「神経細胞移動」の版間の差分

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大脳皮質(大脳灰白質)においては、神経細胞が整然と配置し、約6層からなる層構造を形成する。大脳皮質の神経細胞はその70~80%が興奮性神経細胞であり、これらは胎生期に、[[外套]](pallium;広義の大脳皮質)の[[脳室]]に面した部分である[[脳室帯]](ventricular zone)、もしくはそれに隣接した[[脳室下帯]](subventricular zone)により産生され、脳表面側へと移動する。これを放射状移動(radial migration)と呼ぶ(図1)。皮質神経細胞はマウスでは胎生12〜16日目に産生され、最初に産まれた皮質神経細胞の集団は、すでに脳表面側に形成されている[[プレプレート]](preplate)に割って入り、これを脳表面側の[[辺縁帯]](marginal zone)と、脳室側の[[サブプレート]](subplate)とに分け、その間にサンドイッチされるように配置される。その後に産まれた皮質神経細胞も順次、脳表面へと移動するが、その際にすでに移動を終了している皮質神経細胞を全て乗り越えて辺縁帯直下に達し、配置される。このため、大脳皮質では早生まれのものほど脳の深層側に、遅生まれのものほど表層側に配置される。これをインサイドアウト様式と呼ぶ。移動を終了した皮質神経細胞は細胞密度の高い部位を形成し、これを[[皮質板]](cortical plate)と呼ぶ。皮質板は、生後には灰白質(大脳皮質)となる。  
大脳皮質(大脳灰白質)においては、神経細胞が整然と配置し、約6層からなる層構造を形成する。大脳皮質の神経細胞はその70~80%が興奮性神経細胞であり、これらは胎生期に、[[外套]](pallium;広義の大脳皮質)の[[脳室]]に面した部分である[[脳室帯]](ventricular zone)、もしくはそれに隣接した[[脳室下帯]](subventricular zone)により産生され、脳表面側へと移動する。これを放射状移動(radial migration)と呼ぶ(図1)。皮質神経細胞はマウスでは胎生12〜16日目に産生され、最初に産まれた皮質神経細胞の集団は、すでに脳表面側に形成されている[[プレプレート]](preplate)に割って入り、これを脳表面側の[[辺縁帯]](marginal zone)と、脳室側の[[サブプレート]](subplate)とに分け、その間にサンドイッチされるように配置される。その後に産まれた皮質神経細胞も順次、脳表面へと移動するが、その際にすでに移動を終了している皮質神経細胞を全て乗り越えて辺縁帯直下に達し、配置される。このため、大脳皮質では早生まれのものほど脳の深層側に、遅生まれのものほど表層側に配置される。これをインサイドアウト様式と呼ぶ。移動を終了した皮質神経細胞は細胞密度の高い部位を形成し、これを[[皮質板]](cortical plate)と呼ぶ。皮質板は、生後には灰白質(大脳皮質)となる。  


[[Image:Hidenoritataba fig 1.jpg|400px|図1 放射状移動の模式図]]<br>  
[[Image:Hidenoritabata fig 1v2.jpg|border|400px|図1 放射状移動の模式図]]<br>  


=== 放射状移動の3つの様式  ===
=== 放射状移動の3つの様式  ===


放射状移動は、脳室帯から脳表面へと伸びる[[放射状グリア]](radial glia)の長い突起、すなわち放射状線維(radial fiber)を足場として移動するモデルが広く受け入れられてきた<ref><pubmed> 4624784 </pubmed></ref>。この移動様式をロコモーション(locomotion)と呼ぶ。ロコモーション細胞は進行方向側に比較的太い先導突起(leading process)、反対側には細いトレーリングプロセス(trailing process)を持つ特徴的な双極性の形態をとる。ロコモーションでは、細胞体が動いている時期と静止している時期が周期的に繰り返される跳躍的な移動が観察される。近年になって、これとは異なる移動様式がライブイメージングにより観察され、ロコモーションと合わせて現在では3種類の移動様式が知られるようになった。その1つが細胞体トランスロケーション(somal translocation)である<ref name="ref1"><pubmed> 11175874 </pubmed></ref>。この移動様式では、移動方向側に長く伸びた突起が、その先端を固定しながら短縮し、細胞体が引き上げられる。第三の移動様式は、産生されて間もなくの神経細胞に見られる多極性移動(multipolar migration)である<ref><pubmed>14602813 </pubmed></ref>。これらの細胞は多数の突起を色々な方向に伸ばしており、多極性細胞と呼ばれる。多極性移動では、その突起を活発に伸縮させながら、細胞体は様々な方向に漂い、全体としてはゆっくりと脳表面側へと向かう。細胞体トランスロケーションと多極性移動は放射状線維を使わないとされる(ビデオを参照)。  
放射状移動は、脳室帯から脳表面へと伸びる[[放射状グリア]](radial glia)の長い突起、すなわち放射状線維(radial fiber)を足場として移動するモデルが広く受け入れられてきた<ref><pubmed> 4624784 </pubmed></ref>。この移動様式をロコモーション(locomotion)と呼ぶ。ロコモーション細胞は進行方向側に比較的太い先導突起(leading process)、反対側には細いトレーリングプロセス(trailing process)を持つ特徴的な双極性の形態をとる。ロコモーションでは、細胞体が動いている時期と静止している時期が周期的に繰り返される跳躍的な移動が観察される。近年になって、これとは異なる移動様式がライブイメージングにより観察され、ロコモーションと合わせて現在では3種類の移動様式が知られるようになった。その1つが細胞体トランスロケーション(somal translocation)である<ref name="ref1"><pubmed> 11175874 </pubmed></ref>。この移動様式では、移動方向側に長く伸びた突起が、その先端を固定しながら短縮し、細胞体が引き上げられる。第三の移動様式は、産生されて間もなくの神経細胞に見られる多極性移動(multipolar migration)である<ref><pubmed>14602813 </pubmed></ref>。これらの細胞は多数の突起を色々な方向に伸ばしており、多極性細胞と呼ばれる。多極性移動では、その突起を活発に伸縮させながら、細胞体は様々な方向に漂い、全体としてはゆっくりと脳表面側へと向かう。細胞体トランスロケーションと多極性移動は放射状線維を使わないとされる(ビデオを参照)。 &lt;object type="application/x-shockwave-flash" data="http://www.youtube.com/v/-esaYnKYByQ&amp;enablejsapi=1&amp;playerapiid=-esaYnKYByQ" width="425" height="355" id="YT_-esaYnKYByQ"&gt;&lt;param name="movie" value="http://www.youtube.com/v/-esaYnKYByQ&amp;enablejsapi=1&amp;playerapiid=-esaYnKYByQ"&gt;&lt;/param&gt;&lt;param name="wmode" value="transparent"&gt;&lt;/param&gt;&lt;param name="allowScriptAccess" value="always"&gt;&lt;/param&gt;&lt;/object&gt; ビデオ内略語 VZ: ventricular zone (脳室帯)、IZ: intermediate zone (中間帯)、CP: cortical plate (皮質板)  
 
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ビデオ内略語 VZ: ventricular zone (脳室帯)、IZ: intermediate zone (中間帯)、CP: cortical plate (皮質板)  


=== 3つの移動様式の放射状移動での使われ方  ===
=== 3つの移動様式の放射状移動での使われ方  ===
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[[Image:Hidenoritabata fig 3.jpg|400px]]<br>  
[[Image:Hidenoritabata fig 3.jpg|border|400px|図2 皮質発生後期に見られる脳室帯を離脱する2つの異なる移動集団]]<br>  


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