直接的に誘導されたグルタミン酸作動性ニューロンが電気生理学的にみて機能していることを示した。 || Vierbuchenら<ref name=Vierbuchen2010><pubmed>20107439</pubmed></ref>   
| グルタミン酸作動性ニューロン || Ascl1, Brn2, Myt1l || 直接的に誘導されたグルタミン酸作動性ニューロンが電気生理学的にみて機能していることを示した。 || Vierbuchenら<ref name=Vierbuchen2010><pubmed>20107439</pubmed></ref>   
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| 運動ニューロン || Ascl1, Brn2, Myt1l, Lhx3, Hb9, Isl1, Ngn2 || 直接的に誘導された運動ニューロンが電気生理学的に機能し、かつ筋細胞と機能的シナプスを形成できることを示した。 || Sonら<ref name=Son2011><pubmed>21852222</pubmed></ref>  
| 運動ニューロン || Ascl1, Brn2, Myt1l, [[Lhx3]], [[Hb9]], [[Isl1]], [[Ngn2]] || 直接的に誘導された運動ニューロンが電気生理学的に機能し、かつ筋細胞と機能的シナプスを形成できることを示した。 || Sonら<ref name=Son2011><pubmed>21852222</pubmed></ref>  
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| ドパミン作動性ニューロン || Ascl1, Brn2, Myt1l || 直接的に誘導されたドパミン作動性ニューロンは電気生理学的に機能し、かつドパミン産生能を持つことを示した。 || Caiazzoら<ref name=Caiazzo2011><pubmed>21725324</pubmed></ref>  
| ドパミン作動性ニューロン || Ascl1, Brn2, Myt1l || 直接的に誘導されたドパミン作動性ニューロンは電気生理学的に機能し、かつドパミン産生能を持つことを示した。 || Caiazzoら<ref name=Caiazzo2011><pubmed>21725324</pubmed></ref>  
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| ノルアドレナリン作動性ニューロン || Ascl1, Phox2b, AP-2α, Gata3, Hand2, Nurr1, Phox2a || 直接的に誘導されたノルアドレナリン作動性ニューロンは、電気生理学的に機能し、共培養した心筋細胞の拍動数を制御できた。 || Liら<ref name=Li2019><pubmed>31315047</pubmed></ref>  
| ノルアドレナリン作動性ニューロン || Ascl1, [[Phox2b]], [[AP-2α]], [[Gata3]], [[Hand2]], [[Nurr1]], [[Phox2a]] || 直接的に誘導されたノルアドレナリン作動性ニューロンは、電気生理学的に機能し、共培養した心筋細胞の拍動数を制御できた。 || Liら<ref name=Li2019><pubmed>31315047</pubmed></ref>  
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| 神経幹細胞 || Sox2, Brn2, FoxG1<br>またはSox2, Brn4, Klf4, c-Myc  || 直接的に誘導した神経幹細胞が自己複製能を持ち、かつニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトに分化できること示した。 || Lujanら<ref name=Lujan2012><pubmed>22308465</pubmed></ref><br>Hanら<ref name=Han2012><pubmed>22445517</pubmed></ref>
| 神経幹細胞 || [[Sox2]], Brn2, [[FoxG1]]<br>またはSox2, [[Brn4]], Klf4, c-Myc  || 直接的に誘導した神経幹細胞が自己複製能を持ち、かつニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトに分化できること示した。 || Lujanら<ref name=Lujan2012><pubmed>22308465</pubmed></ref><br>Hanら<ref name=Han2012><pubmed>22445517</pubmed></ref>
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| グルタミン酸作動性ニューロン || PTB1に対するshRNAの導入 || マウスの胎生線維芽細胞から電気生理学的にも機能しているグルタミン酸作動性ニューロンが誘導された。 || Xueら<ref name=Xue2013><pubmed>23313552</pubmed></ref>  
| グルタミン酸作動性ニューロン || PTB1に対するshRNAの導入 || マウスの胎生線維芽細胞から電気生理学的にも機能しているグルタミン酸作動性ニューロンが誘導された。 || Xueら<ref name=Xue2013><pubmed>23313552</pubmed></ref>